九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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達成感と利他的思考から生きがいの創出につなげるアプローチ
リハビリテーションSWOT 分析を用いたアクションプラン戦略
*森 恵介
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p. 70

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抄録

【はじめに】

今回、離島の市営住宅の3階(現在エレベーター設置工事中)に軽度心身障害のある娘氏と同居し、活動意欲の低下している症例を担当した。本症例に対し、リハビリテーションSWOT 分析を用いて目標設定し、アクションプランを実践した結果、症例に達成感と利他的思考が生まれ、活動意欲に関してのモチベーション向上に繋がったので以下に報告する。

【症例】

80 代女性。主たる傷病名:慢性関節リウマチ、うっ血性心不全、視力障害。既往歴:くも膜下出血(X 年4月)、変形性膝関節症。家族:軽度心身障害のある娘氏と2 人暮らし。生活歴:以前は移動(階段昇降)も杖歩行で概ね自立していたが、くも膜下出血発症後、入院加療し、退院後の移動は歩行器と車椅子併用レベルで、階段昇降も困難となり、娘氏のサポートのみでは屋外に出る機会がない。活動意欲も低下し、娘氏の介護負担も増大した。通所系サービス利用の拒否も強く、現在、週1 回の訪問看護(リハビリテーション)利用のみで対応中である。

【介入手段】

SWOT 分析とは、強み、弱み、機会、脅威の4つのカテゴリーで要因分析を行う経営戦略策定方法の1つである。これを地域リハビリテーションの分野で活動・参加につなげる具体的なアクションプランに応用したもの(機会、脅威を環境の強み、弱みに変更)がリハビリテーションSWOT 分析である。活動意欲の低下している本症例に対し、目標設定の手段としてリハビリテーションSWOT 分析を実施した。

【介入経過・結果】

リハビリテーションSWOT 分析にて、症例の強み(感性豊か、手芸が得意等)と弱み(外出ができない、社会的交流がない等)、環境の強み(手芸道具は揃っている、市営住宅のエレベーター設置工事中等)と弱み(娘氏も心身万全ではない、娘氏に依存的等)を抽出し、クロス分析を施行する。その中で症例の強みと環境の強みを掛け合わせ、担当セラピストのためのネックウォーマー作成を目標に設定。<アクションプラン1(積極戦略)>介入時は納期を2ヶ月と設定し、手指の巧緻動作を強化しながら適宜進捗を確認する。納期通りに完成し、笑顔が増え、前向きな発言や利他的思考も見られるようになった。並行して症例の弱みと環境の強みを掛け合わせ、自宅ベランダで風光明媚な景色を見て季節感を感じてもらいながら立位保持能力や下肢筋力の強化と、娘氏への介助指導を実施し、娘氏の介助負担の軽減を目標に設定。<アクションプラン2(改善戦略)>結果、車椅子中心の自宅内移動から、娘氏の軽介助で自宅内の歩行器移動(トイレやリビングまで)が可能となった。今後、市営住宅のエレベーターが完成した後は、娘氏と一緒に車椅子や歩行器を使用し、島内外への外出など活動範囲拡大も視野に入れ、症例の強みと環境の弱みを掛け合わせた<アクションプラン3(克服戦略)>、症例の弱みと環境の弱みを掛け合わせた<アクションプラン4(危機回避戦略)>の目標設定と実践も検討していく。

【考察・まとめ】

リハビリテーションSWOT 分析を用い、症例の弱みをコントロールして強みを活かすアクションプランを設定し、実践することで、症例に達成感と利他的思考が見られるようになった。そのことは、症例だけではなく、娘氏(次世代)の生きがいやモチベーションの向上にもつながった。(次世代のための成功モデル)今回のアプローチは病気や障がいがあっても自分らしく人生を生きるために重要なアクションの一助となったと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

症例及び家族には本報告の目的、趣旨、個人情報保護に関する説明と同意を口頭と書面で行い同意を得た。本報告に関して開示すべき利益相反はない

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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