九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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多職種連携により自宅退院が可能となった重症廃用症候群の一例
*二又 稜
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p. 69

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抄録

【はじめに】

当院療養病棟は回復期リハ病棟と比べて、人員配置が少なく、PT1 名あたり20 名程度を担当している。したがって、患者1 人当たりの理学療法提供量は少なく、より多職種での関わりが重要になる。今回、重症廃用症候群により在宅復帰が困難な症例を担当した。本症例はパーキンソン病に加え、左下腿部に潰瘍や肥満(1 度) による活動性の低下が介助量増大の一要因となっていた。そこで、多職種で日常生活動作(以下、ADL)訓練や栄養管理、潰瘍処置を行うことで家族が受け入れ可能な状態となり自宅退院すること出来たため、ここに報告する。

【症例紹介】

76 歳女性、身長:165 ㎝、体重:74.9 ㎏、BMI:27.5( 肥満1 度)診断名:パーキンソン病既往歴:肥満症、左下肢うっ滞性皮膚炎入院前ADL:起居動作・食事・整容以外のADL 全介助(移乗動作は3 名介助)本人Demand:家に帰りたい。家族Demand:移乗の介助量が減り、楽に介助が出来るようにして欲しい。左足関節は内反著明。入院時FIM:42 点

【経過・結果】

入院時は基本動作・ADL 全介助、車椅子乗車も困難であった。症例は、自宅退院を希望、家族は介護負担を理由に施設希望していた。そのため、多職種でアプローチの検討を行った。X+ 2 日からは全介助下での離床を図った。同時に医師・看護師は潰瘍の治療、ケアスタッフは体重測定頻度の増加、セラピスト不在時の離床、栄養士は摂取エネルギーの調整を開始した。X+ 30 日より、ベッド上での筋力訓練や起立訓練、アシスト付エルゴメーターを追加。X+ 90 日には基本動作訓練やADL を中心に移行した。この際、体重減少や介助量軽減は認めたものの、潰瘍の治癒が遷延化した為、X + 220 日より潰瘍周囲の血流改善目的で直線偏光近赤外線治療器( 以下:スーパーライザーPX)を開始し、処置方法や摂取エネルギーや補助食品の調整、家族やケアマネジャーとの情報交換など多職種で連携し本人の自宅退院に向けて検討した。結果、X+240 日で体重は14 ㎏減少し、起居動作は監視レベルとなった。移乗動作は1 名介助で可能となり、自宅退院となった。入院時FIM:56 点

【考察】

今回、重症廃用症候群により自宅退院困難な症例を担当した。症例はパーキンソン病に加え、肥満(1 度) や左下腿部の潰瘍での活動性の低下による重度廃用症候群を呈していた。パーキンソン病の予後や症例・家族の年齢を考えると、今回が自宅に退院できる最後の機会ではないかと考えた。そのため、多職種で検討し自宅退院を目指した。本人の想いを実現させる為には、家族の介護負担を軽減させることが必須であり、その阻害因子として、下腿潰瘍、肥満、重症廃用に伴う介助量の大きいことが挙げられた。複数の阻害因子に対して、多職種間で担当領域を明確にしたことと情報を共有したことが少ない理学療法提供量の中でも良い結果を得たことに繋がったと考える。特に潰瘍治癒の遷延した時には、何度かアプローチを検討し、スーパーライザーの導入が潰瘍治癒の促進に貢献できたと考える。家族への関わりにおいても、コロナ禍の中で進捗状況を動画で報告する事で回復のイメージを持って頂くとともに、自宅退院に向けて動機付けを行った。今回の症例への介入を通し、理学療法だけでの介入では達成できる目標は少なく、自宅退院は困難であったと思われた。しかし、多職種連携で介入する事で、専門性の高い介入が出来、頻回な情報交換を行う事で自宅退院が可能になったと思われる。この経験を今後の業務でも活かしていきたい。

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言を厳守し、患者家族に本報告の趣旨を説明し同意を得た。

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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