マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
コンテンツビジネスの消費者としてのファン・マニア・オタク
― リキッド/ソリッド消費と個人的/集団的所有感に基づく考察 ―
北澤 涼平小野 晃典
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ジャーナル オープンアクセス HTML
J-STAGE Data

2023 年 43 巻 1 号 p. 29-41

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Abstract

本研究は,ファン(コンテンツの自己関連性が低い消費者),マニア(コンテンツの自己関連性が高く,社交性も高い消費者),オタク(コンテンツの自己関連性が高いが,社交性は低い消費者)の3種のコンテンツ消費者を検討する。4つの実験の結果,ファンは,個人的所有感も集団的所有感も低く,レンタル=サブスク型リキッド消費を選択し,マニアは,個人的所有感も集団的所有感も高く,経験価値型リキッド消費とソリッド消費を選択し,オタクは,個人的所有感は高いが集団的所有感は低く,ソリッド消費を選択するという知見を提供する。そうすることによって,本研究は,コンテンツビジネス研究,リキッド消費研究,経験消費研究,心理的所有感研究の発展に貢献する。

Translated Abstract

In this study, we examine three kinds of content consumers: (1) fans (consumers who have low self-content relationships), (2) manias (consumers who have high self-content relationships and high social connections with others), and (3) otaku (consumers who have high self-content relationships and low social connections with others). The results of four studies show that (1) fans are likely to perceive lower levels of individual and collective ownerships and, thus, choose rental liquid consumption; (2) manias are likely to perceive higher levels of individual and collective ownership and, thus, choose experiential liquid consumption and solid consumption; and (3) otaku are likely to perceive a higher level of individual ownership and a lower level of collective ownership and, thus, choose solid consumption. These findings update the literature on content business, liquid/solid consumption, experiential consumption, and psychological ownership.

I. 研究目的

本研究は,コンテンツビジネスの対象となる消費者たちの行動を主題とし,4つの分野における研究の発展に貢献しようとする学際的研究である。その4分野のうちの1つは,主題に直結した分野「コンテンツビジネス研究」である。そもそも,コンテンツビジネスは,アニメ,漫画,音楽等のコンテンツを対象とする販売事業であり,それらコンテンツを供給する際の容器たるメディアの進化と多様化によって,様々な販売形態が生じてきた点に特徴づけられる。それゆえ,進化し多様化したメディアを伴ったコンテンツのうち,いずれの形態をいかなる消費者がなぜ選好するか,という研究課題が浮上する。

このメディアの進化と多様化に関連するのが,本研究が関与する2つ目の分野「リキッド消費研究」である。例えば音楽というコンテンツは,以前は,レコードやCDというメディアに入れられたものを物理的に購買・所有した上で視聴されていたが,いまや,インターネットアクセスにより非所有のまま一時的に視聴されるようになった。このとき,前者はソリッド消費,後者はリキッド消費であると表現される。リキッド消費研究者は,リキッド消費の誕生と台頭をトレンドとして指摘しつつも,消費対象の自己関連性が高い消費者は依然としてソリッド消費を選択するであろうともコメントしている。

しかし,それとは真逆の主張を展開する分野がある。それは3つ目の分野「経験価値研究」である。同分野は,物質消費より経験消費の方が,幸福度が高いと主張する。その論拠は,単にモノを買うよりコトを成す方が,消費対象を自己に組み込みやすく,また,自分と同じアイデンティティを持つ他者との交流が期待できることにあるという。

製品を自己アイデンティティに組み込もうとするこの消費者行為を,心理的所有感という概念を用いて取り扱おうとするのが,本研究が関与する最後の分野「心理的所有感研究」である。その主唱者が当初取り扱ったのは個人的所有感であったが,やがて,集団的所有感も取り扱うようになった。この2つの所有感概念のうち個人的所有感が,リキッド消費研究が言及した,リキッド消費時代にあってもソリッド消費に留まろうとする消費者心理に関連しているのに対して,集団的所有感は,経験消費研究が言及した,物質消費に対して経験消費を選好する消費者心理,言わば,ソリッド消費よりリキッド消費を選好する消費者心理に関連していると指摘できる。

このように,コンテンツビジネス研究,リキッド消費研究,経験価値研究,心理的所有感研究という新興の4つの分野は,内容面で密接な関係を有しながらも,参照関係に乏しいために豊かな命題を案出する機会を逸している。そこで,ここに学際的な取り組みをもって統合的な知見を得ることを,本研究の目的とする。

II. 理論的背景

1. 3種類のコンテンツ消費者

コンテンツとは,情報の形をなす著作物を指す。その中で本研究が注目するのは,アニメ,漫画,音楽等のサブカルチャー型コンテンツであり,その特徴は,対象となるコンテンツが自己とつながっている水準(cf. Ferraro, Escalas, & Bettman, 2011)と定義される自己関連性が極めて高水準である消費者が存在する一方,一般市民は,極小の自己関連性しか有さないので当該コンテンツを消費しようとはせず,それどころか,自分が価値を見出さないものに傾注するコンテンツ消費者たちを「オタク」と揶揄することがある,という点である(cf. Ono, 2010)。オタクはときに,Kinsella(1998)が論じるように,一般市民の無理解に晒されまいと自宅に籠ってコンテンツに熱中する孤独者である。しかし,全てのコンテンツ消費者が非社交的であるわけではなく,むしろコミュニティを形成する消費者もいる。Okada(1996)Ono et al.(2020)が論じるには,その外縁部には,コンテンツを自己と関連づける傾向が相対的に低調な消費者がおり,中心部には,その傾向が旺盛な消費者がいる。そして,両者間には前者をフォロワー,後者をリーダーとした関係が存在する。これら2種類の消費者も,一般市民との間の社交性が低水準であるためオタクと呼ばれることも多いが,前者を「ファン」,後者を「マニア」と呼び分け,かつ非社交的なコンテンツ消費者のみを「オタク」と呼称することもある(Ono, 2010)。

本研究においてはこの3分法を採用し,コンテンツの自己関連性が低い消費者を「ファン」,コンテンツの自己関連性が高く,社交性も高い消費者を「マニア」,コンテンツの自己関連性が高いが,社交性は低い消費者を「オタク」と定義したい。

2. ソリッド消費 vs. リキッド消費

リキッド消費研究を先導するBardhi and Eckhardt(2017)は,短命でアクセス基盤型で脱物質的であるという特徴をもつ新しい形態のリキッド消費に着目しつつも,消費者は自己関連性が高い製品に対してはソリッド消費に留まるであろうと論じた。自己関連性の低い製品は,必要な時にのみアクセスし,たとえ所有が短命に終わったり,脱物質的で所有しえなかったりしたとしても,それは自己の喪失とは見なされない。そのように製品を位置づける消費者は,リキッド消費を選択するであろう,というのである。

3. レンタル=サブスク型リキッド消費 vs. 経験価値型リキッド消費

リキッド消費ニーズに合致したコンテンツ販売形態として,貸本屋やレンタルビデオ,さらには,サブスクリプション(視聴し放題)も挙げられるであろう。このケースにおけるリキッド消費を,本研究では「レンタル=サブスク型リキッド消費(rental liquid consumption)」と呼ぶことにしたい。この消費様式の選択には,漫画本やアニメDVDや音楽レコードのソリッド消費のような,所有の楽しみがないが,低コストでコンテンツを視聴できるというメリットがある。高自己関連型の消費者はソリッド消費,低自己関連型の消費者はリキッド消費,というリキッド消費研究の指摘に整合している。

しかし,短命でアクセス基盤型で脱物質的であるという特徴を捉えれば,ライブや聖地巡礼もまたリキッド消費である。このケースにおけるリキッド消費を本研究では「経験価値型リキッド消費(experiential liquid consumption)」と呼ぶことにしたい。経験価値型リキッド消費は,レンタル=サブスク型リキッド消費とは異なり,消費者にとって金銭的/非金銭的に高コストであり,当該のコンテンツに自己関連性の高さを知覚しなければ選択されないと考えられる。このタイプのリキッド消費は,リキッド消費研究ではなく,むしろ経験価値研究の対象として取り扱われてきた。Carter and Gilovich(2012)は自己アイデンティティ形成のため,Caprariello and Reis(2013)は他者との結びつき強化のため,経験消費のほうが物質消費より幸福になれると指摘した。リキッド消費研究と見かけ上矛盾することに,このタイプのリキッド消費は,ソリッド消費よりむしろ,当該のコンテンツに自己関連性の高さを知覚した消費者に選択される消費様式なのである。

4. 個人的所有感 vs. 集団的所有感

自己関連性は心理的所有感にも関連している。ここでは,コンテンツ消費者が特定のアニメ,漫画,音楽のことを「自分の作品だ」と思う感覚,あるいは,登場人物や演奏家のことを「自分の人物だ」と思う感覚を指して,心理的所有感と呼ぶ(cf. Pierce, Kostova, & Dirks, 2001, 2003)。提唱者Pierceは,Pierce et al.(2001, 2003)の当初は個人的所有感を念頭においていたが,Pierce and Jussila(2010)において集団的所有感という概念を追加的に提唱した。例えばよく聴く曲に「自分の音楽だ」という感情を抱いた人が,他に愛好者がいることを知り,かつ彼らを自分と同じ愛好者として受け入れると「自分たちの音楽だ」という感情に変容する。これが集団的所有感である。この概念は,Pierce and Jussila(2010)以降,組織論において積極的に応用されているが(e.g., Pierce, Jussila, & Wang, 2020),マーケティング研究においては未だ萌芽段階にすぎない(cf. Kitazawa, 2023)。また,リキッド消費を視野に入れた心理的所有感研究がわずかながら存在するものの(e.g., Atasoy & Morewedge, 2018; Bagga, Bendle, & Cotte, 2019),それらは,個人的所有感のみを取り扱っているうえ,コンテンツビジネス研究や経験価値研究がもたらしてきた知見を看過している。しかし,ソリッド消費ないし物質消費は,個人的所有感のみ醸成するであろうが,ライブや聖地巡礼などの経験価値型リキッド消費は,集団的所有感も醸成するであろう。他方,レンタル=サブスク型リキッド消費は,自己関連性の低い消費様式であるから,個人的所有感さえ醸成しないであろう。複数の分野が互いに密接に関わっているのである。

III. 仮説提唱

1. コンテンツ消費者類型とソリッド(物質)/リキッド(経験)消費様式

3種類のコンテンツ消費者は,各々,3種類の消費様式のいずれを選好するであろうか。第1に,コンテンツの自己関連性が相対的に低い消費者(ファン)は,低コストで気軽に視聴できるリキッド消費でよいと考えるであろう。第2に,コンテンツの自己関連性が相対的に高いが,社交性が低い消費者(オタク)は,レンタル=サブスク型リキッド消費では味わえない楽しみのためにソリッド消費を望むであろう。第3に,コンテンツの自己関連性も社交性も高い消費者(マニア)は,ソリッド消費だけでは成しえない愛好者同士の相互作用を求め,ソリッド消費に加えて経験価値型リキッド消費も望むであろう。以上の議論より,

仮説1 レンタル=サブスク型リキッド消費,経験価値型リキッド消費,ソリッド消費のうち,

(a)コンテンツの自己関連性が低い消費者(ファン)は,レンタル=サブスク型リキッド消費を選択する。

(b)コンテンツの自己関連性が高く社交性も高い消費者(マニア)は,経験価値型リキッド消費とソリッド消費を選択する。

(c)コンテンツの自己関連性が高く社交性は低い消費者(オタク)は,ソリッド消費を選択する。

2. コンテンツ消費者類型と個人的/集団的心理的所有感

上記のとおり,第1に,コンテンツの自己関連性が相対的に低い消費者(ファン)は,自己関連性の低さゆえに,いずれの心理的所有感も高く抱くことはないであろう。第2に,コンテンツの自己関連性が相対的に高いが,社交性が低い消費者(オタク)は,コンテンツ消費に伴って個人的所有感を抱くものの,孤独ゆえに集団的所有感を抱くことはないであろう。第3に,コンテンツの自己関連性も社交性も高い消費者(マニア)は,コンテンツ消費に伴って個人的所有感も集団的所有感も抱くであろう。以上の議論より,

仮説2 個人的心理的所有感と,集団的心理的所有感のうち,

(a)個人的所有感は,コンテンツの自己関連性の高い消費者(マニア・オタク)が高く,自己関連性の低い消費者(ファン)が低い。

(b)集団的所有感は,コンテンツの自己関連性が高く社交性も高い消費者(マニア)が高く,自己関連性の低い消費者(ファン)と自己関連性が高く社交性は低い消費者(オタク)が低い。

IV. 実験1

1. 被験者と実験財の選定

前節において提唱した仮説1の経験的妥当性を吟味することを目的に,実験1を行った。実験1の被験者は,国内の20代の消費者158名(男性88名,女性70名,年齢の中央値22歳)であった。被験者として20代の消費者を選定した理由は,コンテンツへの年間支出額が約75,000円と高水準であり(Hakuhodo and Hakuhodo DY Media Partners Content Business Lab, 2022),日常的にコンテンツ消費を行っていると考えられるためである。なお,10代の年間支出額がより高水準であるが,彼らの支出は支払い能力や出資者である親の意向の影響を受けている恐れがあるため,被験者として適切ではないと判断した。また,実験財としては,アニメコンテンツを選定した。その理由は,20代の消費者にとって馴染み深いものであり,その価値判断が容易であると推測されるからである。そして,アニメコンテンツについて,表1に要約されるとおり,3種類の消費様式の各々に対して4種類,合計12種類の具体的な消費の記述を用意した。

表1

実験1で用いた消費様式

2. 実験1の手続き

実験に際して,被験者を,表2に要約されるとおりに,6グループに無作為に分類した。

表2

実験1の被験者グループ

まず,アニメコンテンツの自己関連性(低い vs. 高い)について,シナリオ法を用いることによって,被験者をアニメコンテンツの自己関連性が低い被験者と自己関連性が高い被験者のいずれかに操作した。アニメコンテンツの自己関連性が低くなるように操作された被験者には,「あなたはあるアニメの大ファンというわけではありません。そのアニメは,あなたの価値観・趣味・嗜好とある程度合致していますが,あなたにとって特別な価値をもっているわけではありません。」というシナリオを読むように依頼した一方,アニメコンテンツの自己関連性が高くなるように操作された被験者には,「あなたはあるアニメの大ファンです。そのアニメは,あなたの価値観・趣味・嗜好と完璧に合致しており,あなたにとって特別な価値をもっています。」というシナリオを読むように依頼した。

次に,アニメコンテンツの自己関連性が高くなるように操作された被験者を,さらに,社交性(低い vs. 高い)について,アニメコンテンツの自己関連性と同様に,シナリオ法を用いることによって,社交性が低い被験者と社交性が高い被験者のいずれかに操作した。社交性が低くなるように操作された被験者には,「あなたは,人と交流することがあまり好きではありません。人と何かをすることよりも,一人で過ごすことの方が,あなたの価値観と合致しており,高い価値をもっています。」というシナリオを読むように依頼した一方,社交性が高くなるように操作された被験者には,「あなたは,人と交流することが好きです。一人で過ごすことよりも,人と何かをすることの方が,あなたの価値観と合致しており,高い価値をもっています。」というシナリオを読むように依頼した。

なお,マニピュレーション・チェックのために,全被験者に対して,アニメコンテンツの自己関連性(α=.98, AVE=.91, CR=.98),さらに,社交性に関するシナリオを読んだ被験者に対して,社交性(α=.98, AVE=.91, CR=.98)に関する質問に回答するように依頼した。アニメコンテンツの自己関連性は,「そのアニメは,私のアイデンティティの中心的存在である」等の5項目で測定した(Ferraro et al., 2011の測定尺度を一部修正)。また,社交性は,「私は,人と一緒に過ごすことが好きである」等の5項目で測定した(Cheek & Buss, 1981の測定尺度を一部修正)。これらの項目に対する尺度法は,スライド尺度法(0~100:水準が高いほど,同意する意向が高い)と7点リカート尺度法(1:全く同意しない~7:強く同意する)であった。その結果,3名の被験者が,サンプルから除外された。

以上の操作ののち,本研究の先行研究であるCaprariello and Reis(2013)の実験を参考にして,各グループの被験者に対して,先掲の表1における3種類のアニメコンテンツの消費様式のうち,いずれか2種類を提示し,どちらを選択したいか回答してもらった。なお,各被験者に対して,表1に要約されるとおり,4(一方の消費様式におけるアニメコンテンツの消費)× 4(他方の消費様式におけるアニメコンテンツの消費)=16項目の,2者のうちどちらを選択したいか,という質問に回答してもらった。

3. 結果と考察

分析に先立って,Caprariello and Reis(2013)を参考にして,各グループの被験者が,提示された2種類の消費様式のうちどちらを選択する傾向が強いのかということを吟味するために,データの加工を行った。具体的には,まず,レンタル=サブスク型リキッド消費 vs. 経験価値型リキッド消費という組み合わせを提示されたグループにおいては,16個の質問項目のうち,レンタル=サブスク型リキッド消費を選択した回数を,各被験者の得点とし,0~16の値をとる「経験価値型リキッド消費に比しての,レンタル=サブスク型リキッド消費に対する選好度」という変数を作り出した。同様に,レンタル=サブスク型リキッド消費 vs. ソリッド消費という組み合わせを提示されたグループにおいては,「ソリッド消費に比しての,レンタル=サブスク型リキッド消費に対する選好度」,経験価値型リキッド消費 vs. ソリッド消費という組み合わせを提示されたグループにおいては,「経験価値型リキッド消費に比しての,ソリッド消費に対する選好度」という変数を作り出した。

仮説1の経験的妥当性を吟味するために,収集したデータを用いて,t検定を行った。まず,仮説1aについて,ファン・レンタル=サブスク型リキッド消費 対 経験価値型リキッド消費 グループにおいて,「経験価値型リキッド消費に比しての,レンタル=サブスク型リキッド消費に対する選好度」の平均値は13.34(SD=4.27)であり,ファン・レンタル=サブスク型リキッド消費 対 ソリッド消費 グループにおいて,「ソリッド消費に比しての,レンタル=サブスク型リキッド消費に対する選好度」の平均値は13.35(SD=1.36)であり,ともに,選好の中央値8より有意に高水準であった(それぞれ,t=6.74,p<.01;t=20.12,p<.01)。それゆえ,仮説1aは支持されたと言いうるであろう。

次に,仮説1bについて,マニア・レンタル=サブスク型リキッド消費 対 経験価値型リキッド消費 グループにおいて,「経験価値型リキッド消費に比しての,レンタル=サブスク型リキッド消費に対する選好度」の平均値は5.93(SD=6.13)であり,マニア・レンタル=サブスク型リキッド消費 対 ソリッド消費 グループにおいて,「ソリッド消費に比しての,レンタル=サブスク型リキッド消費に対する選好度」の平均値は3.78(SD=1.63)であり,ともに,中央値8より有意に低水準であった(それぞれ,t=−1.82,p<.10;t=−11.00,p<.01)。それゆえ,仮説1bも支持されたと言いうるであろう。

そして,仮説1cについて,オタク・レンタル=サブスク型リキッド消費 対 ソリッド消費 グループにおいて,「ソリッド消費に比しての,レンタル=サブスク型リキッド消費に対する選好度」の平均値は3.11(SD=3.46)であり,中央値8より有意に低水準であり(t=−8.47, p<.01),オタク・経験価値型リキッド消費 対 ソリッド消費 グループにおいて,「経験価値型リキッド消費に比しての,ソリッド消費に対する選好度」の平均値は13.25(SD=5.36)であり,中央値8より有意に高水準であった(t=4.79, p<.01)。それゆえ,仮説1cは,支持されたと言いうるであろう。

V. 実験2

実験2の目的は,仮説1の外的妥当性を吟味することである。具体的には,実験1が抱える以下の2点の問題を解決することによって,仮説1の妥当性を再吟味する。第1の問題は,実験1においては,被験者に提示するコンテンツがアニメコンテンツに限定されていたということである。そこで,実験2においては,アニメコンテンツに加えて,音楽コンテンツ及び漫画コンテンツの消費を実験財として選定し,仮説1の外的妥当性を再吟味したい。第2の問題は,3種類の消費様式のうち,特定の2種類の消費様式のみを被験者に提示していたということである。実際のコンテンツの消費場面において,消費者は,3種類の消費様式を全て考慮するであろう。そこで,実験2においては,3種類の消費様式を同時に被験者に提示し,仮説1の外的妥当性を再吟味したい。

1. 被験者と実験財の選定

実験2の被験者は,国内の20代の消費者186名(男性105名,女性81名,年齢の中央値21歳)であった。被験者として20代の消費者を選定した理由は,実験1と同様である。また,実験財としては,アニメコンテンツ,音楽コンテンツ,及び,漫画コンテンツの3種類を選定した。これらを選定した理由も,実験1と同様である。なお,表3に要約されるとおり,実験に際しては,3種類のコンテンツ × 3種類の消費様式の9種類の各々に対して2種類,合計18種類の具体的な消費に関する記述を用意した。

表3

実験2で用いた消費様式

2. 実験2の手続き

実験に際して,被験者を,表4に要約されるとおりに,9グループに無作為に分類した。

表4

実験2の被験者グループ

まず,コンテンツの自己関連性について,実験1と同様に,シナリオ法を用いることによって,被験者をコンテンツの自己関連性が低い被験者と自己関連性が高い被験者のいずれかに操作した。ただし,実験1と異なり,提示するコンテンツの種類によって,さらに被験者を,3グループにそれぞれ分類した。

次に,各コンテンツの自己関連性が高くなるように操作された被験者を,さらに,社交性(低い vs. 高い)について,実験1と同様に,シナリオ法を用いることによって,社交性が低い被験者と社交性が高い被験者のいずれかに操作した。

以上の操作ののち,本研究の既存研究であるCaprariello and Reis(2013)を参考にして,各グループの被験者に対して,3種類の各コンテンツの消費様式を提示し,選択したい度合いに基づいて,3者の順位付けをしてもらった。すなわち,被験者は,各コンテンツのレンタル=サブスク型リキッド消費 vs. 経験価値型リキッド消費 vs. ソリッド消費という3者の組み合わせを提示され,選択したい度合いに基づいて,3者の順位付けをした。なお,各被験者に対して,表3に要約されるとおり,2(レンタル=サブスク型リキッド消費における各コンテンツの消費)× 2(経験価値型リキッド消費における各コンテンツの消費)× 2(ソリッド消費における各コンテンツの消費)=8項目の,3者の順位付けに関する質問に回答してもらった。

また,実験1と同様に,シナリオ法によるコンテンツの自己関連性と社交性の操作についてマニピュレーション・チェックを行ったところ,すべての被験者に対して,本研究の意図通りの操作が行われたことが確認された。

3. 結果と考察

分析に先立って,各グループの被験者が,提示された消費様式の組み合わせのうちどれを選択する傾向が強いのかということを吟味するために,データの加工を行い,新たな変数を作り出した。具体的には,各コンテンツの消費様式に,1位は3点,2位は2点,3位は1点という得点をつけ,各被験者の8項目の回答ごとに合計値をそれぞれ算出し,8~24の値をとる,各コンテンツにおける「消費様式の選択傾向」という変数を作り出した。

仮説1の経験的妥当性を吟味するために,収集したデータを用いて,多重比較検定を行った。結果は,表5に要約されるとおりであった。どのコンテンツにおいても,低自己関連性グループ(ファン)における「レンタル=サブスク型リキッド消費の選択傾向」は,他の2者と比べて,有意に高水準であった(ps<.01)。また,どのコンテンツにおいても,高自己関連性・高社交性グループ(マニア)における「経験価値型リキッド消費の選択傾向」と「ソリッド消費の選択傾向」は,「レンタル=サブスク型リキッド消費の選択傾向」と比べて,有意に高水準であった(ps<.10)。さらに,どのコンテンツにおいても,高自己関連性・低社交性グループ(オタク)における「ソリッド消費の選択傾向」は,他の2者と比べて,有意に高水準であった(ps<.01)。以上の結果より,実験1において支持された仮説1は,実験2においても支持されたと言いうるであろう。

表5

各被験者グループにおける3種類の消費様式の選択傾向の平均値

ただし,同じ行内における3者のうち,添え字が異なる平均値は,有意に異なる水準であることを意味する。

VI. 実験3

1. 被験者の選定

第III節において提唱した仮説2の経験的妥当性を吟味することを目的に,実験3を行った。実験3の被験者は,国内の20代の消費者64名(男性37名,女性27名,年齢の中央値22歳)であった。被験者として20代の消費者を選定した理由は,これまでの実験と同様である。

2. 実験3の手続き

実験に際して,被験者を,アニメコンテンツの,ファングループ(N=19),マニアグループ(N=23),及び,オタクグループ(N=22)の3グループに無作為に分類した。被験者の分類には,これまでの実験と同様に,シナリオ法を用いた。

以上の操作ののちに,各グループの被験者に対して,アニメコンテンツに対する個人的所有感(α=0.94, AVE=0.78, CR=0.93)と集団的所有感(α=0.90, AVE=0.77, CR=0.91)に関する質問にそれぞれ回答してもらった。「アニメコンテンツに対する個人的所有感」は,「これは私のアニメである」等の4項目で測定した(Martinaityte, Unsworth, & Sacramento, 2020の測定尺度を一部修正)。「アニメコンテンツに対する集団的所有感」は,「ほかの消費者と私は,このアニメは私たちのものであると感じている」等の3項目で測定した(Martinaityte et al., 2020の測定尺度を一部修正)。これらの項目に対する尺度法は,7点リカート尺度法(1:全く同意しない~7:強く同意する)であった。

また,これまでの実験と同様に,マニピュレーション・チェックを行ったところ,すべての被験者に対して,本研究の意図通りの操作が行われたことが確認された。

3. 結果と考察

仮説2の経験的妥当性を吟味するために,収集したデータを用いて,分析を行った。まず,個人的所有感を従属変数とした多重比較検定の結果,ファングループにおける「アニメコンテンツに対する個人的所有感」は,他の2者と比べて,有意に低水準であった(Mファン=2.57,Mマニア=6.04,Mオタク=5.97,ps<.01)。それゆえ,仮説2aは支持されたと言いうるであろう。また,集団的所有感を従属変数とした多重比較検定の結果,マニアグループにおける「アニメコンテンツに対する集団的所有感」は,他の2者と比べて,有意に高水準であった(Mファン=2.58,Mマニア=5.12,Mオタク=3.26,ps<.01)。それゆえ,仮説2bも支持されたと言いうるであろう。

VII. 実験4

実験4の目的は,実験1~実験3において吟味してきた仮説1及び仮説2の外的妥当性を,シナリオ法から経験想起法へと方法を変更した上で吟味することである。シナリオ法には,因果仮説に関わる変数以外を統制し,交絡因子の影響を排除することができるという優れたメリットがある。しかし,デメリットも存在する。第1のデメリットは,自己関連性及び社交性をシナリオで統制した結果,各被験者が実際に有する水準と乖離が生じうるということである。そこで,実験4においては,被験者本来の自己関連性及び社交性を測定したい。第2のデメリットは,架空のコンテンツの消費を提示した結果,被験者にその消費体験がイメージできていない恐れがあるということである。そこで,実験4においては,実際に過去に行ったコンテンツの消費を被験者に想起してもらう方法を採用したい。

1. 被験者の選定

実験4の被験者は,国内の20代の消費者86名(男性47名,女性39名,年齢の中央値22歳)であった。被験者として20代の消費者を選定した理由は,これまでの実験と同様である。

2. 実験4の手続き

実験に際して,被験者を,ファングループ(N=20),マニアグループ(N=36),及び,オタクグループ(N=30)の3グループに分類した。

ただし,これまでの実験とは異なり,コンテンツの自己関連性及び社交性について,シナリオ法を用いることによって,被験者を操作することはしなかった。代わりに,被験者に対して,実際に過去に行ったコンテンツの消費を想起してもらいながら,これまでの実験でも用いた,コンテンツの自己関連性及び社交性に関する質問に回答してもらうように依頼した。その回答に基づき,まず,コンテンツの自己関連性について,測定尺度の中央値である50を基準にして,被験者をコンテンツの自己関連性が低い被験者と自己関連性が高い被験者に分類した。そして,自己関連性が高い被験者の社交性について,測定尺度の中央値である4を基準にして,被験者を社交性が低い被験者と社交性が高い被験者に分類した。こうして,被験者を,上述の3グループに分類した。

以上の質問ののち,Zhang and Yang(2015)における自由記述法による実験を参考にして,各グループの被験者に対して,想起してもらったコンテンツの3種類の消費様式について,被験者自身にとっての各消費様式のメリットとデメリットを記述してもらった。具体的には,被験者は,想起したコンテンツのレンタル=サブスク型リキッド消費,経験価値型リキッド消費,ソリッド消費について,「自身にとってのメリットとデメリットをそれぞれ5つ以内で記述してください。ただし,必ずしも,5つである必要はありません。」という質問に対して,それぞれ自由回答方式で記述してもらった。

そののち,各グループの被験者に対して,実験3と同様に,被験者に想起してもらったコンテンツに対する個人的所有感と集団的所有感に関する質問にそれぞれ回答してもらった。

3. 結果と考察

分析に先立って,仮説1の妥当性を吟味するために,テキストデータの加工を行い,新たな変数を作り出した。具体的には,独立したコーダー2人が,被験者が記述した各消費様式のメリットとデメリットの内容を確認し,その数を被験者ごとに集計した。そして,各消費様式について,被験者の全記述数に占める,メリットの数の比率を算出し,それをアークサイン変換した数値を計算し,各消費様式に対する評価という変数とした。

仮説1の経験的妥当性を吟味するために,収集したデータを用いて,多重比較検定を行った。結果は,表6に要約されるとおりであった。ファングループにおける「レンタル=サブスク型リキッド消費に対する評価」は,他の2者と比べて,有意に高水準であった(ps<.01)。また,マニアグループにおける「経験価値型リキッド消費に対する評価」と「ソリッド消費に対する評価」は,「レンタル=サブスク型リキッド消費に対する評価」と比べて,有意に高水準であった(ps<.01)。さらに,オタクグループにおける「ソリッド消費に対する評価」は,他の2者と比べて,有意に高水準であった(ps<.01)。

表6

各被験者グループにおける3つの消費様式に対する評価の平均値

ただし,同じ行内における3者のうち,添え字が異なる平均値は,有意に異なる水準であることを意味する。

以上の結果より,仮説1は,実験4においても支持されたと言いうるであろう。

さらに,仮説2の経験的妥当性を吟味するために,収集したデータを用いて,分析を行った。まず,ファングループにおける「想起してもらったコンテンツに対する個人的所有感」は,他の2者と比べて,有意に低水準であった(Mファン=2.75,Mマニア=5.69,Mオタク=5.77,ps<.01)。また,マニアグループにおける「想起してもらったコンテンツに対する集団的所有感」は,他の2者と比べて,有意に高水準であった(Mファン=2.02,Mマニア=5.56,Mオタク=3.16,ps<.01)。以上の結果より,仮説2は,実験4においても支持されたと言いうるであろう。

VIII. 総括

1. 理論的貢献

本研究は,コンテンツビジネス研究に対して,多様なコンテンツ消費者を自己関連性と社交性の2概念によって識別し概念整序を行うという貢献を成した。それにとどまらず,リキッド消費研究に対して,単純なソリッド vs. リキッドの2分法に警鐘を鳴らし,全く異なる2種類のリキッド消費を識別した。また,それによって,自己関連性の高い消費者が,ソリッド(物質)消費とリキッド(経験)消費のいずれを選好するかに関するリキッド消費研究と経験消費研究の見かけ上の矛盾を解消した。そして最終的に,それらの様々な貢献によって,萌芽の段階にある心理的所有感研究に対して,個人的所有感が集団的所有感に帰着するケースと帰着しないケースを示す貢献を成した。

2. 実務的含意

コンテンツのマーケターは,顧客の多様性を理解し,それぞれがコンテンツに対して期待する心理的所有感に適合した消費様式が叶うような販売形態で販売すべきである。我が国日本においても,リキッド消費が流行していることは確かである(Kubota, 2020)が,そうした低コストであるが何らの所有感も抱くことのできない販売形態を全ての顧客が望んでいるわけではない。自己関連性を高く知覚する顧客には,もし社交的ならば,より高い集団的所有感を抱くことのできるライブパフォーマンスの企画が相対的に重要であり,もし社交的でないならば,より高い個人的所有感を抱くことのできる物販の企画が相対的に重要であろう。

3. 本研究の限界

本研究は,コンテンツ消費者類型と消費様式(仮説1)とコンテンツ消費者類型と心理的所有感(仮説2)を別個に分析した。しかし,実際には,異なる消費者は異なる所有感を期して異なる消費様式を選択するであろう。その場合,消費者類型-心理的所有感-消費様式の2段階の因果フローが考えられる。にもかかわらず,紙面の都合で,本研究はそれを取り扱わなかった。

コンテンツ消費者は3種類,心理的所有感は2種類,そして消費様式は3種類を取り扱ったが,それ以外の種類を識別しモデルに組み込む可能性については検討しなかった。また,コンテンツに関連しない一般有形財に本研究の主張が当てはまるのか検討しなかった。

4. 今後の課題

上記の限界に関連して,Yamamoto(2020, 2021)は,本研究がレンタル=サブスク型リキッド消費として一括りにして取り扱った消費様式の1つである「一時的所有(temporary ownership)」(Nissanoff, 2006)に焦点を合わせて興味深い研究を展開している。レンタルやサブスクが非所有のままであるのに対して,二次流通市場への売却機会を念頭に置いた一時的所有は,非所有とは異なるコンテンツ消費者に選択され,選択の結果,異なる所有感を抱かれるに相違ない。

さらに,本研究は,コンテンツ消費者のプロファイリングを,自己関連性と社交性という2概念によってのみ行った。しかし,彼らの間には社会的相互作用が存在する。具体的には,一方で,ファンとマニアの間には,尊敬-被尊敬の関係がある。それゆえ,マニアを尊敬するファンの消費様式は,模倣という形で,マニアの消費様式の影響を受けるかもしれない。他方,オタクは孤独であり疎外されている。すると,オタクを軽蔑するファンやマニアの消費様式は,反面教師という形で,オタクの消費様式の影響を受けるであろう。

謝辞

本特集号担当編集委員である山本晶先生(慶應義塾大学商学部)には,本研究の執筆に際して,大変貴重なアドバイスを頂いた。また,本研究は,慶應義塾大学学事振興資金(商学研究科枠)の支援を受けた研究の成果の一部である。記して謝意を表したい。

北澤 涼平(きたざわ りょうへい)

慶應義塾大学大学院商学研究科前期博士課程。2020年 慶應義塾大学商学部卒業,2022年 同大学院商学研究科前期博士課程入学。

小野 晃典(おの あきのり)

慶應義塾大学商学部教授。1995年 慶應義塾大学商学部卒業,同大学院商学研究科修士課程・後期博士課程修了。博士(商学)。慶應義塾大学商学部助手,専任講師,助教授,准教授を経て,2010年より現職。

References
 
© 2023 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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