蝶と蛾
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ベニモンアオリンガとオオベニモンアオリンガの分類学的 関係,日本における両種の分布を参考に
綿引 大祐吉松 慎一
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2018 年 69 巻 1 号 p. 11-18

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抄録

Earias属はアフリカ,アジア,オーストラリアの温帯から熱帯域にかけて分布する一群で(Holloway 2003; Poole 1989),ワタやオクラ,ツツジ類等の害虫が知られ,海外では輸入されたオクラに本属の複数種が食害・随伴するなどして植物防疫上の問題となっている(Malumphy and Robinson 2002).本属の一種ベニモンアオリンガE. roseifera Butlerはツツジ類の害虫で(日本応用動物昆虫学会 2006),日本国内においては屋久島以北に分布し,大蛾類では珍しい“菌食性”と“えい食性”を持つことが綿引・吉松(2017)によって報告された.同属の近縁種であるオオベニモンアオリンガE. roseoviridis Sugiは奄美大島をタイプ産地として記載された種で,同島以南に分布することから,これまで本種とベニモンアオリンガの分布は重ならないとされてきた(岸田 2011).しかしながら,両分類群の成虫は翅の斑紋変異が大きく,外部形態による確実な識別が困難であり,また両分類群を同種として扱っている文献や(Sugi 1994),同種の亜種関係にあたる可能性を示唆する文献も見られ(岸田 2011),これら2つの分類群の関係はよく分かっていなかった.
そこで,多数地点より得られた両分類群の標本を用いて分子・形態学的研究を行った結果,それぞれの標準的なDNAバーコード領域(mtDNAのCOI)の一部配列間に1.8%の塩基置換率があることを確認するとともに(Fig. 1),分布が一部の地域で重複することが新たに判明したことから(Fig. 2),両分類群は同じ種の別亜種ではない可能性が示唆された.また,従来用いられてきた両分類群の識別点(成虫の翅の長さ,色調,交尾器等)では確実な同定ができないこともわかった(Figs 3, 4).そこでさらなる形態学的精査を試みたところ,両分類群は頭部の形態によって識別できることが判明した.すなわち,オオベニモンアオリンガの触角は雌雄ともにほぼ一様に赤褐色の地色で,基半部においてはまばらに白色鱗片を散布するのに対し(Figs 5c-d),ベニモンアオリンガの触角は主に基半部が灰褐色と白色のストライプ状の地色になること(Figs 5a-b),オオベニモンアオリンガの頭盾はピンク色を帯びた黄色で,特に両複眼のすぐ内側の鱗片はピンク色から赤褐色を帯びるのに対し,ベニモンアオリンガは黄色から白黄色を帯びることによって識別できる(Figs 6a-b).
今回の分子学的研究により判明した両分類群のmtDNAのCOIの一部領域の塩基置換率1.8%は,チョウ目の最も近縁な種間で見られる平均的な置換率よりやや低い値であるものの,1:分類が難しい属においては同程度の置換率の例がいくつか報告されていること(例えば交尾器を含む外部形態での識別が難しいヤガ科Euxoa属)(Hausmann et al. 2011),2:両分類群は幼虫の形態によって明瞭に識別できること(各体節に生じる肉状突起の有無)(富永,2015),3:両分類群は成虫の頭部形態によって識別できること(触角の色彩と複眼近くの鱗片の色)の3点に基づいて,我々は現状では両分類群を別種と扱っておくのが妥当と考えた.ただし,両分類群が混生しているトカラ列島産の成虫のみ,上記の形態学的特徴とミトコンドリアDNA(COI)領域の塩基配列の差異が必ずしも一致しなかった.したがって,交雑の可能性も考えられることから,今後は核遺伝子領域も含めたさらなる分子遺伝学的研究や,交尾後の生殖隔離に関する検討が必要となる.

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© 2018 日本鱗翅学会
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