九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: P7-2
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セッションポスター7 測定・評価
外来の脳卒中片麻痺患者に対して動画を使用した自主運動指導により歩容改善を認めた症例
井上 仁佐藤 亮
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抄録

【はじめに】 脳卒中発症後8か月が経過した症例を外来で担当する機会を得た。近年では、慢性期脳卒中片麻痺患者に対して運動観察治療を行うことが、歩行能力を向上させるために効果的であるという研究が散見される。しかし、外来リハでは身体機能の維持・向上を目的とした自主運動メニューの提供は、紙面を用いる報告が多い。今回外来リハにおいて基本動作や歩行をスマートフォンで撮影した動画を、自主運動時のフィードバックに利用した。その結果、自主運動の定着および歩行能力の向上に繋がった為報告する。 【症例紹介】 対象は左被殻出血、失語症、高次脳機能障害と診断された50代男性。発症から3ヵ月で自宅退院。退院後、5か月は障害受容が否認期・混乱期でPT介入は見送りとなっており、OTのみ訪問リハを行っていた。転居に伴い当院外来理学療法開始、合わせて両側金属支柱付き短下肢装具を製作することになった。実施頻度は、PT・OT・STの組合せで4単位/日を1~2回/週行った。 【経過】 介入初期の安静立位は、麻痺側下肢の股・膝関節は屈曲位で、支持性低下を認めていた。起立動作時も非麻痺側優位での動作となっており、麻痺側下肢の学習性不使用が起こっていると考えられた。歩行では、サイドケインと短下肢装具を使用した3動作揃え型歩行で、安定性、歩行速度の低下を認めていた。また、麻痺側立脚期の短縮と、麻痺側遊脚期、両脚支持期の延長を認めていた。介入初期の障害受容は解決への努力期、行動変容ステージは準備期であったが、患者・家族ともに装具が完成したらすぐに歩行できると考えており、患者の能力と患者・家族の目標に乖離があった。これらを踏まえ、歩行再獲得に向けてまずは非麻痺側下肢の代償動作を抑制し、麻痺側下肢の支持性向上を図る必要があることを患者・家族と共有した。さらに、森岡らの運動学習プロセスに基づき、プログラム中の動画を撮影し自宅でもアライメントや動作方法を確認しながら行うよう指導した。介入から2週間程度経過し装具が完成したタイミングで、徐々に患者・家族から、「まだ体が傾いているので歩きは難しい」や、「自宅での運動でも変化が感じられやすい」との発言が聞かれるようになった。また、行動変容ステージは実行期へと変化し、自主運動が定着していった。介入開始から1か月程度で、右下肢への重心移動がスムーズに可能となり、支持物を把持しての非麻痺側下肢の挙上が可能となった。この時期から、麻痺側下肢への荷重練習、平行棒内での歩行練習を中心に行った。介入開始から2か月程度で、麻痺側下肢の片脚支持期と非麻痺側下肢の歩幅の延長を認め、歩行スピードが向上した。 【考察】 森岡らは、自己運動観察に基づく運動イメージの想起は、立位姿勢バランスの安定化や脳卒中片麻痺患者の歩行能力の向上に効果を示すとしている。今回、家族の協力により、自宅でも頻繁に自己運動観察を併用したプログラムを行うことができた。動画を使用したフィードバックにより、運動イメージの想起と誤差修正が行われ、動作に改善が見られたと考える。また、歩行の再獲得に向けて、動画を使用した患者・家族教育により段階的にプログラムを移行できたことが、患者自身の意欲の維持・向上に繋がり、行動変容ステージが変化していった要因と考える。 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に従い、対象者に個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で同意を得た。

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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