主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 45
【目的】
日本人の8 人に1 人が慢性腎臓病(以下CKD)といわれ、人口の高齢化に伴い今後増加することが予測されており、当院でもCKD 患者と関わる機会も増えている。なかでも高齢CKD 患者は、病態が改善しても自宅退院が困難となる場面を臨床で経験することは少なくない。本研究目的は、当院における高齢腎臓内科患者の自宅退院の可否に関係する因子を分析し、その特徴を整理し、当科におけるリハビリテーションの課題を考察することである。
【対象】
2020 年4 月から2020 年12 月までに当院腎臓内科に入院し、リハビリテーションの処方があった患者178 名のうち、65 歳未満、入院前生活が自宅以外、入院中の転科または死亡退院、データの欠損がある患者を除外した89 名を対象とした。
【方法】
診療録より対象者の年齢、入院日数、入院前の日常生活自立度、入院時と退院時のBarthel index(以下BI)、入退院歴の回数、入院時BMI、入院時MNASF、入院時血液データ(eGFR、Cr、BUN、Alb、CRP、Hb)、退院先を調査した。次に対象の退院先が自宅であったものを自宅群、転院であったものを転院群に分類した。自宅群、転院群を目的変数とし、各調査項目を説明変数とし、Mann-Whitney のU 検定用いて比較検討を行った。統計解析はEZR を使用し、統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者の中央値の年齢は77 歳、男性49 名、女性40 名、eGFR:10.7mL/min/1.73m2、入院期間21 日であり、入院契機病名はCKD の急性増悪(46%)、電解質異常(7%)、ネフローゼ症候群(6%)、尿路感染症(6%)、急性腎障害(6%)、腎盂腎炎(4%)、その他(21%)であった。自宅群は65 名(73.0%)、転院群は24 名(26.9%)に分類され、Mann-Whitney のU 検定では、入院日数(日)自宅群14/ 転院群32、入院時BI(点)60/5、退院時BI(点)90/47.5、入院前の日常生活自立度(%)ランクJ:64.6/25.0、CRP(mg/dL)0.7/6.8、入院時BMI(kg/m2)22.7/21.2、入院時MNA-SF(ポイント)12/10 で有意差を認めた。
【考察】
本研究結果より、当院における高齢腎臓内科患者の特徴として、入院契機としてはCKD の急性増悪のみならず感染症等様々な要因で入院し、約3割の患者が自宅退院困難となっていた。また自宅退院の可否に関係する因子として、入院前の生活機能低下、入院時のADL 能力低下・炎症反応・低栄養が示され、入院時の腎機能を示す血液データに関係は認めなかった。このことから、これらの因子をもつ患者は、急性期病院から直接自宅退院することに難渋することが予測されるため、より早期に廃用症候群の予防等を目的としたリハビリテーションの介入を実践できるよう、関係診療科との連携や情報共有等を強化し、円滑な自宅退院に寄与できるよう努めていきたい。また、先行研究よりCKD 患者は慢性炎症、食欲不振といった多彩な症状の出現や身体面ではProtein energy wasting に陥りやすいと報告されており、今後はフレイル・サルコペニアも含めた分析も必要であると思われた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者における個人情報の保護に十分留意し、データを匿名化した上で行った。