2019 年 39 巻 1 号 p. 75-87
モノづくりをする消費者が増加し,その中から高い製品成果が創出・公開され,その成果を利用し,市場で成果をあげている企業がある一方,多くの消費者の成果がいまだ活用されていないという現状がある。こうした状況下,研究者や実務家が,どのようなモノづくり動機をもつ消費者が製品成果をあげ,製品公開をするのかを理解するということは,消費者のモノづくりがもたらす市場成果を上手く活用でき,研究あるいは実務だけでなく,社会全体にとっても意義がある。こうした問題意識に対し,多くの先行研究が行われてきたが,限定的な消費者を対象にしていて,増加するモノづくりを行う消費者全体を捉えたものとはいえない。こうした中,本研究は,消費者全体にまで対象を広げた大規模サーベイによって,モノづくりをする一般的な消費者の中から,どのようなモノづくり動機をもつ消費者が製品成果をあげ,製品公開を行うのかを実証した。その結果,製品成果に対しては,消費者の功利主義的モノづくり動機が影響を与えていた。一方,製品公開に対しては,快楽主義的モノづくり動機が影響を与え,功利主義的モノづくり動機によりその影響は強められていた。
A growing number of consumers are interested in making items, as part of maker culture, and high value product solutions are being created and shared. While several companies have achieved high market performance using these solutions, many consumer solutions have not been used. Under these circumstances, it is important to understand the relationship between the motives of these consumers and the value and sharing of solutions. This helps with market performance provided by consumers' solutions and successful sharing, which is significant not only for researchers and practitioners, but also for social welfare. Many studies have examined these issues, but only in a limited number of consumers, and this behavior in all consumers is still not understood. In this study, we examined the empirical relationship of the motives of consumers with the value of user-developed solutions and sharing of these solutions, using large-scale survey data of consumers. Our findings show that the motives of utilitarian consumers affect the value of user-developed solutions, whereas those of hedonic consumers have an effect on sharing of solutions. The effect on sharing the solutions is strengthened by the motives of utilitarian consumers.
近年,料理やガーデニング,編み物,裁縫,スクラップブック作りなどに加え,3Dプリンタなどのデジタル技術を利用したモノづくりを行う消費者が増加している。こうしたモノづくりを行う消費者が,写真や動画によって,そのプロセスをブログやSNS等で公開することで,その工夫が周囲に伝染し,まわりの製品開発好きな人々を刺激する。いわゆる「メイカーズ・ムーブメント」と呼ばれる現象である(Anderson, 2012)。
こうした現象を後押しするように,3Dプリンタやレーザーカッターなどを簡単な講習を受ければ誰でも使える会員制のメイカー・スペースが拡大している。そこでは,多様なモノづくりを行う人々が出会い,アイデアを公開し,共にプロジェクトに取り組むオープンなコミュニティが形成されている(Halbinger, 2018)。さらに,消費者が自らモノづくりした製品を公開できるメイカー・フェアという大型展示会イベントも世界中で拡大している(Dougherty & Conrad, 2016)。
こうした消費者のモノづくりの中から,革新的製品が生まれている。いわゆる,「ユーザー・イノベーション」と呼ばれる現象であり,ユーザーが自ら使用する目的で製品を創造したり改良することで,革新的製品をもたらす(Ogawa, 2013; von Hippel, 2005)。日本人の3.7%の消費者が革新的製品を創出する消費者イノベーターで,自ら負担する研究開発費は,国内消費材メーカーによる研究開発費の約13%にも匹敵する(von Hippel, Ogawa, & de Jong, 2011)。さらに,消費者イノベーターの約11%が,その製品情報を仲間や企業などの他者に公開し,その情報公開した消費者の大部分は知的財産権を主張せず,誰もがアクセス可能なウェブサイトなどに投稿するなど,情報を無料で公開している(von Hippel et al., 2011)。
こうした状況は,社会全体にとって望ましい傾向である。消費者イノベーターと協力し,革新的製品を活用あるいは創出したいと考える企業にとって,そのような消費者を発見したり,アイデアを活用しやすくなるからである(Ogawa, 2013)。実際に活用した多くの企業が,成果をあげている(Lilien, Morrison, Searls, Sonnack, & von Hippel, 2002; Nishikawa & Honjo, 2011; Nishikawa, Schreier, Fuchs, & Ogawa, 2017; von Hippel, 2005)。例えば,無印良品では,消費者からのアイデアで生み出した家具製品群は,社内デザイナーによる同製品群に比べて,初年度の売上高は3倍,3年間累計の売上高では5倍を上回る(Nishikawa, Schreier, & Ogawa, 2013)。
だが,社会全体としては,大きな課題が残る。消費者イノベーターによる革新的製品のうち,わずか5%しか仲間や企業などの他者から受け入れられておらず,その95%は社会全体で埋もれた資源となっているのだ(von Hippel et al., 2011)。
このようにモノづくりをする消費者が増加し,その中から高い製品成果が創出・公開され,その成果を利用し,市場で成果をあげている企業がある一方,多くの消費者の成果は活用されていないという現状がある。
2. 消費者のモノづくり動機こうした状況下,研究者や実務家が,どのようなモノづくり動機をもつ消費者が製品成果をあげ,製品公開をするのかを理解することは,消費者のモノづくりがもたらす市場成果を上手く活用でき,研究あるいは実務にとって意義があるだけでなく,社会全体で充分に活用できず埋もれている資源を活用できるという意味で,社会的にも意義がある。こうした点が,本稿の問題意識となる。
そもそも,人間が何らかの活動を行う動機には,一般的に,内的動機と外的動機の2つの動機が存在することが知られている(Deci, 1975; Deci & Ryan, 1999; Ryan & Deci, 2000)。内的動機とは,活動に参加することの楽しさや挑戦する気持ち,そこで得られる自らのスキルの向上や他者貢献など,自身の内面から湧き上がる動機を指す。一方,外的動機とは,活動を行った結果得られる報酬や地位,名声や賞罰など,外部から与えられる要因によって生まれる動機を指す(Ryan & Deci, 2000)。
メイカー・ムーブメント研究において,消費者のモノづくりに関する内的・外的動機についての研究はあるが(Anderson, 2012; Gershenfeld, 2005),部分的記述にすぎないものが多い。加えて,モノづくりコミュニティやメイカー・スペースに参加するモノづくりを活発に行う消費者に限定されており(Halbinger, 2018; Wolf-Powers et al., 2017),自宅などで行う個人も含めたモノづくりする消費者全体を対象とした分析とはいえない。こうした中,Kwon and Lee(2017)は,限定された対象であるものの定量的分析を行った。モノづくりのオンライン・コミュニティの消費者93名を対象に,外的動機がモノづくりの頻度に対して正の影響を与え,内的動機は影響を与えていないことを実証した。だが,モノづくりによる製品成果や公開については分析されてはいない。
一方,ユーザー・イノベーション研究においても,消費者イノベーターという,さらに限定的対象ではあるが,消費者のモノづくり動機について,定量的分析も含めた多くの蓄積がある。内的・外的動機と製品成果や公開に関する多くの研究がある上に(e.g. Franke & Shah, 2003; Füller, Jawecki, & Mühlbacher, 2007; Hienerth, von Hippel, & Jensen, 2014; von Krogh & von Hippel, 2006),製品成果と関連性が高い,商品選択の購買動機に関連づけた,功利主義的・快楽主義的モノづくり動機を使い分析した研究も実施されている(Füller, 2010; Stock, Oliveira, & von Hippel, 2015)。消費者の商品選択動機は,快楽主義的動機と功利主義的動機の2つに分けられるという(Batra & Ahtola, 1990; Dhar & Wertenbroch, 2000; Voss, Spangenberg, & Grohmann, 2003)。快楽主義的動機とは,体験的な消費行動のことを指し,楽しさや興奮を期待した商品購入の動機である。功利主義的動機とは,機能的な消費行動のことを指し,機能や性能を期待した商品購入の動機である。例えば,新しい自動車を購入するときに,スポーティーなデザインで選択する場合は快楽主義,燃費や性能で選択する場合は功利主義による意思決定だという(Dhar & Wertenbroch, 2000)。
Füller(2010)は,消費者の商品選択動機と,イノベーションを創出する動機に,次のような関連性を指摘する。内的動機をもつ消費者は楽しさや娯楽など経験志向の特徴を持つために快楽主義的であり,外的動機をもつ消費者は実用的な利益を求める目標志向の特徴を持つために功利主義的であるという。Stock et al.(2015)は,モノづくりのプロセスに楽しさを感じ,経験志向で内的動機が強い消費者のモノづくり動機を「快楽主義的モノづくり動機」,実用的な利益のためにモノづくりを行い,機能や利便性を好む外的動機が強い消費者のモノづくり動機を「功利主義的モノづくり動機」と定義した上で,消費者イノベーターを対象に,それぞれの動機とユーザーが創り出した製品成果との関係性について分析した。この研究は,消費者のモノづくり動機を整理し,製品成果との関係を提示したという点で大きな貢献がある。だが,調査対象が限定される上に,モノづくり動機と製品公開との関係は明らかではなく,本稿の問題意識に応えるには至っていない。
そこで,本稿の目的は,消費者の功利主義的モノづくり動機あるいは快楽主義的モノづくり動機と,その製品成果および公開との関係を,モノづくりを行う消費者を対象にした大規模サーベイデータを用いて,実証的に明らかにするものである。
関連する先行研究からは,消費者の功利主義的モノづくり動機が,製品成果に影響を与えるといえる。
まず,ユーザー・イノベーション研究によれば,消費者がイノベーションを創出する最大の理由は既存製品への不満であり,自分に合った製品を手に入れたいという動機が強い(von Hippel, 2005)。Hienerth, von Hippel, and Jensen(2014)は,消費者イノベーター200名を対象に,5つの動機(個人的な利用,販売から得られる可能性のある利益,プロセスに参加する楽しさ,スキルの向上,他者を助けたい)に100ポイントの得点を配分させて,モノづくり動機の相対的な重要性を明らかにしようとした。その結果,成果物から得られる利益を優先する外的動機(個人的な利用,販売から得られる可能性のある利益)には全体の約62%の得点が,プロセスに関わる内的動機(プロセスに参加する楽しさ,スキルの向上,他者を助けたい)には約35%の得点が振り分けられた。つまり,製品成果において,功利主義的モノづくり動機の重要性は相対的に高いといえる。
Stock et al.(2015)は,消費者イノベーターが持つ快楽主義的モノづくり動機の高さが製品の新規性に,功利主義的モノづくり動機の高さが製品の有用性に,それぞれ正の影響を及ぼすことを実証した。つまり,消費者の功利主義的・快楽主義的モノづくり動機は,新規性あるいは有用性という製品成果に影響を与えているといえる。
だが,メイカーズ・ムーブメント研究によれば,モノづくりする消費者の功利主義的モノづくり動機は高いとはいえない。消費者は,性能の高い製品を得たいといった功利主義的モノづくり動機ではなく,モノづくり活動そのものが持つ楽しさや知的な刺激,スキル向上などの快楽主義的モノづくり動機によってモノづくりを行うからである(Anderson, 2012; Gershenfeld, 2005)。
以上より,製品成果をもたらす消費者イノベーターの功利主義的モノづくり動機は高いといえ,次の仮説を提示する。
H1:消費者の功利主義的モノづくり動機の高さが,製品成果に正の影響を与える
一方,製品成果に対して,快楽主義的モノづくり動機は直接影響を与えないという。快楽主義的モノづくり動機は,モノづくりする消費者全体で高いためである。
メイカーズ・ムーブメント研究によると,前述したようにモノづくりする消費者は,快楽主義的モノづくり動機は高い(Anderson, 2012; Gershenfeld, 2005)。Martinez and Stager(2013)は,モノづくりは自分自身の役に立つ道具を作るという意味にとどまらず,個人的な自己表現の一種だと主張する。たとえ作ったものが完璧でなくても,所有の喜びを生み出し,専門家によって完璧に作られた同じものよりも愛着を感じるという。Dougherty and Conrad(2016)も,遊び心があり,工夫を楽しみ,好奇心が強いことがモノづくりする消費者の特徴だと説明する。このように,快楽主義的モノづくり動機の重要性が強調される。さらに,製品成果に関係する創造性の研究分野においても,楽しさや熱中という動機が創造性を高めると指摘される(Amabile, 1985; Csikszentmihalyi, 1996; Deci & Ryan, 1999)。
ユーザー・イノベーション研究においても,消費者イノベーターは,快楽主義的モノづくり動機が高いといえる。ハードウェアやソフトウェアといった製品分野,コミュニティやコンテスト形式といった参加形態にかかわらず,消費者イノベーターは外的動機に加えて,強い内的動機を抱いているという(Lakhani & Wolf, 2003; Leimeister, Huber, Bretschneider, & Krcmar, 2009; von Krogh & von Hippel, 2006)。オープンソースソフトウェアのプロジェクトでは,参加者の内的動機の重要性が指摘される。プログラムそのものを自分自身が必要だから,より良い仕事やキャリアの昇進を得たいから,という外的動機だけでなく,コード作成による知的刺激を受けたい,自分自身のプログラミングスキルを向上させたい,プロジェクト参加が楽しいといった内的動機の重要性が示唆される(Lakhani & von Hippel, 2003; von Krogh & von Hippel, 2006)。モノづくりの共創プロジェクトの参加動機(Füller et al., 2007)や,アイデアコンテストの参加動機(Leimeister et al., 2009; Zheng, Li, & Hou, 2011)も,同様である。プロジェクトの参加者は,製品を必要とする「ニーズ・ドリブン」だけでなく,プロセスに喜びを覚える「エキサイティング・ドリブン」の動機も高い(Füller, 2010; Füller et al., 2007)。
このように,モノづくりを行う消費者全体において,快楽主義的モノづくり動機は高く,製品成果に対して,快楽主義的モノづくり動機が直接影響を与えるとはいえない。一方,消費者イノベーターとなるには,功利主義的・快楽主義的モノづくり動機の両方が重要であることが指摘される。だが,Stock et al.(2015)において,製品効果に対して,消費者の功利主義的・快楽主義的モノづくり動機の交互作用は検討されておらず,その両動機の関係は明確ではないという課題を明らかにする必要もある。
以上より,消費者の快楽主義的モノづくり動機は,製品成果に直接影響を与えないが,功利主義的モノづくり動機がもたらす影響を強める調整効果をもつといえ,次の仮説を提示する。
H2:消費者の功利主義的モノづくり動機の高さが製品成果に与える正の影響は,快楽主義的モノづくり動機が高いほど強まる
2. 消費者のモノづくり動機と製品公開次に,製品公開に対しては,消費者の快楽主義的モノづくり動機が影響を与えると,先行研究からいえる。
まず,メイカーズ・ムーブメント研究によれば,メイカーズ・ムーブメントにおける消費者の特徴として,消費者がモノづくりを行うだけでなく,モノづくりのプロセスを文章や写真,動画などで記録し,ブログやSNSで積極的に公開することがあげられる(Anderson, 2012; Halverson & Sheridan, 2014)。Baichtal(2014)は,製品公開する理由は,自分を表現したい,何かを言いたい,他人に影響を与えたいという衝動だと説明する。モノづくりは自己表現の手段であり,自分のアイデアをシェアすることで世界へ関与することに喜びを感じると指摘する。こうした内的動機は,快楽主義的モノづくり動機だといえる。
ユーザー・イノベーション研究においても,消費者の快楽主義的モノづくり動機が,製品公開に影響を与えるといえる。Franke and Shah(2003)は,激しいスポーツのイノベーション・コミュニティを対象に,消費者イノベーターが自らの革新的製品を他者と共有する理由は,それ自体が楽しいからだと説明する。消費者は製品を販売するつもりがないため,製品情報を隠す理由はなく,むしろ公開することで情報を交換できることが彼ら自身の楽しみにつながるという。Füller et al.(2007)は,バスケットシューズのイノベーション・コミュニティを対象に,消費者イノベーターが情報を公開するのは,活動自体が楽しくてやりがいがあるから,他者の助けになることが嬉しいからという動機をあげる。
以上より,消費者の快楽主義的モノづくり動機が製品公開に強く影響を与えているといえ,次の仮説を提示する。
H3:消費者の快楽主義的モノづくり動機は,製品公開に正の影響を与える
一方,製品公開に対して,功利主義的モノづくり動機は直接影響を与えないといえる。多くのモノづくりを行う消費者にとって,製品公開と功利主義的モノづくり動機とは,関係がないからである。
ユーザー・イノベーション研究では,多くの消費者イノベーターが公開に理由をもたないという。Ogawa and Pongtanalert(2013)は,消費者イノベーターを対象に,コミュニティ所属の有無と製品公開の動機の関係を分析した。消費者イノベーター577名中,コミュニティ所属イノベーターが43名(7%),単独イノベーター(コミュニティ非所属)が534名(93%)であり,製品公開はコミュニティ所属イノベーターの86%,単独イノベーターの63%が実施していた。製品公開の理由(複数選択可)は,コミュニティ所属イノベーターの多くが「他者からの承認を得たい(54%)」,「他の人の意見によって自分のアイデアをさらに発展させたい(49%)」をあげているのに対して,単独イノベーターの多くが「特に理由なく,他者からの賞賛や見返りの期待もなく(52%)」をあげていた。快楽主義的モノづくり動機と関係があるような質問の選択肢がないため,その関係までは正確に理解できないが,大多数を占める個人の消費者イノベーターの製品公開において,功利主義的モノづくり動機は関係がない上に,特に理由などないのである。だが,製品公開には,功利主義的・快楽主義的モノづくり動機の両方が関係することも指摘される。Franke and Shah(2003)は,前述したように,快楽主義的モノづくり動機と製品公開の関係を指摘するだけでなく,自ら作成した製品に対して他者から手助けを得られるという,功利主義的モノづくり動機といえる動機の存在を説明する。
メイカー・ムーブメント研究においては,多くのモノづくり消費者の製品公開と,功利主義的モノづくり動機の関係は不明であるが,ユーザー・イノベーション研究同様に,コミュニティに所属する消費者には,功利主義的モノづくり動機がみられる。Dougherty and Conrad(2016)は,「メイカー・フェア」で自分の制作物を披露する消費者の動機は,他者からの手助けを得られる,そして自分の創造性や技術の高さを周りの人に自慢したいと説明する。その一方,ユーザー・イノベーション研究と同様に,製品公開には,快楽主義的・功利主義的モノづくり動機の両方が関係することも指摘される。Baichtal(2014)は,前述したように,快楽主義的モノづくり動機の製品公開との関係を指摘する一方,自分の作ったものやその貢献によって他者からの尊敬を得たい,認知されたいという承認欲求があるとし,功利主義的モノづくり動機といえる動機との関係を示唆する。
以上より,消費者の功利主義的モノづくり動機は,製品公開に直接影響を与えないが,快楽主義的モノづくり動機がもたらす影響を強める調整効果をもつといえ,次の仮説を提示する。
H4:消費者の快楽主義的モノづくり動機が製品公開に与える正の影響は,功利主義的モノづくり動機が高いほど強まる
以上4つの仮説を整理すると,消費者の功利主義的・快楽主義的モノづくり動機と,製品成果・公開との関係の仮説モデルは図1のようになる。

消費者の功利主義的・快楽主義的モノづくり動機と,製品成果・公開についての仮説モデル
本研究では,調査会社(マクロミル)の調査パネルを対象にネットによる大規模サーベイを,2018年1月16日から19日まで実施した。
まず事前調査として,「過去3年以内に,ご自身(ないしは家族)で使用するために,道具やアクセサリー,雑貨,玩具,服飾,スポーツ用品,車,家事で使う器具,ソフトウェアなどのモノづくりの経験はありますか」という質問(Ogawa & Pongtanalert, 2011)により,60,000サンプルの有効回答を得た。そのうち,「はい」と回答したのは12,643サンプルであった。つまり,日本人のおおよそ5人に1人が,モノづくり経験があることになる。そのサンプルに対して,本調査を依頼し,「総務省統計局平成28年度国税調査結果」に基づいた人口構成比に割り付けた2,070サンプルの回答を得た時点で調査を終了した。さらに,不完全な回答を除き,2,002サンプルを対象に分析を行った。
2. 尺度 (1) 従属変数1つめの従属変数は,製品成果(有=1,無=0)であり,ユーザー・イノベーションといえる水準かどうかを2段階で判断した(Ogawa & Pongtanalert, 2011)。第1段階は,被験者自身の回答に基づき判定が行われた。まずは,「自身がモノづくりした製品と同様の機能を持った製品を市場で手に入れることはできますか」という質問に「はい」と答えたサンプルを除き,次に「あなたが最近モノづくりした製品は,市場で入手可能な既存製品には無い新しい機能を含んでいますか」,「あなたが最近モノづくりした製品は,市場で入手可能な既存製品の機能よりも高い機能を含んでいますか」という質問のどちらともに「いいえ」と答えたサンプルを除き,最後に「あなたが最近モノづくりした製品は,自分の仕事の業務のために行なったものですか」という質問に「はい」を選んだサンプルを除き,570サンプルを自己申告の製品成果ありとした。
第2段階は,570サンプルの製品詳細の自由回答を,イノベーションのコンサルティング業務に精通した2名に依頼し,新機能や高い機能性が欠如しているもの(例えば,PCの既製品のソフトフェアを買ってきてアップグレードした)を成果なしと判断して除き,製品成果あり(n=177)と,成果なし(n=1,825)に分類した。
もう1つの従属変数は,製品公開(有=1,無=0)である。「あなたは,最近モノづくりした製品について,他の人や企業に対して,無料または有料で見せたり,話したりして伝えましたか」という質問を行い,製品公開あり(n=691)と,公開なし(n=1,311)に分類した1)。
(2) 独立変数独立変数は,消費者の功利主義的・快楽主義的モノづくり動機の2つの概念である。消費者の功利主義的モノづくり動機に関する概念は6項目,快楽主義的モノづくり動機に関する概念は6項目を使い(Stock et al., 2015; Voss et al., 2003),リッカート7点尺度(1=全く当てはまらない,7=非常に当てはまる)を用いて測定する(表1)。

確認的因子分析
CR, Composite Reliability; AVE, Average Variance Extracted; ***p<.001,概念間相関係数 1–2間 0.457,1–3間 0.341,2–3間 0.194,全てp<.001
(3) コントロール変数製品成果に対するコントロール変数としては,5変数を利用する。まず,消費者のモノづくりの専門スキルに関する概念は3項目を使い(Füller, Matzler, & Hoppe, 2008; Stock et al., 2015),リッカート7点尺度(1=全く当てはまらない,7=非常に当てはまる)を用いて測定した(表1)。次に,モノづくり費用(材料費・交通費・機材費・レッスン費などの合計金額)は,その実数(円)を測定する(Stock et al., 2015)。続いて,回数が多いほど製品成果向上の可能性があるため,過去3年間のモノづくりの回数(実数)を利用する。さらに,年齢(実数),性別(男=1,女=0)も利用する。
製品公開に対するコントロール変数としては,5変数を利用する。年齢,性別,過去3年間のモノづくり回数に加え,コミュニティ所属(有=1,無=0)と,製品成果(有=1,無=0)を利用する。コミュニティ所属の消費者のほうが情報公開を行いやすい可能性が高く(Ogawa & Pongtanalert, 2013),そして,製品成果の結果も公開に影響を与える可能性があるからである。
3. 信頼性と妥当性まず,構成概念となる功利主義的・快楽主義的モノづくり動機,専門スキルの15項目の変数に対して,探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った。因子負荷量の基準を0.40以上,共通性の基準を0.40以上として各項目を調べたところ,いずれも数値を十分に満たし,累積因子寄与率も0.50を超えていた。
構成概念の評価として,信頼性と妥当性を確認する(表1)。まず,信頼性については,クロンバックα係数は0.8以上あり,CR(Composite Reliability)も0.6以上であり,構成概念は内的一貫性を備えている(Bagozzi & Yi, 1988)。
続いて,確認的因子分析によって構成概念の妥当性を確認する。まず,一次元性については,GFI=0.86,CFI=0.92となり,適合度が十分に高いとはいえないが,先行研究でも利用されたモデルでもあり採用した(Stock et al., 2015)2)。収束妥当性については,各構成概念に対して,すべての項目で標準化係数(因子負荷量)が有意であり,かつ0.5を超えている(Hair, Black, Babin, & Anderson, 2010)。すべてのAVE(Average Variance Extracted)は0.5以上であり,十分な妥当性を示している(Hair et al., 2010)。弁別妥当性については,それぞれの構成概念のAVEが,構成概念間の相関係数の平方を上回っており,十分な妥当性を示している(Fornell & Larcker, 1981)。
表2は,この分析に含まれる変数の記述統計量と相関係数を示す。多重共線性に関する重大な懸念は示されていない。VIF(Variance inflation factors)は,一般的に使用されている基準よりも低かった(Hair et al., 2010)。

記述統計量と相関関係
|.047|以上の相関関係は,p<.05で有意
ロジスティック回帰分析を利用し,仮説を検定する(表3)。なお,交互作用項に使う変数のスコアをそのまま利用すると,主効果の変数との相関関係が強くなるため,功利主義的モノづくり動機と快楽主義的モノづくり動機は,それぞれ平均値からの偏差であるセンタリングしたスコアを利用する(Aiken & West, 1991; Cronbach, 1987)。さらに,下位検定のため,コントロール変数もセンタリングしたスコアを利用する。

製品成果に対するモノづくり動機(ロジスティック回帰分析)
従属変数:1=製品成果あり,0=製品成果なし,n=2,002; ***p≤.001
分析の結果,功利主義的モノづくり動機の偏回帰係数は有意で正の関係(b=.58,p<.001)であった(モデル1)。よって,仮説1は採択された。つまり,消費者の功利主義的モノづくり動機の高さが,製品成果に正の影響を与えるといえる。一方,快楽主義的モノづくり動機は,製品成果に直接影響を与えていなかった(b=-.04,p=.60)
次に,製品成果に対する功利主義的・快楽主義的モノづくり動機の交互作用についてみると(モデル2),偏回帰係数は有意ではなかった(b=.04,p=.50)。したがって,仮説2は棄却された。つまり,消費者の功利主義的モノづくり動機の高さが製品成果に与える正の影響は,快楽主義的モノづくり動機が高いほど強まるとはいえない。
2. 消費者のモノづくり動機と製品公開の結果ロジスティック回帰分析を利用し,仮説を検定する(表4)。先と同様に,功利主義的・快楽主義的モノづくり動機,コントロール変数はセンタリングして利用する。

製品公開に対するモノづくり動機(ロジスティック回帰分析)
従属変数:1=製品公開あり,0=製品公開なし,n=2,002; ***p<.001, †p<.10
分析の結果,快楽主義的モノづくり動機の偏回帰係数は有意で正の関係(b=.19,p<.001)であった(モデル1)。よって,仮説3は採択された。つまり,消費者の快楽主義的モノづくり動機は,製品公開に正の影響を与えるといえる。
次に,製品公開に対する功利主義的・快楽主義的モノづくり動機の交互作用についてみると(モデル2),マージナルなものの有意で正の関係であった(b=.05,p=.08)。交互作用項が有意であったため,モデル2をもとに,単純傾斜分析法で検定する(Aiken & West, 1991)。功利主義的モノづくり動機の高低(平均±1標準偏差)の場合において,快楽主義的モノづくり動機が製品公開に与える影響を分析する(Cohen & Cohen, 1983)。功利主義的モノづくり動機が高い場合の快楽主義的モノづくり動機の偏回帰係数(b=.25,p<.001)のほうが,低い場合の偏回帰係数(b=.14,p<.05)に比べて,製品公開に与える正の影響が強かった。つまり,消費者の快楽主義的モノづくり動機が製品公開に与える正の影響は,功利主義的モノづくり動機が高いほど強まるといえる。したがって,仮説4は採択された。
モノづくりをする消費者が増加し,その中から高い製品成果が創出・公開され,その成果を利用し,市場で成果をあげている企業がある一方,多くの消費者の成果がいまだ活用されていないという現状がある。こうした状況下,研究者や実務家が,どのようなモノづくり動機をもつ消費者が製品成果をあげ,製品公開をするのかを理解するということは,消費者のモノづくりがもたらす市場成果を上手く活用でき,研究あるいは実務にとって意義があるだけでなく,社会全体で充分に利用できず埋もれている資源を活用できるという意味で,社会的にも意義がある。こうした問題意識に対し,多くの先行研究が行われてきたが,限定的な消費者を対象にしていて,増加するモノづくりを行う消費者全体を捉えたものとはいえない。さらに,モノづくり動機と製品公開との関係も明らかにされていない。
こうした中,本研究は,消費者全体にまで対象を広げた大規模サーベイによって,モノづくりをする一般的な消費者の中から,どのようなモノづくり動機をもつ消費者が製品成果をあげ,製品公開を行うのかを実証した。製品成果に対しては,消費者の功利主義的モノづくり動機が影響を与えていた。だが,快楽主義的モノづくり動機が,その影響を強めるという調整効果をもつとはいえなかった。一方,製品効果に対しては,消費者の快楽主義的モノづくり動機が影響を与えていた。さらに,功利主義的モノづくり動機がその影響を強めるという調整効果をもつといえた。
2. 貢献本研究の学術的貢献として,2点を挙げる。第1に,ユーザー・イノベーション研究と,メイカーズ・ムーブメント研究における知見を統合した点である。消費者のモノづくり動機や,製品成果・公開との関係に対して,ユーザー・イノベーション研究では,消費者イノベーターを対象に多くの定量的研究が蓄積され,メイカーズ・ムーブメント研究では,モノづくりをする消費者全体を捉えるものの主に定性的研究が展開されるなど,それぞれ独自に研究が進められてきたのである。こうした両研究の先行研究レビューを通して,知見を整理し,新たな仮説モデルを構築できたことは,学術的に意義がある。第2に,消費者のモノづくり動機と製品成果・公開との関係をモノづくりを行う消費者への大規模サーベイを通して,実証的に解明ができたことは,資料的に価値がある。消費者イノベーターを対象にしたユーザー・イノベーション研究だけでなく,メイカーズ・ムーブメント研究においてもモノづくりコミュニティ所属の消費者という限定された対象にしか,いままで分析が実施されていなかったのである。
次に,実践的貢献として,2点を挙げる。第1に,消費者からの製品成果を求めたいと考える企業にとっては,モノづくりの実用性や既存製品の問題点を伝えるなど消費者が持つ功利主義的モノづくり動機を刺激することで,より功利主義的モノづくり動機が高い消費者の参加を促したり,そのアイデアを優先したりすることが効果的であろう。第2に,消費者の製品公開を上手く活かしたいと考える企業にとっては,モノづくりプロセスにコミュニティやゲーム要素を加えるなど,消費者が持つ快楽主義的モノづくり動機を刺激することで,より快楽主義的モノづくり動機が高い消費者を意識的に集めたり,その消費者を優先したりすることが効果的であろう。併せて,功利主義的モノづくり動機を刺激することが,調整効果をもたらす。
3. 限界と将来の研究まず第1に,快楽主義的モノづくり動機が,功利主義的モノづくり動機が製品成果にもたらす影響を強めるという調整効果がないとは,必ずしもいえないことである。単に,ユーザー・イノベーションといえる水準かどうかで判断する(Ogawa & Pongtanalert, 2011)のではなく,製品成果を有用性や新規性という2つの概念に分けたり(Stock et al., 2015),さらに,快楽主義的動機(Batra & Ahtola, 1990; Dhar & Wertenbrock, 2000; Voss et al., 2003)に対応した楽しさや興奮への期待などの概念を製品成果に追加した調査が,将来の研究として望まれる。
第2に,功利主義的モノづくり動機では充分に捉えきれていない,報酬や地位,名声や賞罰などの外的動機を考慮した分析である。こうした外的動機の重要性は,ユーザー・イノベーション研究において多く指摘される(e.g. Lakhani & von Hippel, 2003; Ogawa & Pongtanalert, 2013; von Krogh & von Hippel, 2006)。Füller(2010)は,名声や金銭的報酬も動機になることを指摘し,とりわけ金銭的報酬の提供は,消費者のアイデアを無料で搾取しているイメージを払拭するために,消費者からの成果を求めようとする企業にとって不可欠だという。同様に,メイカーズ・ムーブメント研究においても,名声や地位などの外的動機が指摘される(e.g. Baichtal, 2014; Dougherty & Conrad, 2016)。本研究では,研究の第一歩として,Stock et al.(2015)による功利主義的モノづくり動機をそのまま援用したが,将来の研究では,その再検討が必要であろう。
第3に,変化する功利主義的・快楽主義的モノづくり動機を捉えた,より複雑な分析である。Füller(2010)は,動機は時間とともに変化する可能性もあると指摘する。プロジェクトへの参加当初は,完成した製品を自分自身で使用することが動機であったが,長期的に参加する事によって,プロジェクトに関与することの楽しみや,周りの人との関わりが動機になることもあるという。こうした動機の変化を捉えることは複雑だが,より功利主義的・快楽主義的モノづくり動機と,製品成果・公開との関係を明確にできる可能性がある。
4. 結論本研究の結論としては,消費者の功利主義的モノづくり動機と快楽主義的モノづくり動機は,製品成果および公開に対して,それぞれ異なる影響を与えているということである。製品成果に対しては,消費者の功利主義的モノづくり動機が影響を与えるが,快楽主義的モノづくり動機は影響を与えていなかった。一方,製品公開に対しては,消費者の快楽主義的モノづくり動機が影響を与え,功利主義的モノづくり動機によってその影響は強められていた。
モノづくりをする消費者が増加する中,こうした異なる影響をもたらす消費者のモノづくり動機の理解を通して,消費者の製品成果・公開を上手く活用し,市場で成果をあげる企業が増え,消費者による製品成果が見過ごされ埋もれてしまうことなく,社会全体で活用されることを期待する。
担当編集委員の古川一郎先生からの本特集への招待,および非常に有意義なコメントに対し,深く感謝する。なお,本研究は株式会社マクロミルの支援,およびJSPS科研費JP15H03393, JP16H03951の助成を受けたものである。
岡田 庄生(おかだ しょうお)
法政大学大学院 経営学研究科 博士後期課程。
修士(経営学)。株式会社博報堂(本務),駒沢大学(非常勤講師)。法政大学大学院経営学研究科修士課程,2019年3月修了。
専門は,消費者行動論,マーケティング・コミュニケーション論。
西川 英彦(にしかわ ひでひこ)
法政大学経営学部 兼 大学院経営学研究科 教授。
博士(経営学)。株式会社ワールド,ムジ・ネット株式会社取締役,立命館大学経営学部准教授,同教授を経て,2010年4月より現職。