デザインとイノベーションに関する特集を編集するにあたり,様々な研究者や実務家とあらためて「デザイン」というものが何なのか?という議論をした。「デザイン」という言葉が日本語に翻訳された段階で,「設計」と「色や形の塩梅」という2種類の解釈が生まれてしまい,その後に後者は「意匠」という言葉で表現されるようになったようだ。この「意匠」という言葉も実は含意が深く,単に「色や形の塩梅」というだけにとどまらず,「作り手の意図を具現化する」というような意味が込められた古語由来の言葉のようである。しかし残念ながらこの深い意味が社会に理解されることはなく単に「色や形の塩梅」という意味で浸透してしまい,やがてカタカナ表記の「デザイン」という言葉に置き換えられるに至って,ずいぶん軽んじられるようになってしまったといえよう。いっぽうの「設計」という言葉は,主に機械工学や建築学で用いられる言葉になり,意味としては「寸法が書き込まれた図面を書く」というような,かなり狭いものに変質していった。いずれの言葉の変容も,もともとの意味から大幅に乖離した悲劇的な変化であり,しかも言葉の間に「隙間」ができてしまったために数多くの示唆が埋もれてしまった。一方の「イノベーション」という言葉も「技術革新」という一種の誤訳に長年苦しんできた経緯がある。この2つの誤解をうまく解けるのは,実はマーケティング研究者ではないかという期待を持っている。