九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題9[ スポーツ・健康① ]
実業団女性アスリートにおける等速性膝関節屈曲・伸展筋力が片脚着地動作時の動的バランス能力に及ぼす影響
O-050 スポーツ・健康①
本田 啓太久保下 亮八巻 魁成木下 夏美新井 勇人枝尾 久美荒木 理恵松原 誠仁楢原 真二
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p. 50-

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抄録

【目的】 片脚着地動作時の動的バランス能力低下は、膝前十字靭帯損傷や足関節捻挫の危険因子であり、Time to stabilization(以下、TTS)によって評価される。TTSは前後、側方及び上下方向の床反力が片脚着地後に安静立位時と同等に戻るまでの時間を評価するものであり、この時間が短いほど動的バランス能力が高いことを意味する。近年、TTSは競技レベルとも関連することが報告され、競技レベルが高いサッカー選手における鉛直方向のTTSは小さいことが明らかにされた。このようにTTSはスポーツ傷害や競技レベルと関連することが明らかにされてきたが、TTSと下肢筋機能の関係は不明な点が多く、動的バランス能力指標であるTTSを改善するための理学療法介入は確立していない。本研究の目的は、競技レベルの高い女性アスリートを対象として、片脚着地動作におけるTTSと膝関節周囲筋機能の関係を明らかにすることとした。

【方法】 ハンドボール及びバスケットボールの実業団チームに所属する女性アスリート15名を対象とした。チームが実施する練習と試合への参加が困難なもの、足及び膝関節靭帯損傷の既往があるものは除外した。本研究は研究者の所属する倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象者に対して書面及び口頭で研究内容の説明を十分に行った後に参加への同意を得た。対象者に身長の40%に相当する距離を前上方に両足でジャンプさせ、その後の片脚着地動作を分析対象試技とした。跳躍距離の中央には30 ㎝ハードルを設置し、跳躍高を統制した。対象者は着地後に速やかに姿勢を安定させ、その姿勢を5秒間保持することを指示された。着地動作は30×60 ㎝の床反力計(AMTI社製)を用いて計測され、先行研究に準じて、前後、側方及び上下方向のTTSをそれぞれ算出した。膝関節周囲筋の機能は等速性膝関節屈曲・伸展筋力を指標として、測定にはBIODEX 3(Biodex Medical System社製)を用いた。低速度(60 deg/s)と高速度(180 deg/s)条件のそれぞれで、体重にて正規化した最大トルクと膝関節屈曲/伸展トルク比を計測した。データ分析と統計学的処理にはMATLAB R2019b(MathWorks社製)を使用した。TTSと等速性膝関節屈曲・伸展筋力の関係を調べるためにピアソンの積率相関係数を用いた。有意水準は5%とした。

【結果】 高速度で計測した膝関節筋力指標はTTSとの間に有意な相関関係を認め、右側の膝関節屈曲/伸展トルク比と鉛直方向のTTSの間に有意な負の相関関係が見られた(r=-0.56、p=0.029)。左側についても同様に膝関節屈曲/伸展トルク比と鉛直方向のTTS間に負の相関関係を示したが、有意ではなかった(r=-0.37、p=0.177)。膝関節屈曲/伸展トルク比は右が0.65±0.10、左が0.64±0.13であり、鉛直方向のTTSは右が1.16±0.09秒、左が1.15±0.09秒であった(平均値±標準偏差)。なお、偽相関の可能性を検討したが、除脂肪体重及び膝関節最大トルクと鉛直方向のTTSの間に有意な相関関係はなかった。

【考察】 本研究の結果は、高速度での膝関節屈曲・伸展運動中に発揮される膝関節伸展筋力に対する膝関節屈曲力が大きい選手ほど、着地後における鉛直方向の床反力を安静立位時と同等に戻すまでの時間が短かったことを示した。大腿四頭筋の発揮筋力に対するハムストリングスの発揮筋力の大きさは肉離れや膝前十字靭帯損傷の予防の観点からも重要視されている。本研究では動的バランス能力の視点からも、大腿四頭筋に対するハムストリングスの発揮筋力が重要であることを示唆した。

【まとめ】 高速度運動時の膝関節伸展筋力に対する屈曲筋力の比率が低い実業団女性アスリートでは、片脚着地動作時の動的バランス能力が不良であった。

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