日本LCA学会誌
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目次
巻頭言
特集「未来志向のLCA」
解説
  • 醍醐 市朗, 中野 勝行, 劉 俊希, 小原 聡
    2025 年21 巻3 号 p. 118-125
    発行日: 2025/07/25
    公開日: 2025/07/25
    ジャーナル フリー

    LCAは、製品やサービスの環境影響を定量的に評価する手法として発展してきたものの、将来に向けては、温室効果ガス排出などの環境負荷原単位が大きく変化すると予想され、評価結果も時点によって大きく異なる可能性がある。そこで、開発が望まれる将来の技術変化や社会構造の変動を見据えた未来志向型のLCAの手法について、将来のフォアグラウンドデータ、将来のインベントリデータベース、未来志向のインパクト評価手法の3つの観点で、それぞれにその展望と課題を論じた。将来のフォアグラウンドデータにおいては、社会実装前の技術は一般に技術成熟度が低く、現時点での生産効率や環境性能は十分でないことが多い。そのため、将来の技術的進展を見越してスケールアップを行い、より現実的な環境性能を見積もる必要がある。プロセスシミュレーションや専門家の知見を用いた将来想定の構築が鍵となるが、高度な専門性と手間が求められる点が課題である。次に、将来のバックグラウンドデータに関しては、社会全体のエネルギー構成や産業構造、素材生産の技術進展などが影響するため、将来の社会を想定したシナリオに基づくデータの整備が必要となる。近年では、将来シナリオと整合した形でインベントリデータを変換するためのツールや枠組みも提案されており、それにより複数の社会シナリオを想定した評価が可能となりつつある。一方で、評価対象の技術が社会構造に与える影響が無視できない場合は、既存のシナリオでは不十分であり、新たにシナリオを構築する必要がある。さらに、未来志向のインパクト評価手法においては、新たな環境影響の発現や影響の相対的重要性の変化を考慮する必要があるが、将来に対応した特性化係数の整備は限定的であり、多くの影響領域で知見が不足しているのが現状である。このように、未来志向のLCAの枠組みは未だ統一されておらず、用語や手法も多様である。今後は、評価目的に応じた柔軟かつ一貫性のある方法論の整備、シナリオとデータの整合性確保、そして評価者自身によるシナリオ設計が可能となるような方法論の構築が求められる。

  • 福島 康裕
    2025 年21 巻3 号 p. 126-131
    発行日: 2025/07/25
    公開日: 2025/07/25
    ジャーナル フリー

    製品LCAでは一般に、機能単位を揃えて環境影響を評価する。本稿では、この考え方を起点に、制約条件を揃えるという視点を導入することで、LCAの適用範囲を将来シナリオ設計や技術導入評価へと拡張できる可能性を考察する。筆者は、機能単位ベースのLCAを、制約条件ベースLCAの一形態と見なす枠組みを提案しており、これまで複数の研究発表の場で議論を行ってきた。この考え方を整理し、ネットゼロシナリオ設計を例に、その実務や研究への応用可能性を紹介する。

  • 森本 慎一郎
    2025 年21 巻3 号 p. 132-137
    発行日: 2025/07/25
    公開日: 2025/07/25
    ジャーナル フリー

    カーボンリサイクル(Carbon Recycle; CR)技術またはCO2有効利用(Carbon Capture and Utilization; CCU)技術の効果を定量的に評価するライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment; LCA)は近年、大きく注目されているが手法や条件に関する不確実性が大きな課題になっている。本稿ではCR及びCCUのLCAについて評価範囲やサプライチェーンなど、条件の違いがLCAの結果に与える影響を過去の試算例によって概説し、手法に関する国際的なガイドラインに含めるべき内容について考察する。

  • 中島 謙一, 渡 卓磨, 小出 瑠, 畑 奬, 南斉 規介
    2025 年21 巻3 号 p. 138-149
    発行日: 2025/07/25
    公開日: 2025/07/25
    ジャーナル フリー

    気候危機をはじめとする地球規模の危機や脅威に直面する中、人類は未来に向けた選択を迫られている。本稿では、金属資源を中心に資源利用の長期的展望を概説し、物質のライフサイクルに関わる多様な生産者と消費者が「物質フローの長期的革新戦略を持つ」という潮流を形成することを目的とした研究を紹介する。そして、そこから得られた10の示唆を提示する。

  • 木下 裕介
    2025 年21 巻3 号 p. 150-158
    発行日: 2025/07/25
    公開日: 2025/07/25
    ジャーナル フリー

    本論文では、持続可能社会に向けたシステム転換を支援するためのシナリオ設計方法論について論じる。カーボンニュートラルやサーキュラー・エコノミーの実現のためには、製品ライフサイクルの漸進的な改善にとどまらず、社会経済システム全体の変革が必要である。システム転換を引き起こすためには、望ましい将来像を描き、その実現経路を逆算するバックキャスティング型シナリオ作成手法がよく用いられる。シナリオ設計は、現状のシステムにとらわれずに様々な起こりうるシステムをシナリオとして記述することで思考実験ができる点に特色がある。一方で、LCAを含むライフサイクル評価は、シナリオで描いた将来システムの妥当性検証のために有効である。シナリオ設計とライフサイクル評価を組み合わせることで、設計案の実現可能性や影響の事前評価が可能となることから、意思決定支援の効果的なアプローチである。ただし、評価の優先順位はその精度というよりも、むしろ目標達成のための条件あるいはボトルネックを把握することにある。LCAコミュニティにおける今後の研究課題として、将来シナリオのさらなる妥当性検証に向けた様々なモデル化手法・評価手法の組合せと、社会実装に向けてシナリオ設計や評価のプロセスを通したステークホルダーとの連携があげられる。

  • 田崎 智宏
    2025 年21 巻3 号 p. 159-165
    発行日: 2025/07/25
    公開日: 2025/07/25
    ジャーナル フリー

    グローバルな環境危機のなかサステナビリティ・トランジションが求められている。本稿では、トランジション研究分野の知見を総括したうえで、トランジションという大きな社会技術変化を見据えた場合にLCAにはどのような機能が求められるか、LCA分野にはどのような期待がされるかを論考し、6つの点にまとめた。それらは、1)トランジション後のインベントリデータや影響評価係数等の整備、2)トランジション後を想定したLCA再評価、3)脱炭素社会実現後に重視される環境影響項目のデータ整備等、4)トランジションを促進させるLCAの活用方法の確立と普及、5)トランジションへの貢献の評価、6)想定するトランジション・シナリオの合意形成である。

  • 菊池 康紀
    2025 年21 巻3 号 p. 166-175
    発行日: 2025/07/25
    公開日: 2025/07/25
    ジャーナル フリー

    カーボンニュートラル達成に向け、化学産業における炭素源は化石由来からリサイクル由来、バイオマス由来、大気中のCO2由来へと移行する必要がある。しかし、現状の調達可能なバイオマス資源量では需要に対して不足があり、農工連携技術やリサイクル資源の質的・量的向上が求められる。新たな資源技術・変換技術の導入による変革が必須となっているが、これには将来技術の評価が不可欠となる。本稿では特に木本系リグノセルロース資源由来のセルロースナノファイバー(Cellulose Nanofiber; CNF)に着目し、未来志向型ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment; LCA)を通じてその製造・利用に関する評価の観点を整理する。CNFは鋼鉄並みの強度や低密度、加工特性などの特徴から自動車や電子機器などへの応用が期待される一方、生産段階での地域差やインベントリ推算の課題、また製品のリサイクル・回収システム構築などが求められる。これら将来技術の課題を捉えた評価の方法を事例と共に議論し、植物資源由来の素材選択における未来志向型LCAの観点を整理し議論する。

一般投稿
研究資料
  • 加藤 修一
    2025 年21 巻3 号 p. 176-184
    発行日: 2025/07/25
    公開日: 2025/07/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、プリンタ、複合機に代表される画像入出力機器のカーボンフットプリントの開示情報を分析し、製品間のカーボンフットプリントの比較可能な機能単位の設定に向け、課題を抽出することである。SuMPO EPDで既に開示されている画像入出力機器のカーボンフットプリントは、製品間の比較を前提としていない。しかしながら、脱炭素社会の実現に向け、消費者が適切に製品間の比較を行えるカーボンフットプリントの算定ルールを整備することが求められている。本研究では、ブラザー工業株式会社が開示した155の画像入出力機器のSuMPO EPDの開示情報を分析し、画像入出力機器のカーボンフットプリントの現状と、比較可能な機能単位の設定に向けた提言を示した。提言の内容として最初に、機能単位により製品間の比較をするには、製品間の生涯印刷枚数を揃える必要があること。次に、機能単位である印刷枚数当たりのカーボンフットプリントの算出は、製品のライフサイクルのCO2排出量を生涯印刷枚数で除して算出すること。最後に、機能単位には、使用・維持管理ステージのCO2排出量だけではなく、ライフサイクルのCO2排出量を含むことを説明として記載することの3つである。

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