哺乳類科学
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デグー(Octodon degus)に観察されるてんかん様発作の評価指標
伊海 結貴篠原 明男名倉(加藤) 悟郎七條 宏樹越本 知大
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2021 年 61 巻 1 号 p. 3-11

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抄録

デグーOctodon degusは南米原産の草食性齧歯類で,個体間での優れた音声コミュニケーションや道具機能の理解など,他の齧歯類に見られないユニークな特徴をもつ.近年ではこうした特徴が脳の高次機能と関連付けられ,主に医科学,行動心理学の分野で脳の発達やアルツハイマー病態の解明に有用なバイオリソースとしての特性把握が進められている.今回我々は宮崎大学において系統管理を続けているデグー集団内に「てんかん様発作」を示す個体を見出した.調べる限りデグーのてんかん様発作に関する報告はなく,その症状を精査することで,我々は新たな研究資源の創出の可能性を提示できると考えた.そこで本研究ではデグーのてんかん様発作症状を臨床的に評価する為の客観的指標を作成することを目的として,動画観察による発作の過程と強度,更には総持続時間の評価を試みた.

デグー16頭(雌:雄=7:9)が呈した合計35回のてんかん様発作を撮影した動画を解析した結果,デグーのてんかん様発作は体の一部の異常(過程1)に始まり,続く全身の強直様症状とけいれん(過程2),短時間の静止状態(過程3),そして再び体の強直様症状とけいれん以外の異常(過程4)を経て,静止状態(過程5)の後に健常な状態を回復するという一連の過程を辿る事が示された.マウスやラットより複雑な脳機能をもつと考えられるデグーは新たなてんかんモデル動物としての可能性を有すると考えられ,本研究で初めて作成した指標はデグーに観察されるてんかん様発作の評価基準として活用できる.また本研究では,発作の強度や総持続時間には性差があることが示唆されたが,一方で発作の頻度そのものに著しい個体差が見られたことから,今後の追加検討が急務である.

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© 2021 日本哺乳類学会
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