マーケティングジャーナル
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投稿査読論文
ソーシャルメディアはブランドコミュニティか,ブランドパブリックか?
― 企業公式Facebookページの分析 ―
麻里 久
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2020 年 39 巻 3 号 p. 104-115

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Abstract

ブランドコミュニティ研究にとって,ソーシャルメディアの登場によるコミュニティの変容に対する理解は重要な問題である。ソーシャルメディアをブランドコミュニティとして捉えるべきか,あるいはブランドパブリックとして捉えるべきか,その捉え方はマネジメントの方策に対しても大きな影響を及ぼすものと考えられる。既存研究において,このふたつの概念は特定の状況下で一方のみが形成されるものなのか,あるいは同じ次元で共存可能なものなのか,ふたつの可能性が示唆されてきた。しかし,後者に関する考察はあまり進んでいない。そこで本稿では,既存研究におけるブランドコミュニティとブランドパブリックというふたつの概念をそれぞれ確認しながら,企業が運営するFacebookページにおける消費者行動を観察する。その結果として,企業が運営するFacebookページにおいて,ブランドコミュニティの特性とブランドパブリックの特性がどちらも遍在していることを提示する。

Translated Abstract

In a brand community study, it is important to understand the change of the community caused by the appearance of social media. The marketing strategy depends significantly upon whether we understand social media as a brand community or brand public. The two concepts can be used to understand the dimensions of brand public and can coexist empirically with the dimensions of brand community, and/or one might be more pronounced than the other in particular cases. However, previous studies have not considered coexistence. In addition, brand public is likely to be dependent on platform property. Therefore, in this paper we confirm the previous findings of the two concepts, and we research consumer behavior in Facebook pages managed by the firm. The conclusion suggests that there are properties of both brand community and brand public on Facebook pages managed by the firm.

I. 解題

参加者同士がインターネット上でつながり,ネットワークを介して相互にコミュニケーションを図ることができるソーシャルメディアは,世界中で情報インフラとして定着しつつある。このような環境は企業のマーケティング活動にも変化をもたらしている。多くの消費者が企業やブランドについての情報を入手し,時にオンラインやオフラインの場で消費者同士語り合っている(Lovett, Peres, & Shachar, 2013)。企業がソーシャルメディアに参加することは,消費者の声をリアルタイムに分析し戦略に反映する(Lee, 2018)とともに,消費者にブランドに関する情報を広め(Kozinets, De Valck, Wojnicki, & Wilner, 2010),最終的には消費者との関係を深め,交流し,関係を構築する絶好の機会となる(Gretry, Horváth, Belei, & van Riel, 2017)。

しかし,構造的につながることができるということと,実際につながって関係を築くことの間には大きな隔たりがあるようだ。消費経験の表明が消費者同士を結びつける一方で,企業が発信するメッセージはソーシャルメディア上で消費者の抵抗を受け,時には大規模な攻撃の場として利用されることさえある(Fournier & Avery, 2011)。従って,ソーシャルメディアにおいて,どうすれば企業と消費者という関係を超えて企業と消費者が持続的に良好な関係を発展させることができるのかはマーケティング研究における重要なテーマのひとつとなり得る(Sheth, 2015)。

この問題を明らかにするための研究の枠組みとして,ブランドコミュニティ研究に注目することができる。消費者はブランドを核に集合してコミュニティを形成し,相互に作用し合うことが知られている(Muñiz & O’Guinn, 2001)。企業はブランドコミュニティを通じて消費者と関係を構築することができる(Kubota, 2003; McAlexander, Schouten, & Koenig, 2002)。初期の頃からオンラインの影響が指摘されてきたが,今日においてはソーシャルメディアを捉えるにあたっても親和性が高い(Habibi, Laroche, & Richard, 2014; Laroche, Habibi, Richard, & Sankaranarayanan, 2012; Zaglia, 2013)。しかし,近年の研究では,これまでの研究で重要だとされてきたメンバー間の相互作用が乏しく,多様な視点や経験が許容されるブランドパブリックという新たな概念も提案されている(Arvidsson & Caliandro, 2015)。

ブランドコミュニティ研究にとっても,ソーシャルメディアの登場によるコミュニティの変容に対する理解は重要な問題である。ソーシャルメディアをブランドコミュニティとして捉えるべきか,あるいはブランドパブリックとして捉えるべきか,その捉え方はマネジメントに対しても大きな影響を及ぼす。既存研究において,このふたつの概念は,特定の状況下で一方のみが形成されるものなのか,あるいは同じ次元で共存可能なものなのか,ふたつの可能性が示唆されてきた(Arvidsson & Caliandro, 2015)。しかし,共存の裏付けはなされていない。

そこで本稿では,既存研究におけるブランドコミュニティとブランドパブリックというふたつの概念をそれぞれ確認しながら,企業が運営するソーシャルメディアアカウントにおける消費者の行動を観察し,ブランドコミュニティの特性とブランドパブリックの特性がどちらも偏在していることを明らかにする。

II. 先行研究

1. ブランドコミュニティ

Muñiz and O’Guinn(2001)は,これまで血縁や地縁が基盤となって形成されてきたコミュニティが,その基盤を超越し,ブランドという現代消費の象徴とも言える概念を基盤としながら形成されていることを明らかにし,これをブランドコミュニティと呼んだ。彼らは,ブランドコミュニティを「あるブランドを称賛する人々の社会的関係の構造集合に基づく,地理的境界を持たない特殊なコミュニティ」であると定義し,(1)「ブランド」がコミュニティの核となっていること (2)地理的な制約から解放されていること (3)伝統的なコミュニティが持つ「同類意識」「儀式と伝統」「道徳的な責任の感覚」という3つの識別要素によって特徴づけられることを明らかにした。そこでは,ブランドを核として自発的に凝集し,相互に作用し合う消費者たちの姿が描き出されている。McAlexander et al.(2002)は,この概念をさらに拡張し,製品や企業のマーケターもブランドコミュニティの構成要素に含まれると指摘している。

ブランドコミュニティの概念は消費者がどのようにブランド価値を創造するかを理解するために用いられてきた(Algesheimer, Dholakia, & Herrmann, 2005; Arvidsson & Caliandro, 2015; Bagozzi & Dholakia, 2006; Schau, Muñiz, & Arnould, 2009; Thompson & Sinha, 2008)。初期の研究はオフラインが観察対象ではあったが,オンラインの影響は当初から指摘されており(Muñiz & O’Guinn, 2001),それ以降もオンラインにおける消費者の相互作用は関心の対象となり続けている(Canniford, 2011; Schau et al., 2009)。

近年ではソーシャルメディア上に生まれるコミュニティそのものをブランドコミュニティとして捉えることができるかどうかが議論のひとつの焦点となっている。Zaglia(2013)は,デジタルカメラのFacebookグループとファンページ1)に対してNetnographyを用いた分析を行い,いずれもブランドコミュニティとしての特性を持つものの,Facebookグループとファンページではその特性の強さが異なり,ファンページではメンバーシップがそれほど顕著ではなく,社会的関係やメンバーの支持はあまり重要ではないようだと結論づけている。このように企業と消費者の関係性が内包されることで,メンバーシップは希薄になる可能性がある。同様の傾向はHabibi et al.(2014)によるオンラインパネルを対象とした調査でも確認されている。

2. ブランドパブリック

ソーシャルメディアではブランドコミュニティとは異なる場が形成されていると指摘する研究も登場している。Arvidsson and Caliandro(2015)は,これまでのブランドコミュニティ研究をもとにしながら,ルイ・ヴィトンに関するTwitterの分析を行っている。彼らは,ソーシャルメディアではメンバー間の相互作用や同一性が重んじられるブランドコミュニティとは異なり,互いに対話することはないが,とりとめのない共通の関心によって構成され,多様な視点や経験が許容される新たな場が見られるとしてこれをTarde(1901)が示すパブリックの概念に倣ってブランドパブリックと呼んだ。今日のソーシャルメディアでは,既存研究が強調してきた消費者間の広い相互作用はそれほどみることができず,消費者もブランドやコミュニティとの自己同一性を感じたり凝集したりすることは少ない。その代わりとして消費者は,ブランドを自身のアイデンティティに関わる自己表現としてそれぞれに利用する。しかし,それは多様な状態にとどまり,より統合的な方向に向かうこともない。こうした空間は,もはやコミュニティというよりはパブリックとして理解されるべきである,と言うわけである。

彼らの分析は,主としてTwitterのハッシュタグや投稿に埋め込まれたURLを元に行われている。その限りにおいて,多くの投稿はそもそも他の消費者や投稿とは結びついていない。これはプラットフォームの特性が大きく関わっていると言えるだろう。Twitterはアーカイブ性に乏しく,生じた相互作用は一瞬にしてタイムラインの彼方へと消えてしまう。この特性から,議論や審議はもとより,相互作用が生じにくいと考えられ,ハッシュタグのような仲介デバイスの存在を通じてブランドパブリックが形成されると考えられる。一方で彼らは,Reply2)やMention3)もまた少ないことを指摘しており,ソーシャルメディアにおける消費者の一般的な行動特性を捉えている可能性もある。

3. 本稿の分析枠組み

このように,ソーシャルメディア上の消費者行動を捉えるために,ブランドコミュニティ研究の知見と応用はもとより,新しいブランドコミュニティ研究の展開をみてとることができる。先のArvidsson and Caliandro(2015)に従えば,情報伝達を媒介するメディアの機能を有するという共通認識の下,メンバー間の相互作用と同一性が重んじられるコミュニティであるという主張だけではなく,相互作用が乏しく,ブランドを利用した自己表現とその多様性が許容されるパブリックな場としても,新たに理解する必要がある。

既存研究において,このふたつの概念は特定の状況下で一方のみが形成されるものなのか,あるいは同じ次元で共存可能なものなのか,ふたつの可能性が示唆されてきた。しかし,共存については十分な考察がなされていない(Arvidsson & Caliandro, 2015)。また,彼らの分析はTwitterを対象にしていることから,他のプラットフォームにおいてもパブリックな場が形成されるかどうかを明らかにすることは重要な意味を持つだろう。

さらに,彼らの分析はハッシュタグと呼ばれる仲介デバイスの存在を前提にしているが,他にも同じような機能を持つ仲介デバイスが存在する可能性がある。例えば,企業がソーシャルメディア上で運営する公式アカウントはこの仲介デバイスの役割を代替しているように見える。従って本稿では,以上の仮定のもと,Facebook上で企業によって運営されている企業公式Facebookページを取り上げ,ブランドコミュニティはもとより,ブランドパブリックの性格がどのように示されるのかを確認する。

具体的には,ブランドコミュニティの条件として(1)相互作用,(2)コミュニティの核,(3)地理的な制約からの解放,(4)ブランドコミュニティの定義を構成する概念として挙げられている「同類意識」「儀式と伝統」「道徳的な責任の感覚」という3つの識別要素を中心に考察する(Muñiz & O’Guinn, 2001; Zaglia, 2013)。さらにブランドパブリックの条件として(1)持続的な相互作用の欠如・仲介による維持,(2)議論や審議の欠如,(3)集団的アイデンティティの欠如,(4)個人的アイデンティティの発現(自己提示)の4点を確認し,企業が運営するソーシャルメディアという場をマーケティングの観点からどのように捉えることが可能であるかを考察する。

III. 研究方法

1. 調査手法

リサーチクエスチョンを明らかにするために,本稿ではKozinets(2015)によって提案されたオンライン上で行う参与観察的な技法であるNetnographyを参照し,質的データ分析を行った。Netnographyは,オンライン上の文化や社会的な行動を明らかにする際に用いられる手法であり,オンライン上に集う消費者の自然発生的かつ自発的な発話や相互作用をより自然でリアルなものとして観察することが可能である。Arvidsson and Caliandro(2015)Zaglia(2013)においても採用されている手法であり,本稿の問いの特性上,調査手法を統一しておくことは望ましい。さらに,過去のブランドコミュニティ研究においてもしばしば採用されてきたことから,研究対象との親和性も高いものと考えられる(Brodie, Ilic, Juric, & Hollebeek, 2013; Kurikko & Tuominen, 2012)。

尚,Netnographyでは,その技法の基盤となっている参与観察同様に完全なる参加者と完全なる観察者という役割関係が存在する(Sato, 2002)。本稿で明らかにしたいブランドパブリックは相互作用がほとんど見られないことが大きな特徴である。従って,相互作用を生みやすい完全なる参加者の立場は適当とは言えない。Arvidsson and Caliandro(2015)においても同様のスタンスをとっていることも考慮し,本稿では完全なる観察者の立場を採用することとした。データの収集・分析に際しては現象に対する観察者の解釈をフィールドノートとして記録し,あわせて分析の材料とした。

2. 調査対象

本稿で検討するのは,日本でコカ・コーラ製品の製造と販売を行っている日本コカ・コーラ株式会社(以下,日本コカ・コーラと呼ぶ)が運用している公式Facebookページにおいて,企業のマーケターとそこに参加する消費者との間で交わされたコミュニケーションについてである。日本コカ・コーラは,2011年1月17日から世界的なソーシャルネットワークサービスであるFacebookに公式のFacebookページを開設し,消費者への情報発信やコミュニケーションに活用している。

数ある調査対象の中から本事例を選定した理由として,次の3点が挙げられる。第一に,企業の運用意図である。日本コカ・コーラは顧客との「関係構築」をSNSの利用目的として据えている4)。このことはソーシャルメディアの情報伝達以外の側面をも捉えようとする本稿の関心と合致している。

第二に,ブランド育成度である。ブランドとの関係はブランドコミュニティに影響を及ぼす(Algesheimer et al., 2005)。従って,強いブランドが育成されているかどうかはブランドコミュニティにとっては重要なポイントである。インターブランドの“Interbrand Best Global Brands 2012”のランキングによれば2011年に引き続きコカ・コーラは首位を保っている5)。このように世界的にもその強さが認められているブランドであり,なおかつ日本市場でも他の地域の市場と同様に強いブランドの構築に力をいれているコカ・コーラであれば,ブランドコミュニティが生まれやすいのではないかと推測した。

第三に,既存研究における実績である。コカ・コーラがオンラインにおいてもコミュニティの構築を進めていることは,これまでも注目されてきた(Sicilia, 2008)。

3. データの収集と分析

本稿では,調査対象である日本コカ・コーラ公式Facebookページの「投稿6)」「いいね!数」「シェア数」「コメント」「コメントに対するいいね!数」を取得した。取得したデータは,運用が開始された2011年1月17日~2013年7月29日まで7)の約2年6ヶ月間分である。

企業側からの発信である投稿の数(投稿数)は659件であった。ばらつきはあるものの,約2年6ヶ月間という期間を考えると1週間に約5件程度の投稿があった計算になる。これに対する「いいね!」の数(「いいね!」数)は886,637件となっている。投稿1件あたりの平均値は1,366.16,中央値は215であった。また,投稿がシェアされた回数(シェア数)は15,645件であった。投稿1件あたりの平均値は24.14,中央値は2である。

企業の投稿に対して消費者が書き込んだコメントの数(コメント数)は9,440件である。ただし,実際にデータとして取得でき,分析対象とすることができた有効コメント数は9,350件であった。

コメントした人の数(コメント者数)は7,395人であった8)。コメント回数別のコメント者数は,1回だけしかコメントしたことのないコメント者が88.0%,2回が7.8%,3回以上で4.2%となっている。尚,1人の最多コメント回数は38回であった。投稿1件あたりのコメント件数の平均値は14.52,中央値は2であった。さらに,コメントに対する「いいね!」数は3,219件であり,コメント1件あたりの平均値は0.35,中央値は0となっている。ほとんどのコメントに対する反応は「いいね!」ではなく,コメントで返答されるか,反応がないというものであった。

収集したデータよりコメントのみを抽出し,質的データ分析を実施した。具体的には,コメントの内容を1件1切片としてコーディングを行った。コーディングの過程においては,コメントだけではなく,そのコメントを書き込むきっかけとなった企業の投稿内容についても目を通し,どうしてそのコメントを書き込むに至ったのか,背景をさぐる材料とした。また,データの収集及びコーディングの過程において気づいた点についてはフィールドノートに記録し,あわせて分析や考察の参考とした。

質的データ分析では,解釈の妥当性が問題になるが,この点については,他の研究者との相互確認や学会報告の場を通じて,その妥当性を検討した9)。またこれらの議論とともに,データ収集時に得られた9,350件のデータ10)すべてを分析し,コーディングを複数回繰り返すことにより,より妥当性を高めるよう努めた。

また,当該データの中にはArvidsson and Caliandro(2015)の主要な主張のひとつである自己提示が出現しやすいビジュアル表現は含まれていなかった。これは当時の仕様による制約又はリテラシーの問題が原因であると推察されたことから,データの取得期間を延長し,2019年5月31日までにコメントとして投稿されたすべてのビジュアル表現を抽出した。該当する投稿は2016年11月以降の投稿に限定され,170件の写真と動画が確認されたことから,あわせて分析の対象としている。

IV. 発見事実:ブランドコミュニティとブランドパブリック

1. 相互作用

ブランドコミュニティは相互作用によってコミュニティが維持される(Hato, 2017)。ブランドパブリックは反対に相互作用がほとんど,または全く起こらず,仲介によって維持され,そこでの対話は限定的であり,持続的な相互作用が欠如しているとされる(Arvidsson & Caliandro, 2015)。Arvidsson and Caliandro(2015)の事例において,参加者は1~2回投稿してからいなくなり,定期的に戻ってくるメンバーもいない。その投稿はほぼ反応を受けず,相互作用が噛み合うことはなかった。本事例においても,1~2回だけしかコメントしたことのない者が95.8%と多くを占めることから,ブランドパブリックの条件は満たしている。しかし一方で,複数回のコメントポストを行っている者も一定数存在し,3回以上で4.2%となっており,ブランドコミュニティの特性も残されている。

続いて参加者の投稿に対する相互作用について見てみると,ほとんどのコメントに対してコメントで返答するか,無反応であった。コメントでの反応については以降確認していくが,限定的な相互作用が見られたものの,多くは無反応であったことから,持続的な相互作用が欠如している側面も見てとることができる。

Arvidsson and Caliandro(2015)の事例においては,ハッシュタグが仲介のための機能を担っていた。本事例では,ハッシュタグの代わりに,企業の投稿がテーマを設定する役割を果たし,仲介のための機能を担っていると考えられる。参加者からのコメントは原則として設定された話題に沿うものの,その方向性は相互作用をもたらし,メンバーシップを生む内容が見られる一方で,議論・審議・集団的アイデンティティが欠如したコメントの投稿も観察できる。例えば,ブランドパブリックは参加者の可視化された欲求や視点の共有の促進といった個人的な影響または模倣の波を引き起こす集団的な影響によって構成される(Arvidsson & Caliandro, 2015)と言われているが,このような書き込みは数多く観察されている。

2. コミュニティの核

ブランドコミュニティは,あるブランドを称賛する人々の集まりである(Muñiz & O’Guinn, 2001)。本事例においても,実際に参加者である消費者の書き込みからもこの点を見てとれることができる。

617-0026: やばい・・・これはコカ・コーラ好きとして飲んでみたい! というか,欲しい!

628-0007: コカ・コーラ製品はぜんぶおいしい!

一方,ブランドパブリックではブランドの周りで一貫した集団的アイデンティティを明示することはないとされる(Arvidsson & Caliandro, 2015)。本事例において,集団的アイデンティティが観察できる場面は存在するが,常に集団的アイデンティティが示されるわけではなく,むしろ限定的であった。一例を挙げると,Arvidsson and Caliandro(2015)でも見られたようなブランドを否定したり皮肉ったりするようなコメントもしばしば観察することができる。例えば「コーラ飲んでもハッピーになりません(×_×)」というコメントは,企業の「みなさんが今月ハッピーだったことは何ですか?」という話題設定に対して発言されており,周囲がポジティブなエピソードをコメントする中で発信されている。また,そのコメントの後ろには議論や打ち消しは続いていないことからも集団的アイデンティティの欠如が読み取れる。

586-0006: コーラ飲んでもハッピーになりません(×_×)

3. 地理的な制約からの解放

ブランドコミュニティは,地理的境界を持たない(Muñiz & O’Guinn, 2001)。本事例においても,参加者である消費者の書き込みにおいてこの点は顕著に現れており,地理的な境界は存在していないことが明らかである。

例えば,日本コカ・コーラでは,クリスマスシーズンになると全国各地でサンタクロースの運転手が乗ったクリスマス特別仕様のトラックを走らせているが,2012年12月3日にこの特別仕様のトラックが街中を走行している風景の写真とメッセージが投稿されると,全国各地から実際の特別仕様のトラックの目撃情報や投稿された写真の撮影場所についてのコメントなどが寄せられた。

544-0016: まさに札幌大通り公園近くで二度目撃しました!

544-0045: 那覇で見た‼ サンタさんに手を降ったら振り返してくれた(o^^o)

これ以外にも,例えば,新製品の市場投入時の投稿に対して,全国各地からコメントが連続して書き込まれたケースなども確認されている。

129-0002: あ,これ札幌で飲みました!おいしかったです☆

129-0014: 鹿児島にもありましたよ。

4. ブランドコミュニティの3つの識別要素

Zaglia(2013)同様,本稿においても,Muñiz and O’‍Guinn(2001)によって示された「同類意識」「儀式と伝統」「道徳的な責任の感覚」というブランドコミュニティの3つの識別要素を中心に確認を行った。その結果,「儀式と伝統」における当該ブランドのユーザーに特有な儀式や伝統を共有しあう行為とブランドの歴史を祝福するような行為,「道徳的な責任の感覚」における参加者によるメンバーの迎え入れは限定的な観察に留まったが,それ以外の識別要素に対応するすべての行為が観察された。

同類意識

同類意識は,ブランドに対して通常以上の繋がりを感じているかどうか,他のメンバーに対して顔見知りの有無にかかわらず何らかの親近の念を抱いているのかどうか,という2点によって特徴づけられる概念である(Muñiz & O’Guinn, 2001)。とりわけ,メンバーシップの感覚やコミュニティ同一化は,社会的アイデンティティを持つコミュニティとして認められるための重要な要素である(Algesheimer et al., 2005; Bagozzi & Dholakia, 2006)。本事例では同類意識の存在を確認することができた。

まず,参加者は単にブランドが好きというだけではなく,自身のアイデンティティの一部として捉えているとみられる書き込みを確認することができる。このような表現が参加者間で共有されている。

165-0017: コーク無いと生きて行けん

464-0002: コーラはいつでも心の友です

また,参加者は所属感や社会的アイデンティティの認知的要素の存在を示すために「私たち」といった表現を用いる(Ellemers, Kortekaas, & Ouwerkerk, 1999)。本事例では同じ記述こそ確認できなかったが,代わりに「みんな」「皆」という記述が見られた。「みんな」「皆」も同様に他メンバーに対して何らかの親近の念を抱くと同時に,何らかの所属意識を示している。

025-0009: みんなで協力しましょう!

546-0491: やっぱ,コーラやな!みんな

また,ひとつの企業からの投稿の中で,他の参加者のコメントに対して間をあけずに同意や賛同を示すコメントが連接する様子からも,同じようなファンの存在を感じながら,コメントのやりとりが行われているものと考えられる。

546-0261: このCM,好きー☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

546-0262: 私もそう思います‼

546-0660: 歌繋ぎましょう!イエェーイ!君が笑えば ↓次!

546-0661: この世界中に↓次!

546-0662: 広がる♪

さらに,ブランドコミュニティでは,メンバーによって自分たちのブランドと他のブランドとの間の境界がしばしば明示される(Muñiz & O’Guinn, 2001)。本事例の場合,参加者が競合ブランドを否定しながらコカ・コーラを支持するコメントを書き込むなど,コメントを通じて他ブランドとの境界の明示が行われている。

546-0154: 断然ペプシより,コークです( ´ ▽ ` )ノ

儀式と伝統

ブランドコミュニティは,コミュニティ内のメンバー間で共有される儀式と伝統を持つとされ,当該ブランドのユーザーに特有な儀式や伝統を共有しあう行為がみられる,ブランドの歴史を祝福するような行為がみられる,ブランドの物語を共有する行為がみられる,といった3つの行為によって特徴づけられる概念である(Muñiz & O’Guinn, 2001)。この識別要素は本事例において一部の行為において存在が確認できるものの,一部の行為は明確に確認することができなかった。

Muñiz and O’Guinn(2001)では,Saabを例に日常的に繰り返されるコミュニティ内で共有・了解された行為が挙げられている。本事例では,このような行為は確認することができなかったものの,Zaglia(2013)が主張するような共通の価値観や行動は観察されている。

例えば,ブランドを形作ってきた伝統的な製品であるビンや王冠への強いこだわりや愛着は多くの参加者のコメントに出現している。このような執着は,コカ・コーラ愛好者の中に存在している伝統的な価値観や文脈をメンバー間で共有し合う行為である。

154-0012: 絶対にビン派です!

656-0009: スクリュー? 王冠でしょ!

また,ブランドの歴史を祝福するような書き込みは限定的であったが,ブランドの歴史や物語を共有しようとする書き込みは数多く観察された。

649-0044: コカコーラの発明者は,薬剤師だったんですね!? 未開拓市場に参入して,一人1本試飲させて,やがてコカコーラ・カラーの赤色とロゴが街の至る所に見られる。さすがに,130余年続くだけはある。

道徳的な責任の感覚

道徳的な責任の感覚は,コミュニティ全体,あるいは,コミュニティの個々のメンバーに対する義務の感覚であり,メンバーを迎え入れて保ち続けること,ブランドの使用を援助することといった行為によって特徴づけられる概念である(Muñiz & O’Guinn, 2001)。本事例において,一部の行為において存在は確認できたが,明確には確認することができない行為もあった。

まず,参加者によるメンバーの迎え入れについては対応する行為は観察することができなかったが,これは恐らく企業が運営することによる影響であると考えられる。Mizukoshi, Oikawa, Hidaka, and Ota(2012)が指摘するように,かつては自生的に行われてきたコミュニティ維持活性化の活動の多くが,企業が運営するアカウントにおいては企業側のマネジメントに取り込まれつつある。本事例においても企業によるウェルカミングは観察されている。従って,この場合,ソーシャルネットワーキングにおける「歓迎」と呼ばれる実践(Schau et al., 2009)は原則として企業側が行うものとしてメンバー間で了解されている可能性がある。

Coca-Cola: 是非,お知り合いにも宣伝してくださいね!

続いて,メンバーを保ち続けるという点については参加者間の相互作用の中にコミュニティの維持活性を試みるコメントを観察することができる。例えば,新製品発売の際に「見つけられない」と言うメンバーに対して販売している場所を回答したり,さらには飲んでみた感想などが書き込まれているほか,企業側の問いかけに対して反応することでコミュニティ内のコミュニケーションを維持しようとする行動も観察されている。

214-0003: 飲みたくて探してるんですけど,見つけられないんですけど!!

214-0012: 北海道では,ハスカップありましたよ。

214-0019: ハスカップ好きです☆りんご味気になるー!!

214-0020: リンゴですか。飲みます!

214-0021: 美味しかったです。なんか懐かしい味がしました。

さらに,ブランドの使用を援助するという点については,自身が持つブランドの知識をメンバーと共有したり,購入の意思決定となるような書き込みが多く見られたほか,使用シーンや使用方法の推奨も,同様にメンバーのブランドの使用を助ける書き込みと言える。

423-0002: コカコ~ラゼロ飲みますと(グラスの絵文字)喉が乾きにくくなり,身体が持ちます。

560-1464: マグド(注:原文ママ)のハンバーガーとピザ食べる時は絶対コカコーラですね

5. 個人的アイデンティティの発現(自己提示)

本項ではArvidsson and Caliandro(2015)がブランドパブリックにおいて最も特徴的な行動として捉えている参加者による自己提示について考察を行う。

1に示すように参加者は様々な個人的な欲求や展望,あるいはブランドと関連した日常生活の状況を描写している。これはArvidsson and Caliandro(2015)が提示する自己提示の概念と酷似している。

図1

企業公式Facebookページにおける参加者の自己表現

出典:https://www.facebook.com/cocacolapark/

ある参加者はコカ・コーラのラベルをリボンにした時の様子を投稿し,ある参加者は家族とブランドの関係を語っている。また,ある参加者は卒業式という節目のイベントにおけるブランドとの経験を語っているが,これらの投稿は,前項までに見られたような参加者間の相互作用は確認することができず,一連の共通した価値観や集団的アイデンティティも認めることはできなかった。これらはブランドパブリックとしての特徴を示している。

V. 帰結

1. 理論的インプリケーション

本稿では,ソーシャルメディアのマーケティングへの影響をどのような理論的枠組みで捉えることができるかという問題意識の下,Habibi et al.(2014)Zaglia(2013)が主張してきたブランドコミュニティとArvidsson and Caliandro(2015)が新たに主張するブランドパブリックを念頭に置きながら分析してきた。前節に示されたように,本事例では,ブランドコミュニティとしての特性とブランドパブリックとしての特性が同時に観察される結果となった。

Arvidsson and Caliandro(2015)が考察しているように,ブランドコミュニティの次元とブランドパブリックの次元は経験的に共存することができるか,あるいは特定のケースにおいてどちらかが顕著になる可能性があることが示唆されてきた。しかしながら,共存の可能性についてはこれまで考察が進められてこなかった。

また,Arvidsson and Caliandro(2015)がいうブランドパブリックは,ソーシャルメディアのプラットフォームが重要な意味を有している。彼らはプラットフォームとしてTwitterを事例としながらInstagramにも言及しているが,そのほかの主要なソーシャルメディアのプラットフォームについては言及していない。Zaglia(2013)や本稿で取り上げたようなFacebookページは,掲示板のように運営者や参加者が投稿し,それに対して他の参加者が反応するという相互作用を生みやすいプラットフォーム特性を持っている。従って,相互作用を通じてメンバーシップが育まれ,ブランドコミュニティの特性を見せる場合がある。一方で,企業公式Facebookページの場合,自身のニュースフィードに流れてくる企業公式Facebookページの企業からの投稿を見て,反応することも多く,この際,反応する前に他の参加者の反応を確認することがプラットフォームの特性上,少ないであろうことが推測される。このことから,参加者によっては議論や審議はもちろん,対話したり,メンバーシップを感じたりすることもなく,多様な個人的視点が広がり,ブランドパブリックとしての特性を見せる場合があるものと考えられる。

これらの発見は,理論的には大きく2つの示唆がある。第一に,ブランドコミュニティとブランドパブリックは二項対立の概念ではないということである。本事例を通じて明らかになったように,ブランドパブリックの特性とブランドコミュニティの特性がひとつの場で同時に観察可能であることが示された。そこでは,多様な視点や経験が許容されると同時に,部分的に対話や同一化も生じうる。

第二に,両者の性格は,ソーシャルメディアのプラットフォーム特性に大きな影響を受けているという点である。一方向性が強いプラットフォームであるか,運営者や参加者が投稿し,それに他の参加者が反応するという対話を生みやすいプラットフォームであるか,アーカイブ性があるか,仲介デバイスとなりうる機能があるか,といった点によって,どちらの特性がより顕著に出現するかが左右されるものと考えられる。プラットフォーム特性の影響についてはKishiya(2016)も指摘しているが,これまでのブランドコミュニティ研究では,コミュニティを可能にするプラットフォーム特性についてはあまり議論がされてこなかった。ソーシャルメディアを対象にする場合には,こうしたプラットフォーム特性が新たに注目される必要がある。

2. 実践的インプリケーション

このような理論的な示唆は次のような実務的な示唆に転換することができる。第一に,ソーシャルメディアという場における消費者の行動がより精緻な形で明らかになったことにより,マーケティングコミュニケーションの可能性が広がるという点である。ブランドコミュニティはブランドロイヤルティを高めたり,ブランドに対する何らかの行動を生み出したりすることができる(Algesheimer et al., 2005; Bagozzi & Dholakia, 2006; Hato, 2017)。一方のブランドパブリックではブランドの様々な価値が発信され,そして拡散する(Arvidsson & Caliandro, 2015)。これらは対照的な概念であるが,いずれも利点がある。そして本稿から明らかなように,これらは共存可能であり,両者をうまく使い分けることにより企業のソーシャルメディアマーケティングの戦術の幅はより広がることとなる。

第二に,プラットフォームの選択と設定は重要であるという点である。これは多くの実務家にとって既に経験的に語られているが,今回の調査を通じて,改めてプラットフォーム特性によって場の特性も大きく影響を受けることが明らかとなり,そこでの相互作用の在り方をマネジメントすることによって場の特性に影響を及ぼせる可能性が示された。従って,目的に合わせたプラットフォームの選択・設定と相互作用のマネジメントが重要である。本稿はその参考になるだろう。

3. 本研究の限界と課題

本稿では,コメントを行う7,395人に焦点を当てたが,コメントは行わないものの「いいね!」やシェアを行う参加者やそれすらも行わない約100万人強の参加者がこの場に対してどのような意識を持っているのかについては議論できていない。彼らがどのような動機でそこにいるのかは,本研究を発展させる上で重要なポイントとなる。

また,企業が運営するアカウントはFacebookに限らず,TwitterやInstagramにおいても観察可能である。同じように両者の特性が見られるのかは改めて調査の意義があるだろう。

最後に,今回の調査では,強大なブランドでかつ活性度の高い企業アカウントを分析の対象としたが,すべての企業アカウントが同じ結果を示すとは限らない。また,内部の機制については引き続き解明が必要である。どのような場合にブランドコミュニティ又はブランドパブリックの特性が顕著に出現するのか,プラットフォーム特性以外にも先行要因が備わっているのかなどを明らかにする必要がある。

謝辞

本論文の公刊にあたり,本稿のベースとなった修士論文の指導教員である水越康介先生,中山厚穂先生,森治憲先生をはじめ,多くの先生から懇切丁寧なご指導を頂きました。また,審査の過程では,2名の匿名レビュアーの先生より示唆に富む,建設的かつ的確なコメントを頂きました。ここに記し,謝意を添えたいと思います。最後に,事例研究にご協力くださいました日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング&ニュービジネスIMC副社長(当時)鈴木祥子氏には心より御礼申し上げます。

1)  現在のFacebookページ。企業やブランドも開設することができる。Facebookグループが基本的にメンバーしかアクセスすることができない閉じたページであるのに対して,ファンページ(Facebookページ)は誰でもアクセスすることができる開いたページである。

2)  特定のユーザーに対する発信。

3)  特定のユーザーを含めた発信。

4)  一例を示すと,2012年2月6日の日経ビジネス誌の特集では日本コカ・コーラのマーケティング&ニュービジネスバイス・プレジデントの江端浩人氏を取材した記事が掲載されており,そこでは「日本コカ・コーラは,顧客との末長い関係を構築することを,SNSの利用目的に据える。」と記されている。

5)  調査対象選定時における最新の調査結果である。

6)  日本コカ・コーラ公式Facebookページでは消費者による投稿が許可されていないことから,すべての投稿は企業により行われている。

7)  2013年7月29日の投稿は2013年7月最後の投稿である。

8)  コメントした人の数(コメント者数)は,分析対象とした有効コメントをもとにカウントした。

9)  具体的な報告場所は以下の通りである。2014年,日本マーケティング学会全国大会。2015年,2015 International Conference of Asian Marketing Associations。

10)  データ収集時における日本コカ・コーラ公式Facebookページの全データである。

麻里 久(まり ひさし)

静岡大学情報学部卒業。広告会社勤務。

首都大学東京大学院社会科学研究科経営学専攻高度専門職業人養成プログラム修了(MBA)。

現在,同大学院博士後期課程在籍。

References
 
© 2020 日本マーケティング学会
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