抄録
歯肉や顎骨周囲の軟組織に原発し、骨外性に発育する周辺性エナメル上皮腫はまれな疾患とされている。本腫瘍は発育が緩慢で、病悩期間が長く、特徴的所見がないため、エナメル上皮腫と診断するのは、きわめて困難である。今回われわれは、64 歳男性の左下顎小臼歯部舌側歯肉に発生した周辺性エナメル上皮腫の1 例を経験したので、その概要を報告するとともに若干の文献的考察を加えた。 患者は64 歳、男性。平成8 年頃に左下顎小臼歯舌側歯肉に腫瘤を自覚するも無症状のため放置していた。ブリッジの不適合を主訴に近医歯科医院を受診したところ、義歯作製予定となった。左下顎小臼歯舌側部腫瘤は骨隆起の診断にて同医院より切除目的に当科を紹介され、平成19 年1 月24 日当科を受診した。腫瘤は弾性硬で、長径15mm 大、表面は平滑で半球状であった。腫瘤隣接の歯に異常所見は認めなかった。パノラマX 線写真でも異常所見は認めなかった。臨床的にエプーリスと診断し、局所麻酔下で、腫瘤摘出術を施行した。腫瘤直下の骨面に異常はみられず、骨膜を含み一塊として摘出した。病理組織診断は、棘細胞型が混在する叢状型優位のエナメル上皮腫であった。現在、創部は上皮化しており、再発を疑わせる所見は認めていない。