2022 年 42 巻 2 号 p. 41-53
米国では,同じ時代に生まれ育ち同じ価値観を共有している人々を対象に「世代別コホート理論」によるセグメンテーション研究が進められているが,日本ではこの分野での事例研究は少ない。本研究では,日本で開催された2019ラグビーワールドカップ日本大会の観戦者を対象に世代別にその特徴を明らかにするものである。Z世代,Y世代(ミレニアル世代),X世代,ベビーブーマー世代の「4世代」のファンのスポーツ観戦動機による満足度への影響を回帰分析によりそれぞれの特徴を明らかにし,さらにラグビーのファンマーケティングで課題になっている「女性ファン」やワールドカップで短期的に熱狂し応援した「にわかファン」についても分析した。本研究の結果から,各世代ファンの特徴を明らかにしてスポーツ観戦におけるマーケティング戦略について考える。
In the U.S., there has been growth of research methods utilizing the “Generational Cohort Theory,” which proposes that people who are brought up in the same era should share the same values. However, there are only a few case studies using this segmentation method in Japan. Therefore, the aim of this study is to identify the characteristics of each generation of fans at the 2019 Rugby World Cup in Japan and to determine the influence of the four generational categories of the “Generational Cohort Theory” (Generation Z, Generation Y (Millennials), Generation X, and Baby Boomers) on their motivations and satisfaction with the games, using regression analysis. This analysis reveals the sports spectating characteristics of each of these four groups, and provides information on female fans, who have been a difficult target to tackle in the rugby fan marketing field, and niwaka (bandwagon) fans, who demonstrate an enthusiastic but short-term interest in the sport that only lasted during the World Cup 2019 period. The results of this study define the characteristics of each generation of fans and allow consideration of marketing strategies for sports spectating.
プロスポーツイベントをスタジアムで観戦する年齢層が高くなり,スポーツイベントのマーケティングマネージャーは若年層の取り込みに苦戦している。年齢でのセグメンテーションはよく使われる手法であるが,世代別に特徴をとらえれば,スポーツマーケターにとって新たなマーケティングのヒントになるかもしれない。米国では同じ時代に育ち同じ価値観を共有している世代の特徴を区分する「世代別コホート理論」によるセグメンテーション研究が進められているが,日本のスポーツマーケティング研究ではこの分野の研究はあまり見られない。本研究では,2019年ラグビーワールドカップ日本大会観戦者について観戦者の特徴を,世代別コホートで分析を試みる。またラグビーファンマーケティングで課題となっている「女性ファン」やワールドカップで短期間に熱狂し応援した「にわかファン」についてもあわせてその特徴を考察する。
マーケティングのセグメンテーションにおける細分化変数には,国,都道府県,市町村などによる地理的変数,性別,年齢,世帯,所得,教育水準などのデモグラフィックス変数,ライフスタイルやパーソナリティ-によるサイコグラフィックス(心理学的属性変数,ユーザーの利用量,ロイヤルティー,プロダクトに対する態度などの行動変数に分けることができる(Kotler, Keller, Brady, Goodman, & Hansen, 2019)。
細分化変数の中で年齢というのは重要なセグメンテーションである。OECDは,15~64歳を生産年齢人口と定義しておりこの年齢層がマーケティングの対象になることが多い。マーケティングでの商品開発や視聴率調査では,F層(F1層20~34歳女性,F2層35~49歳女性,F3層女性50歳~)M層(M1層20~34歳男性,F2層35~49歳男性,F3層50歳~男性)のほかにC層(4~12歳の男女),T層(13~19歳)の分類がよく使われる。
米国のマーケティング研究では,世代別コホート理論(Generational cohort theory)が,市場のセグメンテーション時に使われることがある(Howe & Strauss, 2007)。年齢での分類より世代群での分類のほうがより有効であり,マーケティングの対象となる消費者がそれぞれの時代での経験を共有しており価値観が近く(Eastman & Liu, 2012),その時代での出来事などをもとにした独特の信条や行動が世代のアイデンティティを形成するためである(Lissitsa & Kol, 2016)。
米国では,ベビーブーマー世代(米国で1946–1964),X世代(1965–1970年後半),Y世代(1970年代後半–1996年生まれ),Z世代(1997年以降)で分類されることが多く世代コホートによる比較研究(Kumar & Lim, 2008; Lissitsa & Kol, 2016)も多く行われている。一般的に米国を中心に4世代(ベビーブーマー世代,X世代,Y世代,Z世代)が使われることが多いが,国によって戦後の人口構成や社会的背景も違い日本でもいくつかの世代分類をしている。Sakamoto and Harada(2015)は,戦後の世代を,団塊(1947–51年生),ポパイ・JJ世代(1952–60年生),新人類世代(961–65年),バブル世代(1966–70年生),団塊ジュニア世代(1971–82年),さとり世代(1983–94年生)と分けてそれぞれの時代背景や特徴を説明している。Komatsubara, Sumikawa, and Yamashina(2021)は,日本を含めた東南アジア6か国を調査して日本人の消費の特徴として,ベビーブーマーは「イデオロギー」X世代は「社会的地位」Y(ミレニアル)世代は「コト」消費,Z世代は「多面性」とそれぞれの世代の特徴を述べている。
人々は,成長期にさまざまな影響を受ける。Dorsey and Villa(2021)は,10代に発生した決定的出来事が世界観に影響を与えていると伝えている。またTamir(2022)は,スポーツファンがこどもから思春期,結婚や家族形成とライフサイクルの中でのそれぞれの局面で違う影響を受けることも明らかにしている。表1では,日本におけるZ世代,Y世代,X世代,ベビーブーマー世代の4世代それぞれが影響を受けた時期のおもな出来事に加えて本研究で対象とするスポーツやラグビーに関しての出来事やその時期に放映されていたTVドラマ,スポーツアニメなどをまとめた(Baseball Magazine, 2015)。各世代が影響を多く受けた時期を15~30歳として区分し,Kotler, Kartajaya, and Setiawan(2021)らがMarketing 5.0で示している優勢な世代も追記した。
各世代に影響をあたえたおもな出来事,TVドラマ,アニメ
Baseball Magazine(2015)などを参考にKotler et al.(2021)P31を一部記載
2. スポーツ観戦者研究とラグビーワールドカップ (1) スポーツファン研究と観戦動機プロスポーツがグローバリゼーションの流れの中で拡大していった1990年代から2000年代初頭にかけて北米を中心にスポーツ観戦に関する研究が進み,スポーツ観戦動機についてもさまざまな尺度が開発された。Wann(1995)は,Sports Fan Motivation Scaleを,Milne and McDonald(1999)はMotivation of Sports Consumerを開発した。2000年に入り,Funkらは,2001年にSport Interest Inventory,2004年にTeam Sport Involvement 2008年にSPEED(Socialisation- 社会性,Performance- パフォーマンス,Excitement- 興奮,Esteem- 尊厳,Diversion- 気晴らし)を開発した(Funk, 2008; Funk, Mahony, Nakazawa, & Hirakawa, 2001; Funk, Ridinger, & Moorman, 2003)。Nishio, Larke, van Heerde, and Melnyk(2016)は,国際間を移動するスポーツ観戦動機尺度(社会性,達成感,リラックス,ゲームを楽しむ)を開発した。動機尺度の開発に合わせて,「女性ファン」と「男性ファン」の違い(Nishio et al., 2016; Wann, 1995)や観戦するスポーツによる違い(James & Ross, 2004; Nishio et al., 2016)などの研究が行われている。世代別研究はあまり見られないが,Yim, Byon, Baker, and Zhang(2021)はベビーブーマー,X世代,ミレニアム世代の三つの世代間のスポーツ消費の特色の比較を行っている。
(2) ラグビーファンに関する研究ラグビーファンの研究に関しては,Davies and Williment(2008)がヨーロッパへ移動するラグビーファンの特徴として教育水準の比較的高い中年の男性が多く,ラグビーワールドカップの海外観戦者は男性の中高年者が中心である調査結果(Nishio, 2016)を示している。Nishio, Tomiyama, and Fujimoto(2013)は,トップリーグとJリーグの比較調査を行い,Jリーグと比べてラグビー観戦者には女性ファンが少なく,年齢層が高いという特徴を示して少子高齢化が進む中での若年層や女性ファンへのアプローチの重要性について述べている。Nishio(2016)は,2015年イングランド大会での調査をもとに,スポーツ動機と観光動機の基本属性によるスポーツツーリスト動機マトリックスを作成している。
(3) ラグビーワールドカップとラグビーファンに関する研究本調査の対象はラグビーワールドカップである。ラグビーワールドカップは,オリンピック&パラリンピック,FIFAサッカーワールドカップと並んで世界3大スポーツイベントと言われているがその歴史は浅い。1987年に始まったラグビーワールドカップは,4年ごとに開催されており日本大会が第9回大会でアジア初の開催となった。
長年アマチェアリズムを貫いてきたラグビーユニオンが1994年からプロ化へ動き出した,1999年のウェールズ大会,2003年と拡大して観客数も増加し大会の規模も拡大していった(表2)。2000年代に入り日本でのワールドカップ招致の動きが始まり日本は2011年大会の招致レースではニュージーランドに敗れたが,2010年のワールドラグビー(IRB)総会で,2015年イングランド大会と同時に2019年日本大会開催が決まった。
ラグビーワールドカップの観戦者数の推移と日本の戦績
日本代表は第1回大会から出場しているが,1991年の1勝の後,引き分けをはさんで2011年大会まで勝利はなかった。しかし2015年イングランド大会で,優勝候補の南アフリカに勝利した。2019年日本大会は,アジア初開催ということもあり多くの観客が観戦に訪れた。北は北海道札幌から南は熊本まで全12会場で45試合(3試合は台風のため中止)が開催された。国内外から延べ169万8,528人(1試合当たり37,745人)が観戦に訪れ,チケット販売率は99%になりチケット総収入は389億円になった(Ernst & Young, 2019)。
図1は,ラグビーワールドカップ日本代表戦が放映された関東地区のTV視聴率の推移である。第2戦のアイルランドに勝利し,予選リーグ最終戦のスコットランドも退けて初の決勝リーグ進出を決めた。平均視聴率も開幕戦の18.3%から,2戦目のアイルランド戦28.9%,3戦目サモア戦32.8%,決勝リーグのスコットランド戦39.2%にまで上がり最高視聴率は53.7%に達した。10月20日の南アフリカ戦41.6%は年間最高平均視聴率を記録した(Yomiuri Shinbun, 2019)。大会前は,TVドラマで日本代表元キャプテンの広瀬俊朗氏が出演した「ノーサイドゲーム」が放映され,大会期間中は日本代表の快進撃ととともに日本中が熱狂し,「にわかファン」という言葉も生まれ,2019年の流行語大賞にもなった。近年は,ツイートの影響からファンのスポーツチームへの熱狂度を分析(Mizuno, Sano, & Sasahara, 2021)するなどTwitterなどソーシャルメディアとスポーツに関する研究(O’Hallarn, Shapiro, Wittkower, Ridinger, & Hambrick, 2019)も進められている。
ワールドカップ大会期間中の平均視聴率と最高視聴率の推移
本研究では,ラグビーワールドカップ観戦者の特徴を世代別に分析し,あわせて課題である「女性ファン」やワールドカップで短期間に熱狂し応援した「にわかファン」についてもその特徴を考察する。
本研究の目的は,ラグビーワールドカップ観戦者を,世代別コホートで分析することである。調査対象は,ラグビーワールドカップ2019日本大会(W杯日本大会)でのスタジアムでの観戦者である。日本ラグビー協会(JRFU)メンバーズクラブの会員を対象に決勝戦終了後の2019年11月8日から17日に無記名WEB調査を実施した。
2. 質問項目質問項目は,性別,年齢,居住地,居住都道府県などの基本属性と観戦同行者,過去のW杯大会観戦の有無,メンバーズクラブへの入会時期(ワールドカップ開幕前での入会した観戦者を「従来のラグビーファン」とワールドカップでの盛り上がりの中で入会した観戦者を「にわかファン」と分類),過去のスポーツ動機研究をベースとしたスポーツ観戦動機20項目,満足度についてである。スポーツ観戦動機と満足度に関しては,7段階のリッカート尺度で聞いた。
3. 分析方法本研究では,4世代で世代別コホート分析をするので,2019年大会終了時16歳~73歳の観戦者のデータを抽出した。Z世代:1996年生まれから2003年生まれ,Y世代:1977年から1995年生まれ,X世代1965年から1976年生まれ,ベビーブーマーと団塊世代(BD世代と命名)1946年から1964年生まれとした。Y世代,X世代に関しては,Dorsey and Villa(2021)を参考に年次を設定した(2019年大会終了時点年齢Z世代:16~23歳,Y世代:24~42歳,X世代:43~54歳,BD世代:55~73歳)。
本研究における分析のプロセス
(Step1)日本の総人口と今回のサンプルを比較して4世代(Z世代,Y世代,X世代,BD世代)のラグビーワールドカップ観戦者の世代別構成と動機,満足度のスコアの比較
(Step2)回帰分析により動機項目の満足度に与える影響について世代別に比較
(Step3)課題である「女性ファン」と大会で社会現象にもなった新たなファン層である「にわかファン」という観点から回帰分析を使って比較
表3は調査対象の属性である。2019年時点で16歳(2003年生まれ)から73歳(1946年生まれ)を抽出した結果有効回答数は6,237名であった。
ワールドカップ2019観戦者の基本属性
性別の内訳は,男性4,011名(64.3%)女性2,226名(35.7%)であった。男性比率が高かったが,前回イングランド大会での調査(79.0%)よりも自国開催ということもあり女性比率が高かった。観戦の同行者は,家族および親戚が3,213人(51.5%)とほぼ半数を占め,友人1,529人(24.5%)ひとり1,428人(22.9%)と続きビジネス関係などその他は67人(1.1%)であった。国内開催ということでイングランド大会と比べ家族,親戚との観戦が前回大会(41%)から増えた。観戦者の居住都道府県は,東京都1,869人(30.3%),神奈川県927名(14.8%)埼玉県505人(8.1%)と続き首都圏および開催都市が中心であった。
ラグビーワールドカップ開催の2019年時点で,16歳から73歳(1946年生まれ)を対象に世代区分をした。Z世代(1996年―2003年生),Y世代(1976年―1995年生まれ)X世代(1965年―1976年生まれ)BD世代(1946年―1964年生まれ)で分類した。
図3は日本の総人口で見た分布で図4は,ワールドカップ観戦者の分布であり,表4は,日本の総人口(Ministry of Internal Affairs and Communications, 2019)とワールドカップ観戦者の4世代(1964年―2003年生の人数と比率を表したものである。
日本の総人口の分布(16–73歳)
W杯観戦者の分布(16–73歳)
日本の総人口とワールドカップ(W杯)観戦者の4世代の内訳
W杯観戦者を総人口との比率で見てみると,Z世代(総人口10.9%:W杯ファン1.0%)およびY世代(総人口29.8%:W杯ファン15.6%)は大きく下回る一方X世代(総人口24.5%:W杯ファン48.3%)と大きく上回った。Z世代(女性ファン比率:54.7%)およびY世代(女性ファン比率54.3%)では,女性ファン比率が男性ファン比率を上回った。
一方X世代(総人口24.8%;Wファン48.3%)は,人口比を大きく上回り,BD世代(総人口34.8%:W杯ファンは34.8%)と人口比とほぼ同じであった。世代別の分布データからも観戦者が,全体で男性の比率が高くX世代,BD世代中心でZ世代Y世代の観戦者が少ないことがわかる。
(1) スポーツ観戦動機と満足度表5は,7段階のリッカート尺度で聞いた観戦動機20項目,満足度の全サンプルと世代別スコアの一覧表である。
Step1:世代別の観戦動機20項目と満足度スコア比較(7段階リッカート尺度)
全体でスコアの高かった動機項目は,⑪「世界の一流選手のプレーが見たかったから(M=6.73, SD=.73)」⑧「ラグビーが好きだから(M=6.72, SD=.78)」⑨「ワールドカップだから(M=6.72, SD=.81)」⑯「トップ選手のプレーが見たかったから(M=6.70, SD=.81)②「世界規模の大会だから(M=6.48, SD=1.20)」世界的な規模の大会で一流のプレーを見てみたいという動機が強かった。
世代間比較のため,One-Way ANOVA分析で,Z世代,Y世代,X世代,BD世代で動機スコアの平均値を比較したが,有意差のある項目はなかった。
2. 観戦者全体の動機と世代別比較(Step2)表6は,満足度を従属変数,動機20項目を独立変数として回帰分析をした結果であり,各動機項目の標準偏回帰係数を示している。Z世代はサンプル数が少なく有意なモデルではなかったが,Y世代,X世代,BD世代はいずれも有意なモデルで,VIFはすべて3.00以下で多重共線性に関しては問題なかった。
Step2回帰分析の結果(数値は標準偏回帰係数)
*p<.05, **p<.01, ***p<.001
観戦者全体では,動機10項目が満足度に有意な影響があることを示している。p<.001で最も影響が大きかった動機は,「③スケジュールの都合がよかったから」「⑤好きな選手を応援したいから」「⑫スポーツを見ることが好きだから」「⑱スタジアムが魅力的だから」「⑲告知広告が魅力的だったから」「⑳一生に一度というフレーズがあったから」。p<.01で次に影響が大きかった動機は「⑮近隣に魅力的な観光地があるから」でp<.05では,「⑪トップ選手のプレーが見たかったから」「⑬レジャーとして楽しいから」「⑪世界の一流選手のプレーが見たかったから」の動機が満足度に有意な影響を与えた。
世代別で見ていくと,4世代共通の項目は,「⑱スタジアムが魅力的だから」であり,Z世代は唯一の有意な項目であった。スタジアムで大会の一体感を味わうということは世代共通の動機といえる。
3世代共通の項目は「⑲告知広告が魅力的だったから」「⑳一生に一度というフレーズがあったから」であった。ワールドカップは数十年に1回のイベントなので,広い世代で広告効果があったといえる。特に「一生に一度」のフレーズに関しては,Y世代(p<.05)X世代(p<.01)BD世代(p<.001)と世代が上がるごとに効果が上がっていた。Y世代とX世代の共通項目は,「③スケジュールの都合がよかったから」であった。X世代,BD世代共通項目である「⑤好きな選手を応戦したいから」「⑫スポーツを見ることが好きだから」X世代の「⑬レジャーとして楽しいからBD世代の「⑯トップ選手のプレーが見たかったから」は,中高年齢層によるスポーツ観戦の関心の高さを示している。
3. 各世代「男女ファン」と「にわかファン」セグメンテーション別比較(Step3-①②)ここでは,さらに詳しく分析するために「男性ファン」「女性ファン」(Step3-①)「にわかファン」「従来のファン」(Step3-②)にそれぞれ8つのセグメンテーションに分けて回帰分析を行った(表7)。ただしZ世代に関しては,分析のサンプル数(男性N=29,女性N=35;にわかファンN=33,従来ファンN=31)が少なくいずれも回帰分析における分散(F=1.463; p>.05)が有意でなかったため,Step3においては,Y世代,X世代,BD世代の3世代で比較を行った。モデルはいずれも有意でVIFはすべて3.00以下で多重共線性に関しても問題なかった。
Step3-①② 回帰分析の結果(数値は標準偏回帰係数)
*p<.05, **p<.01, ***p<.001 世代間でどちらか片側に有意であった動機項目
(1) Step3-①「男性ファン」と「女性ファン」との回帰分析結果「男性ファン」と「女性ファン」のセグメンテーションで分けてさらに回帰分析を行ったところ世代間で違いが見られた。Y世代では男性ファンは「⑪世界の一流選手のプレーが見たかったから(p<.05)」「⑳一生に一度というフレーズがあったから(p<.05)」の2項目に違いがあり,女性ファンは「③スケジュールの都合がよかったから(p<.05)」「⑤好きな選手を応援したいから(p<.05)」の2項目に違いがあった。X世代の男性ファンでは,「⑯トップ選手のプレーが見たかったから(p<.05)」「⑳一生に一度というフレーズがあったから(p<.01)」女性ファンでは「⑧ラグビーが好きだから(p<.05)」「⑫スポーツを見ることが好きだから(p<.01)」にそれぞれ違いがあった。BD世代の男性ファンは,「⑤好きな選手を応援したいから(p<.05)」「⑥住んでいる地元で大会が開催されたから(p<.05)」「⑫スポーツを見ることが好きだから(p<.001)」「⑯トップ選手のプレーが見たかったから(p<.01)」,女性ファンでは「⑮近隣に魅力的な観光地があるから(p<.05)」にそれぞれ違いがあった。
(2) Step3-②「にわかファン」と「従来ファン」の回帰分析の結果「にわかファン」と「従来のファン」のセグメンテーションでも男女と同様に回帰分析を行い世代間での違いをみた。Y世代のにわかファンは,「③スケジュールの都合がよかったから(p<.05)」「⑥住んでいる地元で大会が開催されたから(p<.05)」「⑩周囲で話題になっているから(p<.05)」「⑲告知広告が魅力的だったから(p<.001)」に違いがあり,従来ファンについては「⑤好きな選手を応援したいから(p<.05)」「⑨ワールドカップだから(p<.05)」「⑳一生に一度というフレーズがあったから(p<.05)」の項目に違いがあった。
X世代の従来ファンでは,「⑬レジャーとして楽しいから(p<.01)」「⑳一生に一度というフレーズがあったから(p<.05)」の項目に違いがあり,BD世代のにわかファンは,「⑨ワールドカップだから(p<.05)」「⑪世界の一流選手のプレーが見たかったから(p<.05)」で違いがあり,従来ファンについては,「⑫スポーツを見ることが好きだから(p<.001)」「⑮近隣に魅力的な観光地があるから(p<.05)」「⑯トップ選手のプレーが見たかったから(p<.001)」に違いがあった。
本研究では,ラグビーワールドカップファンの世代別特徴についてZ世代,Y世代,X世代とBD世代に分けて分析を行った。以前のワールドカップラグビー調査や国内トップリーグの調査(Nishio et al., 2013)では全体での男女比率の算出のみであったが,本調査では,日本の総人口と観戦者におけるZ世代,Y世代,X世代,BD世代分布を明らかにした。分布図と表が示すようにZ世代とX世代の観戦者の比率がX世代,BD世代と比べて低かった。一方Z世代,Y世代に関しては女性ファンの数が男性ファンを上回った。
スポーツ観戦動機に関しては,2015年イングランド大会の結果(Nishio, 2016)同様「高いレベルのプレー」および「世界的なイベント」である動機項目のスコアが高かった。過去のスポーツ観戦動機の研究事例では,動機の強さを性別(Nishio et al., 2016; Wann, 1995)やスポーツ種別(James & Ross, 2004; Nishio et al., 2016; Wann, Grieve, Zapalac, & Pease, 2008)で比較を対象するケースが多かったが,今回は世代で比較を行った。
対象がスタジアムに観戦に来たファンであったため,One-Way ANOVAで4世代間比較でも動機そのものに有意差が見られなかった。しかしながら回帰分析では,各世代間と男女,ファンの種別によっていくつかの特徴を明らかにすることができた。各世代と性別によって観戦経験の評価で何を重視するかが違っており,それぞれの満足度に影響しているといえよう。
図5は,分析により明らかになった各世代の特徴をまとめたものである。
Z世代,Y世代,X世代,BD世代別観戦者のおもな特徴
Z世代は,観戦者が人口比で最も少なかったが,「女性ファン」が「男性ファン」を上回り,4世代の中で唯一にわかファンの人数が従来ファンを上回った。世代としては,地上波でラグビーをはじめスポーツをあまり見ることができない世代で,ラグビーのプレーやスポーツ観戦への関心より,スタジアムに魅力を感じている。Y世代も,Z世代同様,観戦者が人口比で少なく,女性ファンの数が男性ファンを上回った。男性ファンは,一流のプレーに関心を持ち,女性ファンは好きな選手やスケジュールを重視する。世代としては,Jリーグの誕生から2002日韓ワールドカップや欧州サッカーやメジャーリーグプロ野球など,一流プレーを好む傾向があることが考えられる。
X世代は,観戦者が最も多いボリュームゾーンで男性比率が高い。この世代が影響を受けた時代は,地上波でラグビー中継があり,TVドラマで「スクール☆ウォーズ」が放送されていた。男性ファンはラグビーのプレーそのものに関心があり,女性ファンはY世代同様スケジュールを重視している。仕事や子育てなど家族との時間調整などの要因が考えられる。BD世代は,観戦者が多く,男性比率が最も高い。影響を受けた時代は,高度経済成長期で観戦スポーツはプロ野球中心である。男性ファンは,好きな選手の応援や選手のプレーや地元開催に関心がある。にわかファンはワールドカップ大会や世界一流のプレーに価値を感じている。
2015年イングランド大会観戦者の分析(Nishio, 2016)では,動機要因を因子分析で一般化したうえで,男女別,同行者,ツアー種別の3つの属性とクロスさせマトリックスを作成したが,本調査では,世代別コホート分析を使って4世代で比較した。また動機要因をあえて一般化せず,20の動機要因をそのまま使用することでより詳細な情報を提供することができた。今回は,ラグビー観戦者のテーマである「女性ファン」と社会現象になった「にわかファン」を取り上げてStep3で詳細に見ていったが,調査対象にあわせた属性を選択することによる詳細な分析が可能である。また世代区分は米国ベースのものを使用したが,日本においては,さらに細かい時代区分も試みられている(Sakamoto & Harada, 2015)ので,詳細な分析も可能になるだろう。
本研究では,ラグビーワールドカップ観戦者に関するアンケート調査により世代別の特徴を分析した。ラグビーファンは中高年層が多いため,Z世代のサンプル数が少ないなど世代間に偏りがあった。しかしながらサンプル数の少ないゾーンは,今後の潜在的市場であるので,表1にあるような各世代での成長期での出来事やTVなどメディアによる影響や,観戦にいたった心理プロセスなどについてのインタビューやペルソナなどを使っての定性分析などで検証してみるとより深くファンの特徴を明らかにすることができるだろう。
西尾 建(にしお たつる)
1990年関西学院大学商学部卒業後,JPモルガンチェース銀行勤務を経て2013年ニュージーランド・ワイカト大学博士(PhDマーケティング)ワイカト大学勤務後2008年より山口大学勤務。専門:マーケティング,スポーツツーリズム。