マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
日本型CMOの現状と展望
― CMOは業績にどの程度貢献しているか ―
田中 洋安藤 元博髙宮 治江森 正文石田 実三浦 ふみ
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2019 年 39 巻 1 号 p. 24-42

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Abstract

本論文はCMO(チーフマーケティングオフィサー)が日本企業において企業業績にどのような貢献をしているかを実証的に分析するとともに,CMOの地位が現在どのように変化しているかを文献調査で明らかにすることを目的としている。CMOが企業業績に正の影響を与えていることが近年米国で報告されているが,日本ではまだ研究がほとんどなされていない。実証分析の結果,日本企業において,CMOを設置している企業の割合は約8–11%であり,設置率は業種によってばらつきがあった。またCMO設置企業と非設置企業とでは,前者がより規模において大きいことがわかった。また,CMO設置あり・なしは,企業の2年間売上伸張率に正の影響があり,CMO設置は4.7%の売上増収効果をもっていた。また,企業規模が小さな企業ほど,CMO設置あり条件が売上変化率により大きな影響を与えている。文献調査では米国消費財企業においてCMOに代わりCGO(チーフグロースオフィサー)が設置される傾向が2010年代に目立つようになった。CMOへの詳細インタビューを通じて,これらの結果を仮説モデルとしてまとめ,CMO/CGOの設置がどのように企業業績に影響を与えるかを考察した。

Translated Abstract

The objective of this study is to explore how CMOs influence corporate performance in Japan. Recent research reports have shown that CMOs play positive roles in American corporations. However, this kind of analysis has yet to be performed for Japanese corporations. An empirical analysis showed that CMOs do contribute to the performance of Japanese corporations in terms of sales growth ratio in three consecutive years. An online literature review of recent developments associated with CMOs showed that CGOs (chief growth officers) have started to replace CMOs in US consumer goods corporations during the 2010’s. These results are interpreted based on interviews with four Japanese CMOs. We propose a hypothetical causal model as a basis for further research.

I. 問題

本論文は,日本企業におけるCMO(チーフマーケティングオフィサー)についてその実態を明らかにするとともに,CMO設置が企業業績にどのように貢献しているか(Study1),さらに,CMOの今後について考察する(Study2)ことを目的としている。本研究では,企業データ分析,詳細インタビュー,文献調査などの複数のアプローチ手法を採用しており,以下の構成から成っている。

I.(本章)問題:本研究での問題意識を述べるとともに,CMOに関する先行研究を展望する。

II.Study1:CMOデータ分析:CMOの設置に関する企業データを分析し,CMOの設置状況を明らかにするとともに,企業業績との関係を探索する。

III.Study2:CMOの今後の展望:欧米のグローバル企業でCMOがどのような現状となっているか,文献調査を基にしてその現状と展望を明らかにする。

IV.検討:IからIII章の結果をまとめ,CMOへの詳細インタビューによりその解釈を行い,今後の実務的示唆を得る。

本論文のテーマであるCMO(chief marketing officer)とは,マーケティングを主に管掌する企業のトップマネジメントの一員のことを指す。ただし,II章の分析においては,広義のCMOとしてマーケティング本部長・部長を含めている。CMOが設置されるようになったのは後述するように1980年代以降,この約40年間の現象である。企業経営においてCMOがどのような役割を果たしているか,また今後どのような役割を果たすべきかは,役員の単なる名称の問題に留まらず,マーケティングが企業において果たしている役割を明らかにするために,マーケティング研究として重要な意義がある。過去にCMOの研究が積み重ねられてきたのはこのためである。

CMOはどのような役割を企業において果たしているだろうか。Boyd, Chandy, & Cunha Jr.(2010)によればCMOは企業価値を高めるために3つの役割を果たすとされる。1)情報的役割(informational role)。新しい市場機会を見つけ,既存顧客と新規顧客から新しい売上を得る。2)意思決定的役割(decisional role)。マーケティングの投資にどのようなあるいはどの程度の投資をなすべきかを決定する。3)関係的役割(relational role)。顧客や広告代理店,提携パートナーなどの外部のステークホルダーと関係を築き維持する。

Jaworski(2011)は,自身の経験と文献によってCMOが果たすべき職務(task)を以下の7つに分類し,さらにその7つを3つのカテゴリー(戦略,組織,実行)に分類している。

【戦略】1)企業内でマーケティングの職務を規定する。2)顧客の声と市場インテリジェンス(知識)を保有する。3)企業全体のマーケティング,ビジネスユニットごとのマーケティング,商品やブランドのマーケティングプログラムを含む,マーケティング戦略の全体を管理(oversee)する。【組織・実行】4)マーケティング活動と企業内の他のユニットとをコーディネートしてCEOの仕事(agenda)を助ける。5)マーケティングのプロセス,手順,システム,能力,意思決定任務,報酬を確立・強化し,マーケティング組織が機能することに責任をもつ。(マーケティングスタッフの人的資源の強化など)6)マーケティングのトランスフォーメーションを規定し推進する。(ブランドのプランニングプロセスを変えるなど)7)ROIあるいはフリーキャシュフローなど,マーケティングのパフォーマンスを測定するスコアカードの開発。

CMOは概念的にはこのような役割を果たして企業価値を高めるために貢献すると考えられるのであるが,実際にそのような役割をどの程度果たしているだろうか。

CMOは米国において,1980年代から企業社会に浸透するようになった(Gilliatt & Cuming, 1986)。しかし,その重要性を指摘されながらも,2000年代から2010年代に至るまで一般的なビジネスジャーナリズムの世界ではCMOの存在について肯定的・否定的な見解がないまぜになりながら,議論され続けてきた(例えば,Court, 2007; McGirt, 2007; St. Clair, 2015)。スイスのビジネススクールIMD教授のTurpin(2012)は,「CMOは死んだ」と言い次のように語っている。CMOの役割はPRやコミュニケーションに限定されており,商品や価格に触れることができない実態があり,トップマネジメントの中でCFOがより力をもってきたのに比較して,CMOは曖昧な立ち位置しか与えられていない。

ただしCMOについて否定的な見解ばかりではない。SpencerStuart社(2018)の調べによれば,米国でのCMOの任期は2006年当時の23.2か月(1.9年)から,2017年には44.0か月(3.7年)となり,10年間でほぼ倍に伸びたことになる。これは2010年代に進展したマーケティングのデジタル化によってテクノロジーに詳しいCMOが起用されるようになり,CMOのアクションの結果が,より測定可能となり,効果が高まったと考えられるようになったからだと説明されている。

実証的な研究の流れを追ってみよう。Weinzimmer et al.(2003)は47の産業で173社についてパス解析を実施した結果,CMOの設置は売上成長率に正の影響を及ぼしていることを見出している。

さらに,Nath and Mahajan(2008)は167社,2000年–2004年の5年間にわたって,企業データを基に,CMOがTMT(トップマネジメントチーム)に設置されていることにどのような要因があるかを探求した。まず,戦略的要因として,革新性,差別化,企業ブランディングがある企業ほど,CMOが設置されていること,次に,構造的要因として,トップマーケティングチームのマーケティング/マネジメント経験度が高いほど,またCEOがその企業のアウトサイダーであるほど,CMOが設置されている傾向があることを報告している。事業多角化との関係においては,小企業の場合,多角化していない企業ほど,CMOは設置されている一方で,大企業の場合,多角化しているほど,CMOが設置されていることがわかった。さらに業績との関係では,この5年間の期間においてはCMOがTMTにいることは,企業業績にプラスもマイナスももたらさないことを発見した。このCMO設置が企業業績に影響を結果しないという結果は,少なからず企業社会に対して影響を及ぼした(Simms, 2008)。

Boyd, Chandy, and Cunha Jr.(2010)では,異常投資収益(abnormal stock return)(株主のCMO指名への反応),企業への顧客パワー(売上10%以上を占める顧客がいるかどうか),CMOの過去のマーケティングなどの経験度,企業の範囲(事業のセグメントの数),企業規模(従業員数),企業の業績(売上成長度)などを変数として,CMOの設置がどのように市場反応に影響するかを調べた。その結果,半数以上(54%)の企業においてCMOの任命への市場の反応(異常投資収益)は否定的であった。また,CMOがその企業で以前にもマーケティングの経験がある場合で,顧客パワーが強い場合,市場の反応はネガティブであることが示された。つまり,CMOの任命への市場の反応には顧客パワーが関係していることが示された。この報告ではCMOの任命については顧客パワーや企業の経験が影響しており,著者たちは顧客パワーが低いときにCEOがCMOを任命することが良いと推奨しており,CMOの設置は財務的な業績とは全体として無関係であることを示唆している。このように,00年代の実証的研究では,CMOの設置について正負両方の結果が報告されていたことになる。

Verhoef and Leeflang(2009)の論文は,CMO自体についての研究ではないが,マーケティング部門が企業業績にポジティブな影響を与えていないのではないか,という2000年代の論調や研究報告に対して,どのような影響があるかをオランダ企業について調査した。マーケティング部のアカウンタビリティ(マーケティング戦略の結果を財務的測度に結びつける力)や革新性(革新的な商品やサービスを社内で主導できる力)などの能力が,マーケティング部門の社内的影響(知覚重要性など)に影響し,さらに市場志向性(market orientation)に結びつき,最終的に事業業績に結果するというモデルを提案した。結果として,アカウンタビリティと革新性のふたつがマーケティング部門の影響のドライバーとなっていることを実証的に示した。しかし,顧客とマーケティング部門の結びつきがマーケティング部門の影響の重要性には結びついていなかった。さらにこのマーケティング部門の役割は企業の市場志向性を強化する点において重要であると報告している。

これらの00年代の研究成果は,CMOの存在について企業の業績への否定的な結果を示唆しており,CMOないしマーケティング部門は顧客と結びついているから重要とは言えない結果であった。

2011年以降のCMO研究として以下の研究がある。

Homburg, Hahn, Bornemann, and Sander(2014)は,CMOの特性が投資家にベンチャー企業のマーケティング能力を適正に評価させる役割を果たすと考えた。2,945社のハイテクベンチャー企業のデータを分析した。結果,CMOが受けた教育(高学歴など),マーケティング経験,その産業分野での経験が企業評価とポジティブに相関していることが示された。CMOの評価がベンチャー企業の成功と関連していることが示されたことになる。

Engelen, Lackhoff, and Schmidt(2013)は,異なった文化間の国際比較を行い,TMTにおけるCMOの社会的資産である絆(tie),信頼(trust),団結(solidarity)がどのように影響を与えるかを412人のCMO調査を通じて調べた。結果として信頼が集団主義的文化,不確実性忌避の文化においてより効果的であることがわかった。

これら二つの研究報告においてはCMO設置そのものの影響というよりは,相対的な影響関係が示されていると言えるだろう。

一方,Germann, Ebbes, and Grewal(2015)は特筆されるべき成果を報告している。彼らは,Nath and Mahajan(2011)の研究を踏まえて次のような観点から研究を進めた。つまり①時間的間隔をより長く取る,②研究対象の産業カテゴリーをより包括的にする,③方法的に時間と企業特有の因子による影響を含めた分析モデルの採用である。

2000年から2011年までの12年間の155社の公開されたCompustatデータベースを用いて,CMOの役割が財務へ及ぼす影響について4つの異なったモデルを用いた分析を行った。CMOがこの期間にいた企業はサンプル全体の32–40%であった。売上が2億5千万ドル以上で,広告とR&D額が報告されている企業を対象とした。Nath and Mahajan(2011)よりも期間を長くとり,より多くのビジネスカテゴリーを含み,時間と企業効果を除去して分析した結果,すべての期間でCMOを置いている企業のトービンのq(株式市場の企業価値を資本の再取得価格で割った値)は0.75で,置いていない企業は0.36で有意な差があった。またCMOのポジティブな効果はCEOの在任期間が長くなると減衰した。つまり,CEOが長く在任するほど,CMOの業績へのポジティブな影響は減ることになる。

また,従業員の数が多いほど,CMOのポジティブな効果は減衰することもわかった。結果的に,トービンのqで測定された結果から,CMOを置いた企業のほうが置かない企業よりも15%高いパフォーマンスが示された。つまりCMOの設置は企業の業績にポジティブな影響を及ぼす頑健な証拠が見いだされたのである。

一方,日本の研究者で早い時期にCMOについてまとまった見解を発表したのはKamioka and BearingPoint Strategy Group(2006)である。彼らの主なファインディングと指摘のポイントは,1)米国のフォーチュン1,000社のうち,CMO設置は47%であるのに比較して,日本ではCMOの設置は5%弱と推定した。日経225社(一部上場,株価指数で選定された企業)の中のCMO設置率はさらに低く,4社,1.8%のみであった(2006年3月)。有力なグローバル企業のCMO 20名にインタビューして,2000年代のCMOの役割を2000年代の変化を「狭義のマーケティング」(価値の提供とコミュニケーションやプロモーション)から,「ブランドとアカウンタビリティー(効果への説明責任)」の重要性が増大し,経営トップはマーケティングを投資とみなすように変化すると予測している。

Imamura(2014)は日本のB2B大企業CMOに詳細インタビューを行い,日本のCMOの特質を挙げている。日本企業でCMOが設置されている割合はまだ低いものの,日経Who’s Whoで調べた結果では,B2Bで歴史の長い企業にCMOが多いことがわかった。具体的には,NEC,日立製作所,日立ハイテクノロジーズ,富士通,ブリヂストン,リコー,帝人,LIXILなどである。これらの企業におけるCMO導入の狙いとは,複数BUにまたがるサービス提案の必要性であった。これらの日本企業は,総合力で顧客に価値を提供する必要を感じており,全組織を横通しする役割が期待されていた。ただしCMOのミッションは明確に定義されていないこともわかった。これらのB2B企業におけるCMOの役割はマーケティング活動の統合から,チェンジエージェント(改革の推進者)の役割へ変化してきていると今村は報告している。

Iwata(2018)は,日経BPマーケティングのブランド偏差値データを用いて,仮説として「CMOあるいは準ずる存在(親会社含)・企業を代表してCMOに類する発言を行っている存在がいる企業は競争力(ブランド偏差値)が高い」を立て実証分析を行った。CMOがいるかどうかについてCMOが外部に出演した企業,あるいは,CMO的な発言をしている役職者がいる企業をCMO設置企業と認定して,重回帰分析を実施した。その結果,CMOの存在がブランド総合偏差値(競争力)に2015年と16年について,正の影響を与えている有意な結果を得た。

これらの海外・日本におけるCMOに関する研究成果を統合するならば,次のことが言えるだろう。

1)2010年代以降の研究では,CMOの存在が企業業績にポジティブな影響を与える報告が目立つようになった。

2)しかし日本企業においては,まだCMOの存在が企業業績に与える直接的な影響はまだ報告されていない。

3)特に日本企業におけるCMOはまだ少数企業にとどまっており,その特質はまだ解明されていない。

4)CMOの存在と役割は時代の変化とともに変化しつつある。

本研究ではここから以下のリサーチクエスチョンを設定する。

RQ1:日本企業にはどの程度のCMOが設置されているだろうか。またどの産業分野にCMOは多いだろうか。

RQ2:日本企業でCMOを設置している企業の業績は,設置していない企業と比較して優れているだろうか。

RQ3:CMOの存在は世界的に現在どのような動きを示し,今後どのようになると予測されるだろうか。

これらの研究課題に対して,本論文では以下のII章においてRQ1と2に答え,さらにRQ3についてIII章で答えることとする。

II. Study1:企業データ分析

1. 本章の目的と方法

本章Study1の目的は,日本のCMO設置状況を明らかにするとともに,CMO設置・非設置と企業業績との関係を考察することにある。すでにI章で展望したように,アメリカではCMO設置状況と企業業績との関係についてすでにいくつかの蓄積があり,近年の研究ではCMO設置と企業価値との間に有意なポジティブな影響関係があることが明らかにされている。日本でもいくつかの研究や論説があるものの,まだCMO設置の状況について明らかではない。また,CMO設置と企業業績との関係も明示されてはいない。

本章で分析の対象としたデータではCMOをより広く捉え,マーケティング担当役員だけでなく,マーケティング本部長,マーケティング担当部長も含めることとした。このような広い定義を用いたのは,日本ではまだマーケティングという名称の部署そのものが少なく分析に十分なサンプルが確保できないことがある。このように広義のCMO定義を採用することで,日本企業にとってより意味のある結果を導くことができると考えたからである。

本章では,次の3つのステップによってデータを入手し,分析を行った。

ステップ1として,日本のすべての上場企業(東証一部・二部,名証,札証,福証,各証券取引所マザーズなどの新興市場)を対象として,2015/4/1~2018/3/31の3年間における企業の公開情報を対象に人事情報をクローリングした1)。ここで言う企業の公開情報とは,上場企業の「人事ニュース」のことである。この期間に該当するニュースの数は,3,481社,187,611件であった。なお,クローリング(crawling)とは,「ロボット型検索エンジンにおいて,プログラムがインターネット上のリンクを辿ってWebサイトを巡回し,Webページ上の情報を複製・保存すること」である(Weblio (n.d.))。

利用したデータベースにおける2018年3月時点の全上場企業数は3,707社であり,そのうち,下記いずれかの条件に合致する企業及び該当するニュースの数は,430社,1,972件であった2)。マーケティング関連の役職者又はCMOに関する人事ニュース。抽出条件は以下のようであった。(「マーケティング」and(「役員」or「常務」or「専務」or「本部長」or「部長」))or「チーフマーケティングオフィサー」。

ステップ2として,このデータにYahooファイナンスが東洋経済新報社の『会社四季報』を基にして収集した企業業績データを加えて,データセットを作成した。ただし上場企業の業績データの3,707社のうち約24%,907社が従業員数・売上高・総資産に欠損値がある(828社)か売上高変化率が半減または2倍を超えるはずれ値(94社)となり,,これらの企業を除いた2,800社を対象とした分析を実施することとなった。

データに欠損値が多い理由はふたつ考えられる。ひとつは,上場した年月によって,過去データが存在しないことである。つまり対象企業は2018年3月時点で上場している企業(証券コード)を基点にしているため,上場した年月によって,過去データが存在しないケースがある。もうひとつの理由は,Yahoo!ファイナンスで情報が開示されていないことである。分析に当たっては,欠損値データを除いて行った。

ステップ3として,CMOの設置がある,なしの二種類の企業において規模などでどのような違いがあるか,また,企業業績にどのような影響があるかの分析を行った。

2. 結果

分析の対象となった2,800社のうち,本研究で採用している,マーケティング部長まで含めた広義のCMOを設置している企業は316社であり,企業業績データの欠損値を除いた上場企業2,800社のうち11.3%を占めていた。なお,業績の欠損値あり企業を含めた,3,277社のうち,狭義のCMO(役員レベルのみ)で集計すると,259社であり,7.9%となる。つまり,日本の上場企業で,CMOを有する企業の割合は,CMOの定義によって異なるがおおよそ8–11%程度であることが判明した。

ただし表1.CMO設置企業の業種別比率が示すように,設置のあり・なしは業種によって大きく異なる。

表1

CMO設置企業と非設置企業の業種別比率

CMO設置比率が相対的に高い業種を次の二つの基準によって選択してみよう。調査対象企業全体のCMO設置比率11.3%以上の業種で,業種に含まれる社数が10以下の少ない業種を除く。食料品24.2%(n=99),繊維製品23.8%(n=42),化学17.2%(n=163),医薬品24.4%(n=41),ゴム製品25.0%(n=16),ガラス・土石製品12.8%(n=47),電気機器19.8%(n=212),輸送機器13.2%(n=76),精密機器18.9%(n=37),情報通信12.7%(n=283),卸売業11.6%(n=267),その他金融業13.6%(n=22)以上12業種。

一方,CMO設置比率が相対的に低い業種で,10社以上が含まれる業種として,次の業種が挙げられる。建設業1.3%,パルプ・紙4.2%,石油・石炭製品0.0%,鉄鋼7.7%,非鉄金属12.0%,金属製品6.8%,機械7.4%,その他製品6.3%,電気・ガス業10.0%,陸運業3.8%,海運業7.7%,倉庫・運輸関連業3.3%,卸売業11.6%,小売業9.6%,銀行業3.7%,証券業3.3%,不動産業3.5%,サービス業10.2%,以上17業種。

ここに業種に含まれる社数が10社以下で少数のため挙げなかった業種として,水産・農林業,鉱業,石油・石炭製品(以上0%),保険業37.5%(n=8)がある。

このように業種別にみてみるとCMO設置が比較的多い業種は12業種,少ない業種は17業種ということになる。社数が少ない業種も含めるとCMO設置が多い業種は14業種,少ない業種は19業種となる。全体としては圧倒的にCMO設置率が低い業種が多いことがわかる。

次に「箱ひげ図」を用いることによって,CMOの設置あり・なしによってどのような企業プロフィールの違いがあるかを見てみよう(図1)。なお,従業員数や売上などB/S,P/Lの項目の分布は右に裾が厚くなるため箱ひげ図の目盛りに自然対数値を用いた。負値のある利益項目はマイナスを乗じて対数変換した後に再びマイナスを乗じ,絶対値が1未満の値は0に変換した。サンプルは3,707社の欠損値を除く2016年度から2018年度の3期の財務指標とした。

1-1.従業員数(単独・全期間)

図1

CMO設置あり/なしによる企業プロフィールの違い

1-2.売上高(単独・全期間)

図1

CMO設置あり/なしによる企業プロフィールの違い

1-3.営業利益(単独・全期間)

図1

CMO設置あり/なしによる企業プロフィールの違い

1-4.経常利益(単独,全期間)

図1

CMO設置あり/なしによる企業プロフィールの違い

単独決算の従業員数,売上高,営業利益,経常利益の4つの指標(図1-1~1-4)で見る限り,どの指標の中央値においても「CMOあり企業」が「CMOなし企業」よりも大きいことがわかる。

図2

売上増加率(2016⇒2018)

次に,CMOあり・なしの企業プロフィールの違いをより明確に把握するため,企業規模で評価した。規模の測定はコブ-ダグラス生産関数の考え方を参照して,売上を人(人件費か従業員数),モノ(固定資産),カネ(流動資産)の各対数値に共通のスケールとした。すなわち,売上,従業員数,総資産を1因子分析で因子得点を求めた(図3)。クロンバックの信頼性係数では2016–8年のいずれもα=0.91であり,一次元性が確認できた。この因子得点を用いて比較したところ,2016年,17年,18年いずれも「CMOあり企業」が「CMOなし企業」よりもp<.01水準で有意に高く,「CMOあり企業」が「CMOなし企業」よりも規模の点で大きいことが確認できた。

図3

規模因子(2016年度単独決算の売上,従業員数,総資産から1因子を作成)

次に,CMO設置が業績にどのように影響するかを検証するために,上記の規模因子と,CMO設置の有無を独立変数とし,2016年度から2018年度の売上の変化率を従属変数とする重回帰分析を実行した(図4)。

図4

CMO設置による増収効果

重回帰のモデル全体では,決定係数0.03で,必ずしも十分に満足できる係数値ではなかったものの,F検定p<.01で有意な結果であった。CMO設置有無は係数(推定値)0.047で,規模因子の係数は-0.039であった(いずれもp値は1%水準で有意)。ここからCMOの設置は4.7%の増収効果をもっていると判定できる。つまり,CMOの設置は業績にプラスのインパクトをもっている可能性がここから指摘できる。

さらに,企業規模がどのようにCMOあり/なしに影響するかを明らかにするため,CMOあり/なしの2グループに分けて,それぞれ単回帰して,回帰直線の差(交互作用)を分析した(図5)。

図5

単純傾き効果

この結果,まず,Johnson-Neyman法(Johnson & Fay, 1950)により5%有意水準でCMOあり/なしで売上高変化率に対する規模の影響(回帰直線の傾き)に差があると検証できた。特に規模因子がより小さな企業群においては,回帰直線の95%信頼区間が交わらないためCMOあり/なしで,規模が売上変化率に与える影響(回帰直線の水準)に有意な差があることがわかった。次に,企業規模が小さい側でCMOありの方が,売上変化率が有意に高いこともわかった。つまり,企業規模がより小さな場合,CMOの設置が売上変化率により影響を与えることが明らかになった。この分析結果は,サンプル抽出条件である売上高変化率のはずれ値の閾値を50%~50倍の間で変化させてもほぼ変わらない。また,売上高変化率の期間を2016年度から2018年度の2年間から1年間にすると,CMO設置効果はおよそ半減する。

ここまでの結果をまとめると以下の5点が指摘できる。

1.日本の上場企業において,広義のCMO(マーケティング担当役員,マーケティング部長,マーケティング本部長)を設置している企業は11.3%であり,狭義のCMO(役員レベルのみ)では,7.9%である。

2.業種別にみて,CMOを設置していない業種が設置している業種よりも倍近く多い。

3.CMO設置あり企業は,設置なし企業よりも企業規模が大きい傾向がある。

4.CMO設置あり・なしは,企業の2年間売上伸張率に正の影響があり,CMO設置は4.7%の売上増収効果をもっている。

5.企業規模が小さな企業ほど,CMO設置あり条件が売上変化率により大きな影響を与えている。

III. Study2:CMOの近年の変化と展望

1. 問題

文献を通じて米国のグローバル企業において近年CMOがCGOへと「進化」している現象がみられる。Study2の目的は,CGO成立の状況と背景を知ることで,CMOの役割変化を明らかにすることにある。

米国ではマーケティング領域においてデジタル・トランスフォーメーション,つまりデジタル化による従来のビジネス構造の変化が進んでいる。こうしたデジタル・トランスフォーメーションは,従来のサイロ組織の破壊と新たなクロス・ファンクショナル・チームへの再編へと結びついている(Schuuring et al., 2017)。さらには外部パートナーをも巻き込んだマーケティング・エコシステムのオーケストレーションといった機能統合が,マーケティング部門に求められるようになった(Eaves, Aziz, Thomas, Kristensen, & Moses, 2016)。

このようなデジタル化に伴う事業形態の変容はCMOの在り方にも変化を及ぼすようになった。後述するように,2015年頃から,Coca-Cola, Colgate-Palmolive, Kellogg Company, ConAgra Foods, Hershey Company等,消費財業界の大手企業を中心に,「Chief Growth Officer(チーフグロースオフィサー,以下CGO)」というコーポレート・オフィサーがCMOに代わって新たな「統合役」として設置されるようになった3)

このような背景を踏まえ,本章では次のことを明らかにすることを目的としている。近年米国企業に出現してきたCGOという役職はどのような役割や機能を担っているのか。どのような職務を担い,どのような人的要件が求められているのか。こうした疑問を明らかにすることにより,米国に30年前に出現したCMOが現在,どのような変化を遂げているかを明らかにできると考えた。

以上のような問題意識に立って,Study 2でのリサーチ・クエスチョン(RQ)として以下の3つを設定した。

RQ1:CGOが出現した状況と背景は何か。

RQ2:CGOの位置づけと職務は何か。

RQ3:CGOの人材として求められる人材要件とは何か。

これらのRQに従って,次節で示す文献調査を行った。

本章では,調査方法の確認に続いて,米国のビジネス界におけるマーケティング機能統合の背景にある考え方を,当該テーマに関する大手経営コンサルティング会社による主要な調査研究・提言内容に基づいて整理している。次に米国企業事例調査に基づきマーケティング機能統合の実例を提示するとともに,統合役を果たしているCGO等のコーポレート・オフィサーの経歴を確認することにより,統合役の人材要件を整理している。その上で,確認できた事象の解釈を行うとともに,実務上の示唆を提案している。

2. 方法

以下の3ステップで文献調査を実施して,知見をまとめることとした。

ステップ1(CGO役職の確認):CGOという役職がCMOに代わって出現していることを文献で確認する。

ステップ2(CGO出現の背景):CGO設置の背景にある考え方を,オンライン上の情報に加えて,米国の大手経営コンサルティング会社であるMcKinsey & Company(Buck, Cvetanovski, Harper, & Timelin, 2017),The Boston Consulting Group(Schuuring et al., 2017),Accenture(Eaves et al., 2016)の3社の2016年以降のマーケティング機能変革を論じている調査研究報告書,提言書によって論点と主張を確認した。

ステップ3(CGOの位置づけ・職務・求められる人材要件):Russell Reynolds社の調査報告書を精査し,そこで言及されているThe Coca-Cola Company(n.d.)Colgate-Palmolive Company(n.d.)ConAgra Foods(Conagra Brands)(n.d.)The Hershey Company(n.d.)Kellogg Company(n.d.)の各社のホームページにアクセスし,組織構造,マーケティング機能の位置づけ,マーケティング機能の責任者の職位・タイトル・職務範囲,および各人の経歴を確認した。

3. 結果

一連の文献調査から明らかになったことを,リサーチ・クエスチョン毎に整理する。

(1) CGO出現の状況と背景

RQ1:CGOが出現した状況と背景は何か。

CGOが近年,米国の消費財企業に出現していることは以下の文献によって確認できる。

Hinds, Hayes, Sanderson, Sachar, and Samson(2016)によれば,2010年ごろにColgate-Palmolive社にFabian GarciaがCGOに任命され,続いて,2014年前後にKellogg CompanyにPaul NormanがCGOに就任している。これらに引き続き,Mondelez, Tyson Foods, Constellation Brands, ConAgra, Coty社などの消費財企業に2016年までにCGOが設置されている。

CMOがCGOにとって代わるべき形態であると指摘したのはMcDonagh(2013)で,彼はBtoBのクラウドサービス企業のCMOであった。McDonaghは,マーケティングは特定のサービス領域に留まらず,より広い領域をカバーすべきで,そのためにはマーケティング関係の人材の成長が必要だと主張している。Forbesの記事(Ellet, 2016)はChief Growth Officerという役職が設置されるようになったことを伝えている。さらに,エグゼクティブサーチ会社Russell Reynolds Associates社のCGOに関する調査報告書がある(Hinds et al., 2016)。

米国の広告・マーケティングの専門誌ADWEEKで,米国の大手技術リサーチ会社であるForrester Research社は,CGOがCMOにとって代わると指摘している(Jackson, 2017; Johnston, 2017)。また,以下のように実際にCMOを廃してCGOを設置する事例が有力企業において出てきた。このように見てくると,CGOという役職が出現し,またCMOがCGOに「進化」すべきという論調が出てきたのは,2010年代の米国の企業社会,特に消費財業界においてであることが確認できる。

すでにCMOが広告やプロモーションなど狭い役割にとどまっており,消費者行動や意思決定が変化しメディアが「断片化」している状況から,CMOはより広い領域や任務を担うべきであるという意見が00年代から出されていた(Court, 2007)。こうした限定されたCMOの役割に見切りをつけ,CMOに代わってCGOを2017年に実際に任命したのはCoca-Cola社だった(Melnick, 2017)。同社は対消費者と流通の担当と戦略部門をひとつにし,5つの戦略カテゴリーを横断して成長を図るためのCGOを任命した(Odell, 2017)。CGOを任命したのは同社が初めてではなかったものの,こうした同社の動きは消費者商品業界に反響を与え,CMOとCGOとはどう異なるのかが議論された(Andrews, 2017)。

同社がCGOを設置した理由はCoca-Cola社を成長志向で顧客中心の企業にするためとされている。CMO解雇の一因は同社の売上の低迷であり2012年に480億ドルであった世界の売上額が2016年には443億ドルに減少している。

ここで考えるべき問題は,なぜ消費財企業にほかの産業よりも先にCGOが設置されるようになったかである。Hinds et al.(2016)はCGO出現の背景として,①商品カテゴリーの低迷,②運営コストの上昇,③小売業者パワーの上昇,④デジタル破壊,⑤アクティビスト投資家の存在,⑥消費者パワーの増大と細分化の6つの要因を挙げている。

さらに消費財企業にCGOが出現した背景をより深く考察するために,2010年代の消費財企業が置かれた状況を探ってみよう。有力なグローバル消費財企業で近年トップが頻繁に交代する理由として,マーケティングのデジタル化,参入障壁の容易化,消費者の行動変化,流通業のPB化,などが挙げられている(Abboud, Walker, & Fontanella-Khan, 2018)。FMCG界の巨人であるP&G社も株主のための増配を続けているものの,リーマンショック後の業績を回復できていない。2017年6月期の純利益である101億ドルという金額は,2008年6月期より16%少ない水準にとどまっている(「P&G増配優等生が直面する成長の壁」Nikkei Denshi-ban, 2018.)同社はブランドポートフォリオの入れ替えやコストカットに務めているものの,FMCG大手は,中国などの成長市場でローカル市場の競合に対して苦戦していることが伝えられている(Chin & Michael, 2014)。これらの資料の結果をまとめるならば,FMCG企業は2010年代にグローバル市場や市場環境の変化に伴って成長鈍化に見舞われており,それがFMCG業界にCMOに代わってCGOの到来を招いたと考えることができる。

(2) CGOの位置づけと職務内容

RQ2:CGOの位置づけと職務は何か

Hinds, et al.(2016)によれば,CGOという役職は,単にCMO職が拡張したというだけでなく,次の3つの重要な役割を担うと指摘している。①CEOへの信頼できるアドバイザー役,②損益計算に長けたブランド構築の専門家,③社内のコンフリクトを調整できる調整役。つまり,CGOは,①CEOに次ぐ高位のCorporate OfficerとしてCEOに進言し,②成長に力点を置きながら,③経営戦略,マーケティング,営業,およびその他関連諸機能を統合的に管掌する役割と考えられる。

次にCGOがどのような社内的位置づけにあるか,またどのような職務を担っているかを,米国の消費財業界でCGOを配置しているCoca-Cola(The Coca-Cola Company)(n.d.)およびColgate-Palmolive(Colgate-Palmolive Company)(n.d.)の事例を見て行こう。

Coca-Cola社の組織構造は,CEO直下に4つの地域営業統括部門(Operations)毎にPresident配置するとともに,同じくCEO直下のグループ本社機能を担うChief Officer(Senior Vice President)を配置している。CGOのFrancisco Crespo氏はChief Officerの一人であり,「global growth」に力点を置いて,グローバルマーケティング,経営戦略,カスタマー&コマーシャルリーダシップチームを統括している。

Colgate-Palmolive社の組織構造は,CEO直下にCOO(President)を配置し,さらにその直下にoperating unitsを配置している(地域営業統括部門と事業部のPresidentまたはVice President)。他方,CEO直下にグループ本社機能を担うChief Officerを配置している。CGOのP. Justin Skala氏はChief Officerの一人であり,グローバルマーケティング,カスタマー開発,サプライチェーン,技術開発,サステナビリティを一元的に管掌している。

これらの企業で見る限り,CGOは日常の事業別または地域別のオペレーションとは異なり,CEOの直下にあって「機能」として企業の成長を担う役割であることがわかる。

図6

CGOの組織内の位置づけ

(3) CGOの人材要件

RQ3:CGOの人材として求められる人材要件とは何か

エグゼクティブサーチ会社大手のRussell Reynoldsによる調査によれば,CGOはマーケティングの実務経験と規模の大きな事業体のジェネラル・マネジメント経験の両方を併せ持っている(Hinds et al., 2016)。また,同社は調査からの示唆として,CGOはCMOの延長線上にあるのではなく,マーケティング洞察と戦略思考とを具備する実績のあるビジネスリーダーであるとも主張している。

以下では実際のCGO二人の経歴を見ることでCGOの人材要件を確認してみたい。一人はCoca-ColaのFrancisco Crespo氏(The Coca-Cola Company)(n.d.)で,もう一人はColgate-PalmoliveのJustin Skala氏(Colgate-Palmolive Company)(n.d.)である。

Coca-Cola社のCrespo氏の経歴の特徴は,キャリアの初期に現地法人の営業・マーケティングの担当者として実務経験を積んだのち,担当する事業規模を段階的に拡大しながら,現地法人社長としてジェネラル・マネジメントの実績を積み重ねている。氏はコロンビアで産業エンジニアリングを学んだ後,1989年にCoca-Colaのエクアドル現地法人入社し,以後,ラテンアメリカ地域で営業・マーケティング・現地事業管理・現地法人経営・地域営業統括を歴任し,2017年5月より現職のCGOに就任している。CGOに就任する前の具体的な経歴は,①アルゼンチン(Commercial Director of Coca-Cola FEMSA in Buenos Aires)では営業責任者(後に全社的に展開されるカスタマーリレーションシッププログラムの導入),②チリ(GM of in Chile)では現地事業管理(低価格ブランドとの競争に勝利),③ブラジル(VP of Operations for the Brazil Business unit)では現地事業管理(事業再建を達成),④南ラテンアメリカ地域の営業統括(President of the South Latin business unit)ではアルゼンチン,ボリビア,チリ,パラグアイ,ペルー,ウルグアイの事業を統括,⑤メキシコ(メキシコは全社売上2位の中核国)では現地法人経営(ローカルボトラー達を巻き込んだ7年総額82億ドルの大型システム投資プロジェクトを完遂)となっている。

一方,Colgate-Palmolive社のSkala氏の経歴の特徴は,キャリアの初期で本社のマーケティング・セールス担当者として実務経験を積んだ後,地域営業統括者としてジェネラル・マネジメントの経験を積んでいる。1982年にColgate-Palmoliveに入社し,マーケティング・セールス・ジェネラルマネジメントを経験した後,Colgate AsiaのPresident, Colgate Latin AmericaのPresident, North America and Global SustainabilityのPresident,及びCOO, North America, Europeといった地域営業統括のポジションを歴任し,2018年7月にCGOに就任している。

以上2人の経歴から,CGOの人材要件として,以下の3点が導出される。

① キャリアの初期においてマーケティングの知識・能力を身に着けている。

② 現地法人社長あるいは地域営業統括者としてジェネラル・マネジメントを経験し成果を出している。

③ 多くの国際的ビジネスを積み重ね,異文化のマネジメント経験を有している。

4. 結論と実務的示唆

CMOに取って代わって新しいCGOという職務が2010年代の後半にかけて米国の消費財企業に出現した。米国の消費財企業はこの時期,成長の鈍化に見舞われている。そこには次のような背景がある。商品カテゴリーの成長性が低迷し,運営コストが上昇し,小売業者パワーがさらに増大した。またインターネットやICT技術の進展により「デジタル破壊」が進行し,アクティビスト投資家が企業にプレッシャーをかけるようになった。さらに,消費者パワーの増大と細分化も進行しただけでなく,グローバル市場においてはローカルの巨人企業との競争において弱体化した。

CGOは組織的にはCEOの直下におかれ,CEOに進言する役割を果たすとともに,成長への施策を担い,各部署のコンフリクトを避け,各部門の機能を統合する役割を果たしている。また,CGOに任命される人材要件とは,マーケティングの知識のみならず,地域の子会社トップや営業責任者としてジェネラル・マネジメントの経験を合わせもち,同時にグローバルな市場や組織の経験を積んだ人物である。

このような米国におけるCGO設置への動きは日本企業にも重要な示唆を含んでいる。日本企業はI章とII章で見たように,CMOへの動き自体が浸透していないという課題をもっている。しかし,今後企業成長に,より積極的役割を果たす役職の設置とその役職に適した人物の育成が急務な課題となることが考えられる。

IV. 検討

本章ではI–III章の結果をまとめるとともに,企業のCMOあるいはそれに準ずる地位の役職者に対して詳細インタビューを実施して,その意味を解釈すると同時に,日本企業への実務的示唆を得ることとする。

I章では先行研究をレビューした結果,欧米の研究では00年代にCMOの設置について業績に貢献しているかどうか,実証的研究の結果でも明確には判定されなかった。しかし2010年代,ことに,Germann et al.(2015)は12年間の長期にわたる企業業績を精査して,トービンのqを企業業績の変数として用い,CMO設置企業のほうが非設置企業よりも15%高いという頑健な成果を報告している。しかしながら日本企業においてはまだこのような実証的結果は報告されていない。ここから次のようなリサーチクェスチョンを設定した。

RQ1:日本企業にはどの程度のCMOが設置されているだろうか。またどの産業分野にCMOは多いだろうか。

RQ2:日本企業でCMOを設置している企業の業績は,設置していない企業と比較して優れているだろうか。

RQ3:CMOの存在は世界的に現在どのような動きを示し,今後どのようになると予測されるだろうか。

II章では,上場企業の人事データをクローリングによって収集し,同時に2016–18年の企業業績データと照らし合わせ分析したところ,次のような結果を得た。

(1)日本の上場企業で,CMOを有する企業の割合は,CMOの定義によって異なるがおおよそ8–11%程度である。相対的に広義のCMOが多い業種は食料品,繊維製品,化学,医薬品,ゴム製品,ガラス・土石製品,電気機器,輸送機器,精密機器,情報通信,卸売業,その他金融業の12業種であり比較的BtoCカテゴリーが多い。

(2)2016年,17年,18年いずれも「CMOあり企業」が「CMOなし企業」よりも有意に規模が大きい。

(3)規模因子と,CMO設置の有無を独立変数とし,2016年度から2018年度の売上の変化率を従属変数とする重回帰分析を実行したところ,CMO設置は4.7%の増収効果をもっていた。つまり,CMOの設置は日本企業の業績にプラスのインパクトをもっている可能性がある。

さらにIII章では文献サーベイを基に,世界特に米国のCMO職務が近年どのような動きを示しているかを調査した。

発見として,有力な米国の消費財企業においてはCMOに代わってCGO(チーフグロースオフィサー)という職務が2010年代に増加していることが確認できた。このCGOという職務は,マーケティングのみならず,企業の成長を図る職務としてCEOの直下におかれ,CEOに進言する役割を果たすとともに,成長への施策を担い,各部署のコンフリクトを避け,各部門の機能を統合する役割を果たしている。またCGOとして,地域の子会社トップや営業責任者としてジェネラル・マネジメントの経験,グローバルな市場や組織の経験を積んだ人材要件が求められることもわかった。その背景として米国の消費財企業が2010年代に内外の環境変化によって成長の鈍化に見舞われていることが指摘できる。

ここでまだ未解決の研究課題とは,なぜ日本企業でCMO設置企業の方が非設置企業よりも業績の伸長率が高いのだろうか,という疑問である。この結果を解釈するために,4名の元CMOないしマーケティング担当役員にヒアリング調査を実施した。インタビュー相手は次の4名である。

1)50代男性。広告代理店,外資系コンサルティング会社,外資系消費財企業,外資系ICT企業などを経た。日本で外資系企業のマーケティング担当役員を経験している。

2)50代女性。日本で外資系消費財企業マーケティング管理職,社長職を経て,海外で消費財企業のマーケティング担当役員を経験。

3)40代男性。日系ICT企業CMO。外資系コンサルティング会社,ICT企業を経て着任。

4)40代男性。日系消費財企業マーケティング本部長。外資系消費財企業を経験。

4名のインタビューの共通項を総合化すると,以下の発見があった。

発見1.【社内資源の方向づけ】CMOは売上に責任をもつ場合と持たない場合がある。売上に責任を持たない場合,社内の色々な部門と連携し,売上を上げるすべての活動をリードする役割を担う。具体的には,BtoBであれば,「パイプライン」つまりデジタルコンテンツから送客し,その後は営業に渡すなど,リードジェネレーションを行う。BtoCであれば,どの商品に「フォーカス」するかその方針を決めて推進する。また長期・短期の活動計画を作成する。こうした方向づけのためにビジョンをもつ必要がある。また顧客がもつニーズに対して社内の異なったBUを対応させ全社のリソースを活用できるように図る。売上やPLに責任をもつとき,CMOはend to endつまり商品,広告,売上,利益のすべてのプロセスに関わる必要がある。さらにチェンジエージェントとして,変革をリードする役割も担う。

発見2.【コンフリクトマネジメント】社内の部門同士あるいはCEOなどの上級役員と部門間のコンフリクトが産まれるときに,そのすり合わせ,解決役,合意形成,コンフリクトマネジメントを行う者としてCMOが関わる。このために対人折衝能力が求められる。

発見3.【マーケティングエクセレンス開発】CMOには二種類ありPLに関わるCMOと,PLには直接かかわらず「マーケティングエクセレンス」,つまりマーケティングのスキルやノウハウ開発あるいはマーケティングイノベーションに関わるタイプのCMOがいる。KPIの設定や管理も含めてCMOが管理する場合もある。例えば,顧客満足に代わる指標の開発,リサーチの方式の定型化など。またブランドマネージャーの育成などもCMOの担当範囲となる。

発見4.【マーケットインテリジェンス】市場探索を行い,市場の中のどこに潜在的なニーズがあるかを探る。あるいは新しい事業パートナーを探すパートナリングを行う。

CMOがコミュニケーション,リサーチ,ブランドを管理するのは当然であるが,これらの部門を統括するだけでなく,上記のような幅広い任務を負わされているのが実際のCMOなのである。ここから得られた示唆とは実際のCMOは我々が文献調査で明らかにしたCGOの役割とかなり似通っているということである。

すでに引用したように,Hinds et al.(2016)によれば,CGOは①CEOに次ぐ高位のCorporate OfficerとしてCEOに進言し,②成長に力点を置きながら,③経営戦略,マーケティング,営業,およびその他関連諸機能を統合的に管掌する役割を果たしている。つまり,本インタビューで語られたCMOは実質的にはCGOの役割をかなり果たしていると考えることができるだろう。

これらの結果から,日本企業において,なぜCMO設置企業が非設置企業よりもより優れた業績を示しているかを考えると,発見1から4の,4つの役割をCMOが実際に実現できているためではないかと推察される。またこれらのCMOの役割はCGOが現在担っている役割とも重なる部分が多い。以下ではこれらの発見に基づいて本論文での発見を統合化してモデルとして捉えてみたい。それが図7のCMO/CGOと企業成長メカニズム仮説である。

図7

CMO/CGOと企業成長へのメカニズム仮説

つまり,このCMO/CGOと企業成長メカニズム仮説によれば,CMO/CGOを設置することで①社内の資源が方向付けられ,②組織間のコンフリクトが解決されることで,同じ方向に企業が向かうことを可能にし,A.企業資源が効率的に集中化される。さらに,③マーケティングエクセレンスが開発され,④マーケットインテリジェンス=市場探索を行うことで,いっそうB.企業のもつ市場対応能力が高まる。AとBの結果が合成され,業績の伸長に結びつくことが想定できるのである。

このように考えると,II章での発見,つまり,CMO設置には大企業が多いが,実際の業績への効果はより規模の小さな企業により大きい理由も解釈ができる。つまり,CMO設置の必要性は,社内資源の方向づけや組織間コンフリクトの多い大企業にとってより切実な課題として捉えられているであろう。また大企業ほどマーケティングエクセレンスを持ち,マーケットインテリジェンスも行っているために,CMOが必要とされる。しかしながら,実際にCMO設置の成果をより享受するのは,①②③④をCMOの指揮下,より効率的に運営できているより規模が小さな企業であろう。

この仮説モデルは次の実証研究につなげるためのモデルとして提出される。

最後に,本論文の限界について触れたい。II章での実証分析の基となった企業データは3年間の限定された期間であり,Germann et al.(2015)の12年間にわたるデータを用いた研究のように,より長期の観察に基づいた分析が必要とされる。また今回のデータでは,クローリングにより収集ができなかった企業も多く,さらに業績の欠損値も多かったため,これらの欠陥を今後克服する必要がある。また,データ収集期間中に人事情報をオンラインで表示していない上場企業については分析からはずれてしまう結果になる点も課題である。

またIII章のCMOからCGOへの「進化」も米国の消費財企業における一時的な流行なのか,長期的に定着する傾向なのかが判然としなかった。また消費財以外の企業への広がりも今回の文献調査の範囲でははっきりしなかった。

しかしながら,本論文ではこれまでになされなかった日本企業におけるCMO設置と業績の関係の一端を捉えた初めての研究であり,さらに,詳細インタビューに基づいて次の研究への手掛かりをつかむことができた。企業におけるマーケティングの地位を明らかにするため今後とも多くの探求が望まれる。

謝辞

企業データ収集に当たっては,株式会社Nexalの上島千鶴氏,佐藤裕之氏にお世話をかけた。ただし本論文でのありうべき間違いはすべて著者の責任に帰すべきものである。

1)  データ収集にあたっては,株式会社Nexalの協力を得た。

2)  Nexal社は上場企業のうち3,707社のデータを保有しており,このうち今回人事ニュースを検索してヒットしなかった,つまり人事情報が確認できなかった企業は430社であった。この結果,人事情報を確認できた企業数は3,277社であった。この3,277社を基数とすると,より狭義のCMO(役員,執行役員)の設置率は240社(業績欠損値企業含む)であり,社のうち,6.5%であった。

3)  日本の大手企業でもCGOを設置する動きが出てきている。資生堂は2018年11月6日付けのプレスリリースにおいて,2019年1月1日付けで,米州を統括する地域本社である資生堂アメリカズ社長CEOのMarc Rey氏が,新設するCGOに就任する旨を発表した(Shiseido, 2018)。Rey氏は,CGOとして資生堂グループがグローバルビューティー市場で成長を続けるため,新たなビジネスモデルを開拓するとともにグループ全体の成長戦略を推進する職務が付与され,資生堂グループCEOである魚谷雅彦氏の直属となる。具体的には,従来通り資生堂アメリカズ社長CEOとして米州地域ビジネスに責任を負うことに加え,グローバルプレステージメイクアッププブランド事業,およびメイクアップとデジタルのセンター・オブ・エクセレンスを管轄する。さらに新設されるTechnology Acceleration HubとグローバルM&Aチームを統括する。

田中 洋(たなか ひろし)

京都大学博士(経済学)。電通マーケティングディレクター,法政大学経営学部教授,コロンビア大学ビジネススクール客員研究員などを経て,2008年より現職。日本マーケティング学会会長,副会長を歴任。主著に『ブランド戦略論』(2017,有斐閣)など多数。

安藤 元博(あんどう もとひろ)

東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。1988年博報堂入社。博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ執行役員。著作に『マーケティング立国ニッポンへ―デジタル時代,再生のカギはCMO機能』(共著)日経BP社ほか。

髙宮 治(たかみや おさむ)

1984年明治学院大学社会学部卒業,同年博報堂入社。リレーションシップマーケティング部長,インタラクティブプラニング部長,シニアマーケティングディテクターを経てMD統括局勤務。著作に「EMM 利益を創出する統合マーケティングマネジメント」(翻訳・監修)英治出版など。

江森 正文(えもり まさふみ)

1991年早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社野村総合研究所を経て,2001年株式会社博報堂入社,2018年よりMD統括局勤務。

石田 実(いしだ みのる)

筑波大学博士(経営学)。1991年東京工業大学大学院理工学研究科修了,株式会社東京銀行などを経て,2015年より現職。著作に『コミュニティ・ジェネレーション』(共著)千倉書房ほか。

三浦 ふみ(みうら ふみ)

お茶の水女子大学卒業後,マーケティングリサーチ会社等を経て,外資系コンサルティング企業に勤務。法政大学大学院ビジネススクール修了(MBA)後,中央大学大学院戦略経営研究科博士後期課程在学中。著作に『マーケティング・リサーチ入門』(2010,ダイヤモンド社,分担執筆),「ブランド経験」概念の意義と展開:日本的ブランド経験尺度開発に向けて」『マーケティング・ジャーナル』(2016,共著)等。

References
 
© 2019 日本マーケティング学会
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