ラテンアメリカ・レポート
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Print ISSN : 0910-3317
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宇佐見耕一 編 『新 世界の社会福祉 第10巻 中南米』
近田 亮平
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2020 年 37 巻 1 号 p. 73

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本書は、出版社である旬報社が創立70周年を記念して企画・出版した『新 世界の社会福祉』シリーズの中南米版である。全12巻からなる本シリーズは、2019年にイギリス/アイルランド(第1巻)、フランス/ドイツ/オランダ(第2巻)、北欧(第3巻)、南欧(第4巻)、旧ソ連/東欧(第5巻)、アメリカ合衆国/カナダ(第6巻)が刊行され、2020年に第10巻となる中南米を含め、東アジア(第7巻)、東南アジア(第8巻)、南アジア(第9巻)、アフリカ/中東(第11巻)、国際社会福祉(第12巻)が出版された。タイトルの冒頭に「新」が付されているのは、本シリーズが1998年から2000年にかけて出版された『世界の社会福祉』(全12巻)を、その後の社会福祉をめぐる変化や新しいテーマと対象国を加えて刷新したものだからである。中南米を扱った本書の対象国は、メキシコ、コスタリカ、ペルー、ボリビア、ブラジル、チリ、ウルグアイ、アルゼンチンの8カ国である。また、旬報社は2001年から『世界の社会福祉年鑑』を毎年刊行しており、本書の編者である宇佐見は同年鑑の編集に深くかかわっており、紹介者もブラジルに関して寄稿している。

本書の構成および執筆者は以下のとおりである。「序章 ラテンアメリカの福祉研究の視点」(宇佐見耕一)、「第1章 メキシコの社会保障―社会扶助政策をめぐる政治」(畑惠子)、「第2章 コスタリカの中道から中道左派への政権交代とその社会政策への影響―「前進しよう」の変容と「開発への橋」の始動」(丸岡泰)、「第3章 ペルーの社会福祉―分断的社会における普遍化への取り組みと課題」(遅野井茂雄)、「第4章 ボリビアの社会福祉―脆弱な経済と多民族社会における制度改革の試み」(岡田勇)、「第5章 転換の予兆を見せるブラジルの社会福祉」(近田亮平)、「第6章 チリにおける社会保障・社会福祉制度の形成と展開―先進国化への道と新たな連帯の模索」(浦部浩之)、「第7章 周辺部社会民主主義の憂鬱―ウルグアイの社会福祉」(内田みどり)、「第8章 アルゼンチンにおける社会保障制度の変容―インフォーマルセクターを包摂する社会的保護」(宇佐見耕一)。

本シリーズは「各国の構成を画一的な型にはめずに、叙述対象の特徴と執筆者の専門性を最大限に引き出すことができるような自由な編集方針を採用」している。編者が述べるように「各章は独立した論文であるが、通読すると域内の社会福祉・社会保障制度の性格に関する共通点や相違点、およびその背景が明らかになることが期待される」。

 
© 2020 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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