九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 216
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発語失行を呈した症例に対する復職へのアプローチ
*蛭川 裕二
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キーワード: 発語失行, 復職, 筆談
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抄録
【はじめに】
 今回発語失行を呈した復職希望のある症例を担当した。技術・接客が必要であるこの症例に対し、復職へ向けたアプローチを実施し治療効果を得たので報告する。
【症例紹介】
 60歳代男性。職業は理容師であり、診断名は脳梗塞(左前頭葉梗塞)。著明な合併症は認めず。
【作業療法評価】
 Brunnstrom Stage右上肢VI手指VI下肢VI。発症より1月上旬にかけ右上下肢協調性低下。簡易上肢機能検査(以下STEFと略)右80点、左85点。重度発語失行。Barthel Index85点。コミュニケーションは筆談・ジェスチャーにて可能。書字速度は遅延、文字明瞭度低下。
【作業療法アプローチ】
 X年12月20日より作業療法開始。復職への課題として(1)客への応答。(2)長時間立位での立位バランス・耐久性。(3)理容技術。以上の点が問題であると考え、X+1年2月15日までアプローチを実施した。(1)客への応答に関しては、筆談の効率改善のため模写課題を中心とした書字訓練を行い書字速度と文字明瞭度改善を図った。また筆談での接客訓練も行った。(2)立位バランス・耐久性へは立位バランス訓練・屋外歩行訓練を実施。(3)理容技術は上肢機能訓練や実際に鋏を使用した訓練を行い、理容技術の維持・改善を図った。
【結果】
 書字速度・文字明瞭度の改善が得られ、筆談でのコミュニケーションの効率化を図ることができ、接客対応も改善。また上下肢協調性改善に伴い立位バランス・耐久性の向上も認められた。理容技術は訓練当初より一連の動作可能も手指機能の拙劣さを認めた。STEF(1/23実施)は右80点、左87点であり鋏の使用可能。試験外泊時に常連客数名の理容業務実施可能であり、理容技術への著明な問題ないとの報告を受けた。
【考察】
 理容師とは技術職でありながら、接客業でもある対人技術を有する職種である。筆談の効率化を図ることはできたが十分とはいえず今後も改善が必要と考える。鋏・剃刀等を扱うが、業務に関してはスピードよりもむしろ確実・安全性が重要視される。STEFでは年齢正常域より上肢機能低下が認められたが、制限時間内での遂行が可能であり、一定の上肢機能維持とこれまでの業務経験が外泊時の理容業務を可能にしたと考える。今後の課題としては身体機能を維持することにより理容技術を維持し、筆談でのコミュニケーションを円滑にしていくことが復職を今後も支えていくものと考える。
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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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