ラテンアメリカ・レポート
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Print ISSN : 0910-3317
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阿部博友 著 『ブラジル法概論』
近田 亮平
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2020 年 37 巻 1 号 p. 70

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日本の社会科学系のラテンアメリカ研究において、政治や経済を研究する者は多くいるが、法律分野を専門とする研究者は非常に少ない。また、ブラジルの経済や企業に関して、何人もの先達研究者が偉大な業績を残されてきたが、近年はわずかな後進が研究を引き継いでいる状況である。一方、法律は企業が経済活動を行う上で重要な分野であり、ブラジルはラテンアメリカの地域大国であるため、同国の法律に関する研究へのニーズは高いといえる。著者は、日本のラテンアメリカやブラジル研究のこのような現状を改善したいと願いブラジル法の研究を始め、特に経済や企業に関する分野を専門としている。したがって、自身の今までの研究成果をまとめ刊行された本書は日本において大きな意義を持つといえよう。

巻頭に「はしがき」、巻末に「あとがき」と「索引」が記載された本書は、「第I編 ブラジル連邦共和国の法制度」と「第II編 ブラジル経済法の論点」のふたつに大別されている。第I編の構成は、「序論 ブラジル法の形成過程」、「第1章 1988年憲法・政治体制・司法制度」、「第2章 刑法および刑事訴訟法」、「第3章 民商法」、「第4章 民事訴訟法・倒産法」、「第5章 企業法・資本市場法」、「第6章 経済法」、「第7章 知的財産権法」、「第8章 労働法」である。第II編は「序論 経済秩序の形成と法」、「第1章 ブラジル株式会社法の概要と特質」、「第2章 競争法の歴史的展開」、「第3章 腐敗防止のための法人処罰法」、「第4章 国際商事仲裁と法」で構成されている。本書では、各分野の法律の詳細について実際の判例も含め解説されており、また、法制度の歴史的経緯や背景についても詳説されている。そのため、実務・学術の双方にとって有益な内容となっている。

今後の課題として著者は、「固有の法理論がブラジルおよび他のラテンアメリカ諸国の社会・経済にどのような影響を与えているのか、さらに踏み込んだ研究が求められる」と述べている。本書を読み終えた紹介者も同様の感想を抱いた。著者を中心に日本において今後、ブラジルやラテンアメリカ法の研究がさらに発展していくことが期待される。その礎石となる本書は、特にブラジルの経済や企業を研究する者、同国で事業を展開する企業や実務者にとって、必読の書といえる。

 
© 2020 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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