主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 49-
【はじめに】 本邦では、介護予防の重要性が高まっており、2006年度より介護予防事業の1つとして、基本チェックリスト(以下、基本CL)による評価が導入されている。基本CLは7領域、25項目で構成され、4項目以上に該当する者はプレフレイル、8項目以上に該当する者はフレイルに相当するとされている。菱井らは基本CLの運動器領域の得点と運動機能との相関を検討し、運動器領域の得点が身体機能の低下をスクリーニングする有効性を報告した。身体機能は閉じこもりや抑うつなどとも関連が報告されており、身体機能低下の要因としては多くの因子が関与している。そのため、運動器領域に該当し、更にその他の領域にも該当する者は身体機能が低下している可能性が高いと考えられる。そこで、本研究の目的は基本CLの運動器領域を含む複数領域に該当する地域在住高齢者の特性を明らかにすることとした。
【対象】 対象は、A市の高齢者サロン体力測定会に参加し、基本CLへの回答が得られた52名で、男性14名、女性38名、平均年齢は77.6±7.5歳であった。
【方法】 基本CLの運動器領域を含む複数領域に該当する者(複数群)とその他の者(対照群)の身体機能を比較した。また、複数群を対象として、運動器領域とどの領域に該当する場合に身体機能への影響を及ぼしやすいか検討した。身体機能評価は、握力、片脚立位保持時間(以下、片脚立位)、5回立ち上がりテスト(以下、SS-5)、Timed Up and Goテスト(以下、TUG)の4項目を実施した。4項目とも2回ずつ測定し、最大値を採用した。これに加えて、基本CLへの自己記入による回答を得た。
【統計解析】 統計解析はMann-Whitney U検定を用いて比較した。統計解析にはSPSSver. 22(IBM社製)を使用し、有意水準は5%とした。
【結果】 複数群と対照群との比較において、握力は複数群が21.7(13.0/43.9) ㎏([中央値(第1四分位数/第3四分位数)]、対照群が25.1(15.5/43.5) ㎏で複数群が有意に低値を示した(P<0.05)。SS-5では複数群が7.26(4.0/11.4)秒、対照群が5.77(4.09/13.3)秒で複数群が低値を示す傾向にあった(P=0.09)。また、複数群を対象とした検討において、片脚立位は運動器と抑うつに該当した者が19.2(1.0/60)秒、運動器と抑うつ以外の領域に該当した者が53.93(5.18/60)秒で運動器と抑うつに該当した者が有意に低値を示した(P<0.05)。
【考察】 運動器領域を含む複数領域に該当している場合、筋力に影響を及ぼすことが示唆された。高齢者の筋力低下はADL, IADLに加え、QOLにも関与する大きな問題であり、早期のスクリーニングにより能力低下の進行を抑制することが重要であると考えられた。また、運動器、抑うつに該当した者ではバランス能力に影響を及ぼすことが示唆された。抑うつの原因は多岐に渡り、高齢者は抑うつを呈するリスクが高い。また、抑うつは外出頻度などの身体活動量に影響を及ぼすことが指摘されている。これらの事から、抑うつを呈することにより身体活動量が減少し、バランス能力に影響した可能性が考えられた。また、先行研究では抑うつと立位姿勢保持能力との関連を指摘しており、抑うつにより動作が緩慢となることで直接的にバランス能力に影響した可能性も考えられる。運動器、抑うつに該当した者は特に身体機能への影響が危惧され、早期の対策が必要となる。本研究においても、基本CLを用いた早期スクリーニングが介護予防の一助となる事を支持する結果が得られた。