主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 75
【はじめに】
野球の競技力向上の一つとして,バッティングにおけるスイング速度の向上がある。先行研究では,文部科学省が推進している体力測定の項目やスクワットおよびベンチプレスの最大筋力とスイング速度の関係が報告されている。しかし,先行研究の多くは大学野球選手が対象であり、成長期である高校野球選手を対象とした研究は少ないのが現状である。高校野球選手の運動機能とスイング速度の関係性を明らかにすることで,高校野球選手における競技力向上やトレーニング立案に有用であると考える。本研究の目的は,当院で実施しているメディカルチェック(以下MC)の運動機能項目とスイング速度の関係を調べ,スイング速度に影響を及ぼす運動機能因子を検討することとした。
【方法】
対象は当院にてMC を受けたA 高校硬式野球部員23 名(年齢16.4 ± 0.49 歳,右打ち14 名)とした。スイング速度の計測はマルチスピードテスター(SSK社製)を使用し,素振りにて5 試行計測し,平均値を採用した。バッティングフォームは統一せずに計測した。計測に使用したバットは長さや重心位置を統一するため,ネオステイタス(ZETT 社製)を使用した。MC の項目は,筋力の評価には,握力,膝関節伸展及び屈曲筋力,上体起し回数,各種ジャンプテスト(立ち幅飛び,片足飛び,両足3 段飛び,片足側方5 段飛び)を計測した。膝関節筋力の計測には等尺性筋力計μ TasF-1 を用いた。打席に合わせ,握力はバットのグリップ側をボトムハンド,対側をトップハンドとし,下肢はstep 足,軸足とした。身体組成にはInbody(インボディジャパン社製)を使用し,徐脂肪体重および下肢の筋量を計測した。統計解析は相関分析を用いて,スイング速度とMC の各項目の関連性を分析した。その後,従属変数をスイング速度とし,相関分析にてスイング速度と有意な関連性を認めた項目を多重共線性に配慮しつつ独立変数に投入し,重回帰分析( ステップワイズ法) を行った。統計学的検定にはR コマンダー2.8.1 を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
スイング速度は115.1 ± 7.1m/s であった。スイング速度と体重(66.8 ± 8.8kg,r=0.44,p < 0.05),軸足の筋量(8.7 ± 0.7kg,r=0.47,p < 0.05),step 足の筋量(8.69 ± 0.81kg,r=0.5,p < 0.05),上体起し回数(37.4 ± 4.7 回,r=0.63,p < 0.01),step 足の片足ジャンプ(167.3 ± 14.3cm,r=0.67,p < 0.01)に有意な正の相関関係を認めた。また,重回帰分析の結果,有意な項目として抽出されたのはstep 足の片足ジャンプ(β =0.47,p < 0.05),上体起し(β=0.40,p < 0.05)であった(調整済みR²=0.53)。
【考察】
本研究の結果より,step 足の片足ジャンプと上体起こし回数がスイング速度に影響を与えることが示された。先行研究では,スイング速度に影響を及ぼす運動機能因子として体幹筋力や握力が報告されている。握力は関係性が見られなかったものの,本研究の結果も先行研究を支持するものであり,スイング速度を向上するためには体幹筋力が重要であることが示唆された。また,step足の片足ジャンプとスイング速度に有意な関係性を認め,片足ジャンプもスイング速度へ影響を及ぼす可能性が示唆された。今回の結果は,高校野球選手におけるスイング速度向上のためのトレーニング立案の一助となると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,当院倫理審査委員会(承認番号015)にて承認を得たものである。対象者及び責任者である監督には,事前に研究の趣旨と内容について説明し,自由意思による同意を得た。