ラテンアメリカ・レポート
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住田育法・牛島万 編著 『南北アメリカ研究の課題と展望―米国の普遍的価値観とマイノリティをめぐる論点』
近田 亮平
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2024 年 41 巻 1 号 p. 75

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本書は、「京都外国語大学・短期大学の専任教員であるアメリカ研究者とラテンアメリカ研究者」7名が、南北アメリカ地域を包括的に扱う機会が少なく、両地域の対話や交流への関心が低いとの反省をもとに著した書である。同大学のラテンアメリカ研究所は2021年12月、後に本書のタイトルとなる「南北アメリカ研究の課題と展望」と題した研究講座を主催した。本書は、「アメリカ研究者とラテンアメリカ研究者が公に集う初めての「対話」の場となった」同講座の成果集であり、各章で扱えなかったテーマや補足説明をコラムで論じている。また、京都外国語大学が2022年に創立75周年を迎えたことから、2022年度内の2023年3月末に出版された本書には、外国語や地域研究を専門とする同大学の創設記念という意味も込められている。

上記のような説明がなされた「はしがき」で始まる本書は、第1部の「アメリカ合衆国の普遍的価値観とその受容」と第2部の「南北アメリカのマイノリティ」の2つに大別される。第1部は、第1章「南北戦争期アメリカの国家戦略—大陸横断鉄道の建設と覇権奪取の夢」(布施将夫)、第2章「アメリカの冷戦戦略とCIAの秘密工作活動—グアテマラ・アルベンス政権打倒工作への道程」(大野直樹)、第3章「メキシコから見た米国のマニフェスト・デスティニーと米墨戦争」(牛島万)、第4章「20世紀親米ブラジル大統領の理念と政策—空間のナショナリズムと米国」(住田育法)、コラム1「継続する親米の世界秩序」(住田)、コラム2「21世紀南北アメリカの現在—親米、反米の関係性を乗り越えて」(牛島)である。第2部は、第5章「アフリカ系アメリカ人の音楽文化と「意味」の実践—「モラル」と「差異」の間で」(辰巳遼)、第6章「ブラジルのシリア・レバノン人移民」(伊藤秋仁)、第7章「ブラジルにおける先住民教育の現状と課題」(モイゼス・フィリョ)、第8章「熱帯ブラジルにおける先住民と黒人の包摂」(住田)、コラム3「人種の混淆と社会の包摂」(住田)、コラム4「人種を乗り越えることはできるか」(牛島)である。

編著者2名ともラテンアメリカ研究者だが1名を北米研究者にしたり、南北アメリカ「研究の課題と展望」を主に「コラム」ではなく独立した章や各章で論じたりした方が、両地域研究間の対話が深まったのではと感じた。しかし、ラテンアメリカ研究において、類似した規模や発展度合いをもとに比較や関連付けを行うなど、ほかの国や地域の研究者との対話や交流は珍しくない一方、本書が述べるように南北アメリカという機会はより限られていよう。ラテンアメリカと北米の研究交流を促す本書の試みは興味深く、地域研究の発展性を示す意欲的なものだといえる。

 
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