主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 46-
【目的】 変形性膝関節症患者における10m歩行時間は、日本版膝関節症患者機能評価との関連が示されている歩行能力を示す一つの指標とされている。また、変形性膝関節症患者に対する手術後の10m歩行時間についても日常生活動作との関連が示されており、術後早期から歩行速度を向上させることは重要であると考える。しかしながら、膝関節周囲骨切り術(Around the knee osteotomy:AKO)後患者における術後早期の10m歩行時間に関連する因子については不明瞭であり、明らかになることで入院中の理学療法介入の一助となり得ると考える。したがって本研究では、AKOを施行した患者の術後5週における10m歩行時間に関連する因子について調査することを目的とした。
【方法】 対象は2019年3月から2021年4月までに変形性膝関節症と診断を受け、AKOを施行した222名のうち、術前と術後5週の評価が可能であった58名58膝とした。対象の内訳は、男性21名、女性37名、年齢64.7±8.7歳、体格指数(Body Mass Index:BMI)25.8±4.0 ㎏/m2、内側開大式高位脛骨骨切り術(Opening wedge high tibial osteotomy:OWHTO)21名、内側開大式粗面下骨切り術(Opening wedge distal tuberosity osteotomy:OWDTO)37名であった。評価項目は、術前と術後5週における10m歩行時間(秒)、歩行時痛(Numerical Rating Scale:NRS)、膝伸展可動域(°)、膝伸展筋力(㎏f/㎏)とした。術後5週の10m歩行時間に関連する因子について、説明変数を術前の10m歩行時間、術前と術後5週の歩行時痛、膝伸展可動域、膝伸展筋力、共変量を性別と年齢、BMIとした重回帰分析を行った。統計ソフトはR4. 1. 2を用いて、有意水準5%とした。
【結果】 各評価項目の平均値と標準偏差を示す。10m歩行時間は、術前8.9±4.0秒、術後5週10.6±4.0秒、歩行時痛は、術前4.3±2.3, 術後5週2.2±1.3、膝伸展可動域は、術前-5.5±6.0°、術後5週-2.4±3.4°、膝伸展筋力は、術前27.6±13.2 ㎏f/㎏, 術後5週20.0±8.2 ㎏f/㎏であった。重回帰分析の結果、術後5週の10m歩行時間と術前の10m歩行時間(β;0.29, 95%CI;0.01~0.56, VIF;1.5)、術後5週の歩行時痛(β;0.14, 95%CI;0.72~2.2, VIF;1.1)との間に正の関連性を認め、術後5週の膝伸展筋力(β;-0.19, 95%CI;-0.33~-0.04, VIF;1.8)との間に負の関連性を認めた(調整済み決定係数;0.29)。
【考察】 本研究結果では、AKOを施行した患者における術後5週の10m歩行時間には、術前の10m歩行時間と術後5週の歩行時痛、膝伸展筋力との関連が示唆された。このため、AKOを施行する患者においては、術前より歩行能力を向上させ、術後の疼痛管理と膝伸展筋力を回復させる工夫が必要であると考える。今後はOWHTOやOWDTOといった術式の違いや歩行形態の影響を考慮して検討すべきであると考える。
【まとめ】 AKOを施行した患者に対するリハビリテーションにおいて、術前の歩行能力を高めること、術後5週の疼痛軽減と膝伸展筋力を向上させることは、日常生活動作との関連があるとされる10m歩行時間において重要であることが考えられた。
【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者に説明と同意を得て実施した。