抄録
この論文は,「ません」形(規範表現)と「ないです」(新規表現)の選択を定量的に分析し,プロトタイプ理論の統計的モデルを図る.情報量基準に基づき選択した最良の一般化線形混合モデルに用いられた回帰係数から,これまでの先行研究では主張されてこなかった次の二点を指摘する.第一に,接尾辞「-yoo」が存在するかという独立変数が最大の効果量を持ち,この接尾辞は新規表現を指向する.第二に,先行研究では,状態動詞(例:「わかる」「できる」)などが新規表現を取るプロトタイプであると指摘されてきたが(野田2004;川口2014),その他重要な固定効果が考慮された下では,これらの状態動詞が新規表現を組織的に選択するわけではない.これに対し,本研究では,「ません・ないです」に先行する述語をランダム効果として取り入れ,これらのランダム切片の推定値に基づき,「たい」を新規表現の,また「願える」を規範表現のプロトタイプとすることが妥当であると主張した.