抄録
【はじめに】
今回、95歳で要介護5、食事動作が全介助レベルのデイケア利用者に対し、上肢機能向上訓練に加えて体幹機能、下肢による支持性へアプローチした結果、食事動作の改善した症例を経験したため報告する。
【症例紹介】
女性。H9乳癌にて左乳房切除術施行。HDS-R27点、H17頚椎椎間板症を発症。H20変形性腰椎症により両下肢の脱力感、痺れが出現し自宅にて寝たきり状態となる。自宅ではADL全介助レベル。体重38.4kg。当院のデイケアを利用。上肢評価、ペグ10本を右上肢にてペグボードへ1分15秒で移動。肩関節屈曲右35°左45°肘関節屈曲右45°左55°握力は右6.2kg左8.4kg。下肢評価、両下肢1/4荷重不可。背面開放座位保持困難。食事はkey personである長男の妻が、全介助にて行っていた。
【方法】
本症例は円背進行と、体幹筋力の低下により車椅子のバックレストに持たれかかる不良座位姿勢があった。座位バランス、体幹筋力、下肢支持性を向上させる事が上肢機能パフォーマンスの向上に繋がり、食事動作が改善するのではないかと考えた。
【プログラム】
リハビリ期間90日間。1.車椅子ポジショニングとして、車椅子と背面との間に空間をつくり背面開放座位をとってもらう。2.卓上にてセラプラストやペグボード、スプーンの操作訓練などの作業を行ってもらう。3.車椅子座面に厚さ8cmのクッションを敷いて、両下肢の荷重率アップを図る。更にクッションは枚数を段階的に漸増す。自宅でもkey personの協力を得て背面開放座位、両足底接地にて食事を行ってもらう。
【経過】
17日目、背面開放座位保持1分間可能。肩関節屈曲右40°に拡大。27日目、背面開放座位保持3分可能。握力右7.2kg左8.6kgに向上。40日目、背面開放座位保持20分間に拡大。両下肢1/4荷重可能。食事動作が一部介助となる。60日目、両下肢1/2荷重可能。ペグ10本の移動は32秒に短縮。食事動作がスプーン使用にて監視レベルとなるが、食物の溢しが目立つ。90日目、座位時に体幹の自動運動が可能。食事動作にて溢しが減少。
【考察】
食事動作向上を目標にリハビリを進めるにあたり、上肢のリーチ、筋力、物品操作は欠く事ができない視点である。しかし、本症例に関しては上肢のリーチ、握力に関して著明な改善は見られていない。今回のアプローチにより、下肢の支持性向上と体幹のアライメントの改善が得られ体幹の自動運動が可能になった。この事により、食器に口元を近づけるような上肢のリーチ動作を補う動作が可能になったため食事動作の改善に繋がったと考える。Cailletのlumbar-pelvic-rhythmでは、脊椎、骨盤に加えて股関節が規則性のもとに運動するという下肢が体幹に与える影響の重要性を述べている。また、体幹、下肢のアライメントの改善と支持性の向上に伴い、リハビリに対するモチベーションが高まった事も改善に繋がった1つの要因ではないだろか。
【まとめ】
今回、食事動作において下肢、体幹からアプローチを加える事により、機能向上に繋がる一例を経験した。今後は食事動作に関わらず、全ての動作において多方面からのアプローチを行おうと考えている。