九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 025
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書道を通して意欲や行動に変化が見られた2事例の報告
*諸正 史代大平 貢一郎
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キーワード: 高齢者, 意欲, 作業活動
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抄録
【目的】
 書道は、毛筆を使って文字の美を表そうとする東洋の造形芸術である。習字と違い、文字の習得を目的とせず、個性を表現するものとされている。今回、書道教室に参加する10名のうち、活動性の乏しい2名において自発的な行動変化や生活の活性化(行動変容)が見られたので、若干の考察を加え報告する。
【方法】
 事例は、閉じこもりや臥床傾向のある入院患者2名。A氏、88歳女性。抑うつ神経症。FIM105点、車椅子駆動可。臥床している事が多く、依存的かつ悲観的。作業活動においては拒否があった。標準意欲評価法の中の日常生活行動評価(以下行動評価)は20点であった。B氏、94歳女性。腰椎圧迫骨折・脳梗塞。FIM107点、車椅子駆動可。リハビリ拒否があり、年齢を理由にどの作業活動も受け入れない状況にあった。難聴で攻撃的な発言が多く、閉じこもり傾向であった。行動評価は16点であった。教室の開催は、週1回1時間半のセミクローズドで行った。まず本人が手本を選択し、自由に書いてもらった作品を元にコミュニケーションをとりながら、筆者が朱液での添削を行った。さらに毎週、リハ室や病棟廊下へ作品を展示し、その後の作品は本人に綴ってもらう事とした。
 尚、今回の対象者2名には書面による説明を行い、署名による同意を得ている。
【結果】
 A氏は、導入3ヵ月後には自ら時間前に起き、準備をする様になり、FIMが109点(移乗・排泄が向上)、行動評価は9点となった。B氏は、導入1ヵ月後、徐々に攻撃的発言が減少、A氏と共に自ら車椅子駆動する様になり、FIMが110点(移動・社会的交流が向上)、行動評価は10点となった。両者とも参加者間同士で小筆を貸しあったり、相手の字を見て話をしたり等、教室内での相互理解や交流が生まれる様子が観察された。また書道がない他の日には、それぞれが部屋から出て、作品を見に行く、家族を案内して話をする等、自主的行動も見られる様になった。リハビリ場面でも作品の鑑賞目的で歩行され、他の作業活動への興味や積極性が見られ始めた。
【考察】
 吉川(2005.11)は「対象者の人生や生活の中には、どんな作業があるかを知ることから、作業療法を始める必要がある」と述べている。導入時、高齢者にとって筆で字を書く、という作業を身近で馴染みがあった事と捉え、作品化(目標)した事が、自主的な活動を促すきっかけになったと考える。書道の芸術性(個性をだすもの)が自己を表現する事となり、筆者による話しかけ(聴覚的)や添削作品や展示(視覚的)のフィードバックによって自信の増進につながったと考える。書道という一連の作業活動を通して自己効力感が高まり、意欲が向上し、自主行動や他者交流、コミュニケーション増加や他の作業活動への興味や積極性へとつながり、生活の活性化、リハビリへの意欲の高揚が見られ、閉じこもりや臥床傾向が減少したと考える。
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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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