In a nutshell, digital marketing is marketing that utilizes digital technology. Digital marketing began about 30 years ago and has spread throughout society with the increased use of smartphones and new digital technologies, to the point where all marketing is now related to digital marketing. In response to these developments, there has been a great deal of research on digital marketing. The framework for understanding this research is based on digital technology and is organized into elements related to the digital environment, market research, marketing actions, marketing outcomes, and marketing strategy. This special issue includes five recent studies that focus on different areas of expertise in this research framework, but are all closely related to each other. Therefore, the results of these diverse studies assist with understanding of many different issues and will help both researchers and practitioners to broaden their horizons, beyond the marketing field. Furthermore, the rate of change of digital technology is causing many companies to use this technology in practice without full verification, and interactions between practitioners and researchers are needed to deepen knowledge in this area. Findings from the academy can promote these deeper interactions.
一言でいうと,デジタル・マーケティングは,デジタル技術を利用したマーケティングといえる。そのため,デジタル・マーケティングは,デジタル技術の発展や普及にともない,拡大・変化してきた。そのはじまりは,1990年頃,インターネットの商業利用が可能となり,同時にワールドワイドウェブ(www)が飛躍的発展を遂げ,個人のパソコンがインターネットにつながったことで,それを利用したオンライン販売や検索サイトなどのネット・ビジネスが登場したことに起因する。こうした新しいデジタルのチャネルやプロモーションを利用するために,デジタル・マーケティングがはじまった。その後,インターネットのブロードバンド(通信回線の高速・大容量)化が1999年頃からはじまり,ネット・ビジネスが拡大し,同時にデジタル・マーケティングも広がりをみせてきた。さらに2007年のiPhoneの発売を皮切りに,スマートフォンの普及がはじまり,多くの消費者や企業がいつでもどこでもインターネットでつながるデジタル社会となった(Nishikawa & Shibuya, 2019)。現在,インターネットの利用者は83.4%となり,その利用デバイスは,スマートフォンが81.8%,パソコンが60.4%,タブレット型端末が28.9%となる(Ministry of Internal Affairs and Communications, 2021)。こうしたインターネット環境やデバイスの広がりだけでなく,IoTや人工知能,深層学習,そして,コロナ禍に対し非接触技術やオンライン会議のための映像圧縮などのデジタル技術が発展を続け,デジタル・マーケティングも変化を続ける。
このように,デジタル・マーケティングは,30年ほど前からはじまり,スマートフォンの普及や新たなデジタル技術により社会全体に広がり,もはやデジタル・マーケティングと関係のないマーケティングなどはないと言っても,過言ではない状況になってきた。
こうした多くの実践に呼応するように,多くのデジタル・マーケティングの研究がおこなわれてきた。これらの研究をレビューした論文によると,デジタル・マーケティングの研究を理解するためのフレームワークは,デジタル技術をベースに,デジタル環境(デジタル社会),市場調査,マーケティング活動,マーケティング成果,マーケティング戦略に関する要素に整理される(Kannan & Li, 2017)。とりわけ,伝統的マーケティング研究との大きな違いは,デジタル環境の要素である。伝統的マーケティングの主要領域である消費者行動に加えて,ソーシャルメディアとUGC(ユーザー生成コンテンツ),プラットフォームとツーサイド市場,検索エンジン,背景(社会環境)との相互作用の研究が対象となる。なお,研究フレームワークには,要素間のインターフェース(図1の矢印)も含まれる。
デジタル・マーケティング研究のフレームワーク
出典:Kannan and Li(2017)の図1をもとに著者作成。
本特集では,こうした研究フレームワークの異なる専門領域に焦点をあてた,デジタル・マーケティングに関する,5つの最新研究を取り扱う。
まず,デジタル環境を捉えた研究として,デジタル環境下の消費者行動,プラットフォーム,検索エンジンを対象とした3つの論文がある。
1つ目の消費者行動を対象とした研究が,山本晶氏による「一時的所有行動に関する概念的検討」の論文である。モノを所有し続けるのではなく,メルカリなどに売却するという消費者行動を説明する「一時的所有行動」概念に焦点をあて,その定義や研究機会を提示したものである。近年,オンライン・プラットフォームにより生まれた,モノを一時的に利用したり,不要なモノを売却したりするという新しい消費者行動は,一時的所有行動だけでなく,リキッド消費やアクセス・ベース消費,シェアリング・エコノミーなどの概念で説明される。本研究では,それぞれの概念や,デジタル技術以前からみられる消費者行動を一覧に整理し,その差異を説明している。新しく生まれた消費者行動を体系的に理解するのに,最適な論文である。こうした理解は,新たな研究機会だけでなく,ビジネス機会をもたらすだろう。
2つ目のプラットフォームを対象にした研究が,根来龍之氏・足代訓史氏による「マーケティング機能をめぐるプラットフォームと個別事業の相互作用的進化」の論文である。プラットフォームであるLINEと,それを利用するスターバックスを取り上げ,そのマーケティング機能の拡張の歴史に焦点をあてたものである。従来のプラットフォーム研究では,利用企業は,プラットフォームの単なる利用者(補完者)としてしか扱われていなかったが,両者が協業することで,相互に影響を与え,機能を拡張していることを提示している。なかでも,協業することで,機能を共に共創するだけでなく,互いの機能を棲み分けするために競争することで,それぞれが独自の機能を拡張するという競争的共創がみられる点が面白い。こうした視点は,プラットフォームを活用する場合はもちろん,研究する際の示唆となるだろう。
3つ目の検索エンジンを対象にした研究が,遊橋裕泰氏・森田純哉氏による「地域情報ポータルにおける感性検索サービスの試行的市場投入」の論文である。地域情報ポータルサイトを取り上げ,地域に関するブログ記事を検索する際に,ポジティブ,ネガティブ,インパクトという感情表現についての評価を加えた「感性検索」に焦点をあてるものである。実務家と研究者の共同研究により,ブログ記事のテキストマイニングを行った結果,感性検索を開発し,Googleカスタム検索と比較したフィールド実験を実施し,アクセスログによる量的分析と,利用者インタビューによる質的分析を通して,感性検索の可能性を提示したものである。こうした産学連携の実践と研究は,本学会の目指すべき姿の1つであろう。
次に,マーケティング活動を捉えた研究として,デジタル環境下のチャネル,プロモーションを対象にした2つの論文がある。なお,両論文ともに,マーケティング成果との関係も分析している。
1つ目のチャネルを対象にした研究が,西原彰宏氏・新倉貴士氏による「流通機能とモバイルアプリ―探索的な消費者調査―」の論文である。アマゾン,楽天市場,ロハコなどオンライン販売のモバイルアプリを取り上げ,それらの利用実態の解明に焦点をあてるものである。こうしたアプリを,リーダー型モバイルアプリと,市場特化型や機能特化型モバイルアプリに類型化した上で,リーダー型モバイルアプリであることや,買物のスマートさと楽しさが,ロイヤルティを高めることを提示した。こうしたオンライン販売のモバイルアプリに関する体系的な理解は,新たな研究機会だけでなく,ビジネス機会をもたらすだろう。
2つ目のプロモーションを対象にした研究が,須田孝徳氏・石井裕明氏・外川拓氏・山岡隆志氏による「デバイスの違いが消費者反応に及ぼす影響―解釈レベル理論による効果の検討―」の論文である。パソコンとスマートフォンという2つのデバイスを取り上げ,解釈レベル理論における心理的距離に焦点をあて,デバイスによる消費者反応の違いを解明しようとするものである。消費者は,パソコンに比べ,スマートフォンを利用する場合に,表示内容をより近いと知覚し,解釈レベルが低くなり,そして,低次の解釈レベルと対応した広告を好む。さらに,スマートフォンに,より近いと知覚する広告が表示された場合に,実際に購入数が多くなることを提示した。3つのオンライン実験と,1つのフィールド実験を通して,段階的に解明する手法は,追試も同時に実施され,より妥当性の高い研究成果といえる。こうしたデバイスによる消費者反応の違いを深く理解することは,デバイスの活用や研究する際の示唆となるだろう。
このように,研究フレームワークにあわせて5つの論文を説明してきたが,それらの専門領域は異なるものの,密接に関連している。たとえば,4つの研究がスマートフォンを対象に,さらに,3つの研究がモバイルアプリを対象にするものである。領域が異なりつつも,その成果が他の課題解明のヒントになることが想定され,研究者も実務家も,マーケティング分野に限らず,視野を広げ研究を理解する意義があるだろう。
最後に,デジタル技術の変化が速くなっている中,企業が技術を充分に検証できずに,実践しているケースも多い(Kannan & Li, 2017)。本特集で,2つの研究で,実務家と研究者が協力したフィールド実験が実施されているように,両者が協力することで,デジタル・マーケティングに関する知見を深めることが期待できるだろう。すなわち,それは,両者の深い交流や新たな出会いを可能とする本学会の優位性でもある。