哺乳類科学
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特集 野生動物管理のための景観生態学
野生動物の生息地評価におけるスケール依存性
望月 翔太
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2021 年 61 巻 2 号 p. 295-302

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抄録

野生動物の生息地を評価することは,対象動物種の生態を解明し,生息地を保全するうえで重要である.この時,動物がどのような資源を選択し,どのように分布するのかを評価する必要ある.動物の生息地選択は,生息地を構成する景観構造に対し,動物がどのように応答するかという意思決定プロセスの結果である.また,生息地選択では,様々な時間的・空間的スケールを定義する必要がある.本稿では,野生動物の生息地評価における空間スケールの重要性について,これまでの知見を整理する.まず,先行研究における空間スケール(調査範囲と分解能,バッファサイズ)を考慮した事例を整理し,次に,著者らがニホンザル(Macaca fuscata)を対象に研究してきた生息地選択におけるスケール依存性について紹介する.農作物被害は,ニホンザルがどのような環境を選択したかという意思決定プロセスの結果である.ここでは,100 m~2,500 mのバッファサイズで計算した環境要因と農作物被害との関係を解析した.その結果,農作物被害と関係する環境要因は,バッファサイズの大きさによって変化することがわかった.つまり,被害管理を行う際,どの程度の空間内で対策を実施するかによって,同じ対策でも効果が異なる可能性があることを示唆した.さらに,群れごとに生息地選択モデルにおける最適なバッファサイズが異なっていた.これらの結果を踏まえ,野生動物管理におけるスケール設定の重要性について推察した.

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© 2021 日本哺乳類学会
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