2023 年 43 巻 1 号 p. 7-17
近年,マーケティングにおいて,心理的所有感が注目されている。心理的所有感とは,対象に対して人が抱く所有感のことであり,その対象が「私のもの」であるという感覚のことである。デジタル化やシェアリング・エコノミーの拡大の影響によって,消費者が消費する対象は,物質的なモノとは限らず,デジタル財やシェアリング財など,多様な形を取るようになった。心理的所有感は,これらの非物質的な対象や実際には所有を伴わない対象に対しても生じる感覚であり,複雑化する消費者とモノとの関係を解明する鍵概念として捉えられている。本稿では,近年のマーケティングにおける心理的所有感の研究の動向を把握することを目的として,マーケティング領域の有力学術誌に掲載された近年の論文48本のレビューを行うことで,心理的所有感の研究の現状と今後の方向性について検討を行う。