2021 年 38 巻 p. 91-97
運転中の体調変化による死亡事故は全体の約10%を占めるといわれており,昨今においてもドライバーだけでなく周囲の人を巻き込む凄惨な事故が発生している。このような事故を防止するには,早期にドライバーの体調変化を検知し,ドライバーの早期救命や周辺の二次被害防止に向けた対応が必要である。
マツダでは,人間中心の自動運転技術であるMazda Co-Pilot Concept(普段はドライバーの能力を最大限に発揮することを助け,危険が生じた場合にはクルマがオーバーライドして安全を確保)に基づき,ドライバーの走る歓びや安心・安全を最大化することを目指しており,その一環として,万が一ドライバーが運転できないと判断した場合には自動運転に切り替え,周囲を含めて安全な状態を確保する技術を開発している。本稿では,ドライバーの体調変化による運転機能低下をとらえる技術と今後の展望について紹介する。具体的には,運転機能低下を通常運転からの逸脱として検知するため,通常の視認行動や運転操作を規定するドライバーモデル(以下,モデル)を構築した。また,体調起因の死亡重傷事故の約3割を占める脳卒中を例に,後遺症をもつリハビリ患者及び健常者のドライビングシミュレータ運転データからステアリング操作や視認行動が異なることを明らかにし,体調変化による運転不能前の検知の実現可能性を確認した。今後は実交通環境への適用や検知性能向上のための取り組みを進め,早期商品化を目指す。