日本LCA学会誌
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研究論文
鉄道の廃止が並行道路の混雑およびCO2排出量に与える影響評価
吉村 彰大松野 泰也
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2019 年 15 巻 1 号 p. 54-69

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抄録

鉄道は環境負荷の小さい交通機関であり、低炭素社会の構築に重要でありながら、近年は赤字路線の廃止と他輸送機関への代替が続いている。近年、費用便益分析が鉄道存廃の判断基準に用いられているが、鉄道の廃止に伴う周辺道路への影響や交通権の保障などの観点から、費用便益分析のみを判断基準とするのは好ましくない。そのため本研究では、鉄道路線の廃止が並行道路に与える影響の評価と、それに伴う経済的 / 環境的負担の比較、検討を通じて、路線が持つ社会的な存在意義の評価に新たな切り口を提供することを目的とした。具体的には、鉄道の存廃による並行道路の混雑変化への影響と、CO2排出量変化を評価した。さらに、路線の赤字と廃止によって必要となる道路改良費を比較した。対象は、既に廃止された2路線と、経営安定性の低い13路線とした。その結果、廃止された2路線では、利用者の80%が自動車利用に転換しても道路混雑は悪化しないと推計され、実際の道路状況とよく一致した。現存する13路線では、7路線が廃止によって並行道路の混雑を悪化させると予測され、うち6路線では大幅な悪化が予想された。この6路線では、鉄道の赤字額が周辺道路の道路改良費を下回ったことから、路線の維持がより合理的であることが示唆された。CO2排出量では、利用者数の最も少ない阿佐海岸鉄道を除いて鉄道の運行によって軽減できていると推計された。この結果から、鉄道の運行によってCO2排出量を削減するためには、一定以上の利用が必要であるという既存研究と同様の結果が確認された一方、排出量の削減効果と経営安定性との相関は、混雑変化と経営安定性に比べ弱いことが示唆された。本研究を通じ、並行道路の混雑変化と財政負担、CO2排出量変化を個々に比較、検討することが、地方鉄道の社会的な存在意義を評価する新たな切り口となることが示唆された。

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