九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
会議情報

中学野球におけるメディカルサポート活動の意義
長崎県中学校総合体育大会軟式野球競技における取り組み
*佐治 泰範*濱田 孝喜*樋口 隆志*重松 康志*山口 哲
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 76

詳細
抄録

【はじめに・目的】

高校野球では選手の健康管理を目的としたメディカルサポート(MS)が実施されているが、中学野球を対象とした大会でのMS の報告は少なく、長崎県内でも実施されていないのが現状であった。長崎県中学校総合体育大会軟式野球競技(県中総体)は3 日間で最大5 試合という過密日程の中開催される事から、中学生においても大会中の健康管理が必要と考えられたため、2017 年より有志で県中総体のMS を開始した。その後2019 年より長崎県理学療法士協会事業として開始した。本報告の目的を県中総体における取り組みをまとめ、中学野球におけるメディカルサポートの意義について考察する事とした。

【方法】

2019 年に開催された県中総体計8会場19 試合、参加校20 校、登録選手336 名を対象とした。活動内容は(1)クーリングダウンの実施、(2)アクシデントに対する応急処置、(3)コンディショニング相談・指導、(4)投手の投球前後の関節可動域測定(ROM 測定)であった。活動記録から(1)対応件数、(2)対応内容、(3) MS 利用選手数、(4)疼痛の有訴者数、(5)投球数、(6) ROM 測定結果を集計。ROM 測定は準々決勝以降の投球前後で実施し、投球側水平内転可動域(HFT)と肩90 度外転位内旋可動域(2nd 内旋可動域)の変化量を求めた。また、投手1 人当たりの投球数は大会本部の公式記録より聴取した。

【結果】

MS に参加したスタッフ数は3日間で延べ17 名(2.1 名/ 会場)であった。対応件数は3日間で延べ71 件(3.7 件/ 試合)であった。対応内容はコンディショニングやクーリングダウンが60 件、その他(テーピング・応急処置など)が11 件であった。大会中MS を利用した選手は38 名(11.3%)であった。その内20 名は疼痛を訴え、大会前からの有訴者は10 名、大会中の疼痛出現は10 名であった。ROM 測定は2日間で計15 名の選手を実施した。登板した投手は準々決勝9 名、準決勝4 名、決勝2 名、準々決勝から準決勝まで連投した投手は4名であった。投手一人当たりの投球数は、準々決勝で平均78.1 ±28.1 球、準決勝で平均88.0 ± 24.0 球、決勝は平均83.5 ± 14.8 球であった。また、2日間での総投球数は最大で203 球であった。準々決勝前後での関節可動域変化量はHFT が− 3.2 ± 10.1°減少した。2nd 内旋は0.04 ± 11.1°であった。連投した投手の関節可動域変化量は、HFT では準々決勝前後で− 3.7± 7.3°減少したが 、準々決勝後と準決勝前で2.0 ± 8.4°、準決勝前後で3.5± 2.6°と増加した。2nd 内旋は、準々決勝前後で− 6.1 ± 3.5°、準々決勝後と準決勝前で1.3 ± 5.6°、準決勝前後で5.7 ± 7.1°であった。

【考察】

県中総体は真夏の中での開催のため、身体的・精神的に負担が大きい。今回、コンディショニングやクーリングダウンの依頼が多かったことは健康管理に対する指導者の意識が強かったのではと考える。また、投球障害予防の一助とする目的で投球数と投球前後での可動域変化を調査した結果、投球数では日本臨床スポーツ医学会が提言する1日の投球数70 球を超えている選手が多く、2日間で約200 球を投球する投手もいたが、試合前後、翌日における可動域変化の傾向は様々であったため今後も継続した調査が必要である。今回のMS を通じて、大会中の選手の健康管理のサポート、障害予防活動の場だけでなく投球数と試合前後の身体機能変化の調査が成長期の障害予防活動の一助に繋がっていく事から、中学野球に対するMS は非常に大きな役割を担っていると考える。ただ、大会前から疼痛を有している選手が存在していた事は大会以外での啓発活動も重要だと再認識した。

【倫理的配慮,説明と同意】

本報告に際し、ヘルシンキ宣言の精神に基づき対象者の特定ができないよう配慮した。

著者関連情報
© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
前の記事 次の記事
feedback
Top