主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】学齢期スポーツ選手に対するHamstrings(HA)のStretchingは、障害予防を目的としてスポーツ現場で積極的に実施されている。Stretchingには様々な種類があり、障害予防の観点からStatic Stretching (SS)が推奨されている。また、温熱効果とSSを合わせることでSS単独よりも柔軟性の改善を得られることが報告されており、入浴後のSSを指導することが多い。しかしながら、入浴後または前のSSによるHAの柔軟性を比較検証した研究は存在しない。本研究の目的は、学齢期スポーツ選手に対する入浴後または前のSSがHAの柔軟性に与える影響を検証することである。 【方法】本研究はCONSORT声明に準じたランダム化比較試験である。介入期間を2023年7月8日~7月22日、対象を小中学生の軟式野球チームの選手とした。包含基準を5年生以上、除外基準を下肢に症状や疾患を認める者とした。介入は入浴後にSSを実施する群 (入浴後群)と入浴前にSSを実施する群 (入浴前群)とし、適応的ランダム化法で割り付けた。盲検化は評価者のみ行った。SSはHAを対象筋とし、30秒間の伸張を1日3回、2週間に渡って実施させた。介入期間中は、通常の運動以外は行わないように指示し、チェックリストを用いて実施回数を記録させた。入浴の条件は両群共に湯温を40~45℃に設定し、5~10分間の入浴とした。アウトカムは背臥位かつ股関節屈曲90°からの膝伸展角度とした。膝伸展角度の計測は、デジタル傾斜計 (STS, DL164V)を用い、検者がHAに最終抵抗を感じた時点で計測した。計測の検者内信頼性は、ICC (1,1)が0.98であった。統計解析は、群内の前後比較に対応のあるt検定、介入後の群間比較にベースライン値を共変量とした共分散分析を用いた。統計解析にはR ver.4.3.2を使用し、有意水準を5%と定めた 【結果】最終的な対象者は、入浴後群11名と入浴前群12名だった。入浴後群の膝伸展角度は介入前60.24±4.88°、介入後64.53±8.22°であり、介入後で有意に改善を認めた (p<0.001, CI:1.72-6.32)。入浴前群の膝伸展角度は介入前61.33±7.12°、介入後65.93±8.22°であり、介入後で有意に改善を認めた (p<0.001, CI:2.02-7.19)。群間比較では有意差を認めなかった (p=0.75, CI:-2.53-3.56)。 【考察】本研究の結果から、学齢期のスポーツ選手において入浴後および入浴前のSSがHAの柔軟性を向上させる効果があることが確認された。しかし、両群間で効果に差を認めず、スポーツ現場で一般的に行われている入浴後のSS結果は、入浴前のSS結果と同等の効果を示し、予想と異なった。この要因としては、介入期間が夏期であり、環境温や湿度が筋温に影響を及ぼした可能性がある。先行研究では30°以上の環境温かつ湿度が50%を超えると筋温の上昇に影響を与えると報告されている。介入中の環境は平均気温が31度、平均湿度が75%であり、入浴前の筋温が高かった可能性がある。そのため、入浴による温熱効果が得られにくかった可能性が考えられた。今後は、夏期の気温や湿度の影響を考慮して冬期に同様の検証を実施する必要がある。 【まとめ】筋の柔軟性向上には入浴のタイミングに関わらず、積極的なSSを実施することが重要である。 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき、全ての対象者と保護者に本研究の内容、参加の自由等を説明し、書面による同意を得た。本研究は所属先の倫理委員会による承認を得た上で実施した。