2025 年 45 巻 3 号 p. 196-206
メタバースの仮想製品が新たな収益源として注目される一方,メタバースの社会や製品の特性により,現実世界のステータスブランド価値がそのまま通用しない可能性がある。そうであれば,ステータスブランドの優位性の喪失を意味することとなる。そこで本研究では,ステータスブランドの価値がメタバースにおける仮想製品に及ぼす影響を明らかにするために三つの実証研究を行った。研究1では,現実製品と比較してメタバースにおける仮想製品では,ステータスブランドが理想自己や製品態度に及ぼす影響が弱まることを確認した。このようなステータスブランドの有効性低下という課題に対応するため,研究2では,「フィジタルフレンド」の存在に着目し,これがステータスブランドの効果を再活性化することを明らかにした。研究3では,さらなる心理的メカニズムとしてコミュニティからの受容期待が関わることを明らかにした。これらの知見は,メタバースにおけるステータスブランドの効果メカニズムを解明し,フィジタルフレンドを介した社会的アイデンティティ形成の理解を深め,リアルとバーチャルを橋渡しするブランド戦略の新たな方向性を提示している。
While virtual products in the metaverse are gaining attention as new revenue streams, the social and product characteristics of the metaverse suggest that status brand value from the real world may not directly translate to these virtual environments. This implies a potential loss of strategic advantage for status brands. This research investigates the impact of status brand value on virtual products in the metaverse through three empirical studies. Study 1 confirmed that in the metaverse, the influence of status brands on ideal self-concept and product attitudes is weaker compared to that of real-world products. To address this challenge of diminished status brand effectiveness in metaverse environments, Study 2 focused on the presence of “phygital friends” and revealed that they can reactivate the effects of status brands. Study 3 further identified community acceptance expectation as an additional psychological mechanism involved in this process. These findings elucidate the effect mechanisms of status brands in the metaverse, deepen our understanding of social identity formation through phygital friends, and present new strategic directions for brand strategies that bridge real and virtual worlds.
デジタル技術の進展に伴い,3D仮想空間で他者と交流できる「メタバース」が急速に普及している。とりわけRobloxやFortniteなどの大規模プラットフォームでは,世界中のユーザーがアバターを介して多様な体験や取引を行い,新たな社会構造や市場が形成され始めている(Belk, 2024; Yang & Chattopadhyay, 2025)。こうしたメタバースは消費者行動やコミュニケーション様式を大きく変容させており,実務・学術の双方で注目を集めている。
この動向にあわせて,Nikeやadidas,Gucci,Balenciaga,Tiffanyなど数多くの企業がメタバースに参入し,仮想製品や関連体験を展開している。当初はブランド価値を高める目的が主流であったが(Donvito et al., 2024),近年は直接的な収益創出も重要な目標となってきた(Orazi & Nyilasy, 2025)。さらに,ユーザー生成型コンテンツプログラムの普及によって参入障壁が下がり,新規参入者が増加した結果,市場内の競争は激化している。例えばRobloxでは,ユーザーが独自にデザインしたアバター用アイテムをマーケットプレイスで販売でき,Fortniteではユーザーがゲーム内マップやミニゲームを制作して収益化することが可能であり,企業だけでなく一般ユーザーまでも参入している。現実のブランド価値が高い企業にとり,メタバースでもその価値を利用できれば,より有利に競争を勝ち抜くことができる。
一方,現実とメタバースでは製品特性や社会的文脈が大きく異なる。そのため,既存のブランド価値が必ずしもそのまま転移されるとは限らない。このような転移に関する現象を確認し,もしその転移が生じないのであれば,その価値を移転するための条件を探索することが求められている。
これまでの学術研究では,メタバースを通じたブランド価値向上の可能性は広く検討されてきた。しかし,現実のステータスブランドがメタバースにおいてどのように価値が転移するのかといった課題については検討がなされていない。
そこで,本研究では現実世界のステータスブランドがメタバースにおける仮想製品に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。まず,研究1では,現実世界におけるステータスブランドの影響は,現実製品と比較してメタバースにおける仮想製品では弱まることを確認する。そして研究2では,メタバースにおける現実のステータスブランドの効果の再活性化の糸口を探索する。現実世界とデジタル空間を往来する独特の交友関係が形成されていることに着目し,これを「フィジタルフレンド」(物理空間で対面接触があり,かつメタバース上でも交流する友人)として概念化し,その調整効果を検討する。さらに研究3では,フィジタルフレンドが存在する状況において,ステータスブランドがコミュニティからの受容期待を高め,それが理想自己への接近を促進し,最終的に製品態度の向上につながるという詳細な心理プロセスを検証する。
これらの研究を通じて,メタバースと現実社会が融合しつつある環境において,ステータスブランドがどのような条件下で転移し,それをどう活用するかの戦略的示唆を提示する。特に,リアルと仮想の両面で関係を維持するフィジタルフレンドが,ステータスブランドの価値転移に重要な役割を果たす可能性を明らかにすることで,メタバースにおけるブランド戦略の新たな視点を提供することを目指す。
メタバースにおける製品,社会の特徴は,物理世界とは消費者行動を規定しうる重要ないくつかの点において違いが存在する。まず,製品特徴として最も顕著な違いは,その名称が示す通り,仮想製品が物理的な実体を持たないという点である。この特徴により,製品の生産過程において物理的な素材や製造設備,さらには流通のための設備や在庫管理といったものが不要となる。これは,生産コストの削減や,在庫リスクの解消といった形で企業に大きな恩恵をもたらす一方で,特にステータスブランドにとっては深刻な課題ともなりうる。なぜなら,物理製品においては素材の質や製造技術の高さが重要な差別化要因となっているが,仮想製品ではこのような差別化が不可能となるためである(Henkin et al., 2025)。
メタバースにおける仮想製品は,物理製品と比べて消費者が評価しにくいという制約がある。物理製品ならば,視覚に加えて触覚,重量感,素材の質感など多様な感覚を通じて価値を伝達できる。しかし,仮想製品では視覚や音声など限られた情報しか提示できず,触覚や嗅覚を伴う表現は現在のメタバースでは不可能である(Finken et al., 2025)。このような価値伝達の手段の制約は,一般的な製品だけでなく,特にステータスブランドに大きな課題をもたらす(Bao et al., 2024)。このように,生産過程と消費者の評価過程の両面において,仮想製品は物理製品と異なる特徴を有している。
これに加え,メタバース空間は,従来の物理的世界とは異なる社会的構造を形成している。その一つは,社会的プレゼンスの分散の大きさに現れる(Biocca et al., 2001)。社会的プレゼンスは仮想空間での他者との交流の程度を指す(Biocca et al., 2001)。メタバース空間では,対面での社会的制約が少なく,物理的な距離や時間の制約を受けずに交流できる(Hadi et al., 2024)。また,利用目的がゲーム目標の達成などにあり,交流自体が目的でない場合もあるため,関係の深さは完全な孤立から密接な相互作用まで幅広く,現実世界以上に多様な社会的つながりが観察される(Fukuda et al., 2024)。そして,一定の社会的プレゼンスが確立されている空間においても,そのコミュニティの構造的特性は現実世界とは異なる点がある。現実社会では,年齢層や社会的属性に基づいて同質的な価値観や興味関心を持つ集団が自然発生的に形成される傾向がある。一方,メタバース空間では,インターネットの特性を反映し,年齢,性別,文化的背景が多様な参加者との偶発的なコミュニケーションが日常的に生じる。例えば,ゲーム系メタバースでは,共にゲームプレイを行う他者がランダムで選定されることなどもある。したがって,メタバースでは,多様な価値観や興味関心をもつ人々との交流が求められる。
このようなメタバース独自の製品,社会の特徴を踏まえると,メタバース空間特有の文脈や価値観に基づいて,独自のアイデンティティが形成され,また製品の評価基準が形成される(Lu et al., 2025; Tang et al., 2025)。このような背景を踏まえると,現実世界でステータスシンボルとして確立されているブランドが,メタバース空間においてどのような価値を持ち得るのかを検証することは極めて重要である。
2. メタバースにおけるブランド研究メタバースにおけるブランド研究の課題は(1)メタバースを利用してブランド価値を高めること,(2)現実のブランド価値を活用して仮想製品を販売することの二つに分類できる。これまでの研究の多くは,(1)の視点に基づいて行われてきた。例えば,メタバースにおける仮想製品の真正性と希少性が当該仮想製品を販売しているブランドの現実製品の購買意図を高めること(Sung et al., 2023)などが明らかにされている。また,ほかにもブランド指標として,ブランドロイヤルティや連想,知覚品質,認知など,多岐にわたるメタバースへのブランド参入の効果が捉えられている(e.g., Park & Lim, 2023)。
一方,(2)の視点の研究は2篇(Barnes & Mattsson, 2011; Ramanathan & Purani, 2014)しか見当たらず,そのうち実証研究はBarnes and Mattsson(2011)のみである。両者の研究とも,メタバースへの製品展開をブランド拡張として捉え,現実のブランド価値が,メタバース内のブランド価値に影響を与えるというモデルを提示している。しかし,これらの研究には複数の制約が存在する。まず,Barnes and Mattsson(2011)における調査対象ブランドは電機メーカーを製品カテゴリーのものに限定されており,またステータスブランドの検討はなされていない。さらに,この研究におけるブランド価値の測定に用いられた尺度は,信頼性や愛着といった要素に焦点を当てた独自開発によるものであり,ブランドのステータス性の影響が十分に捕捉されていない。さらに,近年はユーザー生成型コンテンツプログラムの普及に伴い,メタバース上で仮想製品を販売することで収益を獲得しようとする企業や個人が増加しており,ステータスブランドもこうした新規参入者との競争を迫られている。このような状況下で,現実世界においてすでに高い地位を確立しているステータスブランドが,メタバース空間で投入する仮想製品の価値をいかに維持・強化するのかを探究することは,学術的にも実務的にも喫緊の課題となっている。
3. ステータスブランドと社会的アイデンティティの関係ステータスブランドとは,購入や使用を通じて所有者の社会的地位や威信を象徴するブランドを指し(O’Cass & Frost, 2002),Mercedes BenzやCalvin Klein(O’Cass & Frost, 2002)などが研究対象として用いられている。ステータスブランドは素材的,技術的またはデザイン的に優れた品質を有し,そうではないブランドよりも希少性が高く,また高価であるという特徴を有する(O’Cass & Frost, 2002)。そのため,ステータスブランドの製品は,独自性が高いだけでなく,それを所有する消費者の富や社会的立場を他者に示すための手段としても機能する(Young et al., 2010)。このようにステータスブランドは,社会的アイデンティティを構築・強化する役割を担う点で注目されている。
社会的アイデンティティとは,個人が特定の社会集団のメンバーであるという認識から生じる自己概念の一部を意味する(Tajfel, 1978)。社会的アイデンティティ理論(Tajfel, 1978)によれば,個人は自尊心を高めるために,社会的に高い評価を受ける集団と結びつこうとする。すなわち,人は所属する集団の社会的評価を自己評価と関連づける傾向を持ち,他者よりも優位とみなされるグループやブランドコミュニティに参加することで,自尊心を満たそうとする。このような消費者行動において,特にステータスブランドの製品は所属意識を高め,自己評価の向上をもたらすものとして機能しやすい(Kuenzel & Halliday, 2010)。
一方,製品やブランドを通じて社会的アイデンティティを形成する行為は,自己概念のうち「理想自己」の側面とも密接に結びついている。「理想自己」とは,個人がこうありたいと願う自己像を指し(Malär et al., 2011),消費者は理想自己に近づくためにブランドを活用する(Sirgy, 1982)。また,理想自己と結びついたブランドは,個人の自己評価向上を後押しし,それがブランド態度や購買意図などのポジティブな反応につながる(Malär et al., 2011)。これは,上記の社会的アイデンティティ理論における「自尊心向上」のメカニズムとも整合し,個人がステータスブランドを身につけることで「自分は上位集団に属している/属し得る」という認識を強化し,結果として自尊心や自己評価が高まるからである。つまり,ステータスブランドは理想自己を具体化するための象徴的資産であり,その購買・使用によって得られる社会的成功者や洗練された都会的な人物といったイメージを自己概念の一部に取り込むことが可能となる(Sirgy, 1982)。
以上を踏まえると,社会的アイデンティティ理論の視点からステータスブランドに対する態度や購買意図への影響を考えると,そのメカニズムとして理想自己の実現が関わっていると考えられる。このことから,仮説1を設定する。
仮説1:ステータスブランドは,消費者の理想自己への接近を促進し,その結果として製品態度を高める。
4. メタバースにおけるステータスブランドの影響メタバースにおいても,社会的アイデンティティは消費者行動に大きく影響する(Kim et al., 2025)。そこでは,ユーザーがアバターを介して交流し,共通の目的や興味を持つコミュニティを形成する(Kim et al., 2025)。その過程で,アバターの外見や装飾品,保有するデジタルアイテムなどが自己をどう呈示するかを決定づける重要な要素となり,ステータスや評価に影響を及ぼす(Sung et al., 2023)。こうしたコミュニティ内では,現実世界の年齢や性別,地理的条件といった属性よりも,ゲームの熟練度やアイテムの希少性,アバターの人気度などが評価基準となりやすく,結果的にメタバース特有の社会的アイデンティティ形成のプロセスが促進される(e.g., Fukuda et al., 2024)。
このようなメタバースにおける社会的アイデンティティの形成過程は,現実世界と同様に「個人が特定の集団やコミュニティと自己を関連付ける」ことで始まると考えられる。しかし,その構成員の特性や価値観は現実よりもはるかに多様である。オンライン空間には物理的制約がなく,世界各地のユーザーと容易に接点を持つことができ,かつアバターを介するため,コミュニティは実際の年齢や性別,社会的地位などによって形成されるのではなく,「共通するゲーム体験」や「デジタルコンテンツへの興味」,「アバター表現の世界観」などによって結び付けられる(Hadi et al., 2024)。その結果,メタバース特有の社会規範や価値観が芽生え,現実世界とは異なるステータスシステムや文化が形成される可能性が高まる。たとえば,現実世界では金銭や学歴,職業といった要因がステータスを左右しがちだが,メタバースではレアアイテムの所有やゲーム実績,イベント貢献度などが強いステータス指標となる場合がある(Lu et al., 2025)。つまり,メタバースにおける社会的アイデンティティは,物理的制約や既存の社会的地位にとらわれず,多様な形態で形成されるうえ,現実とは異なるステータス要因が存在する。
また,ステータスブランドが現実世界で地位を獲得し,価値を維持する背景には材料や技術などの品質的側面の要因がある。しかし,メタバース内では物理的な品質や所有感を直接伴わないため,従来のステータスブランドが持つ価値がそのまま転移するとは限らない。結果として,現実のステータスブランドを仮想製品として提供した場合,それが消費者の理想自己への接近や製品態度の形成に与える影響は,現実世界に比べて弱まると予測される。
仮説2:現実製品と比較して仮想製品はステータスブランドが理想自己への接近,製品態度に及ぼす影響が弱い。また,この媒介関係も弱化させる。
5. フィジタルフレンドの調整効果メタバースの空間は,完全なるデジタル空間ではなく,現実と交差する特性を持つ独特な環境である(Belk, 2024; Ki et al., 2025)。この特性は,現在のメタバース上での社会的相互作用にも表れている。例えば,地理的に離れた恋人同士がメタバース上で日常的な時間を共有したり,現実の友人グループがバーチャル空間で集まって交流したりする事例が観察されている(Ki et al., 2025)。この具体的なプロセスとして,見知らぬ他人からオンライン知人,そしてオンライン上の友人を経て最終的に現実で会う親しい友人へと発展することを指摘した研究もある(Lai & Fung, 2020)。
また,現実の知人とメタバースで時間をともにする「現実をデジタルに持ち込む」現象だけでなく,メタバースで知り合った友人と現実で関係を持つ「デジタルを現実に持ち込む」現象も生じている。Trepte and Reinecke(2013)は,現実の友人とオンラインで交流することに関係のつながりが強化される傾向があることを報告している。また,現実の友人同士がオンラインゲームで協力プレイを行うことで,友情の維持や会話のきっかけになることも報告されている(Frostling-Henningsson, 2009)。このようなメタバースでの交流は現実に還元され,その後再びメタバース上での交流に還元されるという,現実と仮想を循環する関係性が観察されている(Belk, 2024; Ki et al., 2025)。これらの現象は,メタバースにおける関係が,単なる仮想的な交流を超えて,現実と密接に結びつく場合があることを示唆している。一方,これまでの消費者行動やマーケティングの研究では,仮想空間(Adjei et al., 2010),現実(Schouten & McAlexander, 1995)どちらかのコミュニティにしか注目してこなかった。
このような現実と仮想の境界を超えた友人関係を,本研究では「フィジタルフレンド」として概念化する。フィジタルとは,「フィジカル」(Physical)と「デジタル」(Digital)をあわせた造語であり,マーケティング研究においても物理とデジタルの両者の要素が結びついた製品を「フィジタルプロダクト」(Orazi & Nyilasy, 2025),物理とデジタルが統合した消費者体験を「フィジタル顧客体験」(Batat, 2024)などとして活用されている語である。本研究ではフィジタルフレンドを「物理空間(リアルの対面)でも面識があり,かつメタバースなどのデジタル空間でも交流を継続している友人」として定義する。
このフィジタルフレンドが存在することにより,バーチャル空間での社会的アイデンティティは,純粋な仮想のものではなく,現実と融合した状態となると考えられる。そのため,現実世界での社会的価値がバーチャル空間へと転移する可能性がある。例えば,バーチャル環境に現実の友人が存在することで,そこでのステータスブランド製品の所有が,現実のコミュニティからの認知や尊敬を得る機会となり得るだろう。
仮想製品は物理的な品質を有しておらず,またその社会的特性も異なるため,現実の社会構造をもとにして効果を有している現実のステータスブランドの機能を欠くと考えられる。しかし,フィジタルフレンドの存在を通じて,その機能は維持されると考えられる。メタバースにおいて現実での友人がいる場合,ステータスブランドの仮想製品の使用や所有は,物理的な製品と同様に社会的アイデンティティやステータスを表現する手段となると考えられる。その結果,消費者が抱く理想の自己イメージの実現にも寄与すると考えられる。これらのことから仮説3を設定する。
仮説3:メタバースにおけるフィジタルフレンドの存在は,仮想製品のステータスブランドが理想自己への接近,製品態度に及ぼす影響を強化する。また,この媒介関係も強化する。
研究1の目的は,ステータスブランドが理想自己への接近を通じて製品態度をポジティブに導くという本研究の基本仮説1を検証するとともに,この関係が仮想製品(vs現実製品)では弱まるといった仮説2を検証することであった。
1. 方法本実験の対象メタバースは,あつまれどうぶつの森(オンライン)とした。事前調査(N=142)によりこのゲームが最も利用されていることが確認された(51名,35.9%)。この仮想空間のオンライン版は他者との交流が可能でありメタバースの要件を満たす空間である(Ki et al., 2025)。実験参加者は,あつまれどうぶつの森(オンライン)の利用者104名(年齢20–65歳,最頻値35~39歳,男性53.8%)であった。参加者は日本のクラウドソーシングサービスを通じて集められ,実験はインターネットサイトで実施された。実験計画は,製品2(仮想製品vs現実製品)×ブランド2(ステータスブランドvs親和的ブランド)の二要因混合計画であった。製品は参加者内要因,ブランドは参加者間要因であった。参加者に呈示されたブランド名は架空で,生成系AIで生成されたMiraまたはSentoが使用された。参加者内で現実製品と仮想製品では異なるブランド名が呈示された。対象製品は,現実製品はTシャツ,仮想製品はアバターの衣服(コスチューム)であった。
参加者はまず現実製品のステータスブランドまたは親和的ブランドの説明を受けた。ステータスブランドは有名で流行っており所有によって羨ましがられるブランドと説明され,親和的ブランドは有名で誰からも親しまれている身近なブランドと説明された。その後,操作確認項目としてステータスブランド2項目(社会的地位を表現する,ステータスシンボル;cf., Siepmann et al., 2022),親和的ブランド(親しみのわく,身近な;オリジナル),媒介変数として理想自己への接近3項目(理想とする自分になることができる,なりたいと思っている自分になることができる,周囲から理想の人として見られる;cf., Malär et al., 2011),従属変数としての製品態度2項目(良い,試してみたい;Coyle & Thorson, 2001)に回答した。続いて仮想製品の説明が与えられ,現実製品とは異なるブランドについて同様の説明が行われた後,同じ尺度項目への回答が求められた。すべての尺度は7段階リッカートで測定された。また研究1~3全てにおいて用いられた測定尺度の信頼性係数は基準.65(DeVellis & Thorpe, 2021)を満たしていた。研究1~3で測定された主要な変数の各条件の平均値は表1に示す。

各研究の主要変数の平均値と有意差
ns:not significant,* p<.05,** p<.01,ステ:ステータス,フィジ:フィジタルフレンド,コミ:コミュニティ
操作確認の結果,ステータス得点はステータスブランド条件のほうが高く(Mステータス=4.88 vs M一般=3.85,p<.001),一般得点は親和的ブランド条件のほうが高く(Mステータス=4.88 vs M一般=5.40,p<.001)操作は成功したとみなされた。仮説1と2を検証するために,独立変数をステータスブランド(vs親和的ブランド),媒介変数を理想自己への接近,従属変数を製品態度,調整変数を仮想製品(vs現実製品)とした調整媒介分析(Hayes, 2022, model 8)を実施した(図1)。媒介変数と従属変数は参加者内要因であったため,参加者内効果と参加者間効果を同時にモデル化できるマルチレベルの媒介分析(Preacher et al., 2010)を採用した。分析の結果,媒介効果(Bootstrap=2,000)は有意であり(間接効果=0.24,SE=0.10,95%CI[0.04, 0.44]),仮説1は支持された。調整媒介効果も有意(Index=−0.18,SE=0.08,95%CI[−0.35, −0.02])であり,ステータスブランドが理想自己への接近を介して製品態度に与える媒介効果は,仮想製品条件において有意に減少することが示された。したがって,仮説2も支持された。ただし,間接効果は現実製品条件(間接効果=0.33,SE=0.07,95%CI[0.19, 0.47])だけでなく仮想製品条件(間接効果=0.14,SE=0.07,95%CI[0.02, 0.28])でも有意であったが,仮想製品条件では,ステータスブランドから製品態度,理想自己への両者の影響が非有意であり,予測に一致するものであった(図1)。

研究1のマルチレベル調整媒介分析の結果(非標準化係数)
これらの結果から,ステータスブランドが理想自己への接近を通じて製品態度を高める影響は,仮想製品では弱まることが確認された。この減衰は,それが物理的な品質や触感を欠き,メタバースの社会構造が現実と異なるため,十分に価値を発揮しにくい可能性を示唆している。研究1では,仮想製品におけるステータスブランドの効果の減衰が確認されたが,それを再活性化させる要因は明らかになっていない。そこで研究2では,メタバースにおける社会的要因として,フィジタルフレンドの存在に着目し,その調整効果を検証する。
研究2の目的は,仮想製品を対象としてフィジタルフレンドがいる(対面で会った友人がメタバースにいる)場合,ステータス(vs一般)ブランドは,理想自己への接近を高め,製品態度を高めるといった仮想製品においても現実製品と同様の影響が生じるとした仮説3を検証することである。
1. 方法対象メタバースは研究1と同じあつまれどうぶつの森とした。また,実験参加者は,当該仮想空間(オンライン版)の利用者181名(年齢20–59歳,最頻値40–44歳,男性53.6%)であった。実験計画は,ブランド2(ステータスブランドvs親和的ブランド)×フィジタルフレンド2(ありvsなし)の二要因参加者間計画であった。実験の手続きは,研究1の仮想製品条件と同様のものであった。またフィジタルフレンドは測定要因であり,対面であった友人がメタバースにいるかどうかといった設問(いる=フィジタルフレンドあり,いない=フィジタルフレンドなし)で測定された。フィジタルフレンドありの参加者は101名(全参加者における55.8%)であった。
2. 結果と考察操作確認の結果,ステータス得点はステータスブランド条件で高く(Mステータス=4.58 vs M一般=3.74, p<.001),一般得点は親和的ブランド条件で高く(M一般=5.15 vs Mステータス=4.43, p<.001),操作は成功した。
仮説3検証のため,ステータスブランド(独立変数),理想自己への接近(媒介変数),製品態度(従属変数),フィジタルフレンド(調整変数)による調整媒介分析を実施した(図2)。分析の結果,調整媒介指標が有意であり(Index=0.41, SE=0.19, 95%CI[0.79, 0.05]),ステータスブランドが理想自己への接近を介して製品態度に与える媒介効果は,フィジタルフレンドなし条件で有意に減少することが確認された。間接効果はフィジタルフレンドあり条件では有意(間接効果=0.46,SE=0.13,95%CI[0.18, 0.77])だったが,フィジタルフレンドなし条件では非有意(間接効果=0.05,SE=0.15,95%CI[−0.19, 0.31])であった。直接効果は両条件とも非有意であり,フィジタルフレンドあり条件では完全媒介が確認された。

研究2の調整媒介分析の結果(非標準化係数)
これらの結果は,フィジタルフレンドの存在により,それがメタバース上でも理想自己への接近と製品態度に影響を及ぼすことを示し,仮説3を支持している。しかし,研究2では,ステータスブランドがコミュニティからの受容を通じて理想自己への接近を高めるという想定プロセスを直接検証できていない。研究3では,フィジタルフレンドが存在する場合,ステータスブランドはコミュニティからの受容期待を高め,それが理想自己への接近を促進し,製品態度の向上につながるという,より詳細な心理プロセスの検証を行う。
研究3では,メタバース環境におけるステータスブランドの効果メカニズムを,社会的アイデンティティ理論に基づいて検証する。研究2までは,それに依拠しつつも,社会性を直接測定していなかった。そこで本研究では,ステータスブランドの所有がコミュニティに与える影響を,新たな変数として測定し,そのプロセスを明らかにする。これにより,メタバース環境におけるブランド効果の心理メカニズムをより詳細に解明することを目指すものである。
1. 方法対象メタバースは(1)アバターの着用物など外見に関わる製品が存在し,かつ(2)他者との交流が存在するメタバース全般を対象とした。また,実験参加者は,上記二つに加え,メタバース内で対面で会ったことのある友人がいることを加えた三つの要件を満たしたメタバースの利用者215名(年齢20–65歳,最頻値35–39歳,男性59.5%)であった。実験計画は,ブランド2(ステータスブランドvs親和的ブランド)であった。方法は研究1における仮想製品条件と同様であり,測定尺度にコミュニティからの受容期待(adapt from Richins, 2011)「所属するコミュニティの他者(友人など)は,「私のことを少し尊敬するようになると思う」「私をより重要な人に感じると思う」「私を少しすごいと感じるようになると思う」」を追加した。
2. 結果と考察操作確認では,ステータス得点はステータスブランド条件で有意に高く(Mステータス=4.79 vs M一般=3.84, p<.001),一般得点は親和的ブランド条件で有意に高かった(Mステータス=4.61 vs M一般=5.38, p<.001)ため,操作は成功した。研究2で得られた結果のより詳細なメカニズム検証のため,ステータスブランド(独立変数),コミュニティ受容期待(1次媒介変数),理想自己への接近(2次媒介変数),製品態度(従属変数)による連続媒介分析(Hayes, 2022, Model 6)を実施した(図3)。間接効果の検定(Bootstrap=2,000)の結果,ステータスブランド→コミュニティ受容期待→理想自己への接近→製品態度という連続間接効果が有意であった(連続間接効果=0.25,SE=0.09,95%CI[0.10, 0.43])。

研究3における連続媒介分析の結果(非標準化係数)
これらの結果から,ステータスブランドと理想自己への接近を結びつけるメカニズムとして,コミュニティ受容期待が重要な役割を果たしていることが明らかになった。研究3により,フィジタルフレンドの存在下で,メタバースにおけるステータスブランドが仮想製品の態度に及ぼすポジティブな影響のメカニズムがより具体的に解明された。
本研究では,メタバースにおけるステータスブランドの効果とそのメカニズムについて,3つの研究を通じて検証を行った。研究1では,ステータスブランドが理想自己への接近を通じて製品態度を高めるという基本的なメカニズムが,仮想製品においては弱まることが示された。研究2では,フィジタルフレンドの存在により,この効果が再活性化することが明らかとなった。研究3では,フィジタルフレンドが存在する状況において,ステータスブランドがコミュニティからの受容期待を高め,それが理想自己への接近を促進し,最終的に製品態度の向上につながるという詳細な心理プロセスが確認された。
本研究の理論的インプリケーションとして3点が指摘される。まず,メタバースにおけるステータスブランド効果の新たな知見を示した点である。従来のブランド研究では,物理空間とオンライン空間のいずれか一方に焦点を当てており,現実のステータスブランドを仮想製品として展開した際の価値移転については十分に解明されていなかった。本研究結果から,物理製品で強力に機能するステータスブランドであっても,仮想製品では同程度の影響を発揮しないことが示された。これは,メタバース空間では物理的品質や触覚的要素といった伝統的なステータスシンボルが希薄化するため,理想自己への接近を介したブランド効果が減衰する可能性を示す重要な発見である。第二に,「フィジタルフレンド」を新概念として提示し,ブランドコミュニティ研究に新たな視点を提供した点である。先行研究ではリアルまたはオンラインのいずれかのコミュニティに注目してきたが,本研究は物理空間で面識のある友人がメタバース空間にも存在する状況に着目した。結果として,フィジタルフレンドの存在がメタバースにおけるステータスブランドの社会的アイデンティティ機能を活性化することが明らかになり,リアルとオンラインが融合するコミュニティのメカニズムを解明した。第三に,コミュニティ受容期待を介した心理プロセスを解明した点である。研究3では,フィジタルフレンドが存在する状況下でのステータスブランドの効果メカニズムを示した。従来の社会的アイデンティティ理論では自己の所属意識やステータス優位性の認知が自尊心を高める過程が指摘されていたが,本研究では「コミュニティからの支持や認められ感」が理想自己と結びついて態度形成に寄与するという新たな示唆を得た。
実務的インプリケーションとしては,まず,単に現実のステータスブランドをデジタル化して提供するだけでは効果が弱まるため,メタバース特有の社会構造を捉えた戦略設計が必要である。メタバース空間には「ゲーム経験」や「アイテムの希少性」など独自のステータス指標が存在するため,従来のラグジュアリーブランドとしての価値だけでは差別化が難しい。そのため,デザイン面での魅力強化とメタバースの文脈・価値観に合わせた製品開発が重要となる。第二に,「フィジタルフレンド」の形成や活性化を促す取り組みが,メタバースでのステータスブランド価値を維持・向上させる鍵となる。例えば,店頭イベントとメタバース内での特典付与を同時開催し,現実の友人同士がメタバース内でも一緒に参加できる企画や,メタバース上でのコミュニティ機能やソーシャル・ネットワーキング・サービスとの連携強化などが考えられる。このように,リアルとバーチャルの橋渡しを意図的に行うことが,ステータスブランドがメタバースでも価値を発揮するためのカギとなる。
本研究の限界としては,第一に,メタバース空間や製品の特性がブランド効果に及ぼす影響を,より詳細に検討する必要がある。たとえば,あつまれどうぶつの森やFortniteのようなゲーム系メタバースと,Horizonのようなビジネス系メタバースでは,利用目的やユーザー層,アバターの活用方法などが大きく異なる。その結果,同じステータスブランドであっても,各メタバースにおける影響は多様に変化する可能性が高い。また,メタバースの種類に応じて主要な製品カテゴリーも異なるため,製品特性やカテゴリ自体が消費者の態度形成に与える役割についても考慮が必要である。またこのメタバースに応じて主要な製品も異なり,この製品カテゴリの影響も捉える必要があるだろう。また,フィジタルフレンドの概念をより精緻に捉える必要がある。具体的には,現実世界での関係がメタバースへ拡張されるケースと,メタバースで生まれた関係が現実世界に移行するケースでは,ブランドの影響や消費者心理のプロセスに相違が生じる可能性が高い。また,フィジタルフレンドの存在そのものだけでなく,関係の強さや相互作用の質がどの程度消費行動に影響を及ぼすのかも重要な論点といえるだろう。さらに,研究3ではフィジタルフレンドが“いる”状況を中心に分析しており,“いない”状況と十分に比較できていないため,コミュニティ受容期待がフィジタルフレンドの有無を超えて同様に機能するのか,あるいはフィジタルフレンドがいる場合にのみ顕在化するのかは明らかではない。この点も今後の研究課題となる。
本研究はJSPS科研費24K16464および吉田秀雄記念事業財団の委託研究の助成を受けたものです。
本研究の結果を裏付けるデータは,合理的な要請があれば,責任著者から提供される。
謝辞欄に記載したとおり,民間企業と関連の深い財団から研究助成金の交付を受けているが,本論文の目的および結果は著者の純粋な学術的関心に基づいており,特定の企業からの学術的独立性を保持している。
福田 怜生(ふくだ れお)
亜細亜大学経営学部経営学科准教授。主要著作に「Translating virtual product scarcity in gaming to real-world brand value(Psychology and Marketing)」など。博士(経営学)。
赤松 直樹(あかまつ なおき)
明治学院大学経済学部経営学科准教授。主要著作に「消費者行動の新しい分析視点(千倉書房)」「When a prior indulgent choice promotes a subsequent indulgent choice(Psychology and Marketing)」など。博士(商学)。