哺乳類科学
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44 巻, 1 号
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原著論文
  • 高橋 裕史, 梶 光一, 田中 純平, 淺野 玄, 大沼 学, 上野 真由美, 平川 浩文, 赤松 里香
    2004 年 44 巻 1 号 p. 1-15
    発行日: 2004年
    公開日: 2008/04/09
    ジャーナル フリー
    洞爺湖中島において,個体数調整と生態調査を目的として,囲いワナを用いたニホンジカ(Cervus nippon)の生体捕獲を行なった.ワナは総周囲長 361m で,金網柵からなる囲いの一方を漏斗型に狭め,板張りの収容部末端に暗室を配置した.囲いに捕獲したシカを収容部および暗室に追い込んで隔離し,麻酔銃または吹き矢により塩酸キシラジン·塩酸ケタミンまたは塩酸メデトミジン·塩酸ケタミン混合液を投与して不動化した.2001年3月から2003年3月の間に6回の試行により,同年中の再捕獲個体9頭を含むのべ269頭を捕獲した.島外に移送された98頭を除くと,放逐後の未観察個体4頭を含む総死亡率は14.0%(24/171)であり,追い込み以後の死亡率は成オスと子ジカで高かった.死亡および負傷事故の発生数は,同時捕獲数,とくに追い込み後の収容部内の枯角オス密度と強い正の相関がみとめられた.死亡事故の軽減のためには,収容部内での枯角オス密度の調節と速やかな不動化,および捕獲から放逐までの拘束時間の短縮が必要である.捕獲個体1頭あたりの作業量は,給餌努力量として3.9人·時間/頭,追い込みから放逐までのハンドリング努力量として6.1人·時間/頭となり,ワナの設置作業を除けば効率的であった.安全性は向上可能であり,いくつかの条件を克服できれば囲いワナは有効な大量捕獲法となり得る.
  • 高田 靖司, 植松 康, 酒井 英一, 立石 隆
    2004 年 44 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2004年
    公開日: 2008/04/09
    ジャーナル フリー
    下顎骨の大きさの単変量解析ならびに多変量解析にもとづき,次の地域からの7集団のジネズミ Crocidura dsinezumi における,集団間の形態分化を調べた.すなわち伊豆諸島の利島,新島,式根島,三河湾の佐久島,愛知(名古屋市·春日井市),隠岐諸島の島後と西ノ島である.伊豆諸島の新島と式根島の集団には有意な形態差が認められず,これらと利島の集団が1つの群を形成した.佐久島,愛知,隠岐諸島の集団は別の群を作り,特に佐久島と愛知の集団が近かった.伊豆諸島内の,佐久島と愛知の間の,また隠岐諸島内のジネズミ集団にみられた形態分化は,伊豆諸島などにおけるハツカネズミ Mus musculus の島嶼集団の場合にくらべて軽微であった.その原因について簡単に論じた.
  • 上田 弘則, 姜 兆文
    2004 年 44 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2004年
    公開日: 2008/04/09
    ジャーナル フリー
    近年中山間地域でイノシシの個体数の増加や分布拡大に伴い農作物被害が深刻化している.このような地域ではイノシシが農耕地や耕作放棄地を頻繁に利用していることが予想される.しかし,これまでのところイノシシが農耕地や耕作放棄地をいつどのように利用しているのか不明である.そこで,山梨県一宮町の放棄果樹園1カ所と果樹園2カ所(モモ園,スモモ·モモ園)に自動撮影カメラを設置してイノシシの出没時期·出没時間帯について2001年6月から12月まで調査を行った.6~8月にかけてイノシシによってスモモとモモの枝が折られて,果実が採食された.出没時期のピークは果実の成熟期とほぼ一致しており,放棄果樹園では6~8月に,果樹園では8月にイノシシが頻繁に出没した.枝を折られた果樹の本数割合,果実の成熟期における出没日数および一日あたりの出没頻度は,放棄果樹園で果樹園に比べて高い傾向が見られた.以上のことから,放棄果樹園の利用頻度が近接する果樹園よりも高いことが示唆された.いずれの試験地でもイノシシの出没頻度は日没前の18:00台には少なく,日没後の19:00台に急増した.一方,日出後の5:00台には出没が確認されなかった.このことからイノシシの出没パターンが日出日入と関連があり,農作業に伴う人間活動の影響を受けている可能性が示された.また,各日でイノシシが最初に出没した時間は放棄果樹園よりも果樹園で遅かった.これは果樹園では放棄果樹園よりも農作業などで人の出入りが多いことが影響しているためであると考えられる.
  • 吉冨 早香, 川島 友和, 佐々木 宏
    2004 年 44 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2004年
    公開日: 2008/04/09
    ジャーナル フリー
    本研究では,ジャワマングース(Herpestes javanicus)4体5側を対象として,これまで報告がなされていない腕神経叢の形態を報告するとともに,肩甲上神経が腕神経叢の背腹どちらの層に属するかを検討した.その結果,ジャワマングースでは1)腕神経叢は第5頚神経(C5)から第1胸神経(T1)までで構成されていたが,C5 と C6 は細い交通枝で吻合しているのみであり,その主部は C7 から T1 であった,2)棘上筋は肩甲骨の外側(背側)面のみならず全例で内側(腹側)までせり出していた,3)そのうち2例では起始部が肩甲下窩の頭側部まで拡大していた,4)棘上筋,棘下筋を支配する肩甲上神経は C6 の中央部から起始していた.このことから肩甲上神経は背腹両方の層を含むような境界の神経である.ヒトではジャワマングースより肩甲骨が背側下方へ位置することや複雑な腕神経叢の形態などから,腕神経叢の中で肩甲上神経が背腹どちらの層へ属するのかという問題への理解が難しかった.しかし,この結果をヒトと比較したところ,相対的な背腹成分量の差はあるもののヒト肩甲上神経でも同様に背腹両方の層を含むことが考えられる.
報告
  • 立石 隆
    2004 年 44 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2004年
    公開日: 2008/04/09
    ジャーナル フリー
    新潟県,福島県および群馬県が境を接する尾瀬地域において,14の調査区を選定し小哺乳類相を調べた.調査は1985年8月から1999年7月まで,調査した各年とも7月上旬から8月上旬に行い,標高約 1,000m の山地帯落葉広葉樹林から標高約 1,900m の亜高山帯針葉樹林にかけて,小型ハジキワナ(パンチュウ PMP型)により小哺乳類を捕獲した.延べ 16,800個のワナを用い食虫目1種(ヒミズ22頭),および齧歯目5種(ヤチネズミ7頭,スミスネズミ92頭,ハタネズミ17頭,ヒメネズミ564頭およびアカネズミ669頭)が捕獲された.したがって合計1,371頭が得られ、その捕獲率は8.2%であった.ヒミズは全例が標高 1,600m 以下の地域で捕獲され,捕獲率は著しく低かった.ヤチネズミは標高約 1,500m 以上の,尾瀬ヶ原~尾瀬沼以北の地域において7頭中6頭が捕獲された.スミスネズミは全例が標高約 1,600m 以下の地域で捕獲され,尾瀬ヶ原~尾瀬沼の南北両側で捕獲数はほぼ同じであった(北側50頭,南側42頭).ヒメネズミおよびアカネズミは大部分の調査区において最も優勢であった.ヒメネズミの捕獲率はブナ帯下部(標高1,000~1,300m)の方がブナ帯上部(標高1,300~1,600m)より低く,アカネズミでは下部と上部の間で捕獲率に差がなかった.捕獲率の年次変動はヒメネズミで比較的小さくアカネズミで大きかった. 1985年と1994年のアカネズミの捕獲率は調査地域すべてにおいて著しく高かった.その原因は前年のブナの堅果の豊作であろう.
連載「食肉目の研究に関わる調査技術事例集」
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