主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 56
【はじめに】
間質性肺炎の慢性期における酸素療法には、明らかな予後改善効果は認められておらず、中でも急性増悪による予後は不良とされている。今回、間質性肺炎の急性増悪の診断で入院となり、高濃度の酸素投与を必要とする中、患者の希望である自宅退院を実現できた症例を経験したので報告する。
【症例紹介】
症例は60 歳代の男性。20 年前に関節リウマチ、12 年前に間質性肺炎の診断を受け、1 年前よりHOT 導入中(4.5L/min) であった。呼吸困難感の増強、起き上がり困難となり、当院救急搬送となった。入院時、リザーバーマスク12L/min でSpO2:97%、動脈血ガス分析ではPaO2:61mmHg、PaCO2:65mmHg でII型呼吸不全を呈しており、胸部CT 画像では、両下肺野の蜂巣肺・びまん性に間質主体の透過性低下を認め、間質性肺炎急性増悪の診断で入院となった。入院前ADL は独歩自立、車の運転も可能で、妻との2 人暮らしであった。
【経過】
入院後はHigh-flow nasal cannula( 以下HFNC)(Flow:30L/min、FiO2:80%) 管理となり、SpO2 は90% 前後で推移した。入院5 日目にHFNC を離脱し、リザーバー式鼻カニューレ( 安静時:9L/min、労作時:15L/min) に変更となった。入院17 日目、主治医より本人と妻に、今後、自宅退院は困難で転院の方針となることが説明されたが、本人は自宅退院を強く希望し、入院18 日目よりリハビリテーションを開始した。入院後より、ベッド上での生活であったため、歩行には歩行器を必要とし、FIM は80 点( 運動:45 点、認知:35 点) で、移乗・移動の項目で低下していた。酸素化は安静時リザーバー式鼻カニューレ6L/min でSpO2:91%、歩行時リザーバーマスク12L/min でSpO2:79% と低下が見られた。自宅退院を目標とした際の問題点として、まず在宅酸素で主に使用される酸素濃縮器の上限は7L/min で流量が不足するため、在宅酸素業者に相談し、特別に2 台接続( 計14L/min) での使用を検討した。また、臥床状態が続いたことによるADL 低下、それに伴う妻の負担感・不安感があげられた。リハビリテーションではADL 向上を目的とした介入とあわせて、自宅退院後の酸素療法をスムーズにするために、酸素療法の知識、リザーバーマスク、リザーバー式鼻カニューレの使用適応などについて、患者教育・セルフマネジメント教育を実施した。また看護師や医療ソーシャルワーカーなどの多職種の介入により、在宅調整を行うとともに、妻への情報提供を行うことで、不安感の軽減を図った。入院26 日目に自宅での生活を想定し、院内に酸素濃縮器2 台を設置した。リザーバー式鼻カニューレを使用し、安静時は3+3( 計6)L/min でSpO2:90%、労作時は7+7( 計14)L/min でSpO2:80% 前半、安静時の動脈血ガス分析ではPaO2:55mmHg、PaCO2:72mmHg と炭酸ガス分圧の上昇が見られたが、自覚症状はなく、自宅退院が決定した。入院32 日目に医師、看護師2 名、理学療法士の付き添いのもと自宅退院となった。退院時のFIM は移乗の項目で改善し、92 点( 運動:57 点、認知:35 点) であった。退院2 か月後、呼吸困難感の増強で再度救急搬送となり、再入院5 日目に死亡退院となった。
【まとめ】
本症例は高濃度の酸素投与を必要とし、炭酸ガス分圧の上昇は見られたが、ADL での認知項目の低下はなく、運動項目も移動を除き、維持されており、本人の意思確認のもと、多職種での介入・支援を実施した。在宅酸素業者や家族の協力もあり、自宅退院を実現でき、終末期における2 か月間を自宅で過ごすことができた。
【倫理的配慮,説明と同意】
患者には、今回の発表に関する主旨と個人情報保護について、口頭・書面にて十分に説明し、同意を得た。また、開示すべき利益相反はない。