2021 年 40 巻 3 号 p. 78-88
企業は,消費者の認知を文脈によって導くことで,少ないコストで自社商品の差別化や優位性を確保できることから,マーケティングは文脈の設定作業とさえ言われる。消費者の認知バイアスを誘発する企業のマーケティング施策の代表例に妥協効果(松竹梅効果)がある。選択肢が「松・竹・梅」と3つ用意された場合,「竹」を妥協的に選択する特性を指し,飲食店や車等の多様な業界で利用されている。しかし,既存研究では,妥協効果の出現条件として,同じメーカーブランド内における,高付加価値志向と低価格志向という商品特性に焦点を当てた例は少ない。本研究では,日本の自動車業界におけるWeb見積りを対象に,商品特性による妥協効果の差異を検証した。その結果,低価格志向である軽やコンパクトでは妥協効果が出現するが,高付加価値志向であるSUVやミニバンでは妥協効果が出現せず,最上位グレードが選ばれやすいことが明らかになった。本研究で示したとおり,各商品の特性に適合したグレードを設定することは重要な文脈設定である。