哺乳類科学
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原著論文
ポイント枠法の再検討:シカ,タヌキ,ハクビシン,テン試料を用いて
高槻 成紀
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2013 年 53 巻 1 号 p. 89-98

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抄録

体サイズも消化生理も違うニホンジカ(以下シカ),タヌキ,ハクビシンの胃内容物およびテンの糞をポイント枠法で分析し,方法の検討と食性の比較をした.食物カテゴリーは4種の動物を通じて共通の20カテゴリーとし,カウント数は200とした.所要時間はシカで約3時間,食肉目は30~60分ほどであった.総出現カテゴリー数はシカでは6,食肉目では11から14であった.しかし1試料あたりの出現カテゴリー数はシカとハクビシンは約4,タヌキは約3,テンは2~3であった.Shannon-Wienerの多様度指数によってシカの食性の多様性が食肉目並みに高いと算出された.カウント数の増加に伴うカテゴリー数は,シカにおいては最初の10カウントでは3カテゴリーあったが,その後の「頭打ち」が早かった.これに対して,食肉目では最初の10カウントでは2カテゴリー前後であったが,その後に漸増した.200カウントにおけるカテゴリーの増加率はシカ,タヌキ,ハクビシンで10%以下であったが,テンは18.2%で,300カウントまで数えるほうがよいと判断した.こうした違いの理由は動物の食性と消化生理の違いで説明できる.シカは葉食の反芻獣であり,胃内容物は十分に撹拌されているから,初期に分析する少数試料の出現カテゴリーと最終値との違いが小さかった.食肉目では食性の幅が広いが,採食量が少なく単胃であり,分析試料に存在するカテゴリーが少ないために総出現カテゴリー数との違いが大きかった.試料群を比較すると,シカは葉食であり,食肉目は夏には動物質と植物質がほぼ半々であり,動物質では昆虫が,植物質では果実が多かったが,冬には動物質が減少し,果実が多くなった.タヌキは人工食品が多いなど,種の特異性も示された.類似度はシカ―食肉目間が小さく,食肉目間では大きかった.食肉目の中では同種であるよりも同じ季節であるほうが類似度が大きかった.ポイント枠法は食性の違う哺乳類にも広く適用可能で,食物組成,その多様性,類似性の表現に有効であることが確認された.

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© 2013 日本哺乳類学会
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