マーケティングジャーナル
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
43 巻, 1 号
心理的所有感
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
編集委員長より
巻頭言
特集論文 / 招待査読論文
  • ― 近年の研究のレビューを中心に ―
    菅野 佐織
    2023 年 43 巻 1 号 p. 7-17
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    近年,マーケティングにおいて,心理的所有感が注目されている。心理的所有感とは,対象に対して人が抱く所有感のことであり,その対象が「私のもの」であるという感覚のことである。デジタル化やシェアリング・エコノミーの拡大の影響によって,消費者が消費する対象は,物質的なモノとは限らず,デジタル財やシェアリング財など,多様な形を取るようになった。心理的所有感は,これらの非物質的な対象や実際には所有を伴わない対象に対しても生じる感覚であり,複雑化する消費者とモノとの関係を解明する鍵概念として捉えられている。本稿では,近年のマーケティングにおける心理的所有感の研究の動向を把握することを目的として,マーケティング領域の有力学術誌に掲載された近年の論文48本のレビューを行うことで,心理的所有感の研究の現状と今後の方向性について検討を行う。

  • ― 他のファンへの意識とウェルビーイングへの効果 ―
    井上 淳子, 上田 泰
    2023 年 43 巻 1 号 p. 18-28
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    本研究はアイドルを応援する(推す)ファンがアイドルに対して心理的所有感を持つことを主張し,その影響について論じるものである。具体的には,アイドルに対するファンの心理的所有感は,同じアイドルの他のファン(同担)に対する複雑な意識を生み出し,さらにその意識が当人のウェルビーイングと推し活動を継続させる原動力となることを理論的かつ実証的に明らかにする。550人のアイドルファンから収集したデータを分析した結果,アイドルに対する心理的所有感は心理的一体感と心理的責任感から構成され,心理的一体感が同担仲間意識に,心理的責任感が同担競争意識に影響を及ぼすことが実証された。また,ファンのウェルビーイングは2つの同担意識からともに正の影響を受ける一方で,現在のアイドルを推し続けたいという推し活継続性は,心理的一体感と同担仲間意識から正の影響を受けるものの,同担競争意識から負の影響を受けることが明らかになった。

  • ― リキッド/ソリッド消費と個人的/集団的所有感に基づく考察 ―
    北澤 涼平, 小野 晃典
    2023 年 43 巻 1 号 p. 29-41
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス HTML
    J-STAGE Data

    本研究は,ファン(コンテンツの自己関連性が低い消費者),マニア(コンテンツの自己関連性が高く,社交性も高い消費者),オタク(コンテンツの自己関連性が高いが,社交性は低い消費者)の3種のコンテンツ消費者を検討する。4つの実験の結果,ファンは,個人的所有感も集団的所有感も低く,レンタル=サブスク型リキッド消費を選択し,マニアは,個人的所有感も集団的所有感も高く,経験価値型リキッド消費とソリッド消費を選択し,オタクは,個人的所有感は高いが集団的所有感は低く,ソリッド消費を選択するという知見を提供する。そうすることによって,本研究は,コンテンツビジネス研究,リキッド消費研究,経験消費研究,心理的所有感研究の発展に貢献する。

  • ― 利用頻度の調整効果に着目して ―
    井関 紗代
    2023 年 43 巻 1 号 p. 42-52
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    近年のデジタル化による技術革新は,短命で,アクセスベースで,脱物質的なリキッド消費を促進している。このような消費環境の変化は,心理的所有感(psychological ownership)を減衰させたり,他の対象へと転移させたり,維持するための新たな機会を生み出したりしている。本研究では,心理的所有感の根底にある動機として,コントロール欲求に着目し,音楽配信サービスに対する心理的所有感の醸成にどのような影響を及ぼしているのかについて検証した。調査は,音楽配信サービスであるSpotifyまたはApple Musicを週に1回以上利用する人を対象に実施された。分析の結果,コントロール欲求がサービスへの心理的所有感やロイヤルティに及ぼす影響は,利用頻度によって異なるだけでなく,サービスの違い(Spotify/Apple Music)によっても異なるパターンが示された。これらのことから,コントロール欲求が心理的所有感に及ぼす影響は,他の要因(e.g.,利用頻度)によって調整されるため,コントロール欲求が高いと心理的所有感も醸成されやすいというほど単純ではないことが示唆される。

  • ― 決済手段が選択可能な状況下でのWTPとWTAの測定と分析 ―
    西本 章宏, 勝又 壮太郎
    2023 年 43 巻 1 号 p. 53-65
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    本研究の目的は,決済手段に対する消費者の心理的所有感が,決済手段の選択,支払意思額(willingness to pay: WTP),受取意思額(willingness to accept: WTA)に及ぼす影響について明らかにすることである。本研究では,2種類の決済手段(現金とスマートフォン決済)を対象として,2つの実験を行った。実験1では,参加者に架空の購買シナリオを読んでもらい,相対的に心理的所有感が低い決済手段が支払い時に選択されやすく,選択された決済手段による支払いの方がWTPは高くなることを明らかにした。実験2では,参加者に4種類の架空の売買シナリオのいずれか2つを読んでもらい,相対的に心理的所有感が高い決済手段が受け取り時には選択されやすく,選択された決済手段による受取の方がWTAは低くなることを明らかにした。

レビュー論文 / 招待査読論文
  • ― フォールスコンセンサス効果を回避するための個人選好の抑制 ―
    石田 真貴
    2023 年 43 巻 1 号 p. 66-74
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    マーケターは新製品に対する消費者選好を正確に予測できているのだろうか。新製品開発において消費者選好を正確に予測することは重要だが,先行研究では,マーケターによる予測は正確でないことが示されている。そこで本稿の目的は,消費者選好を予測する際に生じるフォールスコンセンサス効果(False Consensus Effect:以下FCE)に関する研究を整理し,マーケターによる消費者選好の予測の正確さに貢献していくことにある。FCEとは,製品に対する個人選好を消費者に投影させる認知バイアスのことである。FCEが生じたマーケターの予測は,実際の消費者選好と乖離し,非魅力的な製品の開発を続けるなどの望ましくない意思決定を下す。そのため本稿では,FCEが生じる要因である「消費者への共感」と「顧客志向」について確認した上で,FCEを回避する方法である「個人選好抑制」について詳述していく。しかし,FCEに関する研究には残された課題が多い。そのため最後に,個人選好抑制,予測対象である消費者の属性,消費者選好の測定の正確さ,マーケターの特徴の観点から今後の研究の方向性を示唆する。

  • ― 既存研究の整理と今後の研究の方向性 ―
    渡邊 久晃
    2023 年 43 巻 1 号 p. 75-82
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    近年,消費者は食品や化粧品といったさまざまなカテゴリーで自然製品をますます好むようになっている。自然感(naturalness)は,「人間による介入や処理,添加物がないこと」を意味する概念であり,自然感の影響に関する研究は徐々に増えてきている。そこで本稿では,消費者行動研究分野とマーケティング研究分野に関連する海外ジャーナルの論文のレビューを行った。その結果,自然感が特定の信念や推論を通じて消費者の判断や感情的反応に影響を及ぼすこと,プロセス要因と感覚的要因が自然感知覚に影響を及ぼすことがわかった。最後に,今後の研究の方向性について議論した。本稿は,自然感概念及び自然感選好についての理解に役立つ知見を提供している。

マーケティングケース
  • ― 約1,100件ものユーザーのアイデアを実現するmineoのクラウドソーシング ―
    比留川 ありさ, 西川 英彦, 米満 良平
    2023 年 43 巻 1 号 p. 83-91
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    ユーザーからアイデアを集め,製品開発に活用するクラウドソーシングが注目されている。しかし,クラウドソーシングを活用する企業の多くが,アイデア募集に苦労している。たとえユーザーからアイデアを集められたとしても,そのアイデアを上手く活用できず失敗する企業や,継続できていない企業も多い。その困難克服の好例が格安スマホのmineoである。mineoはこれまでに約9,100件のアイデアをユーザーから集め,約1,100件ものアイデアを実現している。本稿では,まずmineoのコミュニティサイト「マイネ王」にて,ユーザーからアイデアを集める場として中心的に機能している「アイデアファーム」について紹介する。次に,ユーザーのアイデアをもとにサービスの創造やアップデートが行われていることを確認する。最後に,ユーザーのアイデアを数多く実現し,魅力的なサービスへと進化しているmineoの優れている点,すなわち1.アイデアの量の確保2.アイデアの質の向上3.役職者による全アイデアの検討と実現化の促進について述べる。

書評
アニュアルレポート
  • ― マネージングエディターより ―
    河村 智子
    2023 年 43 巻 1 号 p. 98-99
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    第6期編集委員会(2023年4月~)において,はじめて,「マネージングエディター」職が新しく設置された。これに伴って,これから毎年,第1号において,「アニュアルレポート」を掲載していくことにしたい。2022年度(2022年4月~2023年3月)に『マーケティングジャーナル』に掲載された論文数は,特集論文18本,レビュー論文9本,投稿査読論文2本,マーケティングケース6本,書評8本で,巻頭言および編集後記を除く掲載数の合計は43本であった。投稿査読論文の投稿数は15本であり,それゆえ,採択率は13.3%であった。特記事項として,研究データリポジトリでの論文付随データの公開,および,DOAJ(Directory of Open Access Journals:オープンアクセス学術誌要覧)への収載が開始された。

編集後記
feedback
Top