九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 152
会議情報

ボクサー骨折例に対する術後セラピィの工夫
*油井 栄樹田崎 和幸野中 信宏山田 玄太坂本 竜弥貝田 英二
著者情報
キーワード: 手指, ハンドセラピィ, 骨折
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに】
 ボクサー骨折は,その受傷機転より尺側指に多く,そのセラピィにおいてMP関節屈曲可動域の獲得がuseful handへの大きな比重を占めている.しかしながら受傷時,背側凸型に変形し,指伸筋腱滑動床に損傷を与えることも含め骨折部周囲での指伸筋腱癒着,また関節性拘縮によるMP関節伸展拘縮が予測される.また骨接合部は MP関節屈曲運動時,再び背側凸型に転位しやすい.そこで今回決して強固とはいえないキルシュナー鋼線による髄内ピンニング固定を行ったボクサー骨折例に対し,MP関節屈曲可動域訓練を中心に術後セラピィの一工夫に考察を加え報告する.
【対象】
 2007年1月からの1年間に作業療法処方されたボクサー骨折7例8指のうち,骨癒合まで経過観察可能であった男性3例4指を対象とした.受傷時年齢は平均30歳(14歳から43歳),損傷指は環指2指,小指2指であり,全例髄内ピンニング操作により整復,固定を行った.
【術後セラピィ】
 術後より患手挙上を徹底させ,運動時はまずMP関節を徒手的に固定してPIP・DIP関節自他動運動を行った.また指自動伸展運動を伸展可動域の確認程度に行った.次にセラピストが徒手的に遠位骨片を掌背側より支持し,基節骨底部が遠位骨片に対し可能な限り掌側に位置する指位までMP関節を他動屈曲する.さらに基節骨底部にて遠位骨片の掌側転位を予防するため,背側方向へ若干圧を加えながらMP関節屈曲可動域を増加させた.最後に獲得したMP関節屈曲可動域を保持しながらPIP関節屈曲運動を行い,指伸筋腱を遠位滑走させた.外固定はMP関節のみスプリントを作製し,骨癒合まで装着させた.また徒手的訓練にて獲得した屈曲可動域に応じて,屈曲固定角度を漸増的に修正し,獲得した可動域を維持させた.
【結果】
 最終評価時,4指のMP関節屈曲可動域平均77.5度(68度から85度),TAM平均250.5度(235度から270度),%TAM平均92.5%(85%から97%)であった.全例骨癒合は良好であったが,治療経過中粉砕骨折例1指に骨短縮を認めた.
【考察】
 ボクサー骨折後のセラピィにおいて,骨癒合が不十分な時期でのMP関節屈曲運動は,遠位骨片が基節骨に連動され受傷転位方向である掌側へ再転位しやすい.しかし,基節骨の関節面が遠位骨片の掌側に位置すれば,比較的骨折部は安定すると考えられる.つまり,MP関節伸展位からある程度安定する屈曲位までの運動が転位の危険性が高いと思われる.また,術後の腫脹もありMP関節は伸展位をとりやすく,一旦伸展拘縮を呈してくると,なおさら屈曲位獲得が不可能となる.そのため特に拘縮の不完全な初期時のセラピィにて,可及的にMP関節最大屈曲位に近づけ固定できるかがポイントであると考えている.そこで前述したようなMP関節他動屈曲運動とそれを維持させるための漸増的に細かな修正を加えたsplintの装着が重要であり,可動域獲得へ結びついたと考えている.また骨折部周囲での指伸筋腱癒着に対しては,獲得したMP関節屈曲可動域に応じ,より遠位への指伸筋腱の滑走が可能であった.その結果,粉砕骨折例1指に骨短縮を認めたが比較的良好な術後成績を獲得できた.今後症例数を重ね,更なる検討を行っていきたい.
著者関連情報
© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top