九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 202
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当院リハビリテーション室における転倒・転落事故の実態
―ヒヤリハット報告を通して現行改善策の検証―
*池田 早苗西浦 健蔵重松 栄一江藤 友紀池田 智子西田 俊之
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抄録

【はじめに】
医療事故・過誤の問題が注目される中、当院リハビリテーション室においても院内リスクマネジメント委員会と平行して、独自にリスク管理委員会を設置し、ヒヤリハット報告をもとに医療安全に積極的に取り組んできた。特に転倒・転落事故においては事故場面の再現・検証などに力を入れ、確実に減少傾向にある。しかし現状でもヒヤリハット報告において転倒・転落は大きな割合を占めている。中でも見守り不足が原因のものが多くみられ、これら対しては過去にも改善策を練り周知してきたが、その効果はまだ十分であるとは言えない。そこで見守り不足の実態をより細やかに把握し、原因追求や改善策の再検討をしたので報告する。
【現行の改善策】
システムとして見守りの強化が必要な方に対するスタッフ用の目印の導入と常時見守りが可能な待機場所の設置、個人への啓発として個別のリハビリが可能な実施時間の調整、他スタッフへの協力依頼などである。
【方法】
平成19年9月から3ヶ月間で発生したヒヤリハット報告の転倒・転落に関するもの18件のうち、原因が見守り不足によるもの10件に着目し、特徴を探った。更に詳細を把握するために各担当セラピストと個別面談を実施した。
【結果】
報告内容としては、転倒はなかったが、一人で立ち上がっていた、歩行していたというものである。発生場所では車椅子上が目立って多く、ベッド上でもみられている。多忙度では、比較的余裕がある場合も多く、経験年数が浅いほどその傾向にあった。患者側の特徴として、すべて70歳以上の高齢者であり認知症がみられた。また病棟でも転倒や徘徊がほとんどの方にみられ、転倒・転落スコアシートにおいて危険度IIIであった。患者側の心理状態として、「トイレに行きたい」といった排泄に関わるものが多く、経験年数が浅いセラピストの中には心理面を追求していないケースもあった。ほとんどのセラピストがリスクを認識していたにも関わらず見守り不足が発生した背景には、多忙や油断、他スタッフに見守りを頼める状況になかったなど、複数の要因が重なっていることが分かった。また未然に防げた要因として他スタッフにより発見されたケースも多い。
【考察】
現行の改善策は、システムは確立されているが、個人への啓発は時間の経過とともに慣れや油断が生じ、徹底できていない。また新たに病棟での状況と相関があることが分かり、病棟と協力してより個別的に傾向を探り対策を検討することが課題としてあがった。更にスタッフ間の情報の共有が効果的であることが分かり、リスク面をより意識した情報交換となるよう促していきたい。今回定期的な注意の喚起と改善策の検証・評価の大切さを改めて実感した。また全体を通して個人の事例に対する分析能力や感受性に差があると感じた。得られた情報を細やかに的確にフィードバックすることで個人の安全管理能力をより高め、医療安全につなげていきたい。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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