マーケティングジャーナル
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投稿査読論文
美術館におけるサービス・クオリティと教養の獲得
高橋 史早
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2018 年 38 巻 1 号 p. 78-91

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Abstract

従来のサービス・クオリティ研究は,主要なサービス品質測定尺度であるSERVQUALを中心として発展するとともに,サービス品質と顧客満足を仲介する知覚価値についても検討してきた。本研究は,知識的な知覚価値である教養の獲得に着目し,生涯学習施設におけるサービス品質や施設に対する総合的な評価との関係を検討する。すなわち,本研究の目的は,教養の獲得が利用者の総合評価に関係しているかを検証し,利用者の教養獲得がどのようなサービスによって促されているのかを解明することにある。公立美術館の利用者122名に対して実施した質問紙調査データを分析した結果,(1)教養の獲得は総合評価を高めること,(2)展示方法と従業員サービスの2つのサービス品質が教養の獲得を促すこと,(3)施設の快適性は総合評価を高めていることが明らかとなった。これらの発見事実は,理論的・実践的観点から検討された。

I.  はじめに

サービス組織が競争優位を獲得するためには,サービスの質を高める事が重要となる(Anderson, Claes, & Lehmann, 1994)。なぜなら,質の高いサービスを経験した顧客は満足度が高く,再購買意思を持ちやすいからである(Lee, Graefe, & Burns, 2004;Olorunniwo, Hsu, & Udo, 2006)。これまでのサービス・クオリティ研究では,主要なサービス品質測定尺度としてParasuraman Berry and Zeithaml(1988)によって開発されたSERVQUALが用いられてきた(Charles & Kumar, 2014)。SERVQUALは,サービス品質を信頼性,反応性,確実性,共感性,有形性の5次元で評価する尺度である。

しかし,人は高い品質を感じていても,皆が同じように高い価値を感じるとは限らない。例えば,ホテル従業員の接客クオリティが高いと知覚していたとしても,それに価値を感じるかどうかには個人差がある。従来の研究においても,サービスの品質と顧客満足の関係には知覚価値が介在することが指摘されてきた(e.g., Fornell, Johnson, Anderson, Cha, & Bryant, 1996;Ruiz, Gremler, Washburn, & Carrión, 2008)。つまり,サービス組織は品質だけでなく,顧客が知覚する知覚価値も高めることが求められているのである。

知覚価値には複数の次元が提唱されているが,これらの価値全てが顧客の満足に直接影響を与えるとは限らない。つまり,重視される価値はサービスのタイプによって異なると考えられ,それぞれのサービス組織に適した価値次元の検討が必要となる。そこで本稿では,「サービス品質→知覚価値→顧客満足/再利用意図」という関係を念頭に置きながら,生涯学習施設の一つである美術館を対象として,これまで十分に分析されてこなかった知識的価値としての「教養の獲得」の規定要因と結果要因を検討する。

美術館を研究対象とした主な理由は,社会教育の場として,多くの学びを提供している生涯学習施設だからである(Miyahara, 1976)。例えば,図書館,音楽ホール,美術館といった生涯学習施設において,人々は読書や音楽・絵画の鑑賞を通じ,感性を豊かにし,知的な発見を得ることで教養を身に着けている。教養的な学びを提供しているという点において,生涯学習施設はホテルや金融機関,商業施設等のサービス組織とは異なる特徴を持つ。教養とは,新たな知識や感性(Miura, 2003),総合的なものの見方(Akaiwa, 2005)であり,充実した人生を送るために重要な要素である(Owa, 2005)。こうした教養的な学びは,生涯学習施設の利用者にとっての中心的な価値の一つであると考えられる。それにもかかわらず,従来のサービス・クオリティ研究では,学習の視点が欠けていたといえる。

以上の議論を踏まえ,本稿は,知覚価値としての教養の獲得に焦点を当て,どのようなサービス品質が教養を高めているのか,また教養的な学びが顧客満足や再購買意図に影響を与えているのかを,美術館を対象に探索的に検討する。以下ではまず,SERVQUALを中心としたサービス品質,知覚価値,教養に関する研究についてレビューする。その上で,質問紙調査データに基づき,探索的に設定した分析モデルを検証する。

II.  先行研究レビュー

1.  サービス品質と知覚価値,顧客満足の関係に関する先行研究
図1

品質と価値,顧客満足の関係

注:Cronin et al.(2000),Fornell et al.(1996),Lai et al.(2009),Ruiz et al.(2008)をもとに作成

これまでのサービス・クオリティ研究では,サービス品質と知覚価値が顧客満足に影響を与えるだけでなく,その満足が再購買意図や推奨行動にも影響を与えるとした統合的なモデルが示されてきた(Minami, 2012)。例えばFornell et al.(1996)は「サービス品質→知覚価値→顧客満足」と捉えるモデルを提示し,品質が価値を,価値が顧客満足を規定することを示した。同様に,Ruiz et al.(2008)は「サービス品質→知覚価値→顧客満足」という因果モデルを提唱している。さらに,Choi, Cho, Lee, Lee, and Kim(2004)やKuo, Wu, and Deng(2009)も,「サービス品質→知覚価値→顧客満足→再購買意図/他者推薦」という関係を検証している。こうした先行研究を踏まえ,本稿は,図1に示すように,サービス品質が知覚価値に影響を与え,知覚価値が顧客満足・再利用意向・他者推薦に影響を与えるというモデルに沿って文献をレビューする。

なお,本稿では顧客満足と再購買意図,他者推薦を総合評価として統合した。なぜなら,顧客満足と再購買意図,他者推薦には密接な関連があることが明らかになっており(Yamamoto, 2010),Sakurai, Yoshimachi, and Hayase(2011)は満足度と再購買意図,他者推薦を統合する形で総合評価を測定しているからである。また,本研究では,サービス品質を「顧客の事前の期待と実際のサービスに対する知覚の差」として捉え(Parasuraman, Zeithaml, & Berry, 1985),「サービス品質に対して顧客が感じる効用」としての知覚価値と区別する。

以下では,サービス品質と知覚価値に関する研究をレビューした上で,生涯学習施設において中心的な価値になると考えられる教養の獲得についての文献を検討する。

(1) サービス・クオリティ研究

サービス・クオリティに関する研究はParasuraman et al.(1988)によって開発された品質測定尺度SERVQUALを中心として発展してきた。こうした背景には,組織が顧客満足を高めるためには質の高いサービスを提供することが不可欠であり(Lee et al., 2004;Olorunniwo et al., 2006),そのため,サービス品質の評価方法を開発する必要性が高まったという事情がある(Yamamoto, 2007)。

Parasuramanらはサービス品質を「顧客の知覚と期待のギャップ」と定義し,5つの次元,22項目から構成されるSERVQUALによって測定した。5つの次元とは信頼性,有形性,反応性,確実性,共感性である。信頼性は約束されたサービスを提供する能力を,有形性は施設や設備を,反応性は従業員が迅速にサービスを提供する意志を,確実性は従業員の知識や礼儀および能力を,共感性は企業が一人一人の顧客に提供する気遣いを指す。これにより多様なサービス組織がサービス品質を測定することが可能となり,様々な分野のサービスを対象にSERVQUALの適用可能性が検討されている(Charles & Kumar, 2014)。

一方,サービス品質の測定に関して,期待と評価のギャップを用いるのではなく,評価のみの尺度,つまり知覚品質のみの測定の方が適切だとする指摘がある(Cronin & Taylor, 1992)。なぜなら,期待と評価の測定は,回答者の負担を大きくし,回答が退屈で混乱を詔きやすく,収集されたデータの偏与の発生差点(評価-期待)の分散を低くする等の問題点が指摘されているからである(Buttle, 1996)。また,品質次元がサービスの特性によって異なるため,SERVQUALを使用する際はサービスの種類を考慮し品質次元を調整する必要がある(e.g., Babakus & Boller, 1992;Carman, 1990;Cronin & Taylor, 1994;Parasuraman, Zeithaml, & Berry, 1993)。また,サービス品質の次元に関しては,対人サービスを重視するあまり,設備や施設等の有形的な要因を軽視しされていることも指摘されている(e.g., Bitner, Booms, & Tetreault, 1990;Grönroos, 1984;Matsuo, Okuse, & Praet, 2001;Mels, Boshoff, & Nel, 1997)。

(2) 知覚価値と知識性

上述したように,サービス組織は品質だけでなく,顧客が知覚する価値も高めることが求められている。なぜなら,サービス品質は顧客が事前の期待に照らしながら知覚したサービスの評価であるのに対し,知覚価値は「サービス提供者との交換関係を維持する際に生じるベネフィットとコストの差に対する消費者の知覚」(Sirdeshmukh, 2002)と定義され,区別されているからである。なお,コストとは「価格,時間の消費,心理的な負担感等」であり(Kotler, 2000),ベネフィットは「製品やサービスの所有・使用によって獲得する効用」を指している。

知覚価値は品質に基づき,コストを考慮した上でベネフィットを評価したもの,つまり顧客が製品やサービスに対して抱く最も包括的な評価である(Bolton & Drew, 1991;Ono, 2010;Zeithaml, 1988)。これは,同じサービスであってもその感じ方はサービス品質に比べ個人差が大きいという特徴を持つ。なぜなら,個人的に感じる好ましさや(Holbrook, 2006;Holbrook & Hirschman, 1982;Mathwick Malhotra & Rigdon, 2001, 2002;Nobeoka, 2010),重視する価値の内容は顧客によって異なるからである(Sheth, Newman, & Gross, 1991)。

これまでの先行研究では,顧客価値(customer value)モデルと消費価値(consumption value)モデルが提唱されている(e.g., Mathwick et al., 2001;Petrick, 2002;Pura, 2005;Wang, Po Lo, Chi, & Yang, 2004)。顧客価値モデルを示したHolbrook(2006)は,「経済性(economic)」,「社会性(social)」,「快楽性(hedonic)」,「利他性(altruistic)」の4つの価値次元を示した。経済性とは,製品の効率性や品質,社会性は所有することによる社会的名声やステータスに関する価値である。快楽性は美しさなどによる自己充足によってもたらされ,利他性は正義感や美徳観,また信念に基づいた他者への貢献によって知覚する価値である。

一方,消費価値モデルを提唱したSheth, et al.(1991)は価値を「機能性(functional)」,「社会性(social)」,「感情性(emotional)」,「知識性(epistemic)」,「条件性(conditional)」の5つに分類している。機能性は信頼性,品質,価格などによって,感情性は楽しさや嬉しさ,恐怖や悲しみといった気分や感情によってもたらされる価値を指す。また社会性は他者との共有や他者への自己表現を通じて得られる価値であり,知識性は新製品や新サービスへの関心や好奇心および目新しさなどの知識的欲求に基づいた価値である。条件性は,「雨が降ってきたため傘を買う」等の特定の状況や場面で発生する価値である。

このように,知覚価値には複数の次元が提唱されているが,これらの価値全てが顧客の満足に直接影響を与えるとは限らない。例えば,Pihlström(2008)は通信サービスを対象に,5つの知覚価値次元が再利用意図に与える影響を検討した結果,機能性や社会性,感情性が再利用意図に直接影響を与えていた一方で,知識性の次元は間接的な影響にとどまっていたことを報告している。つまり,重視される価値はサービスのタイプによって異なると考えられ,サービス特性に適した価値次元の検討が必要となる。

こうした議論を踏まえ,本研究は特に知識性の次元に着目する。なぜなら,生涯学習施設のように教育を重視するサービスでは知識性の価値が重視され,顧客満足に影響を与えていると考えられるからである。知識性は「顧客が好奇心を刺激され,目新しさを感じ,知識欲が満たされることによって獲得する価値」であり(Pihlström, 2008),教育等の学びを提供するサービスでは中心的な価値だと言える。そこで,次節では,様々な学びを提供している生涯学習施設の知覚価値を検討する。

2.  生涯学習施設のサービス・クオリティと知覚価値

生涯学習施設に着目する理由は,こうした施設が学校外での社会教育の場として重要な役割を担っているためである(Miyahara, 1976)。例えば,人々は図書館,音楽ホール,美術館といった生涯学習施設において,読書や音楽・絵画の鑑賞を通して,感性を豊かにし,知的な発見を得ることで教養を身に着けている。近年は生涯学習施設も民間企業と同様に質の高いサービスが要求されており(Murata, 2003),顧客満足を高める取り組みが求められている(Ushijima & Shii, 2004)。

生涯学習施設のサービス品質を検証した先行研究には,スポーツ施設を調査したNakanishi(1995),図書館を対象としたCook and Thompson(2000),Sato and Nagata(2003),そして,博物館を検討したMaher, Clark, and Motley(2011),Raajpoot, Koh, and Jackson(2010)等がある。その中でもRaajpoot et al.(2010)の研究では,博物館におけるサービス品質だけでなく,知覚価値に相当する次元が検討されている。表1に示すように,彼らは「自己実現」,「雰囲気」,「教育」,「利用者の適切性」,「従業員の礼儀正しさ」,「レイアウト」の6つの次元から成る測定尺度を開発しているが,ここで注目したいのは,「自己実現」と「教育」の次元である。自己実現の次元は,博物館を訪問することで「自分の価値を高められたか」,また「教養を得られたかどうか」という項目を含んでおり,教育の次元は,「博物館が良い学びの機会を提供したか」,「自分にとってたくさんの発見があったか」どうかが測定されている。これら2つの次元は,サービス品質というよりも,博物館における学びについて顧客が感じる効用を測定しており,知覚価値と深く関連していると考えられる。

表1

博物館サービスの測定尺度

注:Raajpoot et al.(2010, p. 62)をもとに作成

知覚価値には複数の次元が提唱されていることは既に述べたが,「自己実現」や「教育」は特に知識性の価値と関係していると言えるだろう。なぜなら,博物館は社会教育の場として多くの学びを提供している生涯学習施設のひとつであり(Miyahara, 1976),学びに関わる価値は知識的な価値だからである。特に,博物館で得られる知識は教養に関係していると思われる。なぜなら,多くの人々は博物館での歴史的資料や絵画等の鑑賞を通じ,知的な発見を得て,感性を磨き,人生観・世界観を身に着けていると考えられるからである。実際にRaajpoot et al.(2010)における自己実現と教育の次元には,「教養」や「学びの機会」,「たくさんの発見」といった項目が含まれており,博物館において教養的な学びが提供されていることを示唆している。

3.  知覚価値としての教養

人々は生涯学習施設の利用を通して,知識的な価値としての教養を得ていると思われるが,なぜ教養を身に着けようとするのだろうか。それは,教養が充実した人生につながるだけでなく,様々な活動の基礎となるからである(Owa, 2005)。この点に関して,Furuta(2005)は,教養が高度な専門性を身につけるための基礎となること,グローバリゼーションの進展を背景とした異文化理解のためには教養が不可欠であることを指摘している。同様に,Ueno(2001)は教養が考え方の基礎になると主張しており,Karube(2007)も,教養によって判断力が幅広く養われると述べている。

これまで先行研究では,高等教育における教養教育の重要性が指摘されてきた(e.g., Akaiwa, 2005;Nakajima, 1993;Shibata & Mizokami, 2009)。Nakajima(1993)によれば,教養教育における教養は,専門分野を学ぶために必要となる基礎知識と,専門以外の広い知識に分類することができる。同様に,Owa(2005)も,専門家として活動するために必要な教養と,個人を磨き,充実した人生を送るための教養を区別している。前者は職業等の専門性に関わる教養であり,後者は,文学に親しむ,音楽を演奏する,絵画を描くといった豊かな人生を送るための感性や個性に関わる教養であると考えられる。これら二つの教養のうち,本稿は,人生を豊かにする広い知識としての教養に着目する。こうした教養は,新たな感性(Miura, 2003),総合的なものの見方(Akaiwa, 2005),文化の多様性や価値の多元性を養う基礎となるものである(Shibata & Mizokami, 2009)。以上の議論を踏まえ,本研究は教養を「新たな感性,ものの見方,価値の多元性に結びつく知識」と定義する。この定義に基づくと,教養の獲得は,知識的な知覚価値であると捉えることができる。

III.  リサーチクエスチョン

これまで述べたように,従来の研究では,サービスのタイプによって重視される知覚価値は異なることが指摘されており,各サービスの特徴に適した価値次元の検討が必要である。したがって本研究は,生涯学習施設において重視されると思われる「知識的価値としての教養」に焦点を当てる。具体的には,「サービス品質→知覚価値→顧客満足/再利用意図」という関係を踏まえ,これまで十分に分析されてこなかった知識的価値としての「教養の獲得」の規定因と結果要因を検討する。

本稿における第一の目的は,教養の獲得が利用者の満足や再購買意図を高めているかを検証し,生涯学習施設における教養獲得の重要性を探索的に検証することである。第二の目的は,利用者の教養獲得はどのようなサービスによって促されているのかを検討することである。これまでの議論に基づき,本研究では次のようなリサーチクエスチョンを設定した。

RQ1:教養の獲得は利用者の総合評価を高めているのか。

RQ2:どのようなサービスが利用者の教養の獲得を促しているのか。

これらのリサーチクエスチョンを検討することによって,これまで実証されることが少なかった「サービス品質→知覚価値」という関係を分析することが可能となると同時に,生涯学習施設において中心的な価値である「教養の獲得」の重要性を検証することができる。

なお,本研究では以下の2点の理由から対象を美術館に設定した。第一に,美術館は美術品の鑑賞を通して,教養を獲得する機会を提供しているからである。他の生涯学習施設として図書館があるが,図書館は実用書,娯楽書など様々な図書を貸し出しているため,その目的は必ずしも教養の獲得だけに限定されるものではない。

第二に,美術館は生涯学習施設の中でも身近な存在だからである。音楽ホールも教養的学びを提供していると考えられるが,価格や事前予約,座席数などの点から利用者が限られるのに対し,美術館は気軽に低価格で利用することが出来ると考えられる。

IV.  研究方法

1.  調査の概要

以下では,調査の概要について説明する。本研究は探索的な性質を持っているため,予備調査によって質問項目の情報を収集した後,先行研究と予備調査の結果をもとに質問項目を作成した。続いて本調査として質問紙調査を行い,サービス品質及び教養に関する尺度を開発した。その上で,分析モデルを設定するとともに,測定の信頼性と妥当性を検証した。

(1) 予備調査

前述したように,美術館のサービス品質及び教養についての尺度は十分に検討されていないため,予備調査としてインタビュー調査を実施し,質問項目に関する情報を収集した。インタビュー調査は,札幌市にある公立美術館の利用者を対象に実施し,30代から60代の女性7名,男性2名の合計9名から回答を得た。インタビューの際は「美術館において何を得たか(ベネフィット)」,および「美術館を訪れる際に重視することは何か」をオープンクエスチョンの形で尋ねた。特に「教養」という言葉は用いず,広く答えてもらうことを意識した。「美術館において何を得たのか」という質問に対しては,全員から様々な「学び」についての回答が得られた。具体的には「歴史を知る」ことや「感性を高める」,「人生観を考えさせられる」といった教養的な学びに関する回答が多かった。さらに「美術館を訪れる際に重視することは何か」という質問には,解説や展示の仕方といった展示内容に関する回答が7名,館内の雰囲気など施設に関する回答が3名から得られた。

(2) 本調査

2014年11月,利用者が多いと予測される土曜日と日曜日のうち5日間にわたり,12時~16時の時間帯において,上述した公立美術館の利用者に対し質問紙調査を実施した。質問票は,公立美術館の出入り口付近にて,筆者を含む調査員が,了承の得られた利用者に対し質問紙を配布し,回収した。データを収集するにあたり,本来はランダムサンプリングを行う必要があるが,利用者数が限られているため,本研究は非確率抽出法(Babbie, 2015)を採用し,利用者のすべてを対象とした。回収数は151票であったが,その中から欠損のあった質問票を除外したところ,有効回答数は122票であった(有効回答率80.8%)。多変量解析に用いるサンプル数は通常,使用される項目数の5倍以上が必要とされているため(Suenaga, 1987),本研究のサンプル数は許容範囲内であると考える。なお,回答者における属性は男性が35%,女性が65%,年齢は60代(41.8%),50代(15.6%),40代(15.6%),30代(11.4%),20代(12.2%),10代(2.5%)であった。

質問票の作成にあたっては,予備調査の結果と先行研究に基づいて質問項目を設定した。質問項目を作成する際に参考にした研究は,サービス品質について検討したParasuraman et al.(1988)とMatsuo et al.(2001),及び博物館のサービス品質について検討したMaher et al.(2011),Raajpoot et al.(2010),Kurata(1993)である。質問項目はサービスに関する18項目,教養に関する7項目に加え,全体満足度,再購買意図,他者推薦に関する総合評価3項目の28項目からなり,すべての項目は5ポイントのリッカート尺度で測定した(強くそう思う5⇔1全くそう思わない)。

なお,本研究における知覚価値の測定は,コスト面は考慮せず,ベネフィット面から捉えた。なぜなら,サービス品質を測定するSERVQUALも,価格などのコスト面についての測定尺度が十分なものではないことに加え(Yamamoto, 2010),De Ruyter, Lemmink, Wetzels, and Mattsson(1997),Mathwick et al.(2001)といった先行研究は知覚価値をベネフィット面のみから測定しているからである。

総合評価は全体満足度(全体的に満足した),再購買意図(また来たいと思う),他者推薦(他者に勧めたいと思う)の3項目の平均値によって測定した。なぜなら,全体満足度と再購買意図,他者推薦は概念的に区別されているが,互いに密接に関連していると言われているからである(Yamamoto, 2010)。なお,Sakurai et al.(2011)も実証研究において3項目を統合する形で顧客の総合評価としている。

2.  測定尺度の開発

次に,サービス品質と教養に関する測定尺度を開発し,その後,尺度の信頼性を検討するためクロンバックのα係数を算出した。

サービス品質と教養に関する測定尺度の開発にあたり,Churchill(1979)のパラダイムを参考に,質問紙調査データを分析した。まず,サービス及び教養に関する25の調査項目に対して因子分解(主因子法・プロマックス回転)を実施した。プロマックス回転を使用した理由は,次元間に相関を仮定しているからである。

具体的な分析手続きは次の通りである。まず①因子分析を実施し,②除外することで信頼性が向上する項目を除外し,③因子負荷量が0.5未満の項目を除外するという手続きを繰り返し,全因子負荷量が0.5以上になったところで分析を終了した。その結果,6項目が削除され,最終的に表2に示すように19項目からなる4因子が検出された。

表2

測定項目の因子分析結果(主因子法・プロマックス回転)

各因子の内容に関して,第1因子は「教養の獲得」,第2因子は「従業員サービス」,第3因子は「展示方法」,第4因子は「施設の快適性」と解釈した。第1因子である「教養の獲得」は美術鑑賞によって知的な発見や教養を得たり,感性が磨かれることを意味する。この因子は美術館を利用することで得たベネフィットであることから,知覚価値として捉えることができる。第2因子である「従業員サービス」は,従業員が提供するサービスや対応が良いことを示す。また,第3因子の「展示方法」は,作品の見やすさや解説のわかりやすさを意味する次元である。第4因子の「施設の快適性」は館内の設備や案内,雰囲気が快適であった程度を示しており,SERVQUALにおける有形的な次元と関係していると考えられる。すなわち,第1因子は知覚価値であり,第2因子,第3因子,第4因子は美術館のサービス品質に関連する因子である。信頼性の検証にはクロンバックのα係数を用いた。分析の結果,α係数は「教養の獲得」が0.89,「従業員サービス」が0.90,「展示方法」が0.83,「施設の快適性」は0.68であった。Nunnally(1978)によれば,クロンバックのα係数は0.70以上であることが望ましいとされるが,施設の快適性のみ0.68であり,この基準を若干下回っているものの,総合的に考えて許容できる値であると判断した。

3.  分析モデルの設定

次に,抽出した因子の結果をもとに探索的に分析モデルを設定した。図2に示すように,3つのサービス品質である展示方法,従業員サービス,施設の快適性が,知覚価値である教養の獲得に影響を与えるとともに,これらの4つの項目が総合評価に影響していると考え,パスを設定した。

図2

分析モデル

注:楕円で囲った変数は潜在変数,四角で囲った変数は観測変数,丸で囲った変数は誤差項

表3

適合度の比較

注:RMR=root mean square residual, CFI=comparative fit index, RMSEA=root mean square error of approximation

本モデルは,先行研究で検証されてきた「サービス品質→知覚価値→総合評価」という因果関係に基づき設定されたが(e.g., Fornell et al., 1996;Ruiz et al., 2008),それに加え展示方法,従業員サービス,施設の快適性という3つのサービス品質が直接的に総合評価に影響を与えると想定した。なぜなら,本研究における知覚価値は教養の獲得に限定しているからである。なお,分析モデルは共分散構造分析によって検討するが,図2に示すように,相互に関連していると解釈できる誤差項については共分散を仮定している(Kano, 2002)。

4.  測定の妥当性

測定の妥当性を検証するために,5つのモデルについて確証的因子分析を行った。5つのモデルの適合比較の結果は表5に示す通りである。5-factor modelは分析モデルと同様に5つの因子からなるモデルである。4-factor modelは施設の快適性と展示方法を統合したモデルであり,3-factor modelは施設の快適性,展示方法,従業員サービスを統合したモデルである。2-factor modelは施設の快適性,展示方法,従業員サービスと教養の獲得を統合したモデルであり,1-factor modelはすべての因子を統合したモデルである。検証の結果,5-factor modelはその他のモデルよりも適合度が高かった。この結果から,本研究においてコモンメソッドバイアスの影響は深刻ではないといえる。また5-factor modelの適合度の値はRMR(root mean square residual) = 0.04,CFI(comparative fit index) = 0.90,RMSEA(root mean square error of approximation) = 0.08と,許容範囲であったことから,本分析モデルの弁別妥当性については大きな問題はないと判断した。

表4

記述統計及び相関表

注1:総合評価は満足度,再利用意向,他者推薦の平均値

注2:**p<0.01,*p<0.05

表5

共分散構造分析の結果

注1:推定値は標準化後の値

注2:**p<0.01,*p<0.05

V.  結果

表4は,変数の平均値と標準偏差及び相関を示したものである。図2に示した分析モデルを検証するにあたり,サービス・クオリティの3次元と教養の獲得,総合評価のそれぞれを潜在変数とした共分散構造分析を実施した。その結果,表5に示す通り,総合評価に統計的に有意な影響を与えていたのは「教養の獲得(β = 0.33, p < 0.01)」と「施設の快適性(β = 0.32, p < 0.05)」であった。また「教養の獲得」に有意な影響を与えていたのは「従業員サービス(γ = 0.50, p < 0.01)」と「展示方法(γ = 0.23, p < 0.01)」であった。上記の分析結果を要約したものが図3である。すなわち,展示方法と従業員サービスの品質が高いほど教養が獲得され,教養が獲得されるほど顧客満足度・再利用意向・他者推薦が高くなることが明らかになった。また,施設の快適性は直接的に満足度を高めていた。

図3

結果の要約

注:**p<0.01, *p<0.05

統計的に優位なパスのみ表示

また,図3は「展示方法→教養の獲得→総合評価」及び「従業員サービス→教養の獲得→総合評価」といった媒介関係が存在することを示している。これらの関係を検証するため,媒介効果を検討する手法であるSobel-testを実施した。分析の結果,「展示方法→教養の獲得→総合評価(z = 2.05, p < 0.05)」及び「従業員サービス→教養の獲得→総合評価(z = 2.59, p < 0.01)」のそれぞれについて,媒介効果が統計的に有意であることが確認された。

VI.  考察

1.  発見事実と理論的インプリケーション

本研究は,生涯学習施設における教養の獲得が利用者の総合評価を高めているのか,また教養の獲得はどのようなサービスによって促されているかを探索的に検討してきた。主要な発見事実と理論的インプリケーションは以下のようにまとめることができる。

第一に,教養の獲得は利用者の総合評価を高めていることが明らかとなった。すなわち,利用者は,美術館賞を通じて得た新たな発見や考え方および価値観や人生観の変化に対して喜びを感じる時,施設全体に対して満足し,再び利用し,他者にも推薦したいと思うようになると考えられる。この結果は,知識性の価値である教養が生涯学習施設において中心的な価値であることを示唆している。この点に関し,博物館を調査したRaajpoot et al.(2010)が提示している自己実現と教育のサービス次元は,知識性の知覚価値に相当していると考えられるが,彼らの研究は尺度開発にとどまっている。これに対し,本研究の理論的貢献は,知識性の知覚価値としての教養獲得が,顧客満足や再利用意向といった総合評価に影響を与えていることを明らかにした点である。

第二に,展示方法と従業員サービスという2つのサービス品質が教養の獲得を促していた。この結果は,美術品をわかりやすく提示したり,従業員が丁寧な説明や迅速な対応をすることによって,利用者が落ち着いて鑑賞し,学ぶことができるためであると推測できる。本研究は,Fornell et al.(1996)やRuiz et al.(2008)の研究と同様に,サービス品質が知覚価値に影響を与えていることを示すとともに,その中でも美術に関する情報の提供や対人サービスに関わる品質が,知識性の知覚価値の獲得を促していることを明らかにした点において理論的に意義があると思われる。

第三に,施設の快適性は総合評価に直接的に影響を与えていた。これは,施設の快適性が,営利,非営利に関わらずサービスにおける基本的な要素であるためだと考えられる。特に美術館では審美性を重視する利用者が多いことから,施設の清潔さや雰囲気が総合評価と強く関係していると思われる。ここでいう施設の快適性はSERVQUALの有形性と対応しており(Parasuraman et al., 1988),設備の清潔さといった客観的な有形性だけでなく,雰囲気等の主観的な有形性も含んでいる(Zeithaml, 1981)。こうした施設の雰囲気は,ホテル(e.g., Matsuo et al., 2001)や小売業(e.g., Grewal, Baker, Levy, & Voss, 2003)において重要性が指摘されているが,生涯学習施設においても利用者の満足や再利用意向にとって欠かせない要素であるといえる。

2.  実践的インプリケーション

以上の発見事実や理論的貢献に基づき,実践的インプリケーションを述べたい。第一に,美術館の関係者は,学びを促す工夫として,人生観やものの考え方を広げるような美術企画を意識すべきである。つまり,学芸員は,美術的な知識や歴史を伝えるだけでなく,利用者の価値観が変化し,感性が豊かになるように工夫しなければならない。また,利用者を対象にアンケートを行う際には,教養の獲得という観点から現状を把握し,その結果を基に企画を練る必要があるだろう。

第二に,学習の場づくりと関係している展示方法および従業員サービスが,利用者の知識的な価値の獲得に結びつくことを意識して美術館をマネジメントすることが大切である。作品の配置や解説は情報伝達の要であるため,学芸員は利用者の価値観を揺さぶるような展示手法を多角的に検討する必要がある。一方,展示と比べ,従業員のサービスが利用者の学びに影響を与えていることは意識されにくいと思われる。この点については,利用者の学びの場づくりを念頭におき,受付スタッフや監視員の態度・行動を通して,美術鑑賞に適した静かで落ち着いた環境を創造することが重要となる。具体的には利用者が信頼感や安心感を持てるよう,美術館のスタッフが利用者に目を配り,迅速な対応をするべく教育プログラムを整備することが求められるだろう。この時,利用者のアンケートによって収集した情報をもとに,教育プログラムを改善していくことも効果的だと考えられる。

第三に,美術館のマネジャーは,施設の清潔さや雰囲気を改善することにも力を入れなければならない。展示エリアだけでなく,レストランやホール,トイレにおける雰囲気づくりや,設備の清潔さの維持に注意を向ける必要があるだろう。また,利用者のマナーに目を配る取り組みも快適な雰囲気づくりにおいて欠かせないと考えられる。

3.  本研究の問題と今後の課題

最後に,今後の課題について述べたい。第一に,本研究の分析対象は美術館に限定されているため,発見事実を他の生涯学習施設に適応するには限界があるだろう。将来的には本稿で得られた知見を,他の生涯学習施設において検証する必要があると考えられる。第二に,本研究では教養に関する尺度を探索的に検討したため,他の施設を対象とした調査を通じて測定の信頼性と妥当性を高める必要がある。第三に,本稿は知識性の価値に焦点を当てたが,他の価値次元を分析フレームに取り込むことで,研究を拡張することが期待できる。最後に,本研究は,生涯学習施設としての美術館を対象として検証したが,将来的には学びを広く捉えていくことが,知識性の価値に関する理論を深めることができるだろう。例えば,身体の管理や運動方法に関する学びを提供しているフィットネスクラブや,商品知識やコーディネートの提案を行う百貨店等を分析することで,知識的な価値研究を発展させることができると考えられる。

謝辞

本研究にあたり,多大なるご指導とご鞭撻を賜りました北海道大学の経済学研究院 松尾睦教授,貴重なコメントを頂きました坂川裕司教授,ならびに北海道大学経済学研究院の先生方に深く感謝申し上げます。また調査に際しては,美術館や調査員の皆様から多くの協力を頂きました。ここに深くお礼申し上げます。

高橋 史早(たかはし ふみさ)

札幌市生まれ,2008年小樽商科大学商学部卒業,2015年北海道大学大学院経済研究科会計情報専攻専門職学位課程修了,2016年より同研究科博士後期課程在学中

References
 
© 2018 The Author(s).
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