抄録
【はじめに】
近年、橈骨遠位端骨折の治療では強固な内固定が可能となり、良好な治療成績が報告されている。今回骨折部が広範囲に粉砕され内固定ができず、可及的に創外固定術を施行した症例を経験したのでその術後セラピィについて報告する。
【症例】
農業を営む77歳、女性、右利き。仕事中、左前腕遠位を機械に巻き込まれ受傷。左橈尺骨遠位端粉砕骨折、手掌部皮膚欠損、手指・手背部挫創の診断にて創外固定術と創縫合を施行し、手掌部皮膚欠損に対してはペルナークを使用した。
【術後セラピィ】
術後翌日損傷部以遠の著明な腫脹が認められたため、患手挙上を徹底させ、最小の筋力で全可動域動かす母指・手指自動運動を行わせた。術後1週のX-Pより転位はなく、わずかに仮骨形成を認めたため拘縮のない範囲での徒手的回内外運動を開始した。また創部での伸筋腱癒着による手指伸展拘縮がわずかに出現したため手指屈曲用のrubber band traction(以下R.B.T)を装着させ予防した。しかし術後3週に腫脹・浮腫によるMP関節伸展拘縮が増悪したため、MP関節屈曲用のcuffを追加した。術後5週で創外固定を除去し自動回内外運動と牽引下での徒手的手関節他動掌背屈運動を開始したが、骨癒合が弱いため訓練時以外はcock up splintを装着させた。以後も骨癒合状態より術後6週から手関節自動掌背屈運動、術後10週でcock up splintを除去し、患手でのADL訓練を開始した。
【結果】
術後10週の退院時には、回内95°回外60°手関節掌屈45°背屈55°の可動域を獲得し、MP関節伸展拘縮がわずかに残存したが、ADL上支障なく使用できている。術後12週経過時の握力は、7.8kg(健側比49%)であり、X-Pでも骨転位は認められず、骨癒合は良好な修復過程をたどっている。
【考察】
本症例は粉砕骨折部の内固定ができないばかりでなく、手掌部皮膚欠損、手指・手背部挫創を合併しており、骨折部の再転位と拘縮手に陥ることが危惧された。そのため1.拘縮を発生させる腫脹・浮腫の可及的な予防・改善、2.拘縮予防・矯正目的で行う骨折部に負荷がかかり難く骨癒合状態に合わせた運動方法の選択、3.病態に合わせたタイムリーなsplint療法を行った。具体的には1の目的にて患手挙上と母指・手指自動運動、2の目的にて最小筋力で全可動域を動かす運動、各時期での前腕回内外運動と手関節掌背屈運動、3の目的にて各時期で用いた拘縮予防・矯正、骨折部保護splint療法である。X-Pを含む適確な評価と繊細な治療が良好な成績に繋がったと考えている。今後更なる可動域改善と筋力強化を図り、現職復帰に支障のないuseful handの獲得を目指したい。