漆器は,陶磁器やガラス食器などと並ぶ,日本における伝統的な食器類の一種であるものの,その需要の多くは外食業やサービス業向けの業務用に偏り,消費者用漆器は高価な工芸品に留まっているという,他の種類の食器類にはないイビツな商品構成によって特徴づけられてきた。この2種類の漆器のうちの1つである業務用漆器の一大産地,福井県鯖江市の河和田地区において,漆器に漆を塗る職人の家庭内手工業者として創業二百年の老舗である漆琳堂は,近年,普段使いの消費者用漆器を新たにデザインし,新たな販路を開拓した上で,それをいくつかの新規ブランドの下で販売することによって,消費者用漆器の巨大な新市場を創造することに成功している。本論は,その成功要因は,デザイン会社との提携,直販チャネルの構築,そして何より,漆琳堂社長で伝統工芸士の内田氏の企業家精神に存するということを論じる。