近年 ESG 投資の増大を背景に「環境経営」の重要性が増している。一般に、経営者の主導的関与などが環境経営の要素とされているが、具体的な活動は ISO のガイドライン等に基づいて行われている。
従来は、事業所については PDCA サイクルで改善を継続する「ISO 14001:2015 環境マネジメントシステム」が「環境経営」の代表的な活動とされ、また「製品」については「ISO/TR 14062:2002 環境側面を製品設計・開発に組み込むための指針」のように「エコデザイン」や「環境適合設計」で評価・開発されるものとされてきた。しかし、これらは事業者が直接関わる範囲の評価・改善であった。
最近は、事業者が直接関わる範囲だけでなく、「組織」や「製品」のライフサイクル全体での環境側面を考慮する重要性が周知されるようになった。「ISO 14040:2006 ライフサイクルアセスメント - 原則及び枠組み」を基礎として、様々な ISO や産業界のガイドラインが発行され、企業の環境経営が変化しつつある。
まず、世界的な「カーボンニュートラル」の活動を背景に、ISO 14067:2018 カーボンフットプリント(CFP)を用いた製品や組織の温室効果ガス(GHG)排出量の算定が汎用になっている。また、組織の GHG 排出量の算定は「GHG Protocol」が発行する「Scope3 基準」が多くの企業で利用されている。さらに、ここ数年の間に、カーボンニュートラルを宣言する方法を示す複数の ISO 文書やガイドラインが発行されている。新製品が社会の GHG を削減することを示す「削減貢献量」の主張も多く見られるようになった。
一方で、持続可能な発展のために、「環境」の評価だけでなく「経済」と「社会」に関する ISO 規格が発行されるようになった。環境影響を経済価値に換算する方法を示す ISO 14008:2019 が発行され、製品の社会的側面を評価するソーシャル LCA(ISO 14075)の開発が始まった。
また、製造業だけでなく金融機関の気候変動への取り組みを示す ISO 14097:2021 や ISO 14100:2022 があり、また持続可能性を評価する ISO/TC322:サステナブルファイナンスが 2018 年に設立されている。
「環境経営」は、いまやライフサイクルを考慮することが通常であり、「気候変動」だけでなく「持続可能性」に向けた活動に向かっている。今後の展開の方向性を注視する必要がある。
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