九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O7-2
会議情報

セッションロ述7 スポーツ・健康1
現代の児童における動作発達段階と新体力テスト測定記録への影響
吉里 雄伸足立 凌汰柴田 陸海新美 楓高原 英里堂ノ脇 美月野中 一篤矢澤 佑名中野 聡太
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】本邦の児童生徒を対象とした新体力テストの記録 (以下、記録)は、昭和60年をピークに低下傾向にある。さらに走・跳・投動作を5つの発達段階に分けた評価も低水準にあることが、平成19年の幼児対象の研究で報告されている。近年、児童生徒を取り巻く環境は著しく変化しており、各動作の発達段階がさらに低水準へ移行することを危惧する。一方、少子高齢化が進展する本邦では、経済社会の活力維持のため各人の長く安定した就業が求められている。その際、一定の運動機能が担保されることが必要で、子どもの時期からそれらを高めておくことが重要になると考えている。動作発達段階が記録に影響する場合、発達段階を上げるための介入が必要となるが、近年の児童生徒の動作発達段階を調査した研究は見当たらず、新体力テストへの影響も不明である。そこで本研究では、現代の児童の動作発達段階と、それらの走・跳・投の記録への影響を明らかにすることを目的とした。 【方法】対象は小学1~3年生の児童86名 (女児33名)、平均年齢7.3±0.9歳であった。スポーツ庁の新体力テストに準じ、疾走 (25m)、跳躍、投球動作を測定・撮影した。各対象者のそれぞれの動作を3名の評価者が動作発達段階表 (5段階)に基づき分類した。なお、評価者3名の中央値を対象者の各動作の発達段階とした。統計解析は男女別に行った。走・跳・投の動作発達段階は平均と標準偏差 (以下、SD)を求め、昭和60年の年長のデータと比較した。各記録に対する動作発達段階の影響について、従属変数を各記録、説明変数を動作発達段階、年齢を共変量として回帰分析を行った。全ての解析にはR software version 4.3.1を使用し、有意水準を5%とした。 【結果】各動作の発達段階を1・2・3年生の順に平均±SDで示す。男児は、疾走動作が2.9±0.9、2.7±0.6、2.7±0.8、跳躍動作が3.2±1.3、3.3±1.4、3.6±1.1、投動作が4.0±0.5、4.4±0.5、4.4±0.4であった。女児は、疾走動作が3.3±0.8、2.9±0.9、3.7±0.6、跳躍動作が2.8±0.9、3.7±0.8、3.3±1.4、投動作が2.5±0.8、3.6±0.8、3.6±1.0であった。昭和60年の年長と比較して、男児は1-3年生の疾走動作で同じか低い発達段階であった。女児は、2年生の疾走動作、1・3年生の跳躍動作、1年生の投球動作で同じか低い発達段階であった。動作発達段階の影響を認めたのは、男女ともに疾走時間 (男児 p=0.04、β=-0.39:女児 p=0.01、β=-0.26)、男児のみ跳躍距離 (男児 p<0.01、β=0.09)、男女ともに投球距離 (男児 p<0.01、β=3.82:女児 p=0.03、β=0.97)であった。 【考察】本研究において、現代の児童の動作発達段階は昭和60年の年長と比べて同程度か低下していた。また各記録に対する動作発達段階の影響を調べた結果、疾走では男女ともに、跳躍では男児のみ、投球では男女ともに動作発達段階が上がるにつれて記録の向上がみられた。投動作の発達段階に着目した先行研究では、ボール操作を中心とした運動プログラムの実施が発達段階の向上に有効であったと報告されている。従って、より幼少期からの専門的な介入の必要性が示唆される。しかしながら、本研究では動作発達段階が低い水準に留まる原因が明確となっていない。今後その原因を追究するとともに、有効な対策を検討していく必要がある。 【結語】昭和60年の年長に比べて、現代の児童では動作発達段階が同程度か低下していた。また動作の発達段階は記録に影響を与えていた。 【倫理的配慮】本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した(05−005)。また測定に際し、本人と保護者の同意を得た。

著者関連情報
© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
前の記事 次の記事
feedback
Top