哺乳類科学
Online ISSN : 1881-526X
Print ISSN : 0385-437X
ISSN-L : 0385-437X
原著論文
囲いワナを用いたニホンジカの大量捕獲
高橋 裕史梶 光一田中 純平淺野 玄大沼 学上野 真由美平川 浩文赤松 里香
著者情報
ジャーナル フリー

2004 年 44 巻 1 号 p. 1-15

詳細
抄録
洞爺湖中島において,個体数調整と生態調査を目的として,囲いワナを用いたニホンジカ(Cervus nippon)の生体捕獲を行なった.ワナは総周囲長 361m で,金網柵からなる囲いの一方を漏斗型に狭め,板張りの収容部末端に暗室を配置した.囲いに捕獲したシカを収容部および暗室に追い込んで隔離し,麻酔銃または吹き矢により塩酸キシラジン·塩酸ケタミンまたは塩酸メデトミジン·塩酸ケタミン混合液を投与して不動化した.2001年3月から2003年3月の間に6回の試行により,同年中の再捕獲個体9頭を含むのべ269頭を捕獲した.島外に移送された98頭を除くと,放逐後の未観察個体4頭を含む総死亡率は14.0%(24/171)であり,追い込み以後の死亡率は成オスと子ジカで高かった.死亡および負傷事故の発生数は,同時捕獲数,とくに追い込み後の収容部内の枯角オス密度と強い正の相関がみとめられた.死亡事故の軽減のためには,収容部内での枯角オス密度の調節と速やかな不動化,および捕獲から放逐までの拘束時間の短縮が必要である.捕獲個体1頭あたりの作業量は,給餌努力量として3.9人·時間/頭,追い込みから放逐までのハンドリング努力量として6.1人·時間/頭となり,ワナの設置作業を除けば効率的であった.安全性は向上可能であり,いくつかの条件を克服できれば囲いワナは有効な大量捕獲法となり得る.
著者関連情報
© 2004 日本哺乳類学会
次の記事
feedback
Top