九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題24[ 骨関節・脊髄④ ]
大腿骨近位部骨折術後の介護度変化の予測因子
O-137 骨関節・脊髄④
持田 海斗高橋 博愛樋口 貴彦井上 茂徳上妻 優矢上野 綾香大楠 珠未
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p. 137-

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抄録

【目的】 大腿骨近位部骨折(以下、近位部骨折)は高齢者に多い下肢骨折であり、要介護・要支援の原因になることは広く周知されている。近位部骨折後の栄養状態や在宅復帰の要因については多く報告されているが、骨折後の介護度についての報告は散見される程度である。本研究は、受傷前自立レベルであった近位部骨折患者の介護度が悪化する要因を分析・予測することで退院後のサービス利用・調整を円滑にすることの一助となる指標を提示することを目的とした。

【方法】 対象は平成31年1月から令和4年4月までに当院回復期病棟に入棟し理学療法を実施した近位部骨折患者299名のうち、合併症による退棟なく欠損値のない65歳以上の入棟時介護保険未申請あるいは要支援の106名(BHA31名骨接合術75名)とした。調査項目は年齢、性別、術式、病側、握力、BMI、在院日数、発症から入棟までの日数、回復期入棟日数、入院前ADL、入退棟時の介護度、入退棟時の日常生活活動(Functional Independence Measure以下FIM)、既往歴(骨折)の有無とした。対象症例を退棟時に介護保険未申請あるいは要支援であった78名を維持群、退棟時あるいは退棟後に要介護となった28名を悪化群とし調査項目について2群間比較した。さらに、2群間比較で有意かつ予測因子となりうる評価項目を説明変数としてLogistic回帰分析を行い、選択された評価項目についてROC曲線を用いカットオフ値を算出した。本研究は当院の倫理委員会の承認を得ており、ヘルシンキ宣言に基づき、対象者のプライバシーに十分考慮し実施した。

【結果】 維持群は悪化群と比較して有意に若年(81.9±7.3 vs 86.8±6.6歳、p=0.0027)かつ、握力(17.4±5.9 vs 13.9±6.1 ㎏f、p=0.001)、入棟時のFIM運動項目(52.6±13.0 vs 41.1±13.3点、p=0.0001)・認知項目(31.2±3.4 vs 25.9±5.8点、p<0.0001)、退棟時のFIM運動項目(81.0±13.7 vs 68.2±17.7点、p<0.0001)・認知項目(33.0±2.7 vs 28.0±5.6点、p<0.0001)が高値、入棟日数(55.0±22.4 vs 74.1±16日、p<0.0001)、在院日数(76.3±27.0 vs 100.9±15.7日、p<0.0001)が短かった。説明変数を年齢、握力、入棟時のFIM運動項目・認知項目とLogistic回帰分析を行ったところ、FIM認知項目(odds:0.786、95%CI:0.705-0.876、p<0.0001)、が選択されROC曲線よりカットオフ値27点以下(曲線下面積:0.801、95%CI:0.706-0.894)、的中率は79.2%であった。

【考察】 先行研究では高齢骨折患者の認知機能は自宅退院率および術後のADL能力に影響を及ぼすとされている。くわえて本結果より要介護認定を受けていない近位部骨折症例に対して入院時の認知機能が退院時の要介護認定に影響することが示唆され、認知機能は要介護認定を受けていない近位部骨折症例における転帰検討に有効な指標と考えられた。入院時若年かつ筋力および認知機能が維持されている場合、入院前と同様に地域で自立した生活を獲得できると考えられた。一方で悪化群は維持群と比較して有意に入棟日数が長くなっており、ADL能力の改善や家族の支援・サービス利用・調整など転帰調整に難渋している。今回、転帰検討に有効な指標を示したことから今後の近位部骨折症例の早期予測・入棟日数短縮に寄与するものと考えられた。

【まとめ】 近位部骨折後の介護度が悪化する要因について、入棟時介護保険未申請あるいは要支援を利用している患者を対象に検討した。介護度が悪化する要因の予測として入棟時FIM(認知項目)27点以下の数値が示唆された。

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