マーケティングジャーナル
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レビュー論文 / 招待査読論文
自然感の影響
― 既存研究の整理と今後の研究の方向性 ―
渡邊 久晃
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2023 年 43 巻 1 号 p. 75-82

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Abstract

近年,消費者は食品や化粧品といったさまざまなカテゴリーで自然製品をますます好むようになっている。自然感(naturalness)は,「人間による介入や処理,添加物がないこと」を意味する概念であり,自然感の影響に関する研究は徐々に増えてきている。そこで本稿では,消費者行動研究分野とマーケティング研究分野に関連する海外ジャーナルの論文のレビューを行った。その結果,自然感が特定の信念や推論を通じて消費者の判断や感情的反応に影響を及ぼすこと,プロセス要因と感覚的要因が自然感知覚に影響を及ぼすことがわかった。最後に,今後の研究の方向性について議論した。本稿は,自然感概念及び自然感選好についての理解に役立つ知見を提供している。

Translated Abstract

In recent years, consumers have increasingly preferred natural products in categories such as food and cosmetics. Naturalness includes the concept of “no human intervention, processing, and additives”, and naturalness research has gradually increased. This article reviews academic literature published in overseas journals related to research on consumer behavior and marketing. The results reveal that naturalness influences consumers’ judgments and emotional reactions through specific beliefs and inferences, and that process factors and sensory factors influence the perceived naturalness. Finally, directions for future research are discussed. This article provides useful insights for understanding the concept of naturalness and naturalness preference.

I. はじめに

近年,消費者は,食品,医薬品,パーソナルケア製品,家庭用品といった様々なカテゴリーにおいて自然製品を好むようになっている(Scott, Rozin, & Small, 2020)。特に,食品カテゴリーにおいて消費者を強く惹きつけており,米国の買い物客の3分の2以上が「ナチュラル」ラベルの付いた食品を探している(Consumer Reports, 2016)。また,2021年度の国内の自然派・オーガニック化粧品の市場規模は1,642億円にのぼり,SDGsへの関心の高まりを背景に今後も拡大していくと見込まれている(Yano Research Institute Ltd., 2022)。

自然感(naturalness)は,一般に肯定的な手がかりであり,多くの人が経験的に自然物のほうが良いと考えていたり,品質が良いと判断する傾向がある(Rozin et al., 2004)。自然感に関する研究は,2000年代から主にFood Quality and Preference誌やAppetite誌といった食品カテゴリーのジャーナルにおいて行われてきたが,近年ではマーケティング分野での研究も徐々に増えている。

そこで本稿では,消費者行動研究分野とマーケティング研究分野に関連する海外ジャーナルに掲載された論文を対象に自然感の影響に関するレビューを行う。まず次章では,レビューに先立ち,自然感研究の基礎として自然感選好と食品カテゴリーにおける先行研究を確認する。第3章と第4章では対象となる論文を選定・レビューし,自然感研究を整理する。最終章では,まとめと考察を行い,今後の研究の方向性を提示する。

II. 自然感研究の基礎

1. 自然感選好

自然感は,法的・学術的に明確な定義があるわけではないが,先行研究では,「人間による介入や処理がなく,添加物がないこと」を指す概念として捉えられている(Rozin, 2005; Scott et al., 2020)。化学的に同等であったとしても,人は人工的な代替物よりも自然物を好む傾向がある(Rozin et al., 2004)。この傾向は食品カテゴリーで最も大きく,医薬品などの他のカテゴリーでも確認されている(Rozin, 2005; Rozin et al., 2004)。

自然物に対するこうしたポジティブな反応は,自然感選好(Li & Chapman, 2012; Rozin et al., 2004)と呼ばれる。Rozinらは,この選好は自然物にまつわる複数の信念によって引き起されていると主張した。それらをまとめると,自然物は,(1)健康的で,(2)環境にやさしく,(3)機能的で,(4)安全であると信じられており,(5)道徳的,(6)本質的により良いと考えられているという(Rozin, 2005; Rozin et al., 2004)。Li and Chapman(2012)は,これらの信念によって「自然=良い」というヒューリスティックが機能していると指摘している。

多くの人がこうした信念を保持している要因として,Rozin et al.(2004)は次の4点を挙げている。第1に,自然界における優位性である。人間の介入は自然界に対してほとんど常に損害を与えてきた。そのため,多くの人は手つかずの自然をより良い状態であると考えている。また,人間は悪意を持っている場合があるが,自然は悪意を持たないため,自然はより純粋な存在であると考えられている(Rozin et al., 2004)。

第2に,不作為バイアス(omission bias)である。人は,不作為と結果や責任を関連付けない傾向があり,害が発生した場合,作為のほうが不作為よりも否定的に評価される(Spranca, Minsk, & Baron, 1991)。自然物は人間の手が加えられていないため不作為であるが,人工物は人間の介入や処理といった作為を含むため,否定的に捉えられる可能性がある。

第3に,起源や規範的な秩序に対する選好である。自然感は物事の「元」の状態を示すが,先行研究では人が数字の0やオリジナルな製造工場といった起源を好む傾向が示唆されている(Newman & Dhar, 2014; Smith, Newman & Dhar, 2016)。また,自然界が持つ規範的な秩序に対しても選好があり,これには道徳的な意味合いが含まれている(Rozin et al., 2004)。

最後に,バイオフィリア(Wilson, 1984)と呼ばれる人が生命および生命に似た過程に対して抱く親しみや愛着である。人は,生得的に自然環境や他の生命に対して関心を持つ傾向があり,自然が持つ目新しさや多様性は特に好まれる(Wilson, 1984)。

2. 食品カテゴリーにおける先行研究

前述のとおり,自然感に関する先行研究は食品カテゴリーで蓄積されてきた。食品自然感は,健康的あるいは不健康な食品消費に影響を与え,自然感知覚が高いほど,新鮮で,美味しく,環境にやさしく,健康的であると判断される(食品自然感のレビューは,Román, Sánchez-Siles, & Siegrist, 2017を参照)。

食品の自然感知覚に影響を及ぼす要因は,主に,(1)原材料,(2)生産方法,(3)加工処理,(4)最終製品の特性の4つに分類できる(Etale & Siegrist, 2021)。とりわけ,最終製品それ自体よりも,生産方法や加工処理といった製品がそれまで経てきたプロセスが自然感知覚に大きな影響を与えることがわかっている。

例えば,有機農法や遺伝子組み換えの有無は農作物の自然感知覚に影響を与える(Lockie, Lyons, Lawrence, & Grice, 2004; Rozin, Fischler, & Shields-Argelès, 2012)。他にも,加工処理は自然感知覚に有害であるとされており,放射線照射や低温殺菌などの化学的な加工処理(Evans, de Challemaison, & Cox, 2010; Rozin, 2005),減法よりも加法を伴う処理は,食品の自然感知覚を大きく低下させる(Rozin, Fischler, & Shields-Argelès, 2009)。

また,一度でも人間による処理が加えられると自然感知覚は大きく低下する。これは,感染の原則(Mauss, 1902/1972)が関係している。感染の原則とは,ある実体の性質が物理的な接触によって別の実体に移り,永続的に痕跡を残すというものである。感染には負の優位性があり,正の存在との接触による浄化よりも負の存在との接触による汚染のほうがはるかに大きい(Rozin & Royzman, 2001)。人間の介入が好ましくないと考えられている場合,自然への介入によって人間が浄化されるよりも,人間が介入することによる悪影響のほうが大きいと考えられる。

近年では,生産方法の歴史が自然感知覚に正の影響を及ぼすことが指摘されている。例えば,歴史的に古くから主要な生産地であった「旧世界」(フランス,イタリアなど)のワインのほうが,「新世界」(アメリカ,アルゼンチンなど)のワインよりも自然感知覚が高まる(Staub, Michel, Bucher, & Siegrist, 2020)。また,食品の加工処理においても伝統的な技術(天日干し,塩漬けなど)を使用された食品のほうが,新しい技術(フリーズドライ,クエン酸の添加など)が用いられた食品よりも,自然感知覚が高くなることがわかっている(Etale & Siegrist, 2021)。

最終製品の特性としては,感覚的属性が注目されている。Labbe, Pineau, and Martin(2013)は,食品パッケージにおいて,視覚,触覚,聴覚の3つの感覚モダリティと感覚的相互作用が自然感知覚に及ぼす影響を検討した。結果は,視覚特性に加え,ざらざら感,しなやかさの2つの触覚属性が食品の自然感知覚に正の影響を与える一方で,聴覚属性のノイズの強さは負の影響が確認された。しかし,自然感知覚に対する視覚,触覚,および聴覚の刺激間の感覚的相互作用は確認されなかった。Labbeらは,この結果について3つの異なる感覚システムからの情報は過剰であり,注意が分散するためであると指摘している。

III. 対象論文の選定

ここまで,自然感選好と食品カテゴリーの先行研究を確認してきた。次章では,消費者行動研究分野とマーケティング研究分野に関連する海外ジャーナルの論文をレビューする。

レビュー対象の論文は,Paul and Criado(2020)を参考に,以下のように選定した。まず,論文検索ツールのWeb of Scienceを利用し,“naturalness”,“perceived naturalness”,“naturalness preference”,“natural product”をキーワードに論文を検索した1)。その結果,454,681本の論文が特定された。次に,特定された論文のうち,Chartered Association of Business SchoolsのAcademic Journal Guide 2021においてマーケティング分野のランク3以上に位置しているジャーナルの論文のみを対象とした2)。その結果,334本に絞られた。さらに,論文の題目または要約に上記のキーワードを含まない論文を削除した結果,12本の論文が抽出された3)。最後に,実質的に自然感に関して議論していない論文2本を削除しつつ,自然感との関連性が高い論文1本を追加し4),計11本の論文をレビュー対象とした。

IV. 自然感研究の整理

本章では,以上の議論をもとに,2つの視点から自然感研究のレビューを行う。第1に,自然感が消費者に及ぼす影響に関する研究である。第2に,自然感知覚に影響を及ぼす要因に関する研究である。さらに,前者の研究を「関連する信念を通じて及ぼす影響」,「推論の手がかりとして及ぼす影響」,「消費者の感情的反応に及ぼす影響」の3つに,後者の研究を「プロセス要因による自然感知覚への影響」,「感覚的要因による自然感知覚への影響」の2つに分類した。

1. 自然感が消費者に影響を及ぼす実証研究

(1) 関連する信念を通じて及ぼす影響

Scott et al.(2020)は,医療カテゴリーにおいて患者が置かれている状況と自然感選好の関係を検討した。Scottらは,自然製品は人工製品よりも安全であるが,効力は劣るという素朴信念に着目した。米国の疾病管理センターのデータを用いた分析とオンライン実験を含む7つの実験は,プロスペクト理論と一致して,既に損失が生じている治療段階では安全性が低くても効力が高い人工製品を,まだ損失が生じていない予防段階では効力が低くても安全性が高い自然製品を好むことを確認した(予防・治療効果)。さらに,患者の目標が自然感選好に及ぼす影響は,安全性の重要性の増加と効力の重要性の低下が媒介することがわかった。

Marozzo, Raimondo, Miceli, and Scopelliti(2020)は,食品パッケージの色の自然感に注目している。4つの実験は,自然な色(ベージュなどのアースカラー vs. 赤,青など)が健康な食品において支払意思額を増加させる一方で,不健康な食品では効果がないことを確認している。さらに,食品自体の色とパッケージの色の適合性,色の明度にかかわらず効果があること,自然な色が健康な食品の支払意思額に及ぼす影響は製品本物感(product authenticity)の知覚が媒介することが明らかになった。

(2) 推論の手がかりとして及ぼす影響

Berry, Burton, and Howlett(2017)は,食品表示の文脈において,自然感が食品の属性に関する推論に及ぼす影響を検討している。パイロット調査では,先行研究の結果と一致して,自然ラベルがあるとき,その食品の選択が平均して約20パーセント増加することが示された。続く実験では,自然ラベルが共有された属性ネットワークとして,食品の加工程度,遺伝子組み換えの原材料,オーガニックに関する推論に影響を与えることを確認している。さらに,自然ラベルが食品の健康感知覚と購買意図に及ぼす影響をオーガニックに関する推論が媒介することを明らかにした。

同様に,食品表示に注目したAndre, Chandon, and Haws(2019)は,一般的な食品表示は自然・科学ラベルと加法・減法フレームにより,「肯定的属性を取り除かない」,「否定的属性を加えない」,「否定的属性を取り除く」,「肯定的属性を加える」の4つに分類できることを確認した。その上で,2つの実験は,加法フレームが健康感知覚や美味しさ知覚を高めること,自然の手がかりが美味しさ知覚を高める一方で,健康感知覚は低くなることを明らかにした。ただし,相互作用は確認されなかった。

遺伝子組み換え食品(以降は,GM食品)への影響を検討した研究としてはHingston and Noseworthy(2018)が挙げられる。Hingstonらは,多くの消費者がGM食品は不自然であり,道徳的に間違っていると考えていることに着目し,そうした道徳的反対がGM食品の便益の知覚を妨げていると主張した。実験室,オンライン,フィールド実験を含む4つの実験は,パッケージング等の人工の手がかりがある場合,自然の手がかりの場合と比べ,GM食品の購買意図が高くなることが確認された。さらに,人工の手がかりがGM食品の購買意図に与える影響は,道徳的反対の緩和と知覚された功利的便益の高まりによって媒介されることを明らかにした。この結果は,GM食品のような非自然食品においては自然感が必ずしも肯定的な手がかりにならないことを示唆している。

化粧品カテゴリーにおいて検討した研究もある。Smith, Yazdani, Wang, Soleymani, and Ton(2022) は, 帰属理論と自己提示理論を基づき,人は費やした労力を結果から割り引いて判断する傾向があるため,他者に対して少ない労力を示そうとする結果,自然な美しさを求めると主張した。Twitterにおけるノーメイクアップ運動と化粧品販売データの関係を分析したStudy 1aでは,#nomakeupのツイート数がつけまつげやコンシーラーといった多くの化粧品の売上に正の影響を与えることが確認された。また,セルフィーの画像分析を含む3つの実験は,自然アピールが努力知覚の緩和を通じて魅力知覚を高めることを明らかにした。また,この媒介効果の影響は女性の魅力が高いときほど大きくなること,下流効果として化粧品の購買意図に影響を与えることがわかった。

(3) 消費者の感情的反応に及ぼす影響

Machado, de Carvalho, Torres, and Costa(2015)は,ブランド・ロゴの自然感が感情的反応に及ぼす影響を検証している。既存と架空のロゴを用いた実験では,自然なデザインは抽象的なデザインと比べて意味の解釈が容易なため,自然なデザインをしたロゴのほうが抽象的なデザインのロゴよりも肯定的な感情を引き出すことが確認された。また,自然なロゴのうち,オーガニックなデザイン(植物や動物をモチーフ)が感情的反応を最も高めることがわかった。

2. 自然感知覚に影響を及ぼす要因に関する実証研究

(1) プロセス要因による自然感知覚への影響

既に述べたとおり,自然感知覚は生産方法や加工処理といった対象の形成過程における人間の介入の有無に大きな影響を受ける。製品属性の手がかりとしての企業規模に注目したScekic and Krishna(2021)は,「生まれた」状態を人間の介入を含まない最も純粋で自然な状態と捉え,企業が成長・変化するにつれて,他の実体との接触によって汚染される可能性が高くなると主張した。4つの実験では,参加者は対象製品に自然な原材料と人工的な原材料のどちらが使用されているかを推測した。その結果,小規模企業(vs. 大企業)によって製造された製品は自然感知覚が高くなること,下流効果として購買意図に影響を与えることが確認された。ただし,企業規模が購買意図に及ぼす直接と全体の影響は負,もしくは有意ではなかったため(Study 2, 4),自然感知覚以外の要因が別の経路を通じて購買意図に影響を与える競合媒介(Zhao, Lynch, & Chen, 2010)が示唆された。また,潜在的連合テスト(IAT)を用いたStudy 3では,「小さな企業=自然な製品」という信念が無意識のうちにも保持されていることが明らかになった。さらに,この信念が強く持たれているほど企業規模が及ぼす影響は大きくなることがわかった。

Szocs, Williamson, and Mills(2022)は,パッケージの有無と自然感知覚の関係を検討している。Szocsらは,パッケージングが物理的機能に加え,製品を自然から分離する象徴的な障壁として機能するため,製品の自然感知覚を低下させ,消費者反応を悪化させると主張した。フィールド実験を含む7つの実験は,食品・非食品にかかわらず,パッケージングされているほうが,パッケージングされていないときよりも,購買可能性,製品評価,広告のクリック数,いいね数が低くなることを確認している。さらに,パッケージングが購買可能性に及ぼす影響を自然感知覚が媒介することを明らかにした。ただし,パッケージ上の製品情報や小売サイネージにおいて自然とのつながりを強調された場合やパッケージの原材料に自然物が使用されている場合,自然感が重要でない場合はパッケージングの負の効果が軽減することがわかった。

(2) 感覚的要因による自然感知覚への影響

一方で,Marckhgott and Kamleitner(2019)は,食品パッケージの表面の質感が自然感知覚に及ぼす影響を検証している。Marckhgottらは,物理学の光の反射の議論を参考に,パッケージ表面の光の反射によって自然感知覚が変化すると考えた。光が一つの角度だけから反射する鏡面反射では鏡のように光沢のある表面となり,光が多くの角度から反射する拡散反射ではマットな外観となる。土や粘土などの自然物は通常マットな質感であるため,マットな質感のときに自然感知覚が高まると主張した。3つの実験は,視覚と触覚のどちらの感覚評価でも,光沢のあるパッケージよりも,マットなパッケージのほうが自然な原材料がより多く含まれていると知覚されることを確認した。さらに下流効果として,美味しさ知覚と購買可能性に影響を与えることがわかった。ただし,人工的と見なされている製品(ケチャップやソーダ)ではパッケージの質感の効果が確認されたが,自然と見なされている製品(アイスティー)や自然ラベルがある場合は効果が見られなかった。

Hagen(2021)は,食品の綺麗さ(prettiness)が健康感知覚に及ぼす影響を検討する上で,自然感知覚の役割に着目した。Hagenは,素朴信念に関する議論に基づき,食品の綺麗さと自然感,自然感と健康感の間に強い連想があると主張した。6つの主要な実験と4つの補足実験は,健康・不健康な食品,自然・加工食品にかかわらず,綺麗な見た目をした食品のほうが不格好な見た目の食品よりも健康的であると判断されることを確認した。この傾向は,歪んだ同化効果(Sherif, Taub, & Hovland, 1958)による非視覚的な操作を行った場合も確認された(Study 1b)。さらに,この影響を自然感知覚が媒介すること,下流効果として支払意思額と低カロリー食品の選択に影響を与えることが明らかになった。また,調整効果を検討するために綺麗さの操作を2つに分けたStudy 4aでは,自然界に見られる古典的な綺麗さ(対称性や秩序,繰り返しなど vs. モダンな綺麗さ)のみで自然感知覚が健康感に対する影響を媒介することがわかった。したがって,綺麗さの影響はハロー効果によるものではないことが示唆された。

V. まとめと考察

本稿では,自然感の影響について消費者行動研究分野とマーケティング研究分野の関連する海外ジャーナルに掲載された論文を対象にレビューしてきた。自然感研究は近年増加しており,食品カテゴリーの研究が依然として多いものの,それ以外の医薬品や化粧品といったカテゴリーでも議論されていることがわかる。以下では,本稿のレビューのまとめと考察を行い,今後の研究の方向性を提示する。

第1に,自然感が消費者に及ぼす影響に関する検討である。本稿でレビューした研究では,自然感が安全性,効力(Scott et al., 2020),本物感(Marozzo et al., 2020),美味しさ(Marckhgott & Kamleitner, 2019),健康感(Hagen, 2021)といった関連する信念を通じて消費者の判断に影響を及ぼすことが示唆されている。自然感が持つ多様な信念を考慮すると,幅広いカテゴリーや文脈で検討することができるだろう。

食品関連の研究としては,食品表示基準の文脈においても議論されている(André et al., 2019; Berry et al., 2017)。既存研究は,自然ラベルは様々な推論の手がかりとして機能するため,実際の食品情報と消費者の知覚との間にギャップを生む可能性を示唆している。

また,自然感は一般に肯定的な手がかりであるが,すべての製品で同じように重要というわけではない。前述のとおり,医薬品(Rozin et al., 2004; Scott et al., 2020)やGM食品(Hingston & Noseworthy, 2018)では,自然感は否定的な手がかりとなる場合がある。自然感が重要な食品においても,健康と安全の懸念のようなより重要な属性があるとき,自然感の影響は低くなると考えられる。今後の研究では,どのような条件において自然感は効果があるのか,あるいは消失,逆転するのかという調整変数について更に検討していくべきである。

一部で競合する知見も生じている。すでに述べたとおり,自然感は食品の健康感知覚と美味しさ知覚に正の影響を及ぼす。Hagen(2021)のStudy 2では,健康感と美味しさの両方を媒介変数として連鎖的媒介分析を行うと,健康感・美味しさの順序で支払意思額に影響を及ぼすという結果が示されている。一方で,セルフコントロール・ジレンマに関する先行研究では,健康感と美味しさはしばしばトレードオフの関係にあるとされる(Mai, Symmank, & Seeberg-Elverfeldt, 2016; Raghunathan, Naylor, & Hoyer, 2006)。前出のAndré et al.(2019)では,自然の手がかりは科学の手がかりと比べて,美味しさ知覚は高まるが,健康感知覚は低くなることが示されている。このように,自然感と健康感,美味しさの関係はまだ明確になっていない点が多く,より詳細に議論していく必要がある。

第2に,自然感知覚に影響を及ぼす要因の検討である。すでに述べたとおり,自然感知覚は対象がそれまで経てきたプロセスが関係しており,企業規模(Scekic & Krishna, 2021)やパッケージの有無(Szocs et al., 2022)が影響を及ぼすことが示唆されている。前述したEtale and Siegrist(2021)らの知見も踏まえると,製造企業の歴史や製造プロセスといった要因も製品の自然感知覚に影響を与える可能性がある。

感覚的要因の検討も同様に重要である。本稿でレビューした2つの論文は主に視覚に着目していたが,触覚や聴覚も自然感知覚に影響を及ぼすことが示されている(Labbe et al., 2013)。心理学の研究ではあるが,Kwon, Yoshino, Kosahara, Nakauchi, and Sakamoto(2017)は,人は対象物を人工的だと感じるときは視覚的なオノマトペで表現するのに対し,自然だと感じるときは触覚的なオノマトペで表現することを確認しており,自然感と触覚経験は密接に関連していると考えられる。今後の研究では,視覚以外の感覚に関する要因やクロスモーダルな要因についても積極的な研究が望まれる。

最後に,文化差や個人差に関する検討の必要性について述べる。自然製品は,冷蔵ができなかった19世紀までは主に傷みやすい製品を意味していた(Stanziani, 2008)。したがって,自然感の影響はその国の文化や規制などに大きく依存すると考えられる。実際,スイスとオーストラリアの消費者を比較したStaub, Michel, Bucher, and Siegrist(2020)は,文化と個人の製品関与の違いによって製品の自然感知覚と自然感の重要性が異なることを確認している。既存研究の多くは単一の国かつ西洋諸国で行われているため,我が国の消費者を対象とした実証研究や他国との比較といった取り組みは非常に有意義であると考えられる。

謝辞

本稿の掲載にあたり,レビュワーの先生より貴重なコメントを頂戴いたしました。この場をお借りして,心より感謝申し上げます。

1)  2023年2月10日時点の検索結果。

2)  対象としたジャーナルは,Journal of Consumer Psychology, Journal of Consumer Research, Journal of Marketing, Journal of the Academy of Marketing Science, Marketing Science, International Journal of Research in Marketing, Journal of Retailing, European Journal of Marketing, International Marketing Review, Journal of Advertising, Journal of Advertising Research, Journal of Interactive Marketing, Journal of International Marketing. Journal of Public Policy and Marketing, Marketing Letters, Marketing Theory, Psychology and Marketing, Quantitative Marketing and Economicsの18誌である。

3)  最終的には,Journal of Consumer Psychology, Journal of Consumer Research, Journal of Marketing, Journal of the Academy of Marketing Science, International Journal of Research in Marketing, Journal of Public Policy and Marketing, Marketing Letters, Psychology and Marketingの論文を取り上げた。

4)  Machado et al.(2015)Journal of Product and Brand Managementに掲載されている。

渡邊 久晃(わたなべ ひさあき)

神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程に在籍。修士(商学)。専門は消費者行動,マーケティング。

References
 
© 2023 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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