マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
コントロール欲求の個人差が音楽配信サービスへの心理的所有感に及ぼす影響
― 利用頻度の調整効果に着目して ―
井関 紗代
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ジャーナル オープンアクセス HTML

2023 年 43 巻 1 号 p. 42-52

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Abstract

近年のデジタル化による技術革新は,短命で,アクセスベースで,脱物質的なリキッド消費を促進している。このような消費環境の変化は,心理的所有感(psychological ownership)を減衰させたり,他の対象へと転移させたり,維持するための新たな機会を生み出したりしている。本研究では,心理的所有感の根底にある動機として,コントロール欲求に着目し,音楽配信サービスに対する心理的所有感の醸成にどのような影響を及ぼしているのかについて検証した。調査は,音楽配信サービスであるSpotifyまたはApple Musicを週に1回以上利用する人を対象に実施された。分析の結果,コントロール欲求がサービスへの心理的所有感やロイヤルティに及ぼす影響は,利用頻度によって異なるだけでなく,サービスの違い(Spotify/Apple Music)によっても異なるパターンが示された。これらのことから,コントロール欲求が心理的所有感に及ぼす影響は,他の要因(e.g.,利用頻度)によって調整されるため,コントロール欲求が高いと心理的所有感も醸成されやすいというほど単純ではないことが示唆される。

Translated Abstract

Technological innovations have created new products, services and markets, promoting ephemeral, access-based and dematerialized liquid consumption. These consumption changes can have three effects on psychological ownership: they can threaten it, cause it to transfer to other targets, and create new opportunities to preserve it. This study focused on desire for control as an underlying motive of psychological ownership and examined how this influences development of psychological ownership for music streaming services. The survey was conducted among consumers who use a music subscription service—either Spotify or Apple Music—at least once a week. The analysis revealed that the effects of desire for control on psychological ownership and loyalty to services varied depending on usage frequency. In addition, different patterns were observed across services (Spotify/Apple Music). These results suggest that the effect of desire for control on psychological ownership is not straightforward. That is, a high desire for control does not necessarily foster psychological ownership because the effect of the desire for control is moderated by other factors, such as usage frequency.

I. 導入

私たちは,あらゆる対象に「自分のものである」という感覚,すなわち心理的所有感(psychological ownership)を抱いている(Pierce, Kostova, & Dirks, 2003)。そして,消費者の評価形成や意思決定の多くは,この「自分のもの」という感覚に影響されている(Peck & Luangrath, 2023)。また,心理的所有感は,所有権(legal ownership)とは区別され,バスの座席,公園といった所有権を持たない対象にも心理的所有感を抱くことがある。

心理的所有感は,認知的であると同時に感情的な心的状態であることが指摘されている(Pierce et al., 2001, 2003)。言い換えれば,対象となる物に関する気づき,思考や信念だけでなく,個人的な意義や感情が心理的所有感には反映されているのである。したがって,心理的所有感は,物と自己とが密接につながったり,物が拡張された自己(拡張自己;extended self;Belk, 1988)となったりしている心的状態が反映されている(e.g., Furby, 1978)。

近年のデジタル化による技術革新は,新しい製品やサービス,市場を生み出すと同時に,リキッド消費を促進している。リキッド消費とは,短命で,アクセス・ベースで,脱物質的な消費のことであり,これまでの永続的で,所有ベースで,物質的なソリッド消費と対比される(Bardhi & Eckhardt, 2017; Kubota, 2020)。このような消費環境の変化は,心理的所有感を減衰させたり,他の対象へと転移させたり,維持するための新たな機会を生み出したりする(Morewedge, Monga, Palmatier, Shu, & Small, 2021)。例えば,アクセス・ベース消費において,サービスへの心理的所有感は,物理的な所有権の心理的代替として機能し,サービスの利用を増加させる(Fritze, Marchand, Eisingerich, & Benkenstein, 2020)。また,Seo and Park(2021)は,動画配信サービスに対する心理的所有感が高い(vs 低い)ユーザーに対しては,映画に関する具体的な(vs 抽象的な)情報に基づくレコメンド・メッセージがより効果的であることを明らかにしている。そして,この心理プロセスには,心理的距離が媒介していることが示されている。加えて,Fritze, Eisingerich, and Benkenstein(2019)は,消費者がデジタル・サービスに瞬間的に愛着を持ち,保有効果(授かり効果)1)が生じることを明らかにしている。そして,功利的なデジタル・サービス(e.g.,オンライン決済)への所有感情は損失回避に起因し,快楽的なデジタル・サービス(e.g.,動画配信)への所有感情は,自己関連性を反映している。

音楽消費においても,近年のデジタル化により脱物質化が進み,所有感覚の喪失が頻繁に強調されている(Bartmanski & Woodward, 2015)。しかし,Sinclair and Tinson(2017)による定性的研究によって,音楽配信サービスの利用者が,依然として所有感覚を有している,すなわち心理的所有感を抱いていることが初めて示された。また,音楽配信サービスにおいて,無料プランの利用者は,サービスへの心理的所有感が高まるほど,楽曲への心理的所有感が醸成され,その結果,有料プランへのスイッチング意向が高くなる(Danckwerts & Kenning, 2019)。加えて,会話型エージェント(CA)によるポジティブなユーザー体験が,音楽配信サービスに対する心理的所有感を高め,有料プレミアム版の利用意図を高めることもわかっている(Danckwerts, Meißner, & Krampe, 2019)。音楽配信サービスは,快楽的なデジタル・サービスの代表であり,私たちの生活様式をも大きく変えたが,音楽配信サービスへの心理的所有感に関する研究は未だ十分とは言えない。本研究では,心理的所有感の理論から着想を得て,コントロール欲求が音楽配信サービスに対する心理的所有感にどのような影響を及ぼすのかという点について,利用頻度の調整効果を含めて検証していく。

II. 理論的背景

1. 心理的所有感の先行要因

心理的所有感の理論では,心理的所有感の先行要因として,(1)コントロール感,(2)詳細な知識,(3)自己投資が挙げられている(Pierce et al., 20012)。これらの先行要因は,独立して作用することもあれば,組み合わさることで作用することもある。

一つ目のコントロール感とは,物や状況などを自分の思い通りにコントロールできているという感覚のことである。対象をコントロールすることによって,物と自己との間に密接なつながりができ,自己の一部のように感じられることで,心理的所有感が高まる(e.g., Belk, 1988)。加えて,対象に触れるだけでコントロール感が促進され,心理的所有感が高まるだけでなく(Peck & Shu, 2009),触っているところを想像したり(Iseki & Kitagami, 2016; Peck, Barger, & Webb, 2013),手が仮想的に表示されていたりするだけでも(Luangrath, Peck, Hedgcock, & Xu, 2022),心理的所有感が高まる。

二つ目の詳細な知識とは,多くの情報や知識を得ることで,自己と物との深い関係を築くことができ,心理的所有感が高まることを表している(Pierce et al., 2001)。例えば,企業がオンラインでビーチの360°ビューを提供することで,消費者はより多くの知識を得ることができ,心理的所有感が高まる(Peck, Kirk, Luangrath, & Shu, 2021)。

三つ目の自己投資とは,労力や時間,注意,財力を対象に投資することを指す。例えば,製品に名前を付けたり(Stoner, Loken, & Blank, 2018),販売する新製品を選択する権限を移譲されたりすると(Fuchs, Prandelli, & Schreier, 2010),心理的所有感は高まる。

2. 心理的所有感の根底にあるコントロール欲求

心理的所有感の理論では,心理的所有感の根底にある四つの動機として,(1)効力感,(2)自己同一性,(3)居場所の獲得,(4)刺激が挙げられている(Jussila, Tarkiainen, Sarstedt, & Hair, 2015; Pierce & Peck, 2018)。人が心理的所有感を抱くとき,これらの動機のうち一つ以上が根底にあると考えられる(Peck & Luangrath, 2023)。

本研究では,効力感に着目する。効力感とは,自己の活動の結果,環境に変化をもたらすことができたという感覚のことである(White, 1959)。私たちは,環境と相互作用しながら,影響を与えることで,自分には効力があると感じるよう生得的に動機づけられている(e.g., Leotti, Iyenger, & Ochsner, 2010)。人が,自分を取り巻く環境をコントロールしたいと感じる傾向があるのは,この動機によるものである。そして,自分の物だと感じることで環境をコントロールし,コントロール欲求を満たしている(Beggan, 1991; Pierce et al., 2003)。

効力感への動機づけ(エフェクタンス動機づけ)の個人差を測定する際には,コントロール欲求尺度(Burger & Cooper, 1979)が用いられている(Epley, Waytz, Akalis, & Cacioppo, 2008)。ここでいうコントロール欲求とは,人,物や状況などを自分の思い通りにコントロールすることで,自分の望むような結果を導きたいという欲求のことである(e.g., Iseki & Kitagami, 2019; Leotti et al., 2010)。コントロール欲求が高い人は,コントロール感の欠如に敏感であるため,学業成績が良い(Burger, 1992),ギャンブルを好む(Burger & Schnerring, 1982),品揃えが豊富であることを好む(Inesi, Botti, Dubois, Rucker, & Galinsky, 2011),新製品を買いたがらない(Faraji-Rad, Melumad, & Johar, 20173)といった様々な特徴がある。さらには,本などの物理的媒体(vs 電子書籍などの電子媒体)により高い心理的所有感を抱くこともわかっている(Atasoy & Morewedge, 2017)。

さらに,補償的コントロール理論(compensatory control theory)によると,何らかの状況的要因によって,コントロール感が低下した場合,それをベースラインまで戻そうと動機づけられるため,一時的にコントロール欲求が高まる(Kay, Whitson, Gaucher, & Galinsky, 2009; Landau, Kay, & Whitson, 2015)。実際,コントロールの欠如を知覚し,コントロール感を補完するよう動機づけられると,功利的商品やブランドリーダー,努力を要する商品への購買意図が向上する(Beck, Rahinel, & Bleier, 2020; Chen, Lee, & Yap, 2017; Cutright & Samper, 2014)。また,消費者は,新製品や限られた商品選択肢に直面したとき,コントロール感が低下するため,一時的にコントロール欲求が高まる。その際,ウェブサイトのインタラクティブ性が高い(vs 低い)と,新製品や少ない商品選択肢に対して,より好意的な態度を示す(Wu, 2019)。最近では,コントロールと消費者行動に関する体系的なレビュー論文が初めて発刊されるなど,さらなる研究の蓄積が期待される(Cutright & Wu, 2023)。

心理的所有感の理論において,心理的所有感の根底にある動機として効力感が挙げられているにもかかわらず,実証研究は未だ十分とは言えない(Peck & Luangrath, 2023)。加えて,音楽配信サービスへの心理的所有感を検討したDanckwerts and Kenning(2019)は,動機(e.g.,効力感,自己同一性,居場所の獲得)には個人差があることから,それらを調整変数に加えて心理プロセスを解明することの重要性を唱え,今後の課題としている。

そこで本研究では,コントロール欲求の個人差が音楽配信サービスに対する心理的所有感やロイヤルティに及ぼす影響について検討することとした。そもそも,音楽配信サービスへの心理的所有感は,利用頻度に影響されると考えられる。音楽配信サービスのユーザーは,デジタルコンテンツとのインタラクティブ,プレイリストの作成,ライブラリの整理,アイデンティティの投影,気分の制御などを通して,コントロール感が促進されると同時に,時間,労力を投資している(Kirk & Swain, 2015; Sinclair & Tinson, 2017)。そして,利用頻度が高いユーザーの方が,そういった傾向はより強いと考えられる。つまり,利用頻度は心理的所有感の先行要因である,コントロール感と自己投資を反映していると考えられるため,心理的所有感の醸成に影響を及ぼす変数であると予測される。加えて,補償的コントロール理論に基づけば,利用頻度が高い人ほど,コントロール感が補完され,コントロール欲求は満たされていると考えられる。したがって,コントロール欲求の個人差が心理的所有感に与える影響について,利用頻度を調整変数に含めて,検討することとした。

III. 調査データを用いた検証

1. 調査方法

(1) 調査参加者

調査参加者は,音楽配信サービスであるSpotify かApple Musicのいずれか4)を週に1日以上利用している人に限定して,クラウドワークス(https://crowdworks.co.jp)にて募集された5)。本調査では,20歳から68歳までの430名(男性213名,女性216名,どちらでもない1名;平均年齢38.677歳,SD=9.912)のデータが収集された6)

(2) 質問項目

サービスに対する心理的所有感を測定するため,自己関連性(self-link;6項目)と所有感覚(feeling of ownership;3項目)の2因子構造からなる日本語版心理的所有感尺度(Iseki, Sasaki, & Kitagami, 2022)が用いられた(5件法)。また,ロイヤルティ(3項目;Palomba, 20227)に加えて,サービスの利用頻度について,「あなたは週にどのくらい[サービス名]を利用しますか」という質問に対し,「0:利用しない(週に1日未満)」「1:わずかに利用する(週に1日程度)」「2:やや利用する(週に2~3日程度)」「3:とても利用する(週に4~5日程度)」「4:非常に利用する(週に6~7日程度)」という5段階で評価するよう求められた(e.g., Danckwerts & Kenning, 2019)。また,コントロール欲求の個人差を測定するために,Burger and Cooper(1979)のコントロール欲求尺度(Desire for control;以下,DFCとする)の日本語版(20項目;Ando, 1994)が用いられ,7件法で評価するよう求められた。他に,調査参加者の性別,年齢,契約しているサービスのプランについて回答が求められた。また,教示操作チェック課題(IMC; e.g., Oppenheimer, Meyvis, & Davidenko, 2009)と注意チェック課題(ACQ; e.g., Aust, Diedenhofen, Ullrich, & Musch, 2013)が設けられた。

2. 分析結果

(1) 分析データの除外基準・基礎統計量・相関係数

得られた430名のデータのうち,教示操作チェック課題と注意チェック課題に違反した49名とサービスの利用頻度について,「0:利用しない(週に1日未満)」と回答した27名を除外した。最終的には,週1回以上サービスを利用している20歳から68歳までの354名(男性177名,女性177名;平均年齢38.901歳,SD=9.833)のデータが分析の対象となった8)。各変数の基礎統計量,Cronbachのα係数,相関係数を表1に示す。

表1

基礎統計量と相関係数

注:DFC=desire for control. **p<.01, *p<.05, p<.10

(2) コントロール欲求と利用頻度が心理的所有感に及ぼす影響

心理的所有感(α=.991)を目的変数とし,説明変数として,Step 1でサービス(ダミー変数:Spotify=1,Apple Music=0),コントロール欲求,利用頻度を,Step 2で一次の交互作用項,Step 3で二次の交互作用項を投入した階層的重回帰分析(Aiken & West, 1991)を行った(各変数は中心化)。その結果,Step 3で,決定係数の増分は有意であったため(F(7, 346)=4.700, p<.001, R2=.087; ΔR2=.014, ΔF(1, 346)=5.387, p=.021),Step 3のモデルを採用し,単純傾斜検定を行った(図19)

図1

心理的所有感へのコントロール欲求の影響に対する利用頻度の調整効果

注:DFC=desire for control; PO=psychological ownership. −1SD represents 1SD below the mean. +1SD represents 1SD above the mean.

まず,Spotifyの結果について述べる。利用頻度が高い場合(+1SD)では,コントロール欲求の有意な効果は認められなかったが(β=.103, t(346)=1.036, p=.301),利用頻度が低い場合(−1SD)では,コントロール欲求の負の効果が認められた(β=−.210, t(346)=2.061, p=.040)。加えて,コントロール欲求が高い人(+1SD)では,利用頻度の正の効果が認められたが(β=.301, t(346)=2.943, p=.003),コントロール欲求が低い人(−1SD)では,利用頻度の有意な効果は認められなかった(β=−.013, t(346)=0,124, p=.901)。

次に,Apple Musicについて述べる。利用頻度が高い場合(+1SD)では,コントロール欲求の有意な効果は認められなかったが(β=.086, t(346)=0.811, p=.418),利用頻度が低い場合(−1SD)では,コントロール欲求の正の効果が認められた(β=.257, t(346)=2.359, p=.019)。加えて,コントロール欲求が高い人(+1SD)でも,低い人(−1SD)でも,利用頻度の有意な効果は認められなかった(DFC(+1SD):β=−.037, t(346)=0.330, p=.741;DFC(−1SD):β=.134, t(346)=1,344, p=.180)。

これらの結果をまとめると,サービスの利用頻度が低い場合,Apple Musicでは,コントロール欲求が高い人ほど,心理的所有感も高くなるが,Spotifyでは逆のパターンが見られ,コントロール欲求が高い人ほど,心理的所有感は低くなった。一方,サービスの利用頻度が高い場合は,両サービスともに,コントロール欲求の高低による心理的所有感への影響は確認されなかった。加えて,利用頻度が高いと心理的所有感が高まることが予測されたが,そういった傾向は,Spotifyではコントロール欲求の高い人にのみ見られたものの,Apple Musicでは確認されなかった。

利用頻度が低い場合に,SpotifyとApple Musicで異なるパターンが見られた点について,Spotifyには無料プランと有料プランがあることが影響していると考えられたため,追加検証をすることとした。

(3) 無料プランにおけるコントロール欲求と利用頻度の影響

本調査で得られたデータでは,Spotifyの有料プランを利用している人が81名,無料プランを利用している人が107名であった。無料プランは,オフライン再生ができなかったり,曲をスキップできる回数に制限があったり,広告を非表示にできなかったりと,さまざまな制限があるため(2023年2月現在),コントロール感が得られにくいと考えられる。加えて,無料プランは財力を投資していない。さらに,利用頻度も無料プラン(vs 有料プラン)の方が低かったため(t(179.202)=3.598, p<.001, Cohen’s d=0.521),時間や労力の投資も少ないと言える。つまり,Spotifyの有料プランと無料プランの利用者の間には,心理的所有感の先行要因であるコントロール感と自己投資に違いが生じていると考えられる10)

そこで,Spotifyの無料プランの利用者(n=107)のみを分析の対象とし,心理的所有感を目的変数とし,説明変数として,Step 1でコントロール欲求と利用頻度を,Step 2でそれらの交互作用項を投入した階層的重回帰分析を行った(各変数は中心化)。その結果,Step 1からStep 2で,決定係数の増分は有意傾向であったため(ΔR2=.033, ΔF(1, 103)=3.621, p=.060),単純傾斜検定を行った(図2)。利用頻度が高い場合(+1SD),コントロール欲求の有意な効果は認められなかったが(β=.066, t(103)=0.502, p=.617),利用頻度が低い場合,コントロール欲求の負の効果が認められた(β=−.300, t(103)=2.096, p=.039)。加えて,コントロール欲求が高い人(+1SD)では,利用頻度の正の効果が認められたが(β=.280, t(103)=2.018, p=.046),コントロール欲求が低い人(−1SD)では,利用頻度の効果は認められなかった(β=−.086, t(103)=0.637, p=.525)。

図2

無料プランにおけるコントロール欲求と利用頻度の交互作用

注:DFC=desire for control; PO=psychological ownership. −1SD represents 1SD below the mean. +1SD represents 1SD above the mean.

これらの結果をまとめると,無料プランにおいてもサービスの利用頻度が低ければ,一様に心理的所有感も低くなるわけではなく,そのような傾向は,コントロール欲求が高い人にのみ見られ,前節の結果と同様であった。先行研究において,無料プランの利用者は,音楽配信サービスへの心理的所有感が高まるほど,楽曲への心理的所有感が醸成され,その結果,有料プランへのスイッチング意向が高くなることが明らかになっている(Danckwerts & Kenning, 2019)。本研究の結果をふまえると,サービスの利用頻度が低く,コントロール欲求が高い人は,無料プランから有料プランへのスイッチング意向が低いことが示唆される。

また,有料プランの利用者(n=81)を分析の対象とし,同様の分析をしたところ,Step 2で決定係数の増分は有意ではなかったものの(ΔR2=.012, ΔF(1, 77)=0.927, p=.339),結果のパターンは酷似していたことから,「利用頻度が低く,コントロール欲求が高いと心理的所有感が醸成されにくい」のは,無料プランに特有の傾向ではないと示唆される。

(4) コントロール欲求と利用頻度がロイヤルティに及ぼす影響

目的変数をロイヤルティに変更し,説明変数として,Step 1でサービス(ダミー変数:Spotify=1,Apple Music=0),コントロール欲求,利用頻度を,Step 2で一次の交互作用項,Step 3で二次の交互作用項を投入した階層的重回帰分析を行った(各変数は中心化)。その結果,Step 3で,決定係数の増分は有意であったため(F(7, 346)=6.256, p<.001, R2=.112; ΔR2=.014, ΔF(1, 346)=5.384, p=.021),Step 3のモデルを採用し,単純傾斜検定を行った(図311)

図3

ロイヤルティへのコントロール欲求の影響に対する利用頻度の調整効果

注:DFC=desire for control. −1SD represents 1SD below the mean. +1SD represents 1SD above the mean.

まず,Spotifyの結果について述べる。利用頻度が高い場合(+1SD)でも,低い場合(−1SD)でも,コントロール欲求の有意な効果は認められなかった(利用頻度(+1SD):β=.022, t(346)=0.227, p=.820;利用頻度(−1SD):β=−.059, t(346)=0.591, p=.555)。加えて,コントロール欲求が高い場合(+1SD)でも,低い場合(−1SD)でも,利用頻度の正の効果が認められた(DFC(+1SD):β=.295, t(346)=2.927, p=.004;DFC(−1SD):β=.213, t(346)=2.138, p=.033)。

次に,Apple Musicについて述べる。利用頻度が高い場合(+1SD)では,コントロール欲求の有意な効果は認められなかったが(β=−.067, t(346)=0.643, p=.521),利用頻度が低い場合(−1SD)では,コントロール欲求の正の効果が認められた(β=.329, t(346)=3.064, p=.002)。加えて,コントロール欲求が高い人(+1SD)では,利用頻度の有意な効果は認められなかったが(β=.093, t(346)=0.831, p=.407),コントロール欲求が低い人(−1SD)では,利用頻度の正の効果が認められた(β=.489, t(346)=4.987, p<.001)。

これらの結果をまとめると,サービスの利用頻度が低い場合,Apple Musicでは,コントロール欲求が高い人ほど,ロイヤルティも高くなるが,Spotifyではコントロール欲求の影響は見られなかった。一方,サービスの利用頻度が高い場合は,両サービスともに,コントロール欲求の高低によるロイヤルティへの影響は確認されなかった。加えて,利用頻度が高いとロイヤルティも高いと想定され,Spotifyではその通りの結果であったが,Apple Musicでは,コントロール欲求が低い人でのみ,そういった傾向が認められた。

IV. 議論

分析結果をまとめると,コントロール欲求と利用頻度の影響は,心理的所有感とロイヤルティで概ね同じような結果のパターンが現れた。特筆すべき点として,利用頻度が低い場合に,SpotifyとApple Musicで異なるパターンが見られたことである。つまり,Apple Musicでは,コントロール欲求が高い人ほど心理的所有感も高くなるが,Spotifyでは逆に心理的所有感が低くなることが示された。Apple Musicの利用者の多くは,iPhoneユーザーであることが想定されるため,Appleが提供する他のサービスや製品との互換性も高く,コントロール感が促進されやすいことが考えられる。したがって,コントロールの知覚に敏感なコントロール欲求の高い人は,利用頻度が低くても,Apple Musicを通じてコントロール感が促進され,心理的所有感が醸成された可能性が考えられる。一方,Spotifyでは,利用頻度が低いとコントロール感が促進されにくい何らかの要因があることが予想されるが,それが無料プランに起因するものではないことが示唆された。Spotifyの特徴であるユーザーに合わせた豊富なプレイリストや優れたレコメンド機能は,利用頻度が低い場合にはそのメリットを享受しにくいことに加え,「自分で選ぶ」ことを好むコントロール欲求の高い人のニーズを満たしにくい可能性も考えられる。これらの点について,今後,さらなる慎重な検討の必要がある。そして,利用頻度の高い場合には,SpotifyとApple Musicのどちらにおいても,コントロール欲求は心理的所有感とロイヤルティに影響を及ぼさなかった。利用頻度が高い場合,時間や労力を投資しているため,コントロール欲求が低い人も心理的所有感が醸成され,コントロール欲求が高い人との差が生じなかったと考えられる。

実務的な示唆として,音楽配信サービスにおいて,心理的所有感やロイヤルティに対するコントロール欲求の影響は一様ではなく,特に,週に数日程度の利用に留まっている顧客に対しては,コントロール欲求の程度に応じた慎重なアプローチが必要であると言える。例えば,デモグラフィック変数に着目すると,コントロール欲求は男性(vs 女性)や若年層(vs 中高年層)で高い傾向があることから(Mossbarger, 2009; Weigl, Nees, Eisele, & Riener, 2022),特に若年男性をターゲットとし,アプリの操作性やカスタマイズ性を高めたり,他のサービスとの互換性を高めたりすることで,彼らのコントロール欲求を満たすことが重要であると考えられる。さらに,心理的所有感の醸成の程度は,コントロール欲求の影響だけでなく,サービスによっても異なることが示唆された。サービスへの心理的所有感が高まれば,継続的な利用意向につながるが(Zhao, Chen, & Wang, 2016),心理的所有感が十分に醸成されていないと,他のサービスへのスイッチング意向が高くなることが想定される。自社が提供するサービスに対し,顧客がどの程度心理的所有感を抱いているかについて,コントロール欲求や利用頻度などの調整変数を想定しながら,正確に捉えることが重要であると考えられる。また,本研究では,サービスの利用頻度を心理的所有感の先行要因であるコントロール感や自己投資が反映された変数であると想定していた。Fritze et al.(2020)では,音楽配信サービスに対する心理的所有感が高まると,利用頻度も高くなることを示している。したがって,利用頻度と心理的所有感の関係は一方向ではなく,双方向に影響を及ぼし合うと捉えることが妥当であると考える。

本研究の限界として,サービスへのコントロール感を測定していない点が挙げられる。世代によってデジタルコンテンツをコントロールする能力に違いがあり,それがサービスへのコントロール感に影響している可能性も考えられる(Peck & Luangrath, 2023)。加えて,利用頻度が低い場合に,SpotifyとApple Musicで逆のパターンが見られたことについて,サービスに対するコントロール感に起因するものであるのか検討できていれば,より精緻な解釈が可能であったと考えられる。

心理的所有感の理論で提唱されている,効力感という動機からコントロール感を介して心理的所有感が醸成されるという心理プロセスは,そもそも日本人において再現されにくい可能性がある。その理由として,第一に,日本人はもともとコントロール欲求が低いと指摘されており,その水準は27か国中最下位である(Hornsey, Greenaway, Harris, & Bain, 201912)。第二に,保有効果においても文化差が存在することが指摘されており,東アジア人は欧米人に比べて,保有効果における支払意思額と受取許容額のギャップが小さくなる(Maddux et al., 2010)。日本人は自己批判傾向が強いため,自己と強く結びついた対象への評価が低くなるためであると示唆される(Heine & Hamamura, 2007; Kitayama, Markus, Matsumoto, & Norasakkunkit, 1997; Maddux et al., 2010)。加えて,日本人に多い集団主義は心理的所有感と負の相関がある(Menard, Warkentin, & Lowry, 2018)。実際,本研究では,利用頻度の低いSpotifyの利用者において,コントロール欲求が負の影響を与えていた。それが,日本人だけに特有の結果であったかについては本研究では検証できていない。本研究で得られた知見は,心理的所有感の理論を日本人に当てはめる場合に,異なる傾向を示すことも考慮し,慎重な検討が必要であることを示唆している。日本人を対象とし,効力感という動機の影響を検討した研究は未だ十分ではなく,その数は限定されている(e.g., Iseki & Kitagami, 2018, 2019)。今後,さらなる研究が蓄積され,心理的所有感の理論がより精緻化されることが求められる。

1)  自分が所有するものに高い価値を感じ,手放すことに強い抵抗を感じること(Kahneman, Knetsch, & Thaler, 1990)。ある物を手に入れるために支払ってもよい金額(支払意思額;willingness to pay)と,その物の所有者になった後,それを手放す代わりに受け取りたい金額(受取許容額;willingness to accept)とを比べたとき,後者の金額の方がより高くなることで保有効果は説明される。

2)  Morewedge(2021)が提唱する心理的所有感の二重プロセスモデルの中で,自己と対象の適合(Self-object congruity)という第四のルートが提唱されている(Morewedge, 2021; Peck & Luangrath, 2023)。自己と対象の適合とは,対象と自己が記憶の中で意味のある関連性を共有していることを指す(Morewedge, 2021)。

3)  新商品の場合,使用を心的にシミュレーションしにくかったり,スキーマにあてはめにくかったりするため,コントロール感が得られないことに起因している(Zhao, Hoeffler, & Dahl, 2009)。

4)  音楽配信サービスの世界市場シェア上位2位であるSpotifyとApple Musicを調査対象とした。なお,日本において,特に利用者が多い音楽配信サービスはAmazon Music Primeであるが,Amazon Prime会員には,送料無料や動画配信サービスなど多様な会員特典があり,Amazon Music Primeはその特典の一つとして利用できるサービスである。したがって,Amazon Music Primeに限定した心理的所有感やロイヤルティを捉えることが難しいと考え,調査対象に含めなかった。

5)  どちらのサービスも利用している場合には,利用頻度の高いサービスについて回答を求めた。

6)  本調査は,中京大学の倫理審査委員会の承認を得て実施された。調査前にすべての参加者から調査参加およびデータ利用の同意を得た。

7)  「私は[サービス名]の利用を継続する意向がある」,「これまでの経験から,[サービス名]との関係を継続する可能性は高い」,「[サービス名]内の他の楽曲も聴いてみようと思わせてくれる」(3項目;Palomba, 2022

8)  Spotifyの利用者は188名(男性99名,女性89名;平均年齢38.378歳,SD=9.533)であり,契約プランの内訳は,Standard(980円/月)が65名,Duo(1,280円/月)が6名,Family(1,580円/月)が6名,Student(480円/月)が2名,Free(無料プラン)が107名であり,2名は「わからない」と回答した。Apple Musicの利用者は166名(男性78名,女性88名;平均年齢39.494歳,SD=10.157)であり,契約プランの内訳は,個人(1,080円/月)が128名,ファミリー(1,680円/月)31名,学生(580円/月)が3名であり,4名は「わからない」と回答した。

9)  Step 1のモデルは有意であり(F(3, 350)=7.216, p<.001, R2=.058),Step 2で,決定係数の増分は有意でなかった(F(6, 347)=4.529, p<.001, R2=.073; ΔR2=.014, ΔF(3, 347)=1.792, p=.148)。

10)  心理的所有感の平均値は,有料プラン(vs 無料プラン)の方が高かった(有料プラン:M=2.787, SD=0.502;無料プラン:M=2.622, SD=0.558; t(180.409)=2.131, p=.034, Cohen’s d=0.308)。

11)  Step 1のモデルは有意であり(F(3, 350)=11.157, p<.001, R2=.087),Step 2で,決定係数の増分は有意ではなかった(F(6, 347)=6.321, p<.001, R2=.099; ΔR2=.011, ΔF(3, 347)=1.443, p=.230)。

12)  Hornsey et al.(2019)での日本人のコントロール欲求の平均は4.49(SD=0.86)であったのに対し,本研究での平均はさらに下回る4.353(SD=0.594)という低い水準であった。

井関 紗代(いせき さよ)

中京大学 経営学部 専任講師。

2020年 名古屋大学大学院情報学研究科 博士後期課程修了。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員,現大学助教を経て,2023年より現職。専門は,認知心理学,消費者心理学,消費者行動論,マーケティング。

References
 
© 2023 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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