マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
小売ビジネスモデルを研究するための分析アプローチ
― 過程追跡法による事例内因果分析と質的比較分析 ―
横山 斉理東 伸一
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2022 年 41 巻 4 号 p. 53-64

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Abstract

競争の多様化に伴い小売ビジネスモデル研究の重要性が増している一方で,経験的研究は相対的に蓄積が遅れている。本稿はこの理由を考察した上で,ビジネスモデルを学術的に議論するのに適した分析アプローチとして,過程追跡法(Process Tracing Method)に基づく事例内因果分析(Within-case Causal Analysis)と質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis)を紹介した上で,両アプローチがどのような点でビジネスモデルの経験的研究をブレークスルーできるのかを議論する。

Translated Abstract

The importance of business model research has increased with diversification of competition, but the accumulation of empirical research has been relatively slow. This paper discusses the reasons for this trend and then introduces two analytical approaches suitable for academic discussion of business models: Within-case causal inference based on the Process Tracing Method and Qualitative Comparative Analysis. In addition, we discuss how both approaches can break through conventional empirical research on business models.

I. はじめに

デジタル化の進展による小売業の制度的変化を受けて,小売ビジネスモデル(以下,RBM)に対する実務的・学術的関心が高まっている。Haas(2019)のレビューによると,RBMを扱った査読付き論文は28編あるが,ほとんどは2010年代中盤以降に蓄積されている。それらは,個別企業に照準を合わせた研究(e.g., Moore & Birtwistle, 2004),RBMの構成要素を議論する研究(e.g., Reynolds, Howard, Cuthbertson, & Hristov, 2007),RBMのフレームワークを提供する研究(e.g., Sorescu, Frambach, Singh, Rangaswamy, & Bridges, 2011)などで,汎用的なRBMの統合的理解を目指す研究も出ている(Haas, 2019)。

その一方で,RBMの定量,定性を含む経験的研究は,ビジネスモデル研究の動向と同様で(Wirtz, Pistoia, Ullrich, & Göttel, 2016),十分には進展していない。Haas(2019)が挙げた28編のRBM研究の内訳は,概念的研究が3編,概念的+事例研究が10編,事例研究が5編,経験的研究は9編(定性5編,定量4編)となっている。経験的研究が十分に進展していない理由は2つあり,ひとつは,RBM研究が初期段階にあるから(Haas, 2019),もうひとつは,RBM研究が捉えようとする現象と分析アプローチに齟齬があるからである。この齟齬には2つの種類がある。

第一の齟齬は,RBM研究の対象が変化を内包することが多いことに起因する。ビジネスモデル研究の領域はイノベーション,変化と進化,成果と制御,デザインに大別できるが(Wirtz et al., 2016),これらのうち,イノベーションおよび変化と進化を研究するためには,対象を継時的に捉える必要がある。必然的に定性的なアプローチが必要になるが,現状では5編の定性的な経験的研究のうち継時的な事例分析を実施している研究は2編しかない(Cao, Navare, & Jin, 2018; Hurt & Hurt, 2005)。変化する対象を扱うことができ,かつ,理論やモデルを考察できる分析アプローチが必要となる。

第二の齟齬は,現象と分析アプローチが適合していないことに起因する。ビジネスモデル研究の領域の中でも比較的安定した現象は成果と制御に関する研究だが,この領域においても定量的な経験的研究は少なく,マクロデータを用いた検証や(Reynolds et al., 2007),統計解析を用いた3次の交互効果の検証にとどまっている(Kim & Min, 2015)。後者はStrategic Entrepreneurship Journalの掲載論文だが,ビジネスモデルは統合された系(システム)として概念化する必要があることを鑑みると(Zott & Amit, 2010),部分的な構成要素しか扱えていないと言わざるを得ない。つまり,統計解析はビジネスモデルの分析には適していない可能性がある(Täuscher, 2017)。要素の組み合わせのパフォーマンスに接近するための分析アプローチが必要となる。

以上の課題を受けて,本稿ではRBMを研究するための分析アプローチを検討する。次のII節では,変化する対象の因果経路を議論するのに適した分析アプローチとして過程追跡法に基づく事例内因果分析を紹介する。III節では,要素の組み合わせのパフォーマンスを評価するのに適した分析アプローチとして質的比較分析を紹介する。最後にIV節で,両分析アプローチの関係を述べた上で,今後の研究を展望する。

II. 過程追跡法に基づく事例内因果分析

1. 社会科学の方法論としての事例研究

極端な見方をすれば,すべての研究は事例研究(case study)であるといえる。それぞれの研究課題には何らかの分析単位あるいは分析単位の組み合わせが存在し,それらに関するデータが収集・分析されるからである。ただし,一般に解釈される事例研究による研究方法は,(1)少数(ないし単独)の事例(case)を選択し,(2)選択した事例についての数多くの側面の観察をおこない,(3)固有のコンテクストのもとでの事例の全体像を把握する(Gomm, Hammersley, & Foster, 2000)ことに優れているものと考えられている。

この意味での事例研究法の一定の意義は認められてはいるものの,ケーススタディは探索的(exploratory)な研究方法であり,その射程は特定事例をとりまく出来事を説明するための枠組みをデザインする程度にとどまる(Clarke & Primo, 2012)とする限定的な評価が一般的である。また,事例研究は単独サンプル(single-N)あるいは少数サンプル(small-N)しか入手できない研究コンテクストで用いられる次善の策であって,定量的方法論の前提と手続きに従った場合のみ一定範囲で信頼性の高い妥当な因果推論が可能である(King, Keohane, & Verba, 1994/2012)とする見方もある。事例研究は実験,サーベイ,そして歴史研究の方法にもあてはまらず,手続きも明確でない「なんでもあり(catch all)」の研究方法のカテゴリであるという批判的な目が向けられることもある(Burns, 2000)。

一方,事例分析の方法を用いることで,ある現象が「どのようにして発生したのか」,そして「なぜ」そうなったのかについての詳細な記述および分析が可能となり,研究対象となる現象が発生する深層の因果メカニズムのブラックボックスの解明がうながされる側面もある(Fiss, 2009)。また,事例研究では複雑に関連しあう共起的データと継時的データの双方を収集し,事象発生の固有コンテクストの中で多数の変数間の時系列の複雑な関係を捕捉することができる。そこから一定の法則性が見出されることもある(Gomm et al., 2000)。

単独事例の事例内分析(within-case single case study)の方法論としての強みのひとつは,構成概念をより広く深くとらえ,それらの関連を豊かに理解することを通じて理論構築に貢献しうる点である(Ridder, 2017)。比較事例分析(systematic comparison in cross-case analysis)を用いる場合には,事例間における類似性/異質性がそれぞれの事例でみられる結果とどのように関係しているかを検討することが可能である。その場合,各ケースを独立した事例としてとらえ,それぞれに観察されるメカニズムを比較することで理論的示唆が得られ,既存の理論の改善や進展,発展への貢献がなされることもあるだろう(Ridder, 2017; Vaughan, 1992)。事例分析を通じて抽出した構成概念や概念モデルを経験的研究に適用したり,QCAによる比較分析の原因条件(causal conditions)と結果(outcome)の設定に活用したりすることも可能である(Gomm et al., 2000)。

このように,社会科学の領域では1930年代には「確率論による一般化に過ぎない」と批判を浴びていた定量的研究方法が現代の主流となっているものの(Cooper, Glaesser, Gomm, & Hammersley, 2012; Zaniecki, 1934),事例研究の手続きも徐々に明示化・定式化・体系化がなされてきており(Beach & Pedersen, 2019),事例分析あるいは事例分析と他の研究方法の混合による理論構築,理論拡張,そして理論検証に対する理解が進み始めている。

2. 過程追跡法の世界観とその背景

PT法は,現実世界に生起する出来事において,その原因と結果を結ぶメカニズム―因果メカニズム(causal mechanism)―がどのように作用しているかについて,詳細な事例内分析を通じて追跡することを特徴とする単独事例分析の方法論である(Beach & Pedersen, 2019)。ここでいう「因果メカニズム」とは,多数の構成要素間の相互作用によってある結果(outcome)をもたらす複雑なシステムとしてとらえられる(Glennan, 1996)。過程追跡のプロセスは,因果メカニズムの全体像を把握するために不可欠な証拠を発見し,評価・解釈する過程である(George & Bennett, 2005)。

過程追跡とは,より具体的には,ある独立変数群が事例の結果をもたらす因果の連鎖ないし因果メカニズムを発見するための試みであるとともに(George & Bennett, 2005),単独事例の従属変数としての結果を生み出す因果過程の諸段階を歴史的なコンテクストで識別する手順でもある(Tamura, 2016)。過程追跡は,社会構造や制度,個人消費者の選好にいたるまで,さまざまな対象の中で変化が生じるメカニズムを時空間,そして事例固有のコンテクストを考慮しながら解き明かす上での貢献を期待されている(Trampusch & Palier, 2016)。

PT法は,ある歴史事例における結果をもたらした因果のダイナミクスをより深く理解することを目的とするケーススタディに適用可能なだけでない。因果的に同質な母集団において,ある原因(群)から特定の結果が生じる過程で作用する因果メカニズムの発見にも応用することができる。研究方法としてのPT法の価値は,事例内の機械論的証拠(mechanistic evidence)の丹念な収集・分析にもとづいて,ある事例における因果メカニズムの作用に関する推論を可能とする点にある。その特徴は,ある事象の原因と結果ではなく,両者の間で作用する因果メカニズムに分析の焦点を合わせていることである(図1参照)。これは,相互背反な独立変数のそれぞれが従属変数に与える影響の加算を前提とする定量的方法論とは異なる認識に基づいている(Azuma, Kim, & Yokoyama, 2021; Beach & Pedersen, 2019)。

図1

PT法と因果メカニズム(causal mechanism)

出典:Beach and Pedersen(2019)をもとに作成

PT法は1980年代の認知科学・認知心理学における個人の意思決定プロセスへの着目を起源にもつ(Ford, Schmitt, Schechtman, Hults, & Doherty, 1989)。プロセスへの注目は,その後,行動科学や比較歴史学に波及し,そこで過程追跡手続き(process-tracing procedure)が生まれた(George, 1979; Hall, 2003; Skocpol, 1984; Tilly, 1984)。社会学や政治経済学,国際政治学,比較歴史経済学など,ユニークかつ複雑な現象を時空間のコンテクストの中で研究する必要の高い領域で応用されることになり,とくに政治学の分野ではPT法の体系化の試みが盛んで,因果推論に用いる出来事の分析においてベイズ統計学の論理を援用するなど,事例分析方法としての頑健性の担保を試みる取り組みもある(Beach & Pedersen, 2019)。

経営学の近傍では組織科学のプロセス学派が,研究対象の当事者へのインタビューなどを重視した実践的なプロセス・アプローチを採用している(Langley, 2007; Van de Ven & Poole, 2005)。一方,純粋なPT法にしたがったマネジメント分野の研究も徐々にみられるようになっている。海外ではResearch PolicyやPacific Journal of Managementといった学術誌での研究成果の実績があり,国内ではTamura(2014, 2016, 2019)によるセブンイレブンやダイエー,あるいはマクロ事例としての高度成長期以降の日本の小売流通の変化を追跡した研究が代表的である。

3. RBM研究におけるPT法の活用例

(1) PT法のバリエーション

PT法には大きく4つのバリエーションが存在する(表1)。研究対象の性格や研究の目的と最も親和性が高いものが選択されるが,そこで重要となるのは研究課題が事例中心(case-centered)か,それとも理論中心(theory-centered)かである。

表1

PT法のバリエーション

出典:Beach and Pedersen(2019)をもとに作成

結果説明型PTは,観察の時間的範囲の終点における事例の結末が生起した因果メカニズムの解明が最重視される事例中心の帰納的アプローチである。これと類似しているが,先端事例や重要事例の事例内因果推論を通じた中範囲の理論の構築を目指すものが理論構築型PTである。一方,安定した現象で既存の理論が存在する場合には,理論の検証や不適合事例を用いた既存理論の修正・改善のためにPTが採用されることがある。

(2) RBMにおけるPT法の活用例

帰納と演繹アプローチのいずれが用いられるか,さらには理論との関連をどのように位置づけるかによって手順は若干異なるが,ここでは筆者らが過去に実施した結果説明型PTを用いた研究(Azuma, 2011; Azuma, Yokoyama, & Kim, 2021)をもとにその手順を簡単に整理する。例として挙げる研究では,衣料品専門店チェーンのユニクロ(とその前身の小郡商事)の創業を始点に,2000年代初頭の急落期を経た00年代半ばの長期持続成長経路への離陸時点を観察の終点として設定し,同社の復活と持続成長の因果メカニズムを探った。

まずおこなう作業は,観察対象の行動を出来事年代記(Tamura, 2016)としてデータベース化することである。各種のアーカイブデータ,有価証券報告書など財務情報を含む公開データ,出店データ,空間情報(GIS),そしてサプライヤーを含む関連主体へのインタビューなどを通じ,観察期間における事例対象の行動を網羅的に収集し,行動カテゴリごとに記録する。

それら時系列行動データに基づいて観察期間内に発生した出来事間の因果連鎖を出来事構造図としてとらえることが次のステップである。因果メカニズムを構成する出来事には時に重要な転換点(critical juncture)とそれによる経路依存(path dependence)が見出されることもあるが,多くの事例では漸進的な変化過程をたどる場合が多く,キーとなる出来事間の因果連鎖を捕捉することで観察対象に関する因果メカニズムが明らかとなる。理論構築型の場合はここで理論的検討が試みられる。また,理論検証型や理論修正型PTでは手続きの冒頭で既存理論の命題の確認がおこなわれる。

(3) RBMにおけるPT法の可能性と限界

ここまで概観したように,PT法は単独事例分析による因果推論技法として,相対的に明確な位置づけがなされ,研究の手続きの形式も明示的であり,RBM研究においてもとりわけ勃興期のビジネスモデルの生成に関する因果メカニズムを明らかにするための有効な方法であると考えられる。

一方で,PT法はRBMの生成期や変動期,あるいは長期変動をとらえるうえで強みを発揮するが,長期安定期のRBMの分析には不十分である。そのため,QCAや多変量解析など他の研究方法との混合アプローチが必要とされる。その際には,異なる存在論・認識論的前提をもつ方法を同一対象に用いることの妥当性について多面的な議論が必要となる。

III. 質的比較分析1)

1. QCAの世界観とその背景

QCAは,集合論とブール代数に基づき,結果を生み出す原因条件(causal condition)とその組み合わせ(configurations)を明らかにする分析アプローチで(Ragin, 2000, 2008),因果関係の解明を意図したミルの方法(Mill’s methods)を源流の一つとする。行をケース,列を変数(X,Y)とするデータ行列において(表2),統計解析は,縦の関係すなわちX1iが変動した際にYがどう変動するかに関心がある一方で,QCAは,横の関係すなわち,X1iがどのような組み合わせの際にYが生じるかに関心がある。

表2

データセットの例

出典:筆者作成

QCAを開発したのは政治学者のC. Raginである。もともとは社会主義の崩壊など,観察可能な事例が少なく,かつ,要因間に複雑な相互作用がある現象を分析するための方法として開発された。この背景には,社会科学において,大きなサンプルサイズに基づく多変量解析と,少数の観察対象に基づく事例分析の間の断絶という問題意識がある(図2)。QCAは少数の観察対象でも因果経路が考察できるようになることを期待して開発された。

図2

相対的研究数と各研究で用いられるケースのn数の関係

出典:Ragin (2000), p. 25.

QCAの認識論的前提は統計学とは根本的に異なる(表3)。ビジネスモデルの分析という観点から重要なのは因果関係の捉え方で,QCAは「多元結合因果(multiple conjunctural causation)」の想定を置いている。多元結合因果とは,結果を生み出す原因の組み合わせが複数あるということである。QCAは統計学とは異なり,可算性(additivity),因果関係の唯一性(permanent causality),因果効果の一様性(uniformity),因果関係の対称性(causal symmetry)を前提としない(Rihoux & Ragin, 2009)。可算性とは,各個別要因は,因果的に関連する他の要因の値にかかわらず,結果に対してそれぞれ独立した影響をもつことにより一定の増分効果をもつという考え方である。因果関係の唯一性とは,ある要因(群)は特定の結果に影響を与える唯一のルートだと考えること,因果効果の一様性とは,X1がYに影響を与えるならば,X1は他のどのような要因と組み合わせてもYに影響を与えるという考え方で,因果の対称性とは,ある結果が生じる説明と生じない説明が一致していることである。

表3

統計解析とQCAの違い

出典:Ragin(1987/2014)を元に筆者作成

2. 経営学領域におけるQCAの応用

(1) 応用研究の盛り上がり

QCAは2010年前後に経営学分野に浸透し始めた。P. Fissら代表的な論者たちは,定評のあるジャーナルにQCAを活用した論文を複数発表している(e.g., Fiss, 2007, 2011)。2016年に出版されたRihoux and Ragin(2009)の邦訳書によると,2014年から15年にかけてQCAを用いた研究が最も多かったのは経営学分野であったという(序文iv頁)。

QCAをマーケティング論およびその隣接領域に持ち込んだのはA. Woodsideをはじめとする論者たちである(Woodside, 2010)。2016年にQCAを用いた論文がJournal of Marketingに掲載され,同年にJournal of Business ResearchでQCAの特集号が組まれている。ほかにも,Journal of Service Research,Journal of the academy of marketing science, Industrial Marketing Management,Journal of Retailing and Consumer Services,Journal of Supply Chain ManagementなどのジャーナルにおいてQCAを用いた論文が発表されている。

(2) QCAの得意不得意

統計アプローチと比較した場合のQCAの特徴は先行研究で詳しくまとめられている(Fiss, 2007, 2011; Frösén, Luoma, Jaakkola, Tikkanen, & Aspara, 2016; Rihoux & Ragin, 2009)。ビジネスモデル研究との関わりで重要なのは表4に示す次の4点である。すなわち,①結果を生み出す原因の複雑な相互作用を扱える点(因果複雑性),②個別要因の影響を識別できる点(必要条件と十分条件),③結果を生み出すルートが複数存在する現象を扱える点(等結果性),④因果が対称になってない現象を扱える点(因果非対称性)である。

表4

さまざまな構成分析手法の比較

出典:Frösén et al. (2016), p. 69を和訳

一方で,QCAには不得意領域もある。まず,QCAでは,予測のためのパラメータが得られない。そのため,要因のパラメータを操作することで結果を操作するといった予測に関わる能力は統計解析には遠く及ばない。加えて,扱える要因(原因条件)が少ない。統計分析では,ステップワイズ法を用いた重回帰分析が典型的だが,結果に影響を与える要因を大量に扱うことができる。しかし,QCAで扱える原因条件の数は,Raginが開発した分析ツールfsQCA3.0では,現状で8個程度である。というのは,QCAで原因条件の組み合わせ(2のK乗の組み合わせ)を考える際には,現実には当てはまるケースがない原因条件の組み合わせ(=論理残余)も考慮するため,原因条件数が増えると検討すべき条件組み合わせが指数関数的に増加するからである。以上の性質を鑑みると,QCAは探索的なアプローチと位置づけるのが妥当である。

(3) QCAを用いた解析例

QCAの特徴を具体的に理解するために重回帰分析との違いを見ていこう。重回帰分析では,成果Yは要因(X1i)を足していくことで推定できる(式1)。

Y=α+β1X12X23X3iXi+ε (式1)

モデルの説明力は調整済みR2で判定し,各要因が結果を説明しているかどうかは統計検定量(critical ratio)の有意水準により判断する。標準化回帰係数を確認することで,どの要因をどの程度操作すれば結果がどう変動するかを予測できる。それに対し,QCAでは,Yは,要因(X1i)がどのように組み合わさったときに実現するのかを考える。fsQCAで解析した結果,以下の論理式が得られたとしよう(式2)。

X1*X2+X2~X3→Y (式2)

ここで,「+」は論理和すなわち「あるいは(or)」を,「*」は論理積すなわち「かつ(and)」を,「~」は「否定(not)」を表す。「→」は左辺の条件が存在すれば必ず右辺の結果が存在することを表すが,実際には,要因条件の組み合わせが結果を何%説明するか,すなわち解被覆度(後述)でモデルの説明力を評価する。上の論理式は次の2つの組み合わせ,すなわち(1)X1とX2がともにあるとき(X3はあってもなくても関係がない),(2)X2があってX3がないとき(X1はあってもなくても関係がない)にYが生じる。この例に基づき,分析アプローチとしてのQCAの強みを因果複雑性,個別要因の影響,等結果性,因果非対称性という観点から確認していこう。

因果複雑性 まず,QCAでは原因条件(X1からXi)間の相互作用を考慮できる,すなわち因果複雑性を扱うことができる。回帰分析では,要因AはBと組み合わさったときには結果に対してプラスの影響を与えるが,AとCが組み合わさったときにはマイナスの影響がある,といったことを同時に複数考慮するのは難しい。

個別要因の影響 個別要因の影響も,回帰分析ほど豊かな情報を与えてはくれないが,どの要素が必要条件でどの要素が十分条件であるのかは判断可能である。上の例では,X2は2つの組み合わせすべてに登場するため必要条件で,それ以外は十分条件である。

等結果性 QCAでは結果を生じさせる複数の原因条件の組み合わせを析出できる。上の例では2通りあった。つまり,結果を生みだすルートは一つではなく複数あるという前提,すなわち等結果性の仮定に基づく解を得ることができる。これに対して,回帰分析では結果を生み出す原因条件は一つの回帰式で表現される。

因果非対称性 上の例と同じ原因条件(X1からXi)を用いて,非常に高いYや低いYなどを導く要因の組み合わせをそれぞれ得ることができる。回帰分析では,高い成果も低い成果も一次元で捉えて一つの回帰式で表現するので,非常に高いYの推定も,低いYの推定も同義である。

(4) QCAの評価指標

要因の組み合わせが結果を説明するかどうかを判定するために,QCAでは整合性(consistency)という指標を用いる。この指標は,要因の組み合わせにおいて相互に矛盾する組み合わせがどの程度含まれているかを示しており,統計分析における有意確率(p値)に相当する。整合性(consistency)のスコアで,全ての原因条件の組み合わせが結果を説明しているかは解整合性(solution consistency)のスコアで判定する。整合性のスコアには統計分析における有意確率のような基準はないが,経営学領域で応用される場合は0.75もしくは0.80がカットオフの基準となることが多い(Fiss, 2011; Ragin, 2008)。

論理式の説明力は被覆度(coverage)で確認できる。この指標は,析出された論理式が結果の何%を説明するかを示し,回帰分析における決定係数に相当する。析出された論理式全てでYの何%が説明できているかは解被覆度(solution coverage)のスコアで,要素の各組み合わせの説明力は,粗被覆度(raw coverage)と固有被覆度(unique coverage)のスコアを用いて判定する。粗被覆度は,複数ある要因の組み合わせの中で,たとえばある組み合わせがYの何%を説明するかを示すが,これは他の組み合わせとの重複を含んだスコアである。固有被覆度は,複数ある要因の組み合わせの中で特定の組み合わせだけでYを何%説明するかを示している。析出された要因の組み合わせが1つ場合は,これらの3つの被覆度のスコアは一致する。被覆度は図3のようなベン図を使って表現するとわかりやすい。

図3

被覆度のイメージ(結果を説明する要因組み合わせが3つの場合)

出典:筆者作成

(5) QCAの分析手順

QCAの分析手順は,詳細は割愛するが,大きく次の5つに分かれる。①結果を生じさせる原因条件を抽出してコード化する,②結果をコード化する,③作成したデータ行列を用いて真理表アルゴリズム分析を実施して不完備真理表の完成させる,④真理表アルゴリズム分析により得られた整合性スコアに基づき結果を0,1でコード化して完備真理表を完成させる,⑤完備真理表を用いて分析を実施し各種指標を確認しながら結果を解釈する。

QCAの分析手続きで批判されがちなのが,fsQCAを実施する際に行う原因条件と結果のコード化(=キャリブレーション)に研究者の主観が入りやすい点である。そのため,先行研究では,コード化の基準を変えて分析を繰り返すことで結果の頑健性を確認する感度分析が行われることがある(e.g., Fiss, 2011)。キャリブレーションを実施するための閾値の設定をサポートするフレームワークも開発されている(Tóth, Henneberg, & Naudé, 2017)。QCAという手法自体の妥当性を傍証するために,類似統計手法(トービットモデル回帰分析や偏差スコア分析など)を実施することもある(Fiss, 2011)。QCAの分析手順は統計解析とは大きく異なるものの,厳格な手続きが求められる点は同じである。

3. RBM研究におけるQCAの可能性

QCAを適用することで,RBMを要素に還元することなく観察できるようになる。要素還元主義に基づいてRBMを評価する場合,要素の一部に焦点を当て,その評価と成果の関係を明らかにする。しかしこれでは,RBM全体としての成果は明らかにできない。たとえば,一見ほぼ全ての要素で優位にあると思われる大規模小売業者が運営するスーパーよりも,特定の狭いエリアでしか店舗を出していない地域スーパーのほうが業績がよい,という事例を考えてみよう。このような現象を考える際には,要素間のダイアド関係や要素間のリンクを積み上げていく統計アプローチよりも,要因間の複雑な相互作用を扱う,すなわち全体の調和を指向するQCAのようなアプローチのほうが適している。

QCAの活用例は,要因間の複雑な相互作用を捉える以外にも数多くある。QCAの要因間の複雑な相互作用を考慮できる特徴と,個別要因の影響を考慮できる特徴を反映して,優れた成果を生み出すRBMの構成要素の組み合わせと,その組み合わせにおける必要条件と十分条件を明らかにすることができる。また,QCAは等結果性の仮定を置いているため,優れた成果を生み出す構成要素の組み合わせが複数ある場合には,それらの識別が可能である。さらに,因果非対称性を考慮できる特徴を活かし,優れた成果だけでなく劣った成果などを生み出すRBMの構成要素の組み合わせも明らかにすることができる。それぞれの解析において,結果を導く要因の組み合わせにおけるコア条件と周辺条件の識別も可能である。RBMの成果はタスク環境の影響を受けるため,ビジネスモデルの構成要素に加えて環境要因(競争や市場の状況など)も原因条件として分析に加えることができる。

まとめると,RBMのような系としてパフォーマンスを発揮する対象を分析する場合,QCAは統計解析にはない特徴を発揮できる。重回帰分析やパス構造分析はRBMの成果に影響を与える要素の足し算で評価するのに対し,QCAはビジネスモデルを系とみなして成果を生み出す構成要素の組み合わせを見つけ出す。QCAは因果複雑性,等結果性,そして因果非対称性を考慮できるので,統計解析ではアプローチできない命題にも挑戦できる。

IV. おわりに

RBM研究では小売流通の機能を遂行する機関が主な観察対象となるが,その役割は生産と消費の状態,そして各種の流通技術・インフラのあり方の変化や進展,さらには法規制の改正などによって規定されるため,比較的短期間に新たなRBMが出現したり,比較的安定的な既存のRBM間の構図に大きな変動が生じることが通例である。こうした点に鑑みると,RBM研究においては研究対象がどのような性質のものであるかによってアプローチの方法の選択が重要となるといえるだろう。

4は,研究対象が位置する状態と観察可能な事例数,そして観察の時間的範囲という3つの次元をもとに,研究対象と研究方法の適合性を整理したものである。多数の事例の観察が可能で研究対象が構造化され安定的状態にあり,かつ,理論や定性的分析が特定の要因(群)の影響を示唆する場合は,統計解析のような定量的な研究方法が強力なツールとなる。比較的小規模~中程度のサンプルに限定されているものの,特定の結果の(未)発生をもたらす(複数の)原因条件の組み合わせを事例間の横断面分析を通して発見したい,あるいは,大規模サンプルが観察可能な場合でも理論や定性的分析から結果に影響を与える要因(群)を特定できない場合には,QCAが有効である。

図4

研究対象と研究方法のフィットの観点

出典:Azuma, Yokoyama, and Kim(2021)に一部加筆

一方,安定した構造をもたない複数の事例を対象とする場合には,比較ケーススタディを活用できる。セブンイレブンやユニクロの長期持続成長,アマゾンのプラットフォーム進化といった時間の経過とともに変化する複雑かつユニークな事象,あるいは流通革命や小売国際化,ネット通販革命と小売業の衰退(retail apocalypse)といった超長期的に生起する重要な現象が生じる因果メカニズムを明らかにするためには,単独事例を用いた事例内因果推論が妥当な方法論となる。研究対象への深い洞察と全体的な理解が必要だからである。

本論文の議論はRBMに限られるものではなく,ビジネスモデル研究にも適応可能である。今後の研究が待たれるところである。

謝辞

本研究はJSPS科研費JP20H01550,JP18K01893,JP18K01886の補助による研究成果の一部である。

1)  本節の一部はYokoyama(2017)およびYokoyama(2019)を加筆・修正し再構成したものである。

横山 斉理(よこやま なりまさ)

法政大学経営学部/経営学研究科 教授(博士(商学))。QCAを用いた研究(共著を含む)で,日本商業学会,組織学会,日本マーケティング学会,American Collegiate Retailing Association(ACRA),Colloquium on European Research in Retailing(CERR)などに論文や学会発表の業績がある。

東 伸一(あずま のぶかず)

青山学院大学経営学部/経営学研究科 教授(Ph. D)。過程追跡法を用いた研究(共著含む)として著書,論文,学会報告(ACRA,日本商業学会など)がある。QCAを用いた研究については,ACRAやCERRでの研究報告と複数の論文がある。

References
 
© 2022 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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