マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
購入型クラウドファンディングの成功要因
― シグナリング理論に基づく実証研究 ―
石田 大典大平 進恩藏 直人
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2021 年 40 巻 3 号 p. 6-18

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Abstract

過去のクラウドファンディング研究によって,多くの成功要因が明らかにされてきている。しかしながら,先行研究で効果的とされたAll-or-Nothing形式があまり使われていないこと,クラウドファンディング市場を取り巻く環境の変化,日本における実証研究の少なさなど,いくつかの課題も残されている。そこで本研究では,シグナリング理論に基づいて仮説を導出し,日本の大手購入型クラウドファンディング・プラットフォームで実際に取り組まれた336のプロジェクトのデータを用いて成功要因の効果を検証した。分析の結果,クラウドファンディングの成功要因として,プロジェクトの説明文が長いこと,GIF動画を利用すること,All-in形式のプロジェクトにすることの3つが浮かび上がった。また,プロジェクト情報を頻繁に更新したり,動画を用いたり,人数限定の先着割引のプロモーションを用いたりすることで,より多くの支援額を獲得できることが明らかとなった。

Translated Abstract

Prior research has revealed critical success factors in reward-based crowdfunding, but there are some remaining issues: (1) the disparity between research findings and practice, (2) the changing crowdfunding market environment, and (3) the lack of studies on Japanese crowdfunding platforms. To address these issues, we developed hypotheses on the antecedents of a successful crowdfunding campaign, drawing on signaling theory. The hypotheses were tested by analyzing data from 336 projects retrieved from a major crowdfunding platform in Japan. The results indicate that the word length of the campaign description, inclusion of animated GIFs, and an All-in model (vs. an All-or-Nothing model) have a positive effect on successful completion of a campaign. The results also provide evidence that frequent updates on project status, inclusion of videos, and limited early birds have a positive effect on the amount of fund raising.

I. はじめに

近年,クラウドファンディングの市場が急速に拡大している。日本クラウドファンディング協会の調べによると,2019年における購入型クラウドファンディングの市場規模は約169億円であり,2017年の約2.2倍となっている。購入型クラウドファンディングとは,支援者に対してその支援の見返りとして製品やサービスを提供するというタイプのクラウドファンディングである。クラウドファンディングは,インターネットを通じて不特定多数の群衆(クラウド)から資金を調達(ファンディング)する仕組みであり,小規模企業や個人であっても比較的容易に資金調達が可能となる。そのため,クラウドファンディングの起案者の多くは小規模企業や個人だが,近年では大規模企業や地方自治体の中にもクラウドファンディングを実施するところがある。このように,クラウドファンディングに対する消費者,企業,自治体などの関心は大きく高まっている。

アカデミック面においても,クラウドファンディングへの関心は高まってきている。Kickstarterのデータを用いてクラウドファンディングの成功要因を探索的に分析したMollick(2014)を嚆矢として,多くの研究者たちが成否を分ける要因を明らかにすべく実証的な知見を積み重ねてきた(e.g., Bi, Liu, & Usman, 2017; Courtney, Dutta, & Li, 2017; Lagazio & Querci, 2018; Steigenberger & Wilhelm, 2018)。近年では,そうした実証研究を基にした系統的レビュー(Shneor & Vik, 2020)や記述的レビュー(Alegre & Moleskis, 2019)も取り組まれており,いくつかの重要な要因が指摘されるようになっている。

Shneor and Vik(2020)Alegre and Moleskis(2019)によって整理されているように,クラウドファンディングの研究の蓄積とともに,いくつかの研究上の課題も浮かび上がってきた。第一に,研究成果と実態に見られる乖離である。特に,クラウドファンディングの形式に関して,Cumming, Leboeuf, and Schwienbacher(2020)Uchida(2018)では,All-or-Nothing形式(目標金額に到達しなけれ不成立となる方式)のクラウドファンディングのほうが成功しやすいことが指摘されているにもかかわらず,日本の購入型クラウドファンディングではAll-in形式(目標金額に到達しなくても成立する方式)のほうが一般的である。たとえば,2018年1月に日本で実施されたクラウドファンディングのうち,キャンプファイヤーでは約71%,マクアケでは約90%がAll-in形式だったという(Kang, 2018)。第二に,クラウドファンディング市場は成長市場であるため,先行研究の追試が求められる。成長市場であるということは,支援者として参加する消費者の層がイノベーターだけではなく,アーリーアダプターやアーリーマジョリティといった層も増加している。たとえば,マクアケの会員数を見ると,2016年末は約9万人であるのに対し,2019年末には約75万人にまで増加している。したがって,これまで成功要因とされてきた変数の有効性を確認していく必要があるだろう。もちろん,すでに述べたように,起案者側の変化も無視できない。第三に,日本における実証研究は少ないことがあげられる。Uchida(2018)Uchida and Hayashi(2018)による実証研究はあるものの,海外のクラウドファンディング・プラットフォームを分析対象とした研究と比較すると研究数は非常に少ない。

上記のような先行研究の課題を基に,本研究では以下のリサーチ・クエスチョンを設定した。第一に,先行研究で指摘されてきた成功要因は日本における購入型クラウドファンディングにおいても有効なのか。第二に,All-or-Nothing形式とAll-in形式はどちらのほうがクラウドファンディングの成功に結び付きやすいのか。これらのリサーチ・クエスチョンに取り組むため,本研究ではシグナリング理論に基づいて仮説を導出し,日本の有力クラウドファンディング・プラットフォームのデータを用いて検証する。

II. 理論的背景

1. クラウドファンディング

クラウドファンディングには,主に5つのタイプがある。第一に,購入型クラウドファンディングである。これは,上述のように支援者がその支援の対価として製品やサービスを受け取るというものである。第二に,株式型クラウドファンディングである。これは支援者に対して自社の未公開株を発行して提供するというものである。第三に,貸付型クラウドファンディングである。貸付型クラウドファンディンでは,起案者は支援者たちからプロジェクトへの融資を受ける代わりに,利息として金銭的なリターンを提供する。第四に,寄付型クラウドファンディングである。支援者は金銭的および非金銭的な見返りを得ることなく資金を起案者へ寄付するという形態である。第五に,ファンド型クラウドファンディングがある。これは,支援者たちから資金を集めてファンド化し,それを起案者へ融資するという方式である。支援者は製品やサービスの売上の一部などを配当として受け取ることができる。矢野経済研究所の調査によると,2017年度のクラウドファンディング市場は全体で約1,700億円であり,各タイプの構成比は購入型5.9%,株式型0.5%,貸付型90.2%,寄付型0.4%,ファンド型3.0%となっている(Yano Research Institute Ltd., 2018)。本研究は,購入型クラウドファンディングに焦点を当てているため,まず,その領域に関する研究をレビューしていく。

購入型クラウドファンディングの研究における主たるリサーチ・クエスチョンは,「クラウドファンディングを成功に導く要因は何か」である。先行研究は,従属変数によって大きく2つのタイプに分けられる。第一に,実際のクラウドファンディングのデータを用いて,プロジェクトの成否,達成率,支援者数などを従属変数とした研究である(e.g., Bi et al., 2017; Courtney et al., 2017; Lagazio & Querci, 2018; Steigenberger & Wilhelm, 2018)。これらの研究では,プロジェクトや起案者の特徴を独立変数として位置付け,従属変数との関係性を探っている。第二に,消費者の支援意向を従属変数とし,態度や価値観といった先行要因を明らかにしようとした研究である(e.g., Shneor & Munim, 2019; Zhang & Chen, 2019; Zhao, Chen, Wang, & Chen, 2017)。

クラウドファンディングのデータを用いた研究では,非常に多くの先行要因が扱われてきた。2010年から2017年の間に発表された論文を収集して系統的に分析したShneor and Vik(2020)は,クラウドファンディングの22の成功要因を挙げ,3つのカテゴリー(起案者の特徴,プロジェクトの特徴,製品の特徴)に分類している(表1参照)。彼らの研究では,メタアナリシスのような客観的なアプローチで先行要因が整理されている。具体的には,5つ以上の研究において効果が検証されている要因のみを取り上げ,正で有意,負で有意,非有意の割合を検討している。

表1

購入型クラウドファンディングの主な成功要因

出典:Shneor and Vik(2020)

起案者の特徴とは,クラウドファンディングを行って資金を集めようという起案者の属性を表している。たとえば,起案者が技術者,非営利組織,女性といった属性であったり,過去にクラウドファンディングの経験を有していたりする場合にプロジェクトはより成功する傾向にある。プロジェクトの特徴とは,クラウドファンディングのプロジェクトがどのようにデザインされているか,あるいはどのように進められたかということである。たとえば,SNSでのシェア数が多かったり,より早い段階で一定の支援を受けたりしたプロジェクトは成功しやすい。また,説明文における動画の挿入や支援者と積極的なやり取りも有効である。製品の特徴とは,対象となる製品のコンセプトがどのようなものなのかということである。クラウドファンディングは創造的なコンセプトを実現するためのプラットフォームであり,そうした製品やサービスを求める支援者も多い。したがって,創造的なコンセプトであるほどプロジェクトは成功しやすい。

同様に,Alegre and Moleskis(2019)も2017年までに発表された論文を系統的に収集し,記述的なレビューを行い,多様な成功要因を挙げている。Shneor and Vik(2020)との大きな違いとしては,説明文における表現方法やプラットフォームの影響などを取り上げた点である。第一の説明文における表現で重要なのは,支援者との心理的距離を縮めること,自社の起業家精神をアピールできるような内容にすること,提供する製品やサービスの情報を適切に伝えることなどである。ただし,これらは製品や支援者の特性によって変わる可能性がある。たとえば,Xiang, Zhang, Tao, Wang, and Ma(2019)は,購入型クラウドファンディングでは起業家精神を訴求する表現よりも,製品情報を伝達するような表現のほうが有効であり,株式型クラウドファンディングでは逆になると主張している。第二のプラットフォームの影響として,プラットフォーム内における他のプロジェクトとの競合があげられる。クラウドファンディングの成否を分ける要因は,製品やサービスの良し悪しやプロジェクトの特徴といった内的な要因だけでなく,他のプロジェクトなどの外的な要因も考えられる。

消費者の支援意向を高める要因に関して,Zhao et al.(2017)は,社会的交換理論に基づき,製品の知覚リスク,起案者に対する信頼,起案者に対するコミットメントから説明しようとした。一方,Shneor and Munim(2019)は計画行動理論を援用し,態度,規範,行動統制感によって支援意向が高まるという仮説を検証した。また,Zhang and Chen(2019)は利他主義あるいは利己主義という支援者の価値観の影響を検討しており,複数のスタディを通じて,利己主義のほうが支援意向を高めることを明らかにしている。

2. シグナリング理論

シグナリング理論(Spence, 1973)とは,市場において情報を持つ者が情報を持たない者に対し,その意思決定に影響を及ぼすためにシグナルを送ることで情報を提供しようとするという,情報の非対称性に関する代表的な経済理論のひとつである。Spence(1973)は就職市場を取り上げながらシグナリングについて議論した。採用側の企業としては,高い能力の従業員を採用したいはずである。ところが,企業には応募者の能力はわからない。そこで,応募者は自らの能力を相手に伝えるため,観察可能な情報である学歴をシグナルとして用いるのである。一般的に,能力の高い人ほど効率的に学習できる。そのため,能力の低い人ほどの苦痛を感じることなく,大学,大学院といったより高いレベルの学業を修められる。したがって,能力の高い人ほど高い学歴を修めようと動機づけられるのである。学歴が有効なシグナルとして機能するのは,それが観察可能であり,能力によってコスト(苦痛)が変わるからである。

製品やサービスの取引に関する市場においても,売り手と買い手の間には情報の非対称性がある。販売される製品やサービスに関して,一般に,売り手は買い手よりも多くの情報を有している。そのため,シグナリング理論を援用したマーケティング研究も多く取り組まれている(e.g., Dawar & Parker, 1994; Kirmani & Rao, 2000)。多くの先行研究において共通していることは,製品の品質についての情報のシグナルとして,ブランド,デザイン,広告,価格,流通チャネルといったマーケティング上の変数を位置付けている点である。

クラウドファンディングの支援者は,店頭などで製品を手にして確認することはできない。さらに,起案者の多くは小規模の企業や個人であり,支援者にとっては初めて目にする名前がほとんどである。したがって,起案者は製品の品質や自身の信頼性を支援者に対してアピールしなければならず,様々なシグナルを用いるのである(Courtney et al., 2017; Kunz, Bretschneider, Erler, & Leimeister, 2017; Mollick, 2014)。シグナルとして用いられる要素は,基本的にクラウドファンディングのプロジェクトを掲載したウェブページ上で支援者が観察可能なものである。具体的には,特許や認証など第三者による製品評価,起案者が過去に行ったクラウドファンディングの件数,製品やサービスの説明文,解説動画などである。

クラウドファンディングで用いられるシグナルは,いくつかの視点で整理することができる。第一に,シグナルにかかるコストが高いのか,あるいは低いのかという視点である(Kunz et al., 2017; Steigenberger & Wihelem, 2018)。第二に,資金の募集期間中に可変するかどうかである(Kunz et al., 2017)。たとえば,支援者からのコメントやSNSでのシェアは,募集期間中に数が増えていく。第三に,シグナルの情報源が起案者なのか,第三者なのかという視点である(Courtney et al., 2017; Song, Wu, Ma, & Lu, 2020)。

III. 仮説の導出

本研究では,クラウドファンディングのウェブページ上から測定できる変数を取り上げ,それらの変数が資金調達の成否に及ぼす影響を検討する。独立変数は起案者のクラウドファンディングの経験,支援者からのコメントに対する返信,活動レポートの更新回数,説明文の文字数,GIF動画の存在,動画の存在,クラウドファンディングの形式,先着割引の実施である。

1. 起案者に関するシグナル

クラウドファンディングの起案者の大半は,消費者がほとんど知らない企業であり,中には個人もいる。そのため,起案者は信頼でき,プロジェクトを完遂させる十分な能力を有していることを支援者へ説得しなければならない。起案者によってクラウドファンディングの経験は様々である。豊富な経験を有する起案者もいれば,浅い経験しかない起案者や,初めてプロジェクトに挑む起案者もいる。支援者はそうした経験を基に,起案者の能力を推測することができる(Courtney et al., 2017)。過去にプロジェクトを行った起案者ほど,十分な実行力を有していると判断されやすい。したがって,起案者のクラウドファンディングの経験が多いほど,プロジェクトの成功確率は高まるだろう。

仮説1:過去にクラウドファンディングの経験があるほど,クラウドファンディング・プロジェクトは成功する傾向にある

プロジェクトの途中で寄せられる支援者からのコメントに返信したり,プロジェクトの進捗を報告したりするというのは,起案者から支援者に対して行える重要なコミュニケーションである。コメントに返信することで,支援者と起案者との間で関係性が構築される。さらに,そのやり取りを見た潜在的な支援者は,起案者に対してより好意的な態度を抱く可能性がある(Song et al., 2020)。また,プロジェクトに関する情報が更新されることで,支援者はプロジェクトの進行を理解でき,結果として知覚リスクは低減する。そのため,コメントへの返信や情報の更新といったコミュニケーションの頻度が高まるほど,支援者の起案者に対する信頼性は高まるものと思われる(Kunz et al., 2017)。Shneor and Vik(2020)によるレビュー研究においても,コメントへの返信やプロジェクト情報の更新回数は,クラウドファンディングの成功へ寄与するという研究結果が多いことが示されている。したがって,以下の仮説を設定した。

仮説2:支援者からのコメントに対して返信する場合,返信しない場合よりもクラウドファンディング・プロジェクトは成功する傾向にある

仮説3:プロジェクト情報の更新回数が多いほど,クラウドファンディング・プロジェクトは成功する傾向にある

2. 製品に関するシグナル

本研究では,製品に関するシグナルとして,説明文の長さ,GIF動画,動画という3つの要素の影響を取り上げた。説明文の文字数は,プロジェクトや製品の説明文の長さを表している。一般的に,説明文の文字数が多くなるほど,提供されている情報量も多くなる。GIF動画とは,複数の静止画を組み合わせて動いているように見せる動画である。動画はプロジェクトの説明文に埋め込まれた動画を指している。

店頭での購買とは異なり,クラウドファンディングでは支援者が製品を実際に手に取ることはできない。また,発売前の製品なので,クチコミを頼ることも不可能である。製品の品質や特性を理解するためには,起案者から提供される情報を基に推測するしかない。そのため,クラウドファンディングにおいては,プロジェクトの説明文,画像,そして動画は非常に重要なシグナルとなる。これらの要素の有効性は,多くの先行研究においても支持されており(Shneor & Vik, 2020),本研究においてもクラウドファンディングの重要な成功要因として考えた。

仮説4:説明文の文字数が多いほど,クラウドファンディング・プロジェクトは成功する傾向にある

仮説5:GIF動画を用いる場合,用いない場合よりもクラウドファンディング・プロジェクトは成功する傾向にある

仮説6:動画を用いる場合,用いない場合よりもクラウドファンディング・プロジェクトは成功する傾向にある

3. プロジェクトに関するシグナル

先行研究では,All-or-Nothing形式のほうがAll-in形式よりもクラウドファンディングは成功しやすいことが明らかにされている(Cumming et al., 2020; Lagazio & Querci, 2018; Uchida, 2018)。All-or-Nothingとは,期間中の資金調達が目標金額に到達しなければ,当該プロジェクトは不成立となり,起案者は資金を得られず,また支援者は資金を提供しない形式である。一方,All-inとは,期間中の資金調達が目標金額に到達しなくとも当該プロジェクトが成立し,起案者は資金を得られる一方で支援者に製品やサービスの報酬を提供する方式である。All-or-Nothing形式のほうが有効である理由について,Cumming et al.(2020)は,起案者側と支援者側の双方の視点から論じている。All-or-Nothingの場合,目標金額に到達しなければ起案者は資金を得ることができない。そのため,製品の品質が低いプロジェクトを提起する起案者は資金を得られない可能性が高く,リスクが高い。結果として,起案者にとってAll-or-Nothingを選択するという行為が,優れたプロジェクトであることのシグナルとして有効なことを意味する。一方,支援者からすると,All-or-Nothingであれば目標金額に到達ない場合は支援金を払う必要がなく,失敗する可能性があるプロジェクトへの投資を回避できる。

ところが,シグナリング理論に基づくのであれば,逆の論理も考えられる。All-in形式では支援者に対して報酬(製品)を提供する必要があるため,開発がある程度進んでおり,上市を見込める段階でなければその形式を選択できない。すなわち,All-in形式はプロジェクトの実現可能性を訴えるためのシグナルとして有効だと考えられる。また,購入型クラウドファンディングでは,支援者の主たる目的のひとつは製品を入手することである。マクロミルによる調査においても,ハイテク製品のクラウドファンディングを支援した人の約60%が,その理由として,一般販売されていない製品やサービスをいち早く入手できることを挙げている(Macromill, Inc., 2019)。そうした支援者にとっては,入手できない可能性があるAll-or-Nothingよりも,確実に入手できるAll-inのプロジェクトのほうがより魅力的であると考えられる。したがって,以下の仮説を設定した。

仮説7:All-in形式のほうが,All-or-Nothing形式よりもクラウドファンディング・プロジェクトは成功する傾向にある

先着割引とは,数量限定で価格を割り引くというプロモーション施策である。価格プロモーションを提供することによって,支援者にとっては割安で製品を購入できる。また,数量限定であるため,他者に先を越されてしまうかもしれないという競争意識を,支援者に持たせることも可能である(Aggarwal, Jun, & Huh, 2011)。そのため,数量限定の価格プロモーションは,より早期の支援を獲得しやすい。プロジェクトが始まって間もない段階から支援があると,それは潜在的な支援者に対するシグナルとなる。多くの人が評価している事実を基に,潜在的な支援者は製品の品質を推測するだろう。結果として,支援が新たな支援を呼ぶというというような連鎖反応が起こり,プロジェクトは成功しやすくなると考えられる(Shneor & Vik, 2020)。

仮説8:先着割引を行う場合,行わない場合よりもクラウドファンディング・プロジェクトは成功する傾向にある

IV. 調査設計

1. データ

本研究の仮説を検証するため,クラウドファンディング・プラットフォームにおいて実際に行われたプロジェクトのデータを用いた。具体的には,日本の大手の購入型クラウドファンディング・プラットフォームであるA社において,2018年7月から12月の間に終了した「プロダクト」カテゴリーに含まれる336プロジェクトのデータを収集した。

2. 変数

従属変数には,プロジェクトの成否と達成率を用いた。成否は支援金額が目標金額に到達したプロジェクトを1,到達しなかったプロジェクトを0とするダミー変数として扱った。達成率は支援金額を目標金額で除したものに100を乗じた値を用いた。達成率の平均値は798.150(SD=1,711.893)となり,尖度と歪度が非常に大きな値となった(尖度=5.956,歪度=51.206)。そこで,Box Cox変換(λ=.14)を行い,データを正規分布に近似させた。なお,達成率が0のプロジェクトが4つあったため,すべての値に0.1を加えたうえで変換した。その結果,尖度=.456,歪度=.032となり,シャピロ・ウィルク検定の結果も非有意となった(W=.994, p=.193)。したがって,データが正規分布しているという帰無仮説は棄却されなかった。

クラウドファンディングの経験については,同プラットフォームにおいて実施されたプロジェクトの数を測定した。応援コメントへの返信に対しては,返信している場合を1とし,返信していない場合を0とした。プロジェクトの更新回数は,終了日までに行われた活動レポートの更新回数を測定した。説明文の文字数は,プロジェクトの説明文にあるテキストの文字数をカウントした。GIF動画,動画,先着割引に関しては,それらがある場合を1とし,ない場合を0とした。クラウドファンディングの形式については,All-inを1とし,All-or-Nothingを0とするダミー変数として扱った。

プロジェクトの規模や期間による影響を統制するため,目標金額と実施日数をコントロール変数とした。また,Facebookにおけるシェア数や応援コメントは,プロジェクトの成果と関係があると考えられる。これらの要因がプロジェクトの成果を向上させるという研究もあるが(e.g., Bi et al., 2017; Kunz et al., 2017),本研究の調査設計では明確な因果関係を想定することはできないため,仮説として検討はしなかった。ただし,プロジェクトの成果と相関関係は想定されるため,コントロール変数として導入した。目標金額については,プロジェクトの目標金額をBox Cox変換(λ=−.05)したものを採用した。実施日数の算出に関して,各プロジェクトのページに終了日は記されているが,プロジェクトの開始日については記されていなかった。そのため,ページの中で確認できる最も古い日付を開始日の推定値とし,それを基に算出した。Facebookのシェア数は実際の値を採用し,応援コメントは支援者からのコメントの有無をダミー変数として扱った。

表2

変数の定義と記述統計量

表3

相関行列(n=336)

|r|>.090, p<.10; |r|>.107, p<.05; |r|>.140, p<.01,

Box Cox変換後の数値を用いている

V. 分析結果

仮説を検証するため,プロジェクトの成否を従属変数とするロジスティック回帰分析と達成率を従属変数とする線形回帰分析を実施した。クラウドファンディングの過去の経験(exp[βlog]=.010; βlin=007)とコメントへの返信(exp[βlog]=−.056; βlin=−.047)は,どちらもプロジェクトの成否と達成率に対して有意な影響を及ぼしていなかった(p>.10)。したがって,仮説1と仮説2は棄却された。プロジェクト情報の更新回数は,プロジェクトの成否に対しては有意な影響を及ぼしていなかったが,達成率に対してはプラスの影響を及ぼしていた(exp[βlog]=.158, p=.163; βlin=.115, p=.012)。したがって,仮説3は部分的に支持された。

説明文の文字数は10%水準であるものの,プロジェクトの成否と達成率に対してプラスの影響を及ぼしていた(exp[βlog]=.083, p=.085; βlin=.064, p=.062)。また,GIF動画の存在は,プロジェクトの成否と達成率どちらに対してもプラスの影響を及ぼしていた(exp[βlog]=.143, p=.022; βlin=.148, p=.001)。一方,動画の存在は,プロジェクトの成否に対しては有意な影響を及ぼしていなかったものの,達成率に対してはプラスの影響を及ぼしていた(exp[βlog]=.055, p=.183; βlin=.079, p=.023)。したがって,仮説4と仮説5は支持され,仮説6は部分的に支持された。

クラウドファンディングの形式は,プロジェクトの成否および達成率に対してプラスの影響を及ぼしていた(exp[βlog]=.102, p=.009; βlin=.084, p=.015)。したがって,仮説7は支持された。先着割引に関して,プロジェクトの成否に対しては有意な影響を及ぼしていなかったが,達成率に対してはプラスの影響を及ぼしていた(exp[βlog]=.062, p=.142; βlin=.088, p=.016)。したがって,仮説8は部分的に支持された。

表4

ロジスティック回帰分析の結果(n=336)

表5

線形回帰分析の結果(n=336)

VI. 議論

同じプラットフォームにおいて,これまでにクラウドファンディングを実施した回数という過去の経験は,プロジェクトの成否に対しても,達成率に対しても統計的に有意な影響を及ぼしていなかった。そこで追加的な検討として,クラウドファンディングの経験回数の代わりに,経験の有無(経験あり=1/経験なし=0)と,クラウドファンディングの成功回数を用いた分析を行った。その結果,経験の有無の影響(exp[βlog]=.063, p=.166; βlin=.004, p=.908)も成功回数の影響(exp[βlog]=.055, p=.413; βlin=.024, p=.253)も,有意とはならなかった。したがって,起案者の過去の経験は,シグナルとしては有効とは言えないことが示された。

これには,2つの理由が考えられる。第一に,支援者がプロジェクトの支援を決定するうえで,起案者の過去の経験はあまり考慮されていない可能性がある。今回のデータセットは「プロダクト」のカテゴリーを取り上げていたため,起案者の特徴よりも製品のデザインや品質が考慮されたのかもしれない。第二に,そもそも起案者の経験があまり参照されていない可能性がある。A社のプラットフォームでは,起案者が過去に取り組んだクラウドファンディングを見るためには,起案者の紹介ページへアクセスしなければならない。支援者はそうしたページをあまり見ていない可能性も否定できない。

支援者からのコメントに対する返信は,クラウドファンディングの結果に影響を及ぼしていなかった。このような結果となった理由として,返信までの時間や返信の内容によって,結果へ及ぼす影響が異なることが考えられる。コメントに対する返信の時間が長くなるほど,そのページを見た潜在的な支援者は,起案者がコメントを放置していると感じるだろう。一方,コメントに対して即座に返信していれば,潜在的な支援者はより好意的な態度を抱く可能性がある。実際,Song and Tian(2020)によると,支援者のコメントに対してより早く,そしてより長文の返信をすることでクラウドファンディングの成果が高まるという。また,内容も重要である。たとえば,コメントへの返信がすべて「ありがとうございました」のような杓子定規なものであれば,それを見た潜在的な支援者はあまり良い印象を抱かないと考えられる。一方,一つひとつ丁寧に返信されている場合,それが潜在的な支援者へのポジティブなシグナルになるとともに,返信をもらった支援者はクチコミで起案者の評判を広げてくれるかもしれない。

情報の更新回数が達成率へ及ぼすプラスの影響は統計的に有意だったが,プロジェクトの成否に及ぼす影響は有意とはならなかった。A社のプラットフォームでは事前の審査があり,そのことは支援者にも広く理解されている。そのため,支援者はプロジェクトの進行に関してあまり懸念を有しておらず,追加的な情報があったとしても成否にはあまり効果がないのかもしれない。ただし,情報の更新は達成率へプラスの影響を及ぼしており,より多くの支援金額の獲得に結び付くことは重要である。

説明文の文字数については,10%水準ではあるものの,仮説で検討したようにクラウドファンディングの結果に対してプラスの影響を及ぼしていた。この結果に基づくと,クラウドファンディングにおいて製品やプロジェクトの紹介文を書く際,より長い文章にするべきであると言える。ただし,やみくもに長い文章にすることを奨励するわけではない。情報量を増やしすぎると支援者は情報過負荷に陥ってしまったり,長すぎる文章へ注意を向けなくなったりするからである。実際,Moy, Chan, and Torgler(2018)においても,説明文の文字数が多すぎると,クラウドファンディングの成果へかえってマイナスの影響を及ぼすことが指摘されている。

GIF動画の有無によって,クラウドファンディングの成果が異なることが示された。GIF動画の有無が成否に及ぼす影響のオッズ比は3.634であり,十分に強いものと判断された(>3.0, Haddock, Rindskopf, & Shadish, 1998)。この結果から,GIF動画のような短時間のアニメーション動画が非常に有効であることが示された。動画の場合,クリックしなければ見られないし,音を出して聞くことが前提となっている。ところが,GIF動画の場合はページ上において自動で動く。そのため,支援者の注意を引き付けやすく,製品への関心を高められるのかもしれない。Liu, Shi, Teixeira, and Wedel(2018)においても,1~3分程度の映画の予告編より,30秒程度に短くしたコンパクトな予告編のほうが,映画の視聴意図が高まることが明らかにされている。動画に関して,達成率への影響は有意だったが,プロジェクトの成否に対する影響は有意水準を満たさなかった。動画の有無それぞれにおいて達成率を確認した結果,どちらにおいても達成率は100%を超えていたが,動画あり(M=949.55)のほうが動画なし(M=518.44)よりも高くなる傾向が示された。この結果から,動画を取り入れるとより多くの支援を得られやすいが,成否を分けるというわけではないことがわかる。

本研究で用いたデータでは,Cumming et al.(2020)Uchida(2018)とは異なり,All-in形式がクラウドファンディングの成果に対して,プラスの影響を与えていた。3.785というオッズ比を見ても,その効果は十分に強いものと判断される(>3.0, Haddock et al., 1998)。これは,仮説での議論が支持されたと考えられるが,それ以外にもプラットフォームによる影響が推測される。本研究で分析対象としたA社では,事前審査においてプロトタイプを確認し,製品やサービスの実現性をチェックするという。そうした事実は,インターネット上の記事などにおいても見ることができ,支援者の多くは認知しているものと思われる。したがって,プラットフォームに対する信頼性が高いために,All-in形式の選択によるシグナリングの効果がより強まった可能性がある。

先着割引に関して,達成率への影響は有意だったが,プロジェクトの成否に対する影響は有意水準を満たさなかった。動画の場合と同様に,先着割引の有無でも達成率を確認したところ,どちらも達成率は100%を超え,先着割引あり(M=906.35)のほうがなしより(M=408.32)も高くなる傾向が示された。したがって,より多くの支援を獲得するという点において,先着割引のプロモーションは有効だと言えるだろう。

VII. 今後の課題

本研究によって,いくつかの有用な知見が得られたが,それと同時に,今後取り組むべき課題も明らかとなった。第一に,支援者からのコメントへ返信するまでの時間や返信内容の影響に関する研究を進めるべきである。そうすることで,コメントに対する返信からクラウドファンディングの成功への影響が支持されなかった理由を明らかにできる。返信までの時間,返信回数,返信コメントの長さについてSong and Tian(2020)においても検討されているが,さらなる知見の蓄積が期待される。また,返信コメントの内容が肯定的もしくは否定的なのか,定型的もしくは非定型的なのかについてはまだ十分な議論がなされていない。

第二に,説明文のメッセージや動画の内容について,より詳細な議論を行うべきである。本研究では,GIF動画や動画の有無と説明文の文字数については検討したが,それぞれの内容にまで踏み込んだ分析はできていない。メッセージの内容についての分析を試みたAllison, Davis, Webb, and Short(2017)によると,説明文において,起案者の夢を語ったり,「私たち」「皆さんと一緒に」のような表現を用いて支援者との一体感を演出したりすることで,クラウドファンディングのプロジェクトはより成功しやすくなる。また,Xiang et al.(2019)は,購入型のクラウドファンディングでは,説明文の内容において情緒的な内容よりも情報的な内容のほうが成功しやすいことを明らかにしている。このように,何人かの研究者によって実証研究は試みられているが,解明されていない部分が多く残っている。

第三に,クラウドファンディングの成果と新製品パフォーマンスの成果に関する検討である。クラウドファンディングには開発資金の調達という目的もあるが,市場調査のために行う企業も多い。クラウドファンディングの成否によって市場を予測できるし,自らのお金を払って支援する人々の意見には参考にすべきものが多い。したがって,クラウドファンディングの市場調査としての役割を明らかにすることは,実務的にも研究的にも意義があるだろう。Stanko and Henard(2017)は,クラウドファンディングの支援者が多い製品ほど,実際に発売されたときのパフォーマンスが高くなることを明らかにしている。支援者数だけでなく,達成率といった他の指標と新製品パフォーマンスの関係性も考えられる。

クラウドファンディングはビジネスに定着しつつあり,今後,さらに重要性を高めていくものと思われる。しかし,その有効性を最大限に引き出すための条件や,企業のパフォーマンスに結び付くメカニズムほとんど解明されていない。それだけに,クラウドファンディングを巡るさらなる研究は,ビジネス面でもアカデミック面でも多くの示唆をもたらしてくれるはずである。

謝辞

本研究はJSPS科研費19H01545の助成を受けたものです。

石田 大典(いしだ だいすけ)

早稲田大学商学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。早稲田大学商学学術院助手,助教,帝京大学経済学部助教,講師を経て,現在,日本大学商学部准教授。専門は製品戦略。

大平 進(おおひら すすむ)

早稲田大学人間科学部卒業。University of Pennsylvania, School of Arts & Sciences修士課程修了。ワブコジャパン株式会社在職中に早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。早稲田大学商学学術院助手,助教を経て,現在,千葉商科大学商経学部専任講師。専門はマーケティング戦略。

恩藏 直人(おんぞう なおと)

早稲田大学商学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。現在,早稲田大学商学学術院教授。専門はマーケティング戦略。

References
 
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